上 下
55 / 67

21‐2 正木誠司、制御不能(中編)

しおりを挟む
 
「はぁ、ジョニー、もう大丈夫か?」
「ああ。世話をかけた。もう問題ない」
「よし。エレス、流石にあの群れは厳しいから俺にポチを装着しろ」
【はい、バックパック型ウェアラブルデバイスドール。ポチ装着します】

 ポチは故障の所為で飛ぶことができないので、しゃがんで背に乗せる。その途端にポチの四脚が俺の肩と腰をしっかりとホールドし違和感なく背面装甲化した。
 同時にホログラムカードにウェアラブルデバイスの全権限が与えられる。俺は手早くストレージ画面を出し、必要な物を取り出す。

「ほら、ジョニー」
「う、お、おお。やっぱすげぇな」

 驚いた様子のジョニーに預かっていた光弾突撃銃とガスマスクを返し弾倉を十個渡した。俺も同じ物を取り出して装備する。弾倉は二人ともポケットだ。

 ガスマスク装着後は大袈裟な手振りと大声開始。
 ぼそぼそ喋っても音がこもって聞こえないんだよな。

「消えたときも驚いたが、どうなってんだそれ!」
「企業秘密だ! エレス、映像外部出力状態になってくれ!」
【はい、マスター】

 妖精型エレスが俺の側を優雅に飛ぶ。この状況で微笑んでらっしゃるよ。

「そういや、ポチの残弾ってどんなもんだ?」
【あと二十発は残ってます。撃つときはお伝えください】
「なぁエレスよ。それは余裕の笑みか?」
【うふふ、どんな状況でも、笑顔は絶やさない方がよろしいかと】
「ぶっ、わっはははは、豪胆なのはセイジだけじゃなかったか!」
「おいおい、俺は豪胆じゃないぞ!」
「サイレントバンシーの生首持つような奴がよく言うぜ!」
「確かに! でもあいつら全然サイレントじゃねぇよな!」
「言えてら! さぁ、おいでなすったぞ! 撃ちまくれぇっ!」

 約三百メートル先から迫ってきていた魔物の群れが残り五十メートルほどになったところで銃撃開始。気持ちが昂っているからかジョニーが雄叫びを上げる。
 銃撃の腕前はどんなもんかと思っていたが、俺なんかより遥かに精度が高い。どうして連続して撃ってんのに全部ヘッドショットが決まるんだよ。

「爽快だなおい! どんな練習すりゃそうなるんだよ!」
「わははは、気持ちが乗ってるときゃあこんなもんだ!」

 気持ちと乗りで済む話じゃねぇだろ! なんか悔しい!

「エレス! そろそろライトだ! どぎついのを頼む!」
【はい、かしこまりましたマスター】

 妖精型エレスが魔物の群れに向かって飛んで行き、閃光を放つ。俺たちはガスマスクの遮光ゴーグルがあるから問題ないが、それでも凄い光って見えるな。
 群れの最前列が驚いて立ち止まり後方から続々と押されてドミノ倒し開始。そこに銃撃が入るので死体が積み上がりバリケードになっていく。

「こりゃすげぇ! お前が相棒だったらまだ傭兵やってたかもな!」
「俺は穏やかに暮らしたいんだよ! ヨハンがいるだろ!」
「あいつはうるせぇからなあ! 言うこときかねぇしよ! わははは!」

 互いに弾倉の交換タイミングをずらす。というか、意識しなくてもジョニーが撃ち尽くすまでが早い。笑いながら撃つって、相当ストレス溜まってたんだろうな。

 あとは、皆が残ってくれてて嬉しかったってとこか。
 ヨハンが言うこと聞かなくて良かったじゃないか。なぁ、ジョニー。

「そろそろ進むぞ!」
「わかった!」

 積み上がった魔物の死体が群れの進行速度を落とした。俺とジョニーは並んで前進し、後ろに押されてどん詰まっている魔物を前にして足を止める。

「俺の後ろに! 群れを突破することだけ考えてくれ!」
「わかった!」

 ジョニーの返事を聞いてすぐ、俺は全ての死体をストレージに回収した。
 目の前にあった死体の山が消えたことで、また群れの最前列が倒れ、バタバタと後ろの魔物も前のめりに倒れ込んでいく。下敷きになった魔物は圧死だろう。

「先行する!」
「おう、任せた!」

 俺は銃をストレージにしまい、従業員の腐敗のお陰で手に入れた大剣を取り出す。それを左横に構え、倒れた魔物を越えてきた群れの先頭を思い切り薙ぐ。
 鈍い音と重い手応え。押し止められたような力が腕に響く。

「う、お、おおおおらああああああ!」

 拮抗し、溜まる力。それを雄叫びと共に爆発させるように逆袈裟に振り抜く。
 斬撃を浴びせた三体の魔物が吹き飛び、回転しながら血と臓物を撒き散らす。俺は大剣の重みに流されるように回転しながら二撃目を振りかぶり打ち下ろす。

 ズドンという重い音が響き、正面にいた魔物が数体潰れるように床に倒れ伏す。斬れ味よりも重みが勝っているようで、斬撃よりも打撃を受けたような死に様だ。

 これ使ってた傭兵って、ずぼらな奴だったのかもな。すごい斬れ味悪いわ。でも、振れないことはないってわかったし十分か。これにて試し斬り終了だな。

 観察もそこそこに、俺は大剣をストレージにしまい、光弾突撃銃に持ち替える。そしてつい今しがた仕留めたばかりの前方の死体を回収し道を作った。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

冒険者歴二十年のおっさん、モンスターに逆行魔法を使われ青年となり、まだ見ぬダンジョンの最高層へ、人生二度目の冒険を始める

忍原富臣
ファンタジー
おっさんがもう一度ダンジョンへと参ります!  その名はビオリス・シュヴァルツ。  目立たないように後方で大剣を振るい適当に過ごしている人間族のおっさん。だがしかし、一方ではギルドからの要請を受けて単独での討伐クエストを行うエリートの顔を持つ。  性格はやる気がなく、冒険者生活にも飽きが来ていた。  四十後半のおっさんには大剣が重いのだから仕方がない。  逆行魔法を使われ、十六歳へと変えられる。だが、不幸中の幸い……いや、おっさんからすればとんでもないプレゼントがあった。  経験も記憶もそのままなのである。  モンスターは攻撃をしても手応えのないビオリスの様子に一目散に逃げた。

セイジ第二部~異世界召喚されたおじさんが役立たずと蔑まれている少年の秘められた力を解放する為の旅をする~

月城 亜希人
ファンタジー
異世界ファンタジー。 セイジ第二部。『命知らず』のセイジがエルバレン商会に別れを告げ、惑星ジルオラに降り立ってからの物語。 最後のスキルを獲得し、新たな力を得たセイジが今度は『死にぞこない』に。 ※この作品は1ページ1500字~2000字程度に切ってあります。切りようがない場合は長くても2500字程度でまとめます。 【プロローグ冒頭紹介】  リュウエンは小さな角灯を手に駆けていた。  息を荒くし、何度も後ろを気にしながらダンジョンの奥へと進んでいく。  逃げないと。逃げないと殺される。 「ガキが手間かけさせやがってよお!」 「役立たずくーん、魔物に食べられちゃうよー」 「逃げても無駄ですよー。グズが面倒かけないでくださーい」  果たしてリュウエンの運命は──。 ──────── 【シリーズ作品説明】 『セイジ第一部〜異世界召喚されたおじさんがサイコパスヒーロー化。宇宙を漂っているところを回収保護してくれた商会に恩返しする〜』は別作品となっております。 第一部は序盤の説明が多く展開が遅いですが、中盤から徐々に生きてきます。 そちらもお読みいただけると嬉しいです。 ──────── 【本作品あらすじの一部】 宿場町の酒場で働く十二歳の少年リュウエンは『役立たず』と蔑まれていた。ある日、優しくしてくれた流れの冒険者シュウにパーティーの荷物持ちを頼まれダンジョンに向かうことになる。だが、そこで事件が起こりダンジョンに一人取り残されてしまう。  *** 異世界召喚された俺こと正木誠司(42)はメカニックのメリッサ(25)と相棒の小型四脚偵察機改ポチ、そして神に与えられたウェアラブルデバイス(神器)に宿るサポートAI(神の御使い)のエレスと共に新たな旅路に出た。 目的は召喚された五千人の中にいるかもしれない両親の捜索だったのだが、初めて立ち寄った宿場町でオットーという冒険者から『ダンジョンで仲間とはぐれた』という話を聞かされる。 更には荷物持ちに雇った子供も一緒に行方がわからなくなったという。 詳しく話を訊いたところその子供の名前はリュウエンといい奴隷のように扱われていることがわかった。 子供を見殺しにするのは寝覚めが悪かったので、それだけでも捜索しようと思っていたが、なんと行方不明になったシュウという男が日本人だということまで判明してしまう。 『同胞の捜索に手を貸していただけませんか?』 オットーに頼まれるまでもなく、俺は二人の捜索を引き受け、シュウのパーティーメンバーであるオットー、リンシャオ、エイゲンらと共にダンジョンに突入するのだが──。 ──── 応援、お気に入り登録していただけると励みになります。 2024/9/15 執筆開始 2024/9/20 投稿開始

田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。

けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。 日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。 あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの? ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。 感想などお待ちしております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。 この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。 これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。

[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました

mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。 ーーーーーーーーーーーーー エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。 そんなところにある老人が助け舟を出す。 そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。 努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。 エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。

処理中です...