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19‐2 正木誠司、一階捜索(中編)
しおりを挟む名誉欲じゃない。あれをどうにかしたいという思いが胸の中で唸る。
どうにかしなければならないという使命感が俺を奮い立たせる。
「やるだけやってみたいんだ。駄目なら逃げるさ。エレス、何か策はあるか?」
【はぁ、内蔵されている魔物のデータベースでは打撃と炎熱に耐性があり、氷結が弱点となっています。しかしながら、これは飽くまで惑星レクタスに出現するソルワイアームの特徴ですので、正確な情報を得る為にアナリシスの使用を進言します】
「使ってくれ」
【かしこまりました。得られたデータをそちらに送信します】
ホログラムカードにソルワイアームの情報が送られてきた。だが、能力値は表示されず、各種耐性どころか名前まで全てがクエスチョンマークのままだ。
「おいエレス、まともに表示されないぞ。これじゃ何もわからん」
【アナリシスは戦った相手の情報が記録されていくスキルです。ゆえに最初は何一つ情報が存在しません。ただ、効果の有無が誤りなく判定されます】
「効果の有無が誤りなく判定……?」
【つまり、見た目では効果の有無が判断できなかったとしても、アナリシスを通せば耐性や弱点をあぶりだすことができるということです】
なるほど、理解した。要は痩せ我慢されても看破できるということだ。ということは、戦いながら相手の能力値も看破していくということになるな。
「ちなみにゴブリンとかオウガなんかのデータはあるのか?」
【レクタスのものであれば存在しますが、姿形からして違いますので飽くまで近似種ということになります。こちらの世界のものは存在しません】
「それはそうだな。アナリシスをかけてないからな」
【そもそも、確殺できるような魔物のデータは不要と思われます】
「確かに」
窓際に身を潜め、こっそりとソルワイアームの様子を窺いながらアナリシスについて訊いたところ、装備なども使い込まないとデータが表示されないらしい。
だが、誤りなく判定される。これは誤差が生じないということだ。近似値ではなく、真の値が打ち出せるというのは非常に有用ではないだろうか。
一度記録してしまえば、同じ装備品を記録されたデータと比較しどの程度類似しているかを判定する。データよりも品質が上か下かが誤りなく判定される。
試行回数を増やすことで平均値が割り出され、その平均値をデータとして登録し直せば、金儲けにも使えたりするんじゃないか?
【マスター、どうされましたか? 悪い顔をされています】
「いや、アナリシスがとんでもない性能だなと思って。手間はかかるけどな」
【はぁ、それで、どうされるおつもりですか?】
エレスが溜め息をこぼしながら訊ねると同時に、こっそりとポチが俺の側に戻って来た。ゆっくりと下降しながら四つ脚を広げ、しゅたっと床に着地する。
「まぁ、今は焦らず待とう」
【ソルワイアームが離れるのをですか?】
「違う。誰だって食事の邪魔をされればいい気はしないってことだ」
俺はただアナリシスの説明を受けていた訳ではない。策が浮かんだが、それを実行するには時間が必要なので暇つぶしに聞いていたのだ。
それに、こうして待っているだけでも魔物の数は減っていく。巨大なだけあってソルワイアームは食欲も旺盛なようだ。止めるのは勿体ない。
唯一の難点は追い立てられた魔物の群れが防衛地点に向かうことだが、そろそろ隔壁も下りているだろうしヨハンもいる。大した問題にはならないと思っている。
【マスター、何を狙っておられるのですか?】
「フードコーマ。食後の眠気だ。どんな生き物でも、腹いっぱい食べれば眠くなるもんだろう? そうでなくても、体は重くなるはずだ」
【そういうことでしたか。流石ですマスター。確かに今攻撃してもいい結果は生まれそうもないですね。私に何かお手伝いできることはありますか?】
「おう、こっちから頼もうと思ってたんだ。実はな──」
俺はエレスに考えていたことを伝えた。これはどんな攻撃もすり抜ける映像であるエレスと、ドールであるポチにしかできないことだ。
それが成功するか否かで、討伐難度が大きく変わる。ソルワイアームが食事に夢中になっている間に妖精型エレスには頑張ってもらいたい。
もちろん、戦闘が始まってからも活躍してもらうつもりではいるけどな。
なんにせよ、今回の策はエルバレン商会の腐敗が鍵だ。腐った従業員がいるかどうか。ヨハンの話だと『気をつけているがなくならない』らしいからな。
そこに賭けてみよう。果報は寝て待てだ。
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