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17‐2 正木誠司、新しい相棒(後編)
しおりを挟む旧型ドールとの別れを済ませた俺は、早速ヨハンにお願いし、英雄機として飾るという要望を叶えてもらうことにした。
「任せておけ。間違いなく従業員たちも賛成する。大活躍したからな」
そうと決まればと、ヨハンはすぐに交代時間が来たと思しき従業員の一人に声をかけた。旧型ドールをマリーチの格納庫に届けさせる為だ。
驚いたのは、その従業員の青年が旧型ドールを抱えたときに「光栄です! 今までお疲れ様でした!」と目を潤ませて言ったことだった。
呼んだのはその青年一人だけだったのに、わらわらと従業員が集いだし、感謝の言葉をかけながら旧型ドールを撫でまわしたことにもまた驚かされた。
「こんなに汚れるまで、よく働いてくれたなぁ」
「もうお前にチャージできないのか。寂しくなるよ」
「ありがとね、皆を守ってくれて。ゆっくり休んで」
そうか。お前、こんなに愛されてたんだな。
嬉しさに胸を詰まらせていると、ヨハンが俺の肩に手を置いた。
「今は無理だが、いずれウシャスに展示する。この悲惨な事態を解決した英雄『命知らずのセイジの相棒ポチ試作初号機』としてな」
「まだ解決してないけどな。そうなるように頑張ってみるよ。ああ、そうだ。できればアホ毛を付けてやってくれ。それがないとしっくりこない」
「もちろんだ。できる限り再現しよう」
「ありがとな。よし、エレス。待たせて悪かったな。これから新しくなったポチの設定をいじるぞ。簡単なプログラムも組み込む」
【はい、かしこまりました。よろしくお願いします】
俺はホログラムカードを引き延ばし、ここに来るまでの間に考えていたプログラムをポチに入力していった。飽くまで手動だが、どういう命令として書き込めばいいかはエレスが教えてくれるので、プログラム知識のない俺でも可能だ。
慣れてないから時間はかかるけどな。ああ、また間違えた。
【マスター、この発想は素晴らしいです。対応力が格段に向上します】
「そう言ってもらえると考えた甲斐があったってもんだな」
内部空洞にはトリガーを引く二本の触手を、外部前方中央にはアホ毛状の触手を形成。アホ毛は先端硬度の変化を行えるようにし、近接武器として使用可能にした。
行えるのは刺突と打撃。伸ばせば槍。振れば鞭。ある程度の伸縮が行えるようにしてあるので、弱点であった接近戦にも対応できるようにした。
とはいえそれは、飽くまで緊急時のカウンター用としての面が強い。どちらかといえば、壁や地面などに突き刺し危機回避する為のものと言える。
なんせ軽いから。ポチは。
とにかく風圧に弱いと予想。地面に居る時は伏せて凌げるだろうが、飛んでいるときは吹っ飛ばされる気がする。だからこれは、そうならないようにする保険という訳だ。
他にも色々と案はあったが、ウェアラブルデバイスの形状変化と、ドールから外に出せる液量にも限界がある。なのでこの辺りが妥協点。見た目も大事だしな。
【可愛いです。ポチが帰ってきました】
「そうだな。アホ毛があるだけでポチになるな。ああ疲れた」
そんな会話で作業は締めくくられた。ようやく終わったよ。エレスが映像外部出力しても俺を追尾するようにプログラムできたし、しばらくやらない。
伊勢さんとヨハンは俺が作業を始めた頃に防衛に加わった。従業員たちに混じって戦闘中だ。おお、伊勢さんも光弾突撃銃を撃ってる。本当に変わったな。
二人とは事前に話をつけてあるので、ここで別行動になる。
伊勢さんは俺が一人で捜索に向かうことに反対したが、生憎と俺は一人じゃない。頼れる相棒ポチを乗りこなすエレスがいる。だから大丈夫だと言うと引き下がってくれた。
「さて、エレス。動作確認を兼ねて通路を抜けるぞ」
【はい、マスター。ところで、チャージはどうするのですか?】
「大丈夫だ。ヨハンに頼んである」
メリッサから魔力バッテリーの交換方法を聞いている。チャージではなく、そのものを交換する形になる。といっても、早い話がただの弾倉交換だ。
本体を稼働させている魔力バッテリーは早々切れることはないらしいので交換不要と判断した。常時活動で二日は持つそうだし、そこまで長居する気もないからな。
俺はヨハンに声をかけて、ポチの搭載している銃器に合った弾倉をもらいストレージに収めた。ニ十個なので、小型光弾をトータル三百発は撃てる。
「今更だが、チャージできないってのは面倒だな。魔力があっても駄目なのか?」
「俺たちは魔力操作ができるようにできてないからな。魔力を受け渡すにもスキルがいる。けど俺はもう、そういうスキルを取ることができないんだよ」
「難儀な話だ。力の代償ってやつか?」
「そういうことだ」
俺とヨハンは、互いに苦笑を浮かべて軽く拳を合わせる。
「それじゃ、そろそろ行くよ」
「ああ、頼んだぞ。命知らず」
「正木さん、気をつけて下さいね。私、待ってますから」
「伊勢さんも、無理はするなよ」
伊勢さんが抱き着いてきた。初対面時は相撲のぶつかり稽古のようだったことを思い出しながら、今度こそ誤解を受けないようにおそるおそる背を叩く。
「必ず戻ってきて下さい。必ず」
「ああ、もちろん」
離れた途端に潤んだ瞳を向けられたが、しれっと背を向けて正面通路に向かう。
「エレス、行くぞ」
【はい、マスター】
俺とポチ、そしてエレスは従業員たちの励ましの声を浴びながら、正面通路のバリケードを越え、隙間が目立つようになった魔物の群れへと突撃した。
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