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16‐2 正木誠司、捜索準備(後編)
しおりを挟むこりゃ、LVが爆上がりした弊害だな。
俺は装備を身に着けながら嘆息をもらす。力は人を馬鹿にするな。どうやら思い上がっていたようだ。昨日より遥かに魔物を軽く見ている。よくないなこれは。
それがわかっていても、力を得るのを止めることはできない。
現状では仕方がないことだと割り切っている。
正義感が100%であるがゆえにすごく卑怯だと思うが、今こうしている間にも、エレスとポチが倒したゴブリンの経験値が俺に流れ込んできている。
自分で戦ったときの十分の一程度になるとはいえ、それでもレベリングに貢献してくれていることには違いない。俺が寝ている間もずっとだ。
伊勢さんとのPTも昨夜のうちに解散している。LVが20に到達した時点でジェイスに【もう十分だ】と言われてそうした。
という訳で、経験値は俺の総取り。じわじわ経験値が加算されていたところに先の殲滅戦。オウガ含めて百体くらいを仕留めたからか、一気に8も上がっていた。
俺はホログラムカードを操作し、ついさっき食堂で振り分けた能力値を確認する。
────────
セイジ・マサキ AGE 42
LV 36
HP 55/55
MP 0/0
ST 150/150
STR 25 VIT 30
DEX 5 AGI 30
MAG 0
SP 15
LIMITED SECRET SKILL
機能拡張(ウェアラブルデバイスの機能を拡張し、設定で変更できる内容を追加する)
機能拡張Ⅱ(ウェアラブルデバイスに新機能を追加する)
機能拡張Ⅲ(ウェアラブルデバイスに新機能を追加する)
────────
機能拡張Ⅲが開放されていたのでSPを10消費して取得済み。LV30が開放条件だったようだ。例の如く、報告を兼ねてエレスからお祝いの言葉をもらった。
新機能は三つ。踏破マッピングとアナリシスとライト。全て一般取得できるスキルなので、枠を圧迫しない上位版といったところ。
踏破マッピングは移動した場所を地図として記録しておけるもので、アナリシスは対象の状態や耐久力などの情報を数値化できるスキル。そしてライトは光る。
何が光るかといえば、映像外部出力状態のサポートAIだ。一体化したドールも光らせることができるらしい。まだ試せていないが、地味に便利な予感がしている。
ちなみに全てウェアラブルデバイスを装備した状態でないと使えない。なので、ストレージと同じく基本的にはポチが側にいるときに使ってもらう形になる。
うちのドールとサポートAIは優秀過ぎるよな。足を向けて寝れないわ。
能力値に関してはほとんど変化はない。DEXとMAGの有用性がいまだに体感できていないので初期値のままにしてあるくらいだ。
ハイオウガを追い立てるような魔物を想定して若干上げはしたが、上げる前でもそこそこ余裕のある状態でハイオウガを倒せていたので十分な気がしている。
能力値は1上げるだけでも結構違うからな。でも、この考え方は油断とも言えるか。いや、そうは言ってもSPは残しておきたいしな。不測の事態の為に。
うーん、悩ましい。
「どうしたセイジ? 急に黙ったな。考え事か?」
「お前にだけは言われたくないな」
「心外だな。それじゃ僕がお喋りみたいじゃないか」
「ははは、よし。準備完了。行くとするか」
お喋りの自覚がないヨハンに乾いた笑いを浴びせ、俺は武器庫を先に出た。
格納庫に出ると、武器庫の壁を背にしてぼうっと天井を見ているメリッサが目に入った。退屈そうにガムで風船を作っていたが、俺に気づくなり口に入れて潰した。
「セイジ、待ってたよー。アタシ頑張ったんだ」
言いながら、嬉しそうに笑んで距離を詰めてくる。俺は咄嗟にメリッサから距離をとって周囲を見回す。ジェイスはいないよな。
「な、なにしてんの?」
「お、メリッサ。ん? セイジ、どうした?」
「いや、実は──あっ! ジェイスお前!」
ヨハンが合流して間もなく、ジェイスが物陰からひょっこり顔を出した。まさか自分から姿を現すとは思わなかったので、大声を出してしまった。
ジェイスはしれっと俺たちに合流する。外見がハリネズミなので表情が読み取り辛い。眠そうにしか見えないが、これはどういう感情なんだろうか。
【正木さん、なっちゃんが格納庫前にいるよ。入れて欲しいって】
「ナツミが?」
「なにしに来たんだよ、あの女」
ヨハンは怪訝そうな、メリッサは腹立たしそうな、ジェイスは相変わらず眠そうな顔をしている。多分、俺は口から魂が出そうな顔をしているだろうな。
【正木さん、また防衛地点に行くんだろう? ついていきたいって】
「ヨハン、どう思う? 俺はお前に判断を任せたい」
「僕は──おいセイジお前、なんで胸倉を掴む。揺するな」
「セイジ、そんなに迷惑してんだったら、はっきり言やいいのにー」
【メリッサの言う通りだよ。すっぱり諦めるような言い方をすれば、おいらもこんなことしなくていいんだから。おいらだって、なっちゃんから離れたくないんだぞ】
「おい、俺の所為か? 俺の所為なのかヨハン?」
「落ち着け! ナツミが来たいと言うなら来てもらう。彼女の回復能力は貴重だ。願ってもないことだからな。お前たちの関係なんか知らん」
それを聞いた俺は項垂れる。報告受けてたか。そうだよな。副会長だしな。
ヨハンの判断は正しい。正しいが、メリッサの不服そうな「えー?」という声を俺も出したい気分だった。なんだかこのまま捜索にも加わるとか言い出しそうだ。
ジーナはどうすんだよ……。先行き不安だな……。
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