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14‐1 正木誠司、殲滅戦(前編)
しおりを挟む武器庫で装備を整えた俺は、ヨハンとエレスの操縦するポチと共に防衛地点に訪れた。昨夜から作業が続けられていたのか、三十メートルは前線を上げていた。
バリケードの位置も変わっている。相変わらず酷い出来だが、巧遅は拙速に如かず。こんな場所でじっくり丁寧なバリケードを用意してもなんの意味もないからな。
「セイジが魔物を殲滅したら、従業員の夜を徹した作業の苦労が水の泡だな」
「ならやめるか?」
「従業員の苦労なんて軽いものを、魔物の殲滅と天秤にかける訳がないだろう」
「爽やかな顔して酷いこと言うな、お前」
ヨハンはよく喋る奴だ。軽口に付き合う俺もどうかと思うが、戦闘直前に行う最後の装備品のチェックをしながらなので暇つぶしにはなる。
何回も同じことを繰り返すのって飽きるからな。大事なことだとわかっていても、ほんの数分前にダブルチェックしたことをまたやるってのは流石にな。
とはいえ、こんな念入りにやるのは初めてだが。
それはそうとして、殲滅戦に向けての装備品はガスマスク、ボディーアーマー、光弾突撃銃と予備弾倉を五つ。あとはトレンチナイフ。
救助者発見時の為にストレージにブロッククッキーと水、回復薬入りのカプセル瓶、再生促進液の入った瓶や包帯などの医療品が大量に収納してある。
装備は昨日とほぼ変わりはないが、俺がこれまで使ってきたものは性能が落ちていた為、メンテナンスに出された。なので今身に着けているのは全てが新品だ。
そしてこれから行う作戦の為に、武器庫からは大量のガスマスクをストレージに入れて持って来てある。現在はエレスが従業員たちに配っているところだ。
作戦に参加するのは俺とヨハン含め十人だけで、あとは後方待機だがな。
念の為だ、念の為。
「しかし、銃はともかくトレンチナイフの劣化は酷かったな」
バリケードの覗き穴から魔物を見つめていると、隣にいるヨハンがそんなことを言った。半分呆れたような顔をして「あそこまでのは初めて見たぞ」と続ける。
「まぁ、昨日はほとんどナイフで戦ったからな」
「有り難い話だ。セイジがいなかったらこうはなってなかった」
「金がかからなくていいだろ?」
「茶化すなよ。でも、その通りだな。今はまだ魔物との戦いで余裕がないが、解決と同時に生存している乗員乗客と照らし合わせて犠牲者名簿を作らなきゃならない。それからは裁判だ。その費用も含め、賠償金やら何やらで怖ろしいほど金が飛ぶからな」
ヨハンが忌々しげに魔物の群れを睨む。
「アナザエル帝国がやったという確たる証拠があれば……」
「難しいだろうな。俺と伊勢さんが証言したところでしらを切るに決まってるからな。証拠品の生物兵器も宇宙空間に排出済みなんだろう?」
「ウシャスの積荷倉庫に残っている物があれば回収可能だが」
「やめとけやめとけ。取り扱いを間違えば惨事の繰り返しになるだけだ」
「まぁ、そうだな。関与を否定されたらそこまでだろう。第三者機関の調査が入ったところで、脅しや賄賂で丸め込まれるのが目に見えてるしな」
そこまで考えているなら、最初の言葉はなんだったんだと思いつつ俺は肩を竦める。
「というか、確たる証拠を突きつけたところで、アナザエル帝国が賠償請求に応じるとは思えないんだが?」
「それでも、裁判で帝国に責任があると認めさせれば、エルバレン商会が負う賠償責任が減る。それもとんでもなくな」
「それはそれでアナザエル帝国から目の敵にされるんじゃないか?」
「その通りだ。それに結局のところ、損をするのは遺族になる。俺たちが勝訴した場合でも、アナザエルは賠償金を支払わないだろうからな。俺たちに非がなくとも、遺族の為におとなしく支払うのが正解なんだろうな。歯痒いが」
世の中の不条理を絵に描いたような話が終わったところでポチが戻って来た。
【マスター、ガスマスクの配付を終了しました】
「配付? あれ? 支給品じゃないのか?」
「使う頻度が低いから個人の所有物にはせず使い回してるんだ。洗浄とフィルターの交換は行ってるから、支給品と変わらんよ」
「なんだよ。よっぽど金がないのかと思った」
「金はこれからなくなるんだよ」
俺とヨハンは軽く笑ってガスマスクを装着した。
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