20 / 67
9‐2 正木誠司、怪我の功名(中編)
しおりを挟む伊勢さんが部屋の端に置いてあるスツールを取って来て座った。ジーナは俺のベッドによじ登って座り、その付近をジェイスがふわふわと漂う。
「なんだか難しい話をしてますね」
「ややこしいことは確かだね。慣れるまでだろうけど」
エレスに連絡して確認を取ろうかと考えたが、今は間違いなく忙しい。
あまり他人様のサポートAIに頼るのもどうかと思うが、ジェイスの優しさに甘えて確認をとったところ、戦闘状態への移行が行われるのは異世界召喚された日本人のみであることがわかった。
【この世界の人たちは、召喚された日本人とはちょっとばかり仕様が違うんだ。LVがあるのは同じだけど、HPは怪我をすれば減るし0になると死んじゃうよ。だから、この世界の人になら、怪我の治療になっちゃんの応急手当を使えるね】
俺たちとは違い、HPと体の状態が直結してる訳だ。
でもそっちの方が意味がわからんところもあるよな。頭を潰されたり首を切り落とされたりすれば流石に即死判定になるみたいだが、心臓を貫かれてもクリティカルヒットになるだけでHPが残ってれば死なないってどうなんだよ。
思えばハイオウガもそうだった。執拗な胴体への銃撃で重要臓器がズタボロになっていたはずだ。それでも立っていた。
HPが残ってさえいれば死なないというのは、ああいうことなんだろう。
とんでもなく痛いんだろうな。
よかった。この世界の生まれじゃなくて。
その他の違いについてもジェイスは惜しみなく教えてくれた。
この世界の人にもSPはあるが、任意の振り分けはできず、スキルの任意取得も不可能。魔法は生まれつき使えるが、スキルではない為、当人たちの努力がなければ成長しない。
これは生まれ持った力と、後付けされた力の差らしい。
俺と伊勢さんはウェアラブルデバイスという名の神器のお陰で能力値の可視化が可能だが、この世界の人々はそれができない。
当然だ。魂とリンクした映像出力装置など、どれだけ技術が発展したとしても作れる訳がない。それこそ、フェリルアトスのような神でもない限りは不可能だろう。
ゆえに、この世界の人たちは、鍛錬や仕事での経験値取得とLVの上昇、無意識下でのSPの振り分けを行い、ゆっくりじっくり成長していくのだとか。
魔法の使い勝手が俺たちよりも良いのも、生まれつき魔力を持っているからで、自力で自分の中にある魔力を感じ取って操作を身につけていくからだという。
だから魔法でバリケードを補修できたりする訳だ。
対して、生まれつき魔力を持たない俺たちは、MGにSPを振り分けるというお手軽な魔力とMPの増加が行えてしまう。
本来持ち得ないものを後付けし、努力と鍛錬という前提条件も必要とせずに魔力を伸ばしていくことができる。
これはチート以外のなにものでもないが、そこに落とし穴がある。
召喚された日本人には、体内の魔力を感じ取る機能がないのだ。
早い話が、どれだけMPがあろうが魔力が高かろうが、魔法を使うことができないということだ。喜んで上げたところで放出できないMPタンクにしかならない。
とはいえ流石にそれは気の毒だろうということで、フェリルアトスがスキルとして現象が固定された魔法もどきを用意してくれたらしかった。
【『折角の異世界なんだから魔法がないと楽しみが減るでしょ』って言ってたよ】
「MAG上げなくてよかった。やっぱり罠だったわ」
【酷い言い草だな。おいらはそうは思わないよ。魔法抵抗値だって上がるし】
「それは魔力枯渇症を抱えるデメリットを帳消しにできるほどのものか?」
ジェイスが小さな前脚を広げて肩を竦めたように見せる。
【ケースバイケースだね。この世界の人たちは魔力を操作できるから、色んな魔法を使えるんだよ。たとえば、状態異常系の魔法だね。MAGに1でも振ってれば抵抗値が付くから受ける可能性は相手の成功確率次第になる。でも抵抗値がない場合は確実に受けてしまう】
「AGI上げれば回避可能では?」
【ウシャスに噴射された生物兵器みたいな魔法だったらどうするんだ?】
確かにそれは厳しい。少し考えるが、打開策が思いつかない。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜
水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑
★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位!
★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント)
「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」
『醜い豚』
『最低のゴミクズ』
『無能の恥晒し』
18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。
優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。
魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。
ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。
プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。
そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。
ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。
「主人公は俺なのに……」
「うん。キミが主人公だ」
「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」
「理不尽すぎません?」
原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。
※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
無能な悪役王子に転生した俺、推しの為に暗躍していたら主人公がキレているようです。どうやら主人公も転生者らしい~
そらら
ファンタジー
【ファンタジー小説大賞の投票お待ちしております!】
大人気ゲーム「剣と魔法のファンタジー」の悪役王子に転生した俺。
王族という血統でありながら、何も努力しない怠惰な第一王子。
中盤で主人公に暗殺されるざまぁ対象。
俺はそんな破滅的な運命を変える為に、魔法を極めて強くなる。
そんで推しの為に暗躍してたら、主人公がキレて来たんだが?
「お前なんかにヒロインと王位は渡さないぞ!?」
「俺は別に王位はいらないぞ? 推しの為に暗躍中だ」
「ふざけんな! 原作をぶっ壊しやがって、殺してやる」
「申し訳ないが、もう俺は主人公より強いぞ?」
※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル総合週間ランキング50位入り。1300スター、3500フォロワーを達成!
金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!
夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!!
国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。
幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。
彼はもう限界だったのだ。
「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」
そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。
その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。
その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。
かのように思われた。
「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」
勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。
本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!!
基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。
異世界版の光源氏のようなストーリーです!
……やっぱりちょっと違います笑
また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる