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8‐1 正木誠司、初戦闘(前編)
しおりを挟むウシャスの格納庫に出た俺は呆然とした。
全体が青みがかった機械的なグレーの庫内には、分解中のパワードスーツらしきものの残骸や武器など様々な物が乱雑に置かれている。
それはいいのだが……。
付近にテントが乱立しているのは一体どういうことなのか。
側には顔や姿勢に疲労感が滲み出ている従業員たちの姿。
母艦内なのに野営での見張り状態。そして漂う生活臭。
俺の中にある宇宙船内部のイメージが音をたてて崩れていく。
なんというか、洗練された美しさがまったくない。
たとえるなら泥臭い戦いをする兵士たちの雰囲気。いや、汚れたツナギ姿だから、疲れ切った整備士たちか囚人が集う室内キャンプ場だ。
こんなスペースオペラは見たことがない。とはいえ俺のイメージは飽くまで架空作品から得たのものでしかないのだが。
現実だとこうなるってことか。
艦内で数日防衛戦やってんだもんな。
命がかかってるんだから、なりふり構っていられないということだろう。
ただ、整理整頓と掃除くらいはした方がいいと思う。
このままだと、いつか誰かが転んで怪我をしそうだ。
【マスター、この先だそうです】
エレスが小声でそう伝えてくれた。従業員たちを驚かさないように、今は俺が背負っているポチの中にいる。
ヨハンいわく、エレスも魔物に見えてしまう可能性があるとのこと。実際、妖精は魔物扱いだそうだ。
「妖精が実在すると聞いても驚きの一つも起きなくなってきたな」
【マスターは順応力に優れていますから。実のところ私も驚かされています。伊勢さんは数日を要していたようですよ】
「そうなのか?」
【はい。それでも早い方でしょう。現在も環境に馴染む努力をしています。ですが、マスターはそれを数時間でこなし、既に伊勢さん以上の行動を起こしています。ジェイスがマスターは異常だと言っていました。誠に失礼ながら私もそのように思います」
「褒めるにしても表現に問題があると思うんだが」
ヨハンが先行し、側に立っている従業員に声をかけ格納庫の扉を開かせる。すると、遠くから戦闘音らしきものが聞こえてきた。怒鳴り声と爆発音が主で、銃声は聞こえない。
「思ったよりうるさくないな」
【実弾兵器を使用していないそうですから】
会話をしながら通路を進むに伴い、徐々に戦闘音が近づいてくる。
ヨハンについて道を折れると、従業員が慌しく動いているのが見えた。
その途端、ヨハンが何かを言った。
【本当に訓練は必要なかったのかと訊いています】
「してもLVが上がらないなら時間の無駄だからな」
【では必要ないと伝えます】
「ああ、頼む」
通訳が済むと、ヨハンは呆れたように軽く肩を竦めて歩き出した。
俺は装備品のチェックをしながらその後に続く。
背中にポチ。手には光弾突撃銃。太腿にトレンチナイフが収められた鞘。
鞘はポケットではなくホルダーにしっかりと固定してある。ベルトではなく、ツナギ自体にそういう機能が付いているのでかなり便利だ。
ベルトしてたらトイレが大変だからな。
ただ、事故防止の為か、結構な力を入れないとトレンチナイフが鞘から抜けない仕様になっているのはいただけない。
戦闘時は事前に抜いてナックルに指を通しておいた方がよさそうだ。
とはいえ、文句があるのはその一点だけ。
刺突、斬撃だけでなく、ナックルダスター状のガードもあるから拳を痛めずに打撃も可能。トレンチナイフってのはお得感があるよな。
持った状態で銃のトリガーも引けるし、言う事なしだ。
しかし、まさか趣味で観ていた武器紹介や武術の動画がこんなところで役に立つことになるとは。人生なにが起こるかも役立つことになるかもわからんもんだよ本当に。
間もなく、通路を塞ぐバリケードの前に出た。
バリケードはセメントで雑に固められたように凸凹している。赤土や粘土、石も所々に見えて、テーブルやら椅子やらゴチャゴチャといろんな物が埋め込まれていた。
「急ごしらえ感がはんぱじゃないな」
【実際、そのようです。マスター、早速ポチを試してみましょう】
「お、そうだな」
俺はポチを下ろし、バリケードの側に歩み寄る。
するとポチが俺のやや後ろをシャカシャカと四つの脚を動かしながらついてきた。これが可愛く見えてくるから不思議なもんだ。
戦闘中で慌しくしている従業員たちが怪訝な顔を向けてくるが、精神構造を変化させているので気にもならない。ただ、ちょっと緊張していた。
緊張感もいじっておけばよかったかな……。
【では、行きます】
「無理するなよ。危なくなったらすぐ戻るんだぞ」
【はい、マスター】
ポチが行ってきますと挨拶をするように片側の前脚を上げる。
それからすぐに空気を噴出させる音を発して浮かび上がり、四つ脚の関節を折り込んで畳みながらバリケードを越える。
実際に目にすると、思った以上にすげぇな。
ポチを見送った俺は、即座に隣のヨハンを押し退け、バリケードの隙間から向こう側を覗いた。そこには、伊勢さんから聞いていた特徴通りの魔物たちが溢れていた。
「うわー、ひしめいてんなー」
ゴブリンが最も多く、頭三つ分ほど大きなオウガがちらほら。
どうやらハイオウガはいないようだ。
通路は決して狭くない。自動車が二台通れるくらいはあるだろう。
それでも詰まって見える。
魔物同士が押し合いへし合いして進行速度を落としている感じだ。
貫通力の高い武器とか爆薬とか使えば一掃できそうなもんだけどな。
まぁ、俺が思いつくくらいだからもう試してるか。
もしかすると下手に隙間を作って魔物の進行速度を上げないようにしてるのかもしれない。あるいは、使えない理由があるのか。やっぱり酸素かな。
考察しながらポチが魔物に近づいていくのを見つめる。天井に近い位置を飛んでいるので、フレンドリーファイアを食らう心配はなさそうだ。
正直それが一番心配だからな。
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