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7‐1 正木誠司、準備完了(前編)

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 エレスとヨハンが居たのは、小型の奇妙な形状の機械が棚に並べて置かれている一角だった。ドールというからには人型だろうと勝手に思い込んでいた俺は唖然とする。

 俺の姿に気づいた様子のヨハンが、棚から一つ機械を持ち上げ床に下ろす。妖精型エレスはドール化が待ち切れないのか俺の側へと飛んできた。

【マスター、あれです】
「うん、あのヨハンが下ろしてくれたやつね」
【はい。飛行機能が付いた四脚偵察機です。可愛いです】

 エレスは独特な美的感覚を持っているようだ。

 俺の目には小さな四角い座卓の脚に関節が付いたようにしか見えない。色はライトグレーと黒のツートンカラーで、四脚の蜘蛛のようにも見える。

「一応確認なんだが、これがドールで合ってるか?」

【いえ、ドールと成りうるものは他にもあるのですが、これが現状では最適だと判断しました。ヨハンにも確認済みです】

 ドールの定義について訊いたところ、要はロボット全般を指すことがわかった。別に自立型である必要はなく、リモコンで遠隔操作を行える物でも大丈夫らしい。

 ただ、あまり大きいものだと操作は行えないとのことで、現在候補に挙げられている物がサイズ的にはベストなのだとか。

「本当にこれでいいのか?」

【これがいいんです。これ以上、利便性に富んだドールはありません。一度使用してみて下さい。良さが理解できると思いますから】

 熱弁するエレスには悪いが、四角くて平たい背嚢のようにも見えてきた。

 こんなものが本当に活躍してくれるのだろうか……?

 だが、エレスが望むのであれば仕方ない。俺はホログラムゴーグルを起動し、設定画面から手動でサポートAIの制限解除を行う。

「まずはイヤホンの取り外しからでいいのか?」

【はい。制限解除後は取り外してもゴーグルが維持されますので、それを手に取り引き伸ばして透過型タブレットに変えてください。次はこの四脚偵察機の上にウェアラブルデバイスを乗せ、液状化を手動選択して実行をお願いします。それが済んだら、浸透同化の実行を続けてお願いします。それで私のドール化を行うか最終確認が表示されますので、承認していただければ完了です】

「わかった」

 認めはしたものの、こいつを撫でることができるのかは甚だ疑問だ。エレスは撫でて欲しがっていたが、結構すごい画になるような気がする。

 変態機械愛好家のそしりを受けてしまう未来が見えてくるのは何故だろう。撫でるにしても、人目につかない場所にせねばなるまいて。エレスの名誉の為にもな。

 取り外したウェアラブルデバイスを、四脚偵察機の上に乗せる。

「なぁ、これと同化した場合、エレスは妖精型での出現は可能なのか?」

【はい、可能です。私はウェアラブルデバイスそのものであり、サポートAIでもあるので。ただ、一体化していない場合、マスターが組んだプログラム通りにしかドールは動きません】

 ああ、そういうことか。

「要するにエレスが一体化した状態であれば、エレスが操縦するような形になる訳だな。口頭での指示を受け付けて、臨機応変な対処が可能になる」

【概ねその通りですが、一部違います。私が一体化せずとも、口頭での指示を受け付けるように設定することは可能ですから】

「その先にある行動がプログラムされてないと反応しないってことだろ?」

【はい、その通りです】

 要するに、右に動けと指示を出しても、その指示を受けたとき右に動くというプログラムがされていなければ動くことはないってことだ。
 エレスが一体化していればプログラムは一切必要ない。エレスを映像外部出力させたいなら、プログラムを組み上げる必要があると。これはかなり面倒そうだ。

 とりあえず、一定距離を保って俺の後ろをついてくるように設定しておけばいいか。段差とか障害物を発見した場合の対応もプログラムしてないと駄目なのかな。
 
 しかし、サポートAIごと外部出力してるってどういう仕組みなんだ?

 思考放棄すれば神器だからで済むんだろうけども。
 謎技術ここに極まれりって感じだ。

 ある意味、エレスは実体の存在しない生物と同じ状態ってことになるからな。本体から抜け出たように見せていた訳ではなく、本当に抜け出ていた訳だ。
 映像外部出力の適用範囲がおかしいのも納得だ。多分、本体から抜け出たエレス自身が光を放射して妖精型の映像を形作っていたということだろう。
 
 
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