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6‐1 正木誠司、副会長と会う(前編)

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 ジーナをベッドに寝かせて間もなく、新たな来客があった。くすんだ青色のツナギ姿を着た金髪碧眼の優男だ。
 男は俺に向かって笑顔で何かを言ったが、生憎と異世界言語は通じない。俺は男に少し待つよう手振りで示し、外部出力機能をオンにして妖精型エレスを出現させる。
 突然の妖精出現に男は目を見開くが、こればかりは慣れてもらうしかない。別に出さなくても通訳は可能だけどな。

【『起きたのかい?』 だそうです】
「お陰様で。保護に感謝してますって伝えてくれ」
【はい、かしこまりました】

 エレスの通訳を介して会話を行う。反応は良好だ。
 男は西洋系の整った顔立ちで、目が涼しげ。飄々とした印象がある。年は三十代半ばといったところで、体格は俺とほとんど変わらない。やや細身で、上背がある。

 通訳を介しての自己紹介を済ませたところ、男はエルバレン商会の副会長であるヨハンだということが確定した。
 伊勢さんから聞いてた特徴と一致してたから多分そうなのだろうと思っていたが、間違えてたら恥ずかしいからな。

【マスター、機能拡張スキルには言語理解が含まれています】
「え、そうなのか?」
【今夜のうちにこちらの言語を習得することを推奨します】
「わかった。あるなら使わないとな」

 エレスの通訳があるので必要ないと思っていたが、やはり直接話せないのは不便だと実感していたところでまさかの僥倖。

 機能拡張スキルを取得した以上、もう進化スキル以外のスキルを取得することができないので、あとは自力習得するしかないという俺の覚悟と熱意と勉強意欲が一瞬で消え去った。流石、限定シークレットスキルといったところか。

 機能拡張で他に何ができるのかを把握する為、ホログラムゴーグルに設定画面を出しつつヨハンに状況の説明を求める。すると今度は伊勢さんが通訳してくれた。が、肩を竦めて首を横に振るヨハンを見ると、あまり良い結果ではないようだと予想がついた。

「進展なしだそうです」
「だろうな。ジェスチャーでわかったよ」

 ヨハンは泣き疲れて眠るジーナを見て溜め息を吐いた。その姿は、あと何回この切ない光景を見なければならないのかと言っているように見えた。
 俺はそんなヨハンを見て思わず励ます為に肩を軽く叩いてしまう。

 言葉は通じないが思いは同じ。
 ありがとうと言っているように頷くヨハンに親近感が湧いた。

【マスター、ヨハンが『気安く触らないでくれ』と言っています】
「マジかよ」

 やはり言葉が通じないと誤解が生じるようだ。
 さっさと異世界言語を習得してしまおう。

 状況はかなりよくないらしかった。商会長のジョニーからウシャスを脱出するように指示されていたそうだが、ヨハンはそれを無視して格納庫に滞在することを選択した。独断ではなく、全従業員に確認を取った結果、皆ヨハンに賛同してくれたらしい。

「マリーチなら、全従業員を乗せて脱出することができるんですけど、商会長さんが慕われていて誰も言うことを聞かなかったみたいです」
「それはすごい。よっぽどいい人なんだろうな」

 俺の言葉をエレスが通訳すると、ヨハンは渋い顔で手を横にして振り何かを言った。

【ヨハンが、『ジョニーはただの筋肉馬鹿だ』と言っています】
「ヨハンさんと商会長さんは幼馴染らしいので、ただの軽口ですよ。顔を合わせればいっつも言い合ってましたし」
「ああ、なんかそんな感じする。仲が良いんだろ」

 雑談を交えながら状況の確認を進めたところ、ウシャスの前方部にある操縦室と格納庫は無事であることが判然とした。
 ただ、いかんせん魔物の数が多く、三日目にして戦闘用の備品が底を尽きそうになっているらしい。怪我人も増えているのだとか。

 そういえば、ジーナの案内に医療室は含まれていなかった。扉の前を素通りしたが、中には怪我をした従業員が大勢いたんだな。
 ジーナがちょっと悲しそうに見えたのはその所為だった訳だ。

【エルバレン商会は随分と追い込まれているようですね】
「もう、いつまで保つかわからないそうです」

 俺はそんな二人の沈んだ声を聞きながら、〈機能拡張〉で追加されたNEWの文字がついた設定をいじくっていた。まったく、とんでもないなこれは。

「エレス、〈機能拡張〉を取得してよかったよ」
【お気に召しましたか?】
「ああ、これは使える。というか、ないと詰んでたかもしれん」

 ウェアラブルデバイスは俺の魂とリンクしている。だからこそ、この部分の設定を変更できるということなのだろう。

「よし、ウシャスに行こう。早速試したい」
「え、え?」
【かしこまりました。ヨハンに伝えます】

 俺がいじったのは、罪悪感と背徳感、忌避感と嫌悪感、そして恐怖感と不安感。それらの項目を数値配分変更ではなくオフにした。
 逆に安心感と安定感、使命感と正義感は100%に設定。

 スキル〈機能拡張〉は、俺の精神構造の設定変更が可能になるスキルだったのだ。俺のような小心者には、これほど有用なスキルは他にないだろう。
 なにせ、殺傷を躊躇しなくなるんだからな。

 ジーナの力になってやりたいと思いながら、魔物と戦えるか心配していた俺はもういない。今なら蛾やゴキブリであっても素手で握り潰せるだろう。

 想像していただけで怖気立っていたのが嘘のように無感覚だ。
 不感症ってこんな感じなんだろうか。

 世間一般の人は、結局のところ可哀想だとか怖いだとかいう感情が邪魔をするのが問題な訳で、それが払拭されれば戦闘なんかも何一つ問題はないってことなんだろう。

 そう考えると、アニメとか漫画の主人公って、その辺りが壊れてるよな。

 当たり前のように暴力振るうし。

 サイコパス要素がなければ、ヒーローにはなり得ないってことなのかもな。

 さて、サイコパスヒーロー正木誠司の初陣だ。

 どこまでやれるかね。

 困惑する伊勢さんにジーナの側にいてもらうようお願いし、俺とエレスはヨハンと共に自室を後にした。
 
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