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4‐2 正木誠司、五千分の一になる(後編)

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 伊勢さんが優秀なサポートAIたちに慰められている間に、俺はホログラムゴーグルを出して席に戻った。ジーナの口元をエプロンで拭いた後で、カレーを食べながらデバイスの手動操作を行いスキルの情報についてチェックする。

「むぐっ」

 情報の閲覧を始めた矢先に重要な点が目に留まり、危うくカレーを含んだパンを気管に詰めるところだった。
 咳き込んで吐いたら、口から排泄物が出ているような光景が広がるところだ。顰蹙を買うことは間違いない。

 そういったことはどうでもいいとして、スキルは四つまでしか反映できないと書いてある。伊勢さん、もう二つも取ってるけど大丈夫か? いや、まだLVを上げてないから修正は利くか。
 とはいえ、勿体ないことには違いない。折角有益な情報を得たんだ。伊勢さんには悪いが、SPを無駄にしない為にも、俺は取得するスキルを厳選させてもらうとしよう。

 さて、それを踏まえて俺の育成方針はどうするか。

 LVアップ時にSPを3もらえると能力値説明の中に書いてあった。だが、外したスキルのポイントが還元されるという記載は見つけられなかったので、おそらく消滅すると思われる。
 念の為、エレスに確認はするが、それが仕様である場合、下手にスキルを取得するより、MAG以外の能力値の上昇に使った方がいい気がする。そうすれば魔力枯渇症にはならなくなるし、MAGに振らない分、他の能力値を高くできるから……。

 なんだかどんどんMAGに振るのが罠のような気がしてきた。
 異世界に来たんだからどうせなら魔法を使ってみたいよねって気持ちが後々になって自分の首を絞める結果に繋がるように思えてくる。

 全ては魔法の使い勝手が悪すぎるのがいけない。
 いや、魔法以外のアクティブスキルも総じて微妙なのもいただけない。

 一覧で表示される内容にざっと目を通していくが、大したものが見当たらない。例に出すと『火球』とか『大火球』のようなバラ売りな感じだ。
 こんなものを取得していては四つの枠がすぐに埋まってしまう。
 これがもし『火魔法』というスキルなら火の魔法を全て使えるようになるので幾らか応用が利くのだろうが、残念ながらない。

 また、仮にあったとしても魔力を操作し自由に威力を変えて現象を起こすのではなく、MPを消費して『火球』や『大火球』のような固定された現象しか起こせないのであれば、やはり自由度は低いように思う。

 MAG依存で威力が増加するとはいえ、ダメージ倍率まで固定されてるってどういうことだよ。完全にRPGじゃねぇか。

 こんなに融通が利かないのに目を引くほどの効果がないというのも問題だ。
 全体を流し読みしただけだが、現状アクティブスキルに必要性を感じなかった。

 という訳で、今度はパッシブだけを確認していく。
 検索絞り込み機能を使い、先ほどよりも少しばかり時間をかけて見ていく。

 それでも流し読みとほぼ変わらない速度だが。

 うわ、なんだこれ?

 思わず心で呟いてしまった。これは気になるスキルだ。

 俺の目に留まったのは、〈機能拡張〉というスキルだ。効果は(ウェアラブルデバイスの機能を拡張し、設定で変更できる内容を追加する)というもの。

 ネタのような気もするが、必要SPが15と馬鹿みたいに高く、初期ボーナスポイント全てを消費せねば取得できないというのがものすごく怪しい。
 これを取る奴は相当な勝負師だと思う。

「エレス、〈機能拡張〉ってスキルについて教えてくれ」

 訊くのが早いと思って小声でそう言った途端、エレスの外部出力が全て切れた。ホログラムゴーグルの画面にエレスの嬉しそうな笑顔が映る。

【おめでとうございます、マスター。よく見つけてくださいましたね。そちらは限定シークレットスキルです。そのスキルを取得していただければ、私の実体化を叶える条件の一つが達成されます】

 知られない方がよさそうな話になってきた。俺は伊勢さんとジェイスに覚られないよう、さりげなく手で口元を隠してから会話を続ける。

「限定シークレットスキルってなんだ? 詳しく説明してくれるか?」
【はい、喜んで。では〈機能拡張〉の取得条件からお話します】

 エレスの説明を聞いた俺は驚愕した。機能拡張はウェアラブルデバイスを一定時間手動操作した者にしか開放されない仕様になっていたとのこと。
 そうなっていた理由は、〈機能拡張〉取得後の追加要素が手動でしか行えない為に、サポートAIに頼り切っている者には使いこなせるとは思えず、また使わせる価値がないからという辛辣なものだった。

「この取得条件って誰目線の話だよ」
【開発者ですね。厳密には違いますが地球の神のようなものです】
「はぁ? 地球の神?」
【はい。このイヤホン型ウェアラブルデバイスは、地球の神から異世界召喚された日本人への餞別なんですよ】
「エレス、その話は後にしよう。ちょっとまだついていけん」
【かしこまりました。では限定スキルの説明に戻ります】

 とんでもない話になったことにびっくりして何をしていたのかを忘れてしまったが、エレスのお陰で思い出せた。そうだった。限定スキルについて説明を受けていたんだったな。

 限定スキルは、限定と頭に付くだけあって、取得した時点で他のウェアラブルデバイス所持者は取得できなくなるのだという。
 つまり俺は、五千分の一を引き当てたということだ。

 流石に〈機能拡張〉取得後の追加内容については明かすことができないとのことだが、非常に有用であることは間違いないとか。
 ただし、強力な分デメリットも大きく、取得後は他の限定シークレットスキルを含めたスキル取得は不可能になるらしい。

 実質、所持スキルは一つだけになるという訳だ。悩ましいな。

「なぁ、エレス。他の限定シークレットの数とか開放条件なんかを教えてもらえたりとかはしないよな?」

【教えたいのは山々ですが、サポートAIはそれができないように設定されているんです。ジェイスもできるならやりたいと言っていました。私たちはマスターを失えばその時点でデバイスごと存在が消滅するように出来ていますから、嘘はありません】

「そ、そうか。いや、嘘とは思ってないからな」

 さらっと一蓮托生であることを明かされて驚いた。つまり、このウェアラブルデバイスは完全に俺専用ってことか。それを知ると愛着が湧くな。

「よし、わかった。とりあえず取るか。エレスのことも撫でたいしな」
【ありがとうございます。マスター】

 すごく嬉しそうなエレスを見て満足しつつスキルを取得する。その直後、〈機能拡張Ⅱ〉が開放されてギョッとする。進化先があったのかよ。
〈機能拡張Ⅱ〉の効果は(ウェアラブルデバイスに新機能を追加する)というもの。消費SPは10で初期より5低いものの、やはり高い。

 気にはなるが、当面は能力値を上げることにSPを費やさないと駄目だろう。初期値のままだと、すぐに死んでしまいそうだからな。
 伊勢さんの話によれば、LVを上げる為の魔物はウシャスにわんさかいるようだし、レベリングには事欠かないだろう。

 なんて強がってみたけど、怖いよなぁ。
 俺は家の中に蛾が入ってきただけで悲鳴を上げるような小心者だ。虫型の魔物とかいたら絶対に卒倒すると思う。

 でも──。

 怖いが、逃げ場がないから仕方がない。だったらもう開き直るしかない。
 何もせず、全部人任せにして死ぬのは嫌だしな。
 それが嫌なら、戦ってレベルを上げて強くなるしかない。強くなれば、エルバレン商会にも借りは返せる。拾ってもらった借りをな。

 理解が及んでくると、エルバレン商会の商会長さんには感謝しかないことがわかる。もし心無い人だったら、俺と伊勢さんは冷凍睡眠装置ごと依頼者に引き渡されてたってことだもんな。

 その依頼者は、おそらくアナザエル帝国の手の者なのだろう。段々と推測が立ってきたが、それは後にして、とりあえずウェアラブルデバイスの拡張された機能に慣れておくとしよう。
 あとは出払っている従業員が帰ってきてからだな。
 そこでまた情報収集して、俺にできることを探していこう。

 食事を終えて隣を見ると、ジーナがうつらうつらしていた。食後の眠気に襲われたらしい。ハンドタオルのエプロンを外し、それで汚れた手と口を拭き取って抱え上げる。

「ふふっ、正木さん、お父さんみたいですね」
「そうかな? じゃあ、伊勢さんはお母さんだな」
「そ、そう思ってもらってたら、嬉しいですね」

 赤面して俯く伊勢さんに汚れたハンドタオルを渡す。

「悪いけど、後片付けは手伝えそうもなさそうだ」
「だ、大丈夫です。ジーナちゃんをお願いします」

 俺は寝息を立てるジーナを抱えたまま、伊勢さんが後片付けを終えるのを待った。
 
 
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