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第46話「催眠術」
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第46話「催眠術」
蛍は、女湯の中で20分にわたり、浴室で知り合ったばかりの壮年女性にあるがままに話した。女性は、近くから遊びに来ている心療内科医との事だった。ふくよかな顔立ちに大きな福耳に細い目に大阪のおばちゃん風パンチパーマという顔立ちで、優しさがあふれ出ていた。オカルティックな話ではあるが、「人のオーラを読み取ることができる」とさらりと言う彼女の言葉は蛍にはすんなりと受け入れることができた。
近くの寺の娘として生まれ、「一日一膳」をもっとうにしているということで、「悩みのオーラ」を出している蛍を放っておけなかったから声をかけたというのもすんなりと信じられた。
一通りの説明が済むと、女性が唐突に切り出した。
「朝食の後、30分程時間とれるかしら?どこまでできるかわかんないけど、聞いてる話では、凪君って子は、純粋すぎるみたいだから、「一昨日に受けた記憶」を消しっちゃったらいいんだと思うのよねぇ…。」
「えっ、そんなことできるんですか?」
と蛍も食いついた。
女性が言うには、「心療内科」で使う術で、「トラウマ」体験を記憶の奥に沈める「催眠術」があるとの事だった。しかし、「催眠術」は、体質や思考によってかかりにくい人もいるとの事なので、過度な期待はしないで欲しいとの事だった。それと、被験者には、必要以上の緊張を起こさせないようにするため、術式については知らせない方がよいとの事だった。
「この宿で偶然昔の知り合いに会ったってことにして、「彼氏を紹介しろってせがまれた」との前提で、彼女が部屋に来てくれることとなった。
お礼については、「背中を流してくれたらいいよ。」と言ってくれたので、蛍は丁寧に彼女の背中を洗った。
「あなた、凄く優しい人だね。あなたの手を通じてあなたのやさしさが伝わってくるよ。いい結果が出るといいわね。」
と優しく言ってもらった。
部屋に戻ると、凪がホテル内の自動販売機でビールを買ってきてくれていた。
「さっきはすみませんでした。お詫びのひと缶です。お風呂上がりにおひとつどうぞ。」
とチワワの目で言われると、断る理由もなかった。「ありがとう!」とキスをすると、言葉に甘えてビールを飲んだ。(あー、食事会場でうまい事、「劇ごっこ」できるかな?まあ、恥ずかしいもんは片付けとかなあかんな。後で、屑籠だけは綺麗にまとめとくか…。)と思ってると、凪が後ろから抱きついてきて
「螢さん、お風呂上がりのいい匂いがします。ちょっと、このままでいさせてください。」
と耳元で囁いた。(うん、こんな感じでもいいねんけど、まあ、ここは「藁」に縋ってみよっか…。)とビールを空けた。
朝8時、朝食会場に入ると、蛍は朝風呂で出会った女性を見つけ、アイサインを送った。女性も目くばせを返してきた。
豪勢な朝食を蛍と凪は楽しんだ。しっかりと出汁の染みた煮物、さっぱりとした一夜干しの焼き物、深い味の吸い物を食べ終わると、心療内科医の壮年女性が近づいてきた。
「あら、蛍ちゃん?あなたもここに泊ってるの?」
と話しかけられ、「あとで、少しお部屋におじゃまするわね。」と打ち合わせ通り話を進めてくれた。
食事を終え、部屋に帰って10分程すると、心療内科医の女性がやってきた。自然な会話から入り、お遊びで「ボイスリラクゼイレーション」をしてくれる流れに持ってきた。やらせで蛍が「わー、凄い肩こりが取れてすっきりしたわー!凪君もやってもらい!」と凪を誘った。
素直に凪は、心療内科医の前に正座した。壮年女性は、ゆっくりとした口調で凪に話しかけると、ものの1分で凪の頭が前後にスイングし始めた。(いわゆる、トランス状態ってやつ?催眠術ってホンマにあるんや…。どうか、旨く、凪君の心の傷が癒えますように!先生、お願いします!)蛍は祈った。
術が進むにつれて、凪の口から、一昨日のホテルで受けた仕打ちに対する恨みよりも、蛍から「嫌われてしまうのではないか」と言う意識が強いことが語られた。「僕は汚れてしまい、蛍にふさわしくない」とか「蛍の姉と関係を持ったことで今後、「しこり」が残るのではないか」といった潜在意識が前面に表れた。トランス状態の中で語られた「蛍への憧れ・尊敬・愛情」の言葉は稚拙ではあるがストレートなものであり、聞いている蛍は、「嘘をついて凪を縛ろうとした自分」を恥じた。
凪の口から、「2日前に戻って、今まで通りの蛍との関係に戻りたい。」との言葉が出たところで、心療内科は、
「凪さんの言う嫌な思い出は、現実にはなかった夢の世界の話ですよ。私が5つ数えたら、そんなことは無かった世界に戻ります。楽しいことを想像してください。では、1、2、3、4、5。はいっ!」
と言い切ると手を叩いた。
凪が目を開けると、浴衣の股間が盛り上がり、捲れた浴衣から紺色のトランクスが顔を出していた。凪は慌てて、両手で浴衣の裾をなおし、真っ赤になった。
「すみません。楽しいことを想像してって聞こえたんで、蛍さんのことを考えてたら…。決して「H」なことを想像してたわけじゃないんですけど…。」
「もう、大丈夫みたいね。じゃあ、蛍さん、頑張ってね!」
と言い残し、心療内科医の女性は部屋を出て行った。
蛍は、女湯の中で20分にわたり、浴室で知り合ったばかりの壮年女性にあるがままに話した。女性は、近くから遊びに来ている心療内科医との事だった。ふくよかな顔立ちに大きな福耳に細い目に大阪のおばちゃん風パンチパーマという顔立ちで、優しさがあふれ出ていた。オカルティックな話ではあるが、「人のオーラを読み取ることができる」とさらりと言う彼女の言葉は蛍にはすんなりと受け入れることができた。
近くの寺の娘として生まれ、「一日一膳」をもっとうにしているということで、「悩みのオーラ」を出している蛍を放っておけなかったから声をかけたというのもすんなりと信じられた。
一通りの説明が済むと、女性が唐突に切り出した。
「朝食の後、30分程時間とれるかしら?どこまでできるかわかんないけど、聞いてる話では、凪君って子は、純粋すぎるみたいだから、「一昨日に受けた記憶」を消しっちゃったらいいんだと思うのよねぇ…。」
「えっ、そんなことできるんですか?」
と蛍も食いついた。
女性が言うには、「心療内科」で使う術で、「トラウマ」体験を記憶の奥に沈める「催眠術」があるとの事だった。しかし、「催眠術」は、体質や思考によってかかりにくい人もいるとの事なので、過度な期待はしないで欲しいとの事だった。それと、被験者には、必要以上の緊張を起こさせないようにするため、術式については知らせない方がよいとの事だった。
「この宿で偶然昔の知り合いに会ったってことにして、「彼氏を紹介しろってせがまれた」との前提で、彼女が部屋に来てくれることとなった。
お礼については、「背中を流してくれたらいいよ。」と言ってくれたので、蛍は丁寧に彼女の背中を洗った。
「あなた、凄く優しい人だね。あなたの手を通じてあなたのやさしさが伝わってくるよ。いい結果が出るといいわね。」
と優しく言ってもらった。
部屋に戻ると、凪がホテル内の自動販売機でビールを買ってきてくれていた。
「さっきはすみませんでした。お詫びのひと缶です。お風呂上がりにおひとつどうぞ。」
とチワワの目で言われると、断る理由もなかった。「ありがとう!」とキスをすると、言葉に甘えてビールを飲んだ。(あー、食事会場でうまい事、「劇ごっこ」できるかな?まあ、恥ずかしいもんは片付けとかなあかんな。後で、屑籠だけは綺麗にまとめとくか…。)と思ってると、凪が後ろから抱きついてきて
「螢さん、お風呂上がりのいい匂いがします。ちょっと、このままでいさせてください。」
と耳元で囁いた。(うん、こんな感じでもいいねんけど、まあ、ここは「藁」に縋ってみよっか…。)とビールを空けた。
朝8時、朝食会場に入ると、蛍は朝風呂で出会った女性を見つけ、アイサインを送った。女性も目くばせを返してきた。
豪勢な朝食を蛍と凪は楽しんだ。しっかりと出汁の染みた煮物、さっぱりとした一夜干しの焼き物、深い味の吸い物を食べ終わると、心療内科医の壮年女性が近づいてきた。
「あら、蛍ちゃん?あなたもここに泊ってるの?」
と話しかけられ、「あとで、少しお部屋におじゃまするわね。」と打ち合わせ通り話を進めてくれた。
食事を終え、部屋に帰って10分程すると、心療内科医の女性がやってきた。自然な会話から入り、お遊びで「ボイスリラクゼイレーション」をしてくれる流れに持ってきた。やらせで蛍が「わー、凄い肩こりが取れてすっきりしたわー!凪君もやってもらい!」と凪を誘った。
素直に凪は、心療内科医の前に正座した。壮年女性は、ゆっくりとした口調で凪に話しかけると、ものの1分で凪の頭が前後にスイングし始めた。(いわゆる、トランス状態ってやつ?催眠術ってホンマにあるんや…。どうか、旨く、凪君の心の傷が癒えますように!先生、お願いします!)蛍は祈った。
術が進むにつれて、凪の口から、一昨日のホテルで受けた仕打ちに対する恨みよりも、蛍から「嫌われてしまうのではないか」と言う意識が強いことが語られた。「僕は汚れてしまい、蛍にふさわしくない」とか「蛍の姉と関係を持ったことで今後、「しこり」が残るのではないか」といった潜在意識が前面に表れた。トランス状態の中で語られた「蛍への憧れ・尊敬・愛情」の言葉は稚拙ではあるがストレートなものであり、聞いている蛍は、「嘘をついて凪を縛ろうとした自分」を恥じた。
凪の口から、「2日前に戻って、今まで通りの蛍との関係に戻りたい。」との言葉が出たところで、心療内科は、
「凪さんの言う嫌な思い出は、現実にはなかった夢の世界の話ですよ。私が5つ数えたら、そんなことは無かった世界に戻ります。楽しいことを想像してください。では、1、2、3、4、5。はいっ!」
と言い切ると手を叩いた。
凪が目を開けると、浴衣の股間が盛り上がり、捲れた浴衣から紺色のトランクスが顔を出していた。凪は慌てて、両手で浴衣の裾をなおし、真っ赤になった。
「すみません。楽しいことを想像してって聞こえたんで、蛍さんのことを考えてたら…。決して「H」なことを想像してたわけじゃないんですけど…。」
「もう、大丈夫みたいね。じゃあ、蛍さん、頑張ってね!」
と言い残し、心療内科医の女性は部屋を出て行った。
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