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第33話「再会」
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第33話「再会」
午後3時20分、蛍はマイバッハをいつもの京阪電車の駅前のロータリーに止めて凪を待っていた。(あぁ、動悸が収まらへん。いったいどんな話になるんやろか。凪君がどんな顔して来るんか、想像できへん…。いきなり、「別れましょう」って言われたら、どうしたらええんやろか。私泣いてしまうやろうから、お店じゃなくて、車の中で話し始める方がええかな…。)
蛍がハンドルに顔を埋め考え込んでいると、コンコンコンと窓が叩かれた。凪が来たのかと思って顔を上げた。
「すみません、ここは長時間の駐車はご遠慮いただいてるんですけどねぇ。」
と警察官がしかめっ面で覗き込んでいるのが視界に入った。
「あっ、人と待ち合わせで、もう着くところなんです。」
と言い訳をしているところに、凪が到着した。
警察官を制して、凪を助手席に乗せると、蛍はマイバッハを走らせた。黙っている凪に、蛍が尋ねた。
「凪君、今日のアルバイトは何時からなん?」
「あの、今日から3日間は休みを取りました。あと、しばらく家にも帰りたくないんです。昨日、母と喧嘩して、家出同然で出てきちゃってるんで…、よかったら、しばらくの間、お世話になれないですか…?ご迷惑なら、結構です。その時は、京橋のネットカフェででも過ごすつもりですんで…。」
控えめに答える凪に対して、蛍は涙が溢れ景色が霞んだ。前方の視界が確保できず、やむを得ず、ファミレスの駐車場に車を滑り込ませた。
「な、凪君、私のところに来てくれるの…?」
泣きながら凪に尋ねると、凪ははにかみながら
「もう、螢さんのとこしか行けるとこもないんで…、だ、だめですか?」
「ううん、ダメなはずないじゃない。わ、私、凪君に嫌われたって思いこんでたから…。」
「なんで、僕が螢さんを嫌う理由があるって言うんですか。僕こそ、「汚れた」僕のことを嫌いになられてるんじゃないかって、昨日一晩中泣き明かしましたよ。」
と言い、ふたりして泣きながら笑った。
食事を終わり、出てきた客がけげんな顔をして、ベンツの中を覗き込みながら自分の車に乗り込んで、出て行った。
「それにしても、家出同然ってどういうこと?私との事でお母さんともめたん?」
螢が小さな声で問いかけた。凪は、申し訳なさそうに昨晩の帰宅後の話を順にしていった。
副島が言っていたように、碧は弁護士を入れ、凪の家に早速「示談」の申し入れに来て、昨日のことが全て母親に知られることになったとの事だった。その経緯の説明の一環として、蛍との付き合いのことも話さざるを得ず、母親は、碧に対してだけではなく蛍に対しても激怒したという。
「11歳も上の破廉恥な女とそんな関係になるから、こんな事件に巻き込まれるのよ!」と一方的に凪に対し、蛍のことも攻撃してきた。「今すぐそんな女とは別れなさい!」の一点張りに対し、訪問してきた弁護士をそっちのけで親子喧嘩が始まった。
凪が、うっかり「事故」の件を口にしてしまったことで、母親の感情は、抑えが利かなくなり、「私自ら、その女に話をつけるから、今、この場で電話をしなさい!」と言われ、自分の部屋に立てこもっていたとの事だった。うっかり、リビングにスマホの充電器と予備の充電用バッテリーを置いてしまっていたため、昨晩、「母との喧嘩の件」を蛍にラインを入れた後、すぐにバッテリーが切れてしまい、その後のメッセージは、今朝、学校で友人に充電させてもらうまで、読めていなかったからだということだった。
ほっとして、涙腺がゆるんで涙が止まらなくなった蛍に
「どうして、螢さんが泣くんですか?何度も言いますけど、僕が螢さんを嫌うはずなんかないじゃないですか。お願いですから、泣き止んでください。本当に、お願いします。」
とおろおろしながら凪が慰めた。(あぁ、そういうことがあったんや。ただ、碧姉ちゃんの弁護士が来たってことは、私のマンションにも来る可能性があるってことや。凪君を巻き込んで、泥沼の話し合いになることは避けたいし…。あっ、せや!)と思いつくことがあり、
「凪君、家出って言うてたけど、そのバッグって着替えとか入れてきてんの?アルバイトは3日間休みって言ってたけど、学校は行かなあかんやろ?」
と尋ねた。
「はい、とりあえず、下着とシャツや靴下は3日分は放り込んできています。学校は、明日の金曜日は休んでもいい授業だけですし、月曜日以降も状況によってはバイトも授業もどうするのか考えます。
妹には、しばらく帰らないかもしれない旨は伝えてますし、買い物も行かなくていいくらいの食材在庫はありますので、螢さんのマンションに匿ってもらえませんか?」
「うん、それも考えたんやけど、うちのバカ姉ちゃんの弁護士が来たってことは、私のマンションもお母さんに知れてしまうこともあり得るんよ。
もし、凪くんさえよかったら、このままふたりで旅行でも行っちゃおうか?偶然やねんけど、今日から土日挟んでの休みは会社からオッケーもろてるんよ。どうかな?」
「えっ、螢さんと旅行できちゃうんですか?」
午後3時20分、蛍はマイバッハをいつもの京阪電車の駅前のロータリーに止めて凪を待っていた。(あぁ、動悸が収まらへん。いったいどんな話になるんやろか。凪君がどんな顔して来るんか、想像できへん…。いきなり、「別れましょう」って言われたら、どうしたらええんやろか。私泣いてしまうやろうから、お店じゃなくて、車の中で話し始める方がええかな…。)
蛍がハンドルに顔を埋め考え込んでいると、コンコンコンと窓が叩かれた。凪が来たのかと思って顔を上げた。
「すみません、ここは長時間の駐車はご遠慮いただいてるんですけどねぇ。」
と警察官がしかめっ面で覗き込んでいるのが視界に入った。
「あっ、人と待ち合わせで、もう着くところなんです。」
と言い訳をしているところに、凪が到着した。
警察官を制して、凪を助手席に乗せると、蛍はマイバッハを走らせた。黙っている凪に、蛍が尋ねた。
「凪君、今日のアルバイトは何時からなん?」
「あの、今日から3日間は休みを取りました。あと、しばらく家にも帰りたくないんです。昨日、母と喧嘩して、家出同然で出てきちゃってるんで…、よかったら、しばらくの間、お世話になれないですか…?ご迷惑なら、結構です。その時は、京橋のネットカフェででも過ごすつもりですんで…。」
控えめに答える凪に対して、蛍は涙が溢れ景色が霞んだ。前方の視界が確保できず、やむを得ず、ファミレスの駐車場に車を滑り込ませた。
「な、凪君、私のところに来てくれるの…?」
泣きながら凪に尋ねると、凪ははにかみながら
「もう、螢さんのとこしか行けるとこもないんで…、だ、だめですか?」
「ううん、ダメなはずないじゃない。わ、私、凪君に嫌われたって思いこんでたから…。」
「なんで、僕が螢さんを嫌う理由があるって言うんですか。僕こそ、「汚れた」僕のことを嫌いになられてるんじゃないかって、昨日一晩中泣き明かしましたよ。」
と言い、ふたりして泣きながら笑った。
食事を終わり、出てきた客がけげんな顔をして、ベンツの中を覗き込みながら自分の車に乗り込んで、出て行った。
「それにしても、家出同然ってどういうこと?私との事でお母さんともめたん?」
螢が小さな声で問いかけた。凪は、申し訳なさそうに昨晩の帰宅後の話を順にしていった。
副島が言っていたように、碧は弁護士を入れ、凪の家に早速「示談」の申し入れに来て、昨日のことが全て母親に知られることになったとの事だった。その経緯の説明の一環として、蛍との付き合いのことも話さざるを得ず、母親は、碧に対してだけではなく蛍に対しても激怒したという。
「11歳も上の破廉恥な女とそんな関係になるから、こんな事件に巻き込まれるのよ!」と一方的に凪に対し、蛍のことも攻撃してきた。「今すぐそんな女とは別れなさい!」の一点張りに対し、訪問してきた弁護士をそっちのけで親子喧嘩が始まった。
凪が、うっかり「事故」の件を口にしてしまったことで、母親の感情は、抑えが利かなくなり、「私自ら、その女に話をつけるから、今、この場で電話をしなさい!」と言われ、自分の部屋に立てこもっていたとの事だった。うっかり、リビングにスマホの充電器と予備の充電用バッテリーを置いてしまっていたため、昨晩、「母との喧嘩の件」を蛍にラインを入れた後、すぐにバッテリーが切れてしまい、その後のメッセージは、今朝、学校で友人に充電させてもらうまで、読めていなかったからだということだった。
ほっとして、涙腺がゆるんで涙が止まらなくなった蛍に
「どうして、螢さんが泣くんですか?何度も言いますけど、僕が螢さんを嫌うはずなんかないじゃないですか。お願いですから、泣き止んでください。本当に、お願いします。」
とおろおろしながら凪が慰めた。(あぁ、そういうことがあったんや。ただ、碧姉ちゃんの弁護士が来たってことは、私のマンションにも来る可能性があるってことや。凪君を巻き込んで、泥沼の話し合いになることは避けたいし…。あっ、せや!)と思いつくことがあり、
「凪君、家出って言うてたけど、そのバッグって着替えとか入れてきてんの?アルバイトは3日間休みって言ってたけど、学校は行かなあかんやろ?」
と尋ねた。
「はい、とりあえず、下着とシャツや靴下は3日分は放り込んできています。学校は、明日の金曜日は休んでもいい授業だけですし、月曜日以降も状況によってはバイトも授業もどうするのか考えます。
妹には、しばらく帰らないかもしれない旨は伝えてますし、買い物も行かなくていいくらいの食材在庫はありますので、螢さんのマンションに匿ってもらえませんか?」
「うん、それも考えたんやけど、うちのバカ姉ちゃんの弁護士が来たってことは、私のマンションもお母さんに知れてしまうこともあり得るんよ。
もし、凪くんさえよかったら、このままふたりで旅行でも行っちゃおうか?偶然やねんけど、今日から土日挟んでの休みは会社からオッケーもろてるんよ。どうかな?」
「えっ、螢さんと旅行できちゃうんですか?」
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