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駿と光一の高校生時代その2
そして二人は親友に/朝日光一
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懐かしいなと振り返る。初めて駿のシュートを見た時の衝撃は今でもはっきり覚えてる。あんなに凄いやつだったんだって居ても立っても居られなくてすぐに声をかけたんだ。そういえばあれからもう半年が経ったのか。
「あの時の駿めっちゃツンツンしてたよな」
「言うなよ、恥ずかしい……」
「俺に友達はいらない! って」
「あー! 黒歴史すぎる!!!」
駿は上半身を起こし頭を抱えて叫ぶ。それを見ておれは腹を抱えて笑う。
「そう思うと駿って結構変わったんだなー」
「誰かさんのおかげでな」
「へへっ」
駿はおれの顔をじっと見つめると正面を向く。その横顔は真剣な表情で、空気が変わるのを感じる。
「……俺には今まで本音で話せる友達がいなかった。悩みとか相談できるような心を許せる人がいなくて孤独だった」
「お、おお。急に重いな」
唐突に真面目なトーンで語りだす駿に思わずおれも体を起こして姿勢を正す。
「まあ聞けよ。そんな時にあるヤツと出会ったんだ。ちっこくてうろちょろと付け回ってバカみたいに明るくてうるさい男だ」
「それおれだろ! ほぼ悪口だし!」
「最初は鬱陶しかったけど……その底抜けに眩しい男に俺はだんだん惹かれて、憧れていった。救われたんだ」
「そ、それほどでも……」
なんだか照れくさくて頭をかく。おれの性格は大体枕詞に「アホ」か「バカ」が付く。過ぎたるは及ばざるが如しの通り、クラスメイトとしての距離感なら賑やかで人気者になるのだろうが親友とか恋人とか近しい存在になればなるほどうざったく思われがちなのだ。だから毎度長続きしないのだろう。
そんなおれに憧れると言ってもらえるのは結構、かなり嬉しい。
「でも人間ってそんな単純じゃないだろ。明るいだけの人間なんていない。どんなに明るいやつだって影はある。辛い思いをしたら悲しいし泣きたくなる」
「……」
「俺はこれまで光一の明るさに何度も頼って助けられてきたけど、自分に都合の良い存在だと思っちゃいけない。ちゃんとお前を見て、辛いときは話を聞いて、頼ってもらえるような対等な友人になりたい」
「駿……」
「どんな時でも明るい朝日光一じゃ疲れるだろ。愚痴でもなんでも、本音で話そうぜ」
おれが我慢してたなんて今まで考えたこともなかった。いつも前向きで思ったことは素直に口に出すし頭より先に体が動くし、ストレスとは無縁の性格だと思ってた。でもそういう性格や周りの「こいつは明るいやつだから何を言っても大丈夫」っていう扱いに慣れて、おれは無意識の内にネガティブなことは表に出さずに笑って流そうとする癖がついていたのかもしれない。
彼女と別れた後も学校ではいつも通り明るく振る舞ってた。引き摺るのは格好悪いしその方がおれらしいからって何も疑ってなかったけど、きっと無理してたんだろう。
「……おれも強がってたのかなぁ」
「強がるっていうか、無駄に光ってる?」
「なんじゃそりゃ」
「すぐに充電切れるってこと」
「じゃあ、駿がおれの充電器だ」
「なんじゃそりゃ」
おかしな会話に二人してバカみたいに笑った。笑ってたらなんだかだんだん視界が滲んできて、よくわからないから笑い泣きということにした。
気持ちが落ち着いたおれは顔を拭いて大きく息を吐く。その間駿は何も言わずにひたすら遠くを眺めていた。
「駿ってさ、おれがバカみたいに騒いでもそれに乗って一緒にはしゃいだりしないよな」
「ああ」
「……だからかな」
「ん?」
「一緒に騒ぐ友達もいたらそりゃあ楽しいけどさ、でもおれはなんだかんだ駿の隣りが一番居心地良いよ」
「……そうか」
駿はそう呟くだけで相変わらず正面を見つめていたけれど、僅かに口角が上がっているのに気付いておれは嬉しくなる。
「あと駿は対等になりたいとか言ってたけどさ、おれからしたらとっくに対等だし、頼りになってるぜ!」
「隣りにいるだけなのにか?」
「うん。今日はっきり理解した。おれが駿にいっぱい助けられてたってこと」
納得のいくようないかないような、微妙な表情を浮かべながらも駿はどういたしましてと返す。
「結局愚痴はないのかよ」
「してもいいけど、もう遅いし帰って電話で話そうぜ」
あんまり帰りが遅いと親に心配されそうだ。駿も同意すると立ち上がって堤防を登る。
「今夜は寝かさないぜ」
「どうせお前9時には寝るだろ」
「おれのこと小学生だと思ってる?」
「思ってる」
「おい!」
駿のバッグに膝蹴りを喰らわせると全然痛くなさそうな声で「いてっ」と返す。
それからおれたちは晩ごはんの話や明日の朝練の話やもうそろそろの文化祭の話など、全く関係のない話題で盛り上がりながら帰路についた。なんてことない他愛ない会話が一番楽しかった。別れ際、明日も変わらず会えるのに少し寂しくて、そう思うのもまた面白くて、結局笑って「また明日」と手を振った。
「後で電話すんだから明日じゃないだろ」
「あっそっか」
***
***
「光一! ちょっと!」
「んあっ……?」
母さんに体を揺さぶられて意識を取り戻す。どうやらいつの間にか寝落ちしていたらしい。
「全く髪も乾かさずに寝るんじゃないよ! 風邪引くよ!」
「もう乾いたから平気……むにゃむにゃ……」
「普通に濡れてるから!起きなさいっ」
「んん……」
眠気MAXの体を無理矢理起こされて仕方なくまぶたを開けて欠伸をかく。
「あとこれ、電話鳴ってたよ」
「電話……?」
「ちゃんと返事しなさいね」
母さんはそう告げると部屋を去った。着信履歴を見ると駿からで、なんだか既視感を覚えた。そういえばなんか夢を見てた気がするけど……。何も思い出せずとりあえず電話をかけ直すとすぐにマイク越しに聞き慣れた音声が響いた。
『もしもし』
「駿? ごめん、寝てた」
『早いな、まだ9時だぞ』
「ベッド潜ったら速攻落ちた」
『やっぱ小学生だな』
「なんだと……ん?」
『?』
「あーなんでもない。何か用だった?」
またしても謎の既視感に襲われたが寝ぼけているのだろうと気にせずに本題に入る。
『いや特に用はなくて……なんとなく話したくなって……』
「そっか」
『わざわざ起こして悪いな』
「いや、電話で起きたわけじゃないからいいよ」
『そうなのか。じゃあ少し付き合ってくれ』
「……あっ」
『あ?』
ようやく夢の内容と既視感の正体を思い出した。あははと突然おれが笑うと駿は困惑したような声をあげる。
駿はあの時「対等になりたい」とおれに言った。その言葉の本当の意味に今やっと気付けた。
「駿」
『何?』
「おれたち、これでやっと対等だな」
『え?』
目を瞑ってあの日のことを思い出す。おれにとってはあの時から駿はおれの親友だ。でも駿にとってはそれは今日からなのだろう。全く随分遠回りしたもんだよ。心なしか声まで遠く聞こえるし……ん?
『光一?』
「すー……」
あれ? おかしいな……意識が……。
『おい』
「ぐー……」
『まさか……』
「むにゃむにゃ……すぴー」
『寝てる……!』
翌日おれは母さんにまた叱られ駿には小学生扱いをされ散々な一日を送るはめとなった。
「あの時の駿めっちゃツンツンしてたよな」
「言うなよ、恥ずかしい……」
「俺に友達はいらない! って」
「あー! 黒歴史すぎる!!!」
駿は上半身を起こし頭を抱えて叫ぶ。それを見ておれは腹を抱えて笑う。
「そう思うと駿って結構変わったんだなー」
「誰かさんのおかげでな」
「へへっ」
駿はおれの顔をじっと見つめると正面を向く。その横顔は真剣な表情で、空気が変わるのを感じる。
「……俺には今まで本音で話せる友達がいなかった。悩みとか相談できるような心を許せる人がいなくて孤独だった」
「お、おお。急に重いな」
唐突に真面目なトーンで語りだす駿に思わずおれも体を起こして姿勢を正す。
「まあ聞けよ。そんな時にあるヤツと出会ったんだ。ちっこくてうろちょろと付け回ってバカみたいに明るくてうるさい男だ」
「それおれだろ! ほぼ悪口だし!」
「最初は鬱陶しかったけど……その底抜けに眩しい男に俺はだんだん惹かれて、憧れていった。救われたんだ」
「そ、それほどでも……」
なんだか照れくさくて頭をかく。おれの性格は大体枕詞に「アホ」か「バカ」が付く。過ぎたるは及ばざるが如しの通り、クラスメイトとしての距離感なら賑やかで人気者になるのだろうが親友とか恋人とか近しい存在になればなるほどうざったく思われがちなのだ。だから毎度長続きしないのだろう。
そんなおれに憧れると言ってもらえるのは結構、かなり嬉しい。
「でも人間ってそんな単純じゃないだろ。明るいだけの人間なんていない。どんなに明るいやつだって影はある。辛い思いをしたら悲しいし泣きたくなる」
「……」
「俺はこれまで光一の明るさに何度も頼って助けられてきたけど、自分に都合の良い存在だと思っちゃいけない。ちゃんとお前を見て、辛いときは話を聞いて、頼ってもらえるような対等な友人になりたい」
「駿……」
「どんな時でも明るい朝日光一じゃ疲れるだろ。愚痴でもなんでも、本音で話そうぜ」
おれが我慢してたなんて今まで考えたこともなかった。いつも前向きで思ったことは素直に口に出すし頭より先に体が動くし、ストレスとは無縁の性格だと思ってた。でもそういう性格や周りの「こいつは明るいやつだから何を言っても大丈夫」っていう扱いに慣れて、おれは無意識の内にネガティブなことは表に出さずに笑って流そうとする癖がついていたのかもしれない。
彼女と別れた後も学校ではいつも通り明るく振る舞ってた。引き摺るのは格好悪いしその方がおれらしいからって何も疑ってなかったけど、きっと無理してたんだろう。
「……おれも強がってたのかなぁ」
「強がるっていうか、無駄に光ってる?」
「なんじゃそりゃ」
「すぐに充電切れるってこと」
「じゃあ、駿がおれの充電器だ」
「なんじゃそりゃ」
おかしな会話に二人してバカみたいに笑った。笑ってたらなんだかだんだん視界が滲んできて、よくわからないから笑い泣きということにした。
気持ちが落ち着いたおれは顔を拭いて大きく息を吐く。その間駿は何も言わずにひたすら遠くを眺めていた。
「駿ってさ、おれがバカみたいに騒いでもそれに乗って一緒にはしゃいだりしないよな」
「ああ」
「……だからかな」
「ん?」
「一緒に騒ぐ友達もいたらそりゃあ楽しいけどさ、でもおれはなんだかんだ駿の隣りが一番居心地良いよ」
「……そうか」
駿はそう呟くだけで相変わらず正面を見つめていたけれど、僅かに口角が上がっているのに気付いておれは嬉しくなる。
「あと駿は対等になりたいとか言ってたけどさ、おれからしたらとっくに対等だし、頼りになってるぜ!」
「隣りにいるだけなのにか?」
「うん。今日はっきり理解した。おれが駿にいっぱい助けられてたってこと」
納得のいくようないかないような、微妙な表情を浮かべながらも駿はどういたしましてと返す。
「結局愚痴はないのかよ」
「してもいいけど、もう遅いし帰って電話で話そうぜ」
あんまり帰りが遅いと親に心配されそうだ。駿も同意すると立ち上がって堤防を登る。
「今夜は寝かさないぜ」
「どうせお前9時には寝るだろ」
「おれのこと小学生だと思ってる?」
「思ってる」
「おい!」
駿のバッグに膝蹴りを喰らわせると全然痛くなさそうな声で「いてっ」と返す。
それからおれたちは晩ごはんの話や明日の朝練の話やもうそろそろの文化祭の話など、全く関係のない話題で盛り上がりながら帰路についた。なんてことない他愛ない会話が一番楽しかった。別れ際、明日も変わらず会えるのに少し寂しくて、そう思うのもまた面白くて、結局笑って「また明日」と手を振った。
「後で電話すんだから明日じゃないだろ」
「あっそっか」
***
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「光一! ちょっと!」
「んあっ……?」
母さんに体を揺さぶられて意識を取り戻す。どうやらいつの間にか寝落ちしていたらしい。
「全く髪も乾かさずに寝るんじゃないよ! 風邪引くよ!」
「もう乾いたから平気……むにゃむにゃ……」
「普通に濡れてるから!起きなさいっ」
「んん……」
眠気MAXの体を無理矢理起こされて仕方なくまぶたを開けて欠伸をかく。
「あとこれ、電話鳴ってたよ」
「電話……?」
「ちゃんと返事しなさいね」
母さんはそう告げると部屋を去った。着信履歴を見ると駿からで、なんだか既視感を覚えた。そういえばなんか夢を見てた気がするけど……。何も思い出せずとりあえず電話をかけ直すとすぐにマイク越しに聞き慣れた音声が響いた。
『もしもし』
「駿? ごめん、寝てた」
『早いな、まだ9時だぞ』
「ベッド潜ったら速攻落ちた」
『やっぱ小学生だな』
「なんだと……ん?」
『?』
「あーなんでもない。何か用だった?」
またしても謎の既視感に襲われたが寝ぼけているのだろうと気にせずに本題に入る。
『いや特に用はなくて……なんとなく話したくなって……』
「そっか」
『わざわざ起こして悪いな』
「いや、電話で起きたわけじゃないからいいよ」
『そうなのか。じゃあ少し付き合ってくれ』
「……あっ」
『あ?』
ようやく夢の内容と既視感の正体を思い出した。あははと突然おれが笑うと駿は困惑したような声をあげる。
駿はあの時「対等になりたい」とおれに言った。その言葉の本当の意味に今やっと気付けた。
「駿」
『何?』
「おれたち、これでやっと対等だな」
『え?』
目を瞑ってあの日のことを思い出す。おれにとってはあの時から駿はおれの親友だ。でも駿にとってはそれは今日からなのだろう。全く随分遠回りしたもんだよ。心なしか声まで遠く聞こえるし……ん?
『光一?』
「すー……」
あれ? おかしいな……意識が……。
『おい』
「ぐー……」
『まさか……』
「むにゃむにゃ……すぴー」
『寝てる……!』
翌日おれは母さんにまた叱られ駿には小学生扱いをされ散々な一日を送るはめとなった。
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