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戦闘経験ゼロ

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「ふぅむ……私も長いこと師を務めて参ったが、二回りも歳の違う幼子に本気で戦えと言われるとはな」
 40近いおじさん剣士との模擬戦をさせられることになったローマ。

 リズが父に『完膚なきまでに叩きのめして生意気な性格を矯正してやろう』とでも言ったのではないだろうか?
 そうとでも考えなくては、街で有数のAランク冒険者が本気で戦うことなどあり得ないだろう。

「ま、まぁ良いよ……
 僕だって、別に怠けてたわけじゃないからさ」
 強がりを言ってみせるが、正直言って勝ち目などほぼほぼ皆無。

 試合開始の合図を受けて、まずは魔剣炎帝の曲刀フランバリュザを大きく振りかぶる。
 魔剣を扱うために小さな頃からコツコツと魔力の鍛錬は欠かしていないのだから、そのくらいはお手のものである。

「ローマのやつ、まさか魔剣を使いこなせるのか?!
 儂はてっきり収集癖が治らんだけかと思っておったわ!」
 そりゃあ何も知らないはずの幼児の頃から毎日コツコツと魔力を使い切って、最大量を増やし続けていたから。
 同じ歳で魔剣をマトモに使える者など世界中に数人もいないだろう。

「ほう、威勢のいいだけあって、やりおるわ。
 ではこちらからも参ろうか!」
 ブンと大剣を振る有名冒険者ポルティエッカ。
 その可愛いらしい名前とは裏腹に、豪剣使いとも呼ばれるほどの剛力っぷり。

 風魔剣サイファーを操り、込めた魔力の分だけ力強く放たれる真空波がローマを襲う。
「いやいや! そこまでやらんでもいいんじゃないか?!
 別に我が子を殺せと言うてるのではないんだぞ!」
 焦る父だが、ここは任せて欲しい。
 防御ならば負けるつもりはさらさら無い。

玄武の指輪アミュレット!」
 一口2000ゴールドの神話ガチャで手に入れたS賞景品。
 流石に持っているのもバレたくなくて隠し持っていた秘密兵器。
 こちらも込めた魔力に比例して強力なバリアを作り出す秘宝級の指輪である。

 さすがにリズもそれには驚いたようである。
「坊っちゃん?! そんな物まで、いつの間に……」
「なぁリズよ……あれは盗品ではないのだよな?」
「おそらく。いつものように街のガチャで手に入れたものかと……」
「な、なんという……我が子の末恐ろしさよ……」

 外野はなにかと騒がしいが、防御一辺倒で敵う相手ではないことはよくわかる。
「凄いねポルティエッカさん! じゃあこっちはどうかな?
 闇蛇龍の大鎌ヒュヅァンザよ、刈りとれ!」
 闇属性は幻影魔法とも。
 実態はないが、外傷ではなく心にダメージを与える使い勝手の悪い武器だ。

 見た目はチェーンの腕輪ということもあり、万が一のことを考えて常に身につけていた逸品。

『クォォォンンン……』
 影が弧を描きポルティエッカの胸を切り裂く。
 ズガン、と大きな音は聞こえてももちろん怪我など一切ない。
 効果は戦意喪失がメインなのだが、やはりAランク冒険者ともなると簡単にはやられてくれないようだ。

「ふふ……まさかここまで武に長けておるとは……
 では私も出し惜しみはやめようではないか!
 至上の光剣レーヴァテイン!」

 そもそもポルティエッカの適性は光属性なのだ。
 だから光属性の魔剣を使用するまでは本気ではないということ。
 そんなことはわかっていたのだが、勝てるかもしれないなんて一瞬の慢心が勝負の結果を導いたのだろう。

「あ……アミュレットが負けるとか……」
 バリアは光の剣によって呆気なく打ち砕かれた。
 その時点ですでにローマの戦意の方が無くなってしまったのだ。
 バリアを張るために全ての魔力を注ぎ込み、今その全てが弾け飛んだ。

「ちぇっ……あれだけ自信満々に言ったのに、リズに笑われちゃうなぁ……」
 ローマは泣いた。
 世界は自分が思った以上に広いのかもしれない。
 強い魔剣と多くの魔力があれば、なんでもできると思っていた。

 ……翌朝。
「お前はもう好きに生きるが良い。
 街のことも考えていないわけではないのだろう?」
「え?! お父様、突然なぜですか?」
「……ポルティエッカ殿に言われてな。
 お前を籠の中に閉じ込めるには我が国の損失でしかない、とな」

 その隣ではリズが不満げな表情を見せていた。
 かくして、ローマは冒険者になることを許された。
 しかし、それでも全くガチャ欲は消えてはいないのである。


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