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19話
しおりを挟む「なかなか良い情報をくれる冒険者だったじゃねぇか」
「しかしブータ様、あの者たちは私に剣を向けたのですよっ!」
「うるせぇ! どうせ話も聞かずに先に手を出したのはテメェだろうが!」
ブータは傭兵の性格をよく知っていた。
そして、その通りだった傭兵は何も言い返せないでいる。
具体的な日時は知らされなかったが、遅くとも二日後には500近い数が入るらしいのだ。
それも買い占めて、騒ぎになったところで一気に捌いてやろう。
一枚3000Gで売っても、ざっと150万Gの利益。
品薄だとなれば、どいつもこいつも買い占めに動くはずだ。
そんなことを考えていたブータ息子なものだから、二日後には予想通りに手下たちは荷馬車を待ち伏せていたそうだ。
「どうして売れねぇんだ!
市場はオークの皮が不足してるんじゃねぇのかよっ!」
タイミングを見計らって、生産職の者にはシルクをオークの皮と交換してもらった。
豚息子の考えてそうなことを話したら、意外とみんな協力的になってくれるもので、研究用のオークの皮はすぐに余剰在庫となったのだ。
「どうなってるんだジジイ!」
豚息子がギルドに直接やってきたのだから驚きだった。
カウンターに詰め寄るが、構わず通常業務を行う親父さん。
「さぁてねぇ?
そういや最近、市場では婦人用の服が人気だと聞いているが。
なんでもシルクという生地を使って肌触りがとても良いらしいじゃないか」
『ほれ、そこのお嬢ちゃんが着ているやつだよ』なんて言って親父さんが僕を指差す。
誰が『お嬢ちゃん』だよ、誰が!
表情を引きつらせながら様子を眺めていると、豚息子が近付いて僕の服を触る。
「うぬぬ……確かに最高の肌触りだ……
うん? それによく見れば、なかなか可愛らしいお嬢ちゃんではないか……」
豚息子のその言葉に、僕は背筋に冷たいものが走る。
「どうだい? 私の屋敷で働く気は無いかい?
もちろん、夜はしっかりと可愛がってあげるからね」
もう本当に勘弁してほしい……
僕の見た目って10歳にも満たないはずだよね?
そりゃあゲーム内では可愛い少年かもしれないけれどさ。
というか、本当にゲームのイベントなのか?
リアルな子供には絶対に販売できないやつじゃないか。
「お……お金には困ってないので遠慮いたします……」
「ふむ、そうか……
まぁ高級な衣装に身を包んでいるのだ。
もしやどこぞの貴族の令嬢か?」
「そんなんじゃないですけど、ごめんなさいっ」
僕はさっと立ち上がって外に出る。
男とバラしても良かったのだけど、先日屋敷を訪れた冒険者に混じった少年だと、そうは思われたくなかったのだ。
その点、女物の衣装を着ただけで性別を間違えられるのだから都合は良かったとも言える。
【スノウはスキル:変装1を習得】
シルクの製造方法は、まだよく知られていない世界だった。
おかげで市場は独占し放題。
そんなことをするつもりは無かったから、ギルド内の製造部門には安価で卸してあげた。
そんな部門があるのかって?
そりゃあモノを作って売るための団体はある。
冒険者たちと分けるより、一つの建物に集約した方が色々と都合が良かったのだろう。
ちゃんとオークの皮の件もギルドから通達はあったはずだが、そこに加入していない豚息子が知らなくても仕方ない。
数日して全く騒ぎにならなくなると、豚息子は在庫を売り払いに来た。
当然ギルド価格でしか買い取らないし、まぁ半額くらいにはなったと思う。
「今度からは常に余剰在庫を持っておくよ」
「うん、暮らしに必須なら少しは置いておいた方がいいかもね。
さすがに少しは懲りただろうけど、次もやらないとは限らないし」
ギルドで親父さんと会話をしている。
街の外に出なくなって一週間は経っただろうか?
「街の中でも大人しくできないんなら、もう好きにしていいわよ。
ハァ……私が間違っているのかなぁ……?」
アイズはカウンターで項垂れながらため息を吐く。
僕はアイズから『見た目は大人しそうなお嬢様なのに……』なんて言われていた。
そう、意外と女装が気に入ってしまったのだ。
だって、防御力が高いのだし、みんないつも以上に優しくしてくれるのだもの。
「スノウちゃんいるー?
美味しいケーキを焼かせたんだけど、屋敷に遊びに来ないかしら?」
あの豚息子が、僕目当てにギルドに来ることがなければ……ではあるが。
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