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1話
しおりを挟む今日は何日だったろうか?
外は騒がしく、学校が休みに入ったことは容易に想像ができる。
そこから考えるに、三月も終わりの新学期間近といったところだろう。
世間はマスク不足だ感染者だと騒ぎになっている。
一日中部屋にいる俺には、全く関係のない話ではあるのだが……
いや、親は株もやっているし、経済が不安になるのは俺としてもよろしくはない状況かもしれないな。
親のおかげで食べていけるのだから、せめて俺のために株価は安定していてほしいものだ。
ピンポーン。
「すんませーん、何方かいらっしゃいますかぁー?」
玄関から声がする。
こんな日中に来たって親は仕事に決まってるじゃないか。
このご時世、昼間の来客に対応できるなど、専業主婦か自営業……もしくは俺のようなニートくらいではないだろうか?
「あっ、良かったっス。
これ荷物なんで受け取りお願いしゃす」
玄関先にドンと置かれた大きな箱。
別に構わないのだが、お客様の荷物を地べたに置くとか、ちゃんと教育を受けているのだろうか?
『いやー、めちゃめちゃ思いんスよコレ』なんて言って、悪びれる様子もない配達員。
誰だよ、こんな荷物を頼んだのは?
妹の巫樹(みき)か? それとも親のどちらかなのか?
「ったく、時間指定くらいしておけよな……って」
伝票を見た俺は驚いた。
なにせそこには、まごうことなき俺のフルネーム『松風 神』の名が書いてあったのだから。
「いやいや、コレ間違いでしょ……」
ネットで注文したりしない、というわけではない。
俺だって欲しいものがあれば、ちょっとくらいならば親に黙って注文することもある。
こんな息の詰まりそうな部屋で、娯楽も無しに耐え続けるなど不可能だと思っているのだ、が……
だが、これは……ちょっとしたものではない。
「フルダイブ型⁈
んなもん買ったら何十万もするじゃねぇか!」
箱に書いてあった商品名を検索すると、そこには新作のゲーム名が表示されていた。
しかも発売はもう少し先だという。
聞いたこともないゲーム名に、最初は詐欺かという疑惑はあったが、だとすれば発売前に届くなど考えにくい。
「親父からのプレゼント……なわけがないな」
小さな頃から『ゲームは買わん』と言って、友達と遊ぶ機会を奪った父親なのだ。
今更俺にこんなものを買い与えるとは思えない。
とにかく玄関先に置いてあっても邪魔でしかない。
宛名が俺になっている以上、これを俺がどうしようが、文句は言われまい。
そう思うと、身体が勝手にその荷物を部屋に運び入れていた。
「ひぃっ……ふぅっ……」
なんだあの配達員は、馬鹿じゃないのか?
こんなにも重い荷物を玄関先で『はいどうぞ』だと?
俺はここ数年温存しておいた力を、否……普段から使ったこともないような力を振り絞って荷物を運んだ。
二十キロはゆうに超えている。
それでも頑張ってここまで運んだのは、正直言ってこのゲームに興味深々だからである。
だが、それと同時にちょっとした懸念もあった。
「フルダイブ型が発明されたのなんて、すっげぇ最近だぞ?
持ってる奴なんてそんなにいるのかよ?」
そう、プレイヤー人口の心配である。
いそいそと梱包を開けてみると、そこには一枚の手紙が入っていた。
『この度は当ゲーム、デイズフロント-オンラインの企画にご応募いただき、ありがとうございます。』
かたっ苦しい言葉が綴られていて、最後には『どうぞごゆっくりとゲームを楽しんでください』の言葉。
ここでまた何かが引っかかる。
なにに誰が応募した?
そんな覚えは無いし、当選……いや『当選した』という文言は、この文章には含まれていない。
まさか応募者全員サービスなのか?
切手をいくらいくら分貼り付けて送ってくださいっていうやつ。
そんな応募企画もあったような記憶が呼び起こされる。
「いやいや、何十万円分の切手だよ」
自分の考えに自分でツッコミを入れつつ、俺は考えるのをやめた。
当選したに決まっている。
そうでなければ、こんな発売前の高価なゲームを送りつけてくるはずがない。
誰が応募したかは知らないが、もし巫樹のやつが俺の名前を使ったとしても、知ったことではない。
早速中身を取り出してみると、やたらとゴツいアダプターとケーブルが出てくる。
フルダイブ中に電源が切れると、一時的に身体に影響が出る恐れがあります、なんて注意書きはいくらなんでも言い過ぎだろう。
だが、別の梱包には『タコ足配線や周囲に物を置かないよう十分に……』と。
更には本体にまで『注意書きを再度お読みいただきプレイしてください、また問題が発生した場合は……』と……
「わかったわかった。
はい読んだ読んだ、テレビのコードも抜いたし、ブレーカーが落ちる可能性は知ったこっちゃない」
ゲームを始めようという直前になって、周辺の環境を整えてからやるよう言ってきても困る。
俺はもうゲームをプレイする気分になってしまっているのだ。
少し散らかったままの部屋で、俺は電源を入れる。
ヘルメット型の本体は、横になった時のこともしっかり考えてあり、意外にも寝心地が良い。
いざ、ゲームを開始しよう。
『セットアップを開始しています。約 35 分後に完了いたします』
俺はすぐに本体を外して、部屋の掃除を始めるのだった……
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