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疲れと休息
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「一度隠れるわっ!」
右腕の痛みに堪えながらテスラは叫ぶ。
攻撃を受けたのではないが、あまりに硬く数の多いピアラビット相手に限界が近いのだ。
「大丈夫ですかっ?」
「少し休めばどうにかなるわよ。
それよりも、後少しだってのに……」
小部屋に逃げ込み、気休めの魔物避けの鈴を握りしめるシン。
通路の向こう側に見えたのはカラバリのウルルラビットが2匹だ。
シンは預かっているポーションを取り出すが、テスラは『ただの疲労に貴重なポーションを使うな』と言い受け取らない。
逆にシンに対して飲んでおけと言うのだ。
「いや僕はそんな……」
「いいから飲んでおけよ。
そんな震えた腕で魔物を倒せると思っているのか?」
先ほどから弾が核には当たらない。
それは狙いを定める時間がないこともあったが、何度も撃つうちに腕に力が入らなくなってしまうからである。
「……じゃあその言葉、そっくりそのまま返しますよ」
シンはもう一本の小瓶を取り出した。
1つは自分の口に、もう1つはテスラの手元に押し付ける。
「だから私は大丈夫だと……」
テスラが小瓶を返そうとするが、シンは構わず自分の分をグイと飲み干した。
「僕だって慣れない銃の反動で辛いですけど、それでも撃つことくらいはできます!
威力も変わりませんし、それでも素早く構えたりできないのは確かに迷惑になると思ったから飲んだんです」
じゃあテスラはどうなのかと。
疲れている状態で剣がまともに振れるわけがない。
むしろその方が危機に直結するだろうし、今は貴重なアイテムどうのよりもヴァル達の心配が先なのだ。
自身の状態を棚に上げて言うテスラに、疲れが出てきたシンは少しばかり苛立ってしまう。
それは自分がもっと上手くやれる可能性があるからでもあり、早く先へ進まなくてはという焦りからでもあった。
「幸い、魔物は寄って来ないみたいだな……」
結局は2人してポーションを飲んだ。
そしてしばらく小部屋の外を睨みながら構えていたが、とりあえずは身体は休めることができそうだった。
壁に寄りかかり、息を整える。
所詮は一介の冒険者と駆け出し。
物語の英雄のように、無尽蔵に動けるスタミナもなければドラゴンのような伝説の魔物を倒す力など持ってはいない。
そして防具も強化されているとはいえ、ウルルラビットの体当たりは、おそらく悶絶するほどの痛みがあるだろう。
息の乱れは落ち着いても、緊張と胸の鼓動は高まるばかり。
慎重に小部屋の外の様子を伺うが、やはりウルルラビットはそこにいて都合の良いようにはいきやしない。
「2匹……ともまだいるけど、いける?」
シンは弾を装填しながらテスラに問う。
「大丈夫。どうにかするわよ……
いっせいに近づいてきたら片方だけ吹っ飛ばしてやってちょうだい」
「わかったよテスラ、無理しないで」
「無理しなきゃやられちゃうわよ」
「ははっ、それもそうか」
全力で魔物を倒して突破する。
もしくは引き返して休息を挟むこともできるが、ポーションの数にも限りがあり無駄はできない。
テスラは小さく息を吐くと、しっかりと魔物の位置を見定めて走り出す。
「やぁぁぁ!!」
少し離れた2匹の魔物。
その手前にいるウルルラビットに刺突の一撃が入るが、核に届いたものの破壊には至らない。
キュッと小さく鳴くばかりの魔物の存在が、あまりに大きくあまりに果てしない。
人ならば簡単の絶命するほどの攻撃は、魔物相手には大した効果が感じられない。
「くそっ、またダメかっ!」
魔物には血があるわけではない。
テスラは思い切り魔物を蹴り、勢いのまま一気に剣を抜く。
血が出るわけでもなく、動きが止まることもない。
動物と違うそれが、実際にどれほどのダメージを与えられているのかもわからずに冒険者たちに不安も与えてくる。
「任せるよっ!」
身を翻して魔物から離れるテスラ。
「任せてっ!」
幸い2匹目はまだ近づいてこない。
シンは手前のウルルラビットに狙いを定め、指を引いた。
テスラの突いた傷口目掛けて弾が跳んでいく。
その大きな音に、もう1匹の魔物も気付いたようだ。
だが、1匹だけならばそう恐れることはない。
再びゆっくりと前へ向かうテスラの表情は、少しだけ緩むのだった。
右腕の痛みに堪えながらテスラは叫ぶ。
攻撃を受けたのではないが、あまりに硬く数の多いピアラビット相手に限界が近いのだ。
「大丈夫ですかっ?」
「少し休めばどうにかなるわよ。
それよりも、後少しだってのに……」
小部屋に逃げ込み、気休めの魔物避けの鈴を握りしめるシン。
通路の向こう側に見えたのはカラバリのウルルラビットが2匹だ。
シンは預かっているポーションを取り出すが、テスラは『ただの疲労に貴重なポーションを使うな』と言い受け取らない。
逆にシンに対して飲んでおけと言うのだ。
「いや僕はそんな……」
「いいから飲んでおけよ。
そんな震えた腕で魔物を倒せると思っているのか?」
先ほどから弾が核には当たらない。
それは狙いを定める時間がないこともあったが、何度も撃つうちに腕に力が入らなくなってしまうからである。
「……じゃあその言葉、そっくりそのまま返しますよ」
シンはもう一本の小瓶を取り出した。
1つは自分の口に、もう1つはテスラの手元に押し付ける。
「だから私は大丈夫だと……」
テスラが小瓶を返そうとするが、シンは構わず自分の分をグイと飲み干した。
「僕だって慣れない銃の反動で辛いですけど、それでも撃つことくらいはできます!
威力も変わりませんし、それでも素早く構えたりできないのは確かに迷惑になると思ったから飲んだんです」
じゃあテスラはどうなのかと。
疲れている状態で剣がまともに振れるわけがない。
むしろその方が危機に直結するだろうし、今は貴重なアイテムどうのよりもヴァル達の心配が先なのだ。
自身の状態を棚に上げて言うテスラに、疲れが出てきたシンは少しばかり苛立ってしまう。
それは自分がもっと上手くやれる可能性があるからでもあり、早く先へ進まなくてはという焦りからでもあった。
「幸い、魔物は寄って来ないみたいだな……」
結局は2人してポーションを飲んだ。
そしてしばらく小部屋の外を睨みながら構えていたが、とりあえずは身体は休めることができそうだった。
壁に寄りかかり、息を整える。
所詮は一介の冒険者と駆け出し。
物語の英雄のように、無尽蔵に動けるスタミナもなければドラゴンのような伝説の魔物を倒す力など持ってはいない。
そして防具も強化されているとはいえ、ウルルラビットの体当たりは、おそらく悶絶するほどの痛みがあるだろう。
息の乱れは落ち着いても、緊張と胸の鼓動は高まるばかり。
慎重に小部屋の外の様子を伺うが、やはりウルルラビットはそこにいて都合の良いようにはいきやしない。
「2匹……ともまだいるけど、いける?」
シンは弾を装填しながらテスラに問う。
「大丈夫。どうにかするわよ……
いっせいに近づいてきたら片方だけ吹っ飛ばしてやってちょうだい」
「わかったよテスラ、無理しないで」
「無理しなきゃやられちゃうわよ」
「ははっ、それもそうか」
全力で魔物を倒して突破する。
もしくは引き返して休息を挟むこともできるが、ポーションの数にも限りがあり無駄はできない。
テスラは小さく息を吐くと、しっかりと魔物の位置を見定めて走り出す。
「やぁぁぁ!!」
少し離れた2匹の魔物。
その手前にいるウルルラビットに刺突の一撃が入るが、核に届いたものの破壊には至らない。
キュッと小さく鳴くばかりの魔物の存在が、あまりに大きくあまりに果てしない。
人ならば簡単の絶命するほどの攻撃は、魔物相手には大した効果が感じられない。
「くそっ、またダメかっ!」
魔物には血があるわけではない。
テスラは思い切り魔物を蹴り、勢いのまま一気に剣を抜く。
血が出るわけでもなく、動きが止まることもない。
動物と違うそれが、実際にどれほどのダメージを与えられているのかもわからずに冒険者たちに不安も与えてくる。
「任せるよっ!」
身を翻して魔物から離れるテスラ。
「任せてっ!」
幸い2匹目はまだ近づいてこない。
シンは手前のウルルラビットに狙いを定め、指を引いた。
テスラの突いた傷口目掛けて弾が跳んでいく。
その大きな音に、もう1匹の魔物も気付いたようだ。
だが、1匹だけならばそう恐れることはない。
再びゆっくりと前へ向かうテスラの表情は、少しだけ緩むのだった。
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