53 / 90
馬鹿者
しおりを挟む
「やばっ……雨か。
行き先も言わないで出てきちゃったし、みんな怒ってるかな……」
シンは剣を鞘に戻し、膨らんだ麻袋を肩に担ぐ。
すでに空は茜色、周囲には冒険者の姿はなく、岩と倒木、そして遠くに物見の塔が見えるのみ。
「とにかく暗くなる前に戻らなきゃ!」
急ぎ町へと駆けるシンは、その道中に不思議な感覚に襲われる。
視界は悪く何も見えはしないのだが、間違いなくマナを持つ何かがそこに存在していたのだ。
ただ、こんな状況で寄り道などしている場合ではない。
「き……気になるけど、また今度っ!」
足元は町のように整備されているわけでもなく、暗い中走るのはかなり危ないものであった。
それでもしばらくして町の灯りが見え、どうにか無事帰ることはできたのだ。
入り口では獣人のベルグランドが、シンの帰りを待っている。
その不機嫌そうな表情を見て、シンは身構えてしまう。
どう考えても怒られるのだから、正直近寄りたくはない……が町に入るにはどうしても通らなくてはならない。
「……ん? ちっ、やっと帰ってきやがったか」
向こうもまたシンに気付いてしまう。
わざわざ仕事を終えてからこうして待っててくれたのだ。
「こんな時間になってから彷徨くんじゃねーよ馬鹿野郎!
俺はお前1人がどうなろうが知ったことじゃねーけどよ、それでも全くの無関係じゃねーんだよ。
まぁガキに言ったところでわかんねーだろうが……二度と周りに心配かけさせるんじゃねーぞ!」
雨の中、シンはベルグランドに怒られる。
麻袋に入ったわずかな素材程度のために、その何倍もの心配をかけてしまった。
「お前はギルドに顔を出してから宿に帰れ。
まだ下に残ってお前の帰りを待ってんだ」
ベルグランドは再び入り口付近に寄りかかってシンを見送る。
「あ、あの、ベルさんは帰らないんですか?」
「あぁ? ……ったく、もう1人の馬鹿がまだ帰ってねーんだよ。
お前らと分かれてから一体どこで何してんだか」
そう言われ、少し心配になりながらもまずはギルドに急ぐシン。
ずぶ濡れの格好で入り口のドアを軽く叩いて顔を覗かせる。
「あ、あのー……すみま……」
中を覗いた瞬間、目の前は真っ暗に。
厚手のタオルがボスッと顔面に覆い被さってきたのだ。
恐る恐るタオルをどかして顔を出すと、頬杖をついたアビルマがジッと睨んでいる。
「ご、ごめんなさい……」
シンは堪らず謝罪の言葉を口にする。
「何に謝ってるんだい?」
ただ、それではアビルマは許さない。
「え……っと、こんな時間に町の外へ出てしまって、すみませんでした」
「違うね、アンタが謝るのは周り人のことを無視した事だよ。
狩りに行きたきゃ行けばいいさ。
現に、この時間から狩場に向かう奴だっていないわけじゃない」
だが、シンにはまだその実力はなく、パティ達から教わっている最中なのだ。
出て行った状況も非常にまずく、あれでは『僕のことを心配して待っててください』と態度で示しているようなものだと言われてしまう。
そのせいでアビルマ、フェルト、トゥーラ、そしてその場にいなかったベルグランドにまで無駄に心配をかけてしまったわけだ。
中に入って身体を拭くように言われ、シンは入り口付近の壁際に立つ。
正直なところ報告だけ済ませたら早く宿へ行きたいと思うのだが、アビルマはまだまだ言い足りなさそうなのだ。
しばらくは説教を聞き続けるしかないと諦めるシンであった。
雨は一層激しく降り続け、寒さも増してきた頃、再び入り口のドアが開く。
「やっともう1人もお帰りかい……
その様子じゃ随分と大変だったみたいだね」
フードを深く被り、シンからは口元しか見えはしなかった。
服の一部は焼けており、その項垂れたような姿勢からは疲れが感じられる。
林の中で分かれた時とは全く違う、そんなパティの姿にシンはひどく驚いてしまった。
「ど、どうしたんですかっ⁈」
手にしていたタオルをパティの肩に当て、シンは問いかける。
「……っ⁈」
だが、そこにシンがいたことも知らず、咄嗟のことで動揺したパティは、それを勢いよく振り払ってしまった。
指輪を再度着けた後も過敏になったパティのマナは完全には戻っておらず、その鱗の付いた手の甲が露わになる。
少しの間の沈黙と、気付いてすぐに手を隠すパティ。
アビルマはパティに近寄ってタオルを拾う。
そしてパティもまた、アビルマの腕に抱かれるように崩れ落ちてしまった。
「シン……今日はもう帰りな。
引き止めて悪かったよ」
よほど疲弊する何かがあったのだろう。
それが何かはわからずに心配するシンだったが、どうにもすることもできず、1人宿へと帰っていく。
行き先も言わないで出てきちゃったし、みんな怒ってるかな……」
シンは剣を鞘に戻し、膨らんだ麻袋を肩に担ぐ。
すでに空は茜色、周囲には冒険者の姿はなく、岩と倒木、そして遠くに物見の塔が見えるのみ。
「とにかく暗くなる前に戻らなきゃ!」
急ぎ町へと駆けるシンは、その道中に不思議な感覚に襲われる。
視界は悪く何も見えはしないのだが、間違いなくマナを持つ何かがそこに存在していたのだ。
ただ、こんな状況で寄り道などしている場合ではない。
「き……気になるけど、また今度っ!」
足元は町のように整備されているわけでもなく、暗い中走るのはかなり危ないものであった。
それでもしばらくして町の灯りが見え、どうにか無事帰ることはできたのだ。
入り口では獣人のベルグランドが、シンの帰りを待っている。
その不機嫌そうな表情を見て、シンは身構えてしまう。
どう考えても怒られるのだから、正直近寄りたくはない……が町に入るにはどうしても通らなくてはならない。
「……ん? ちっ、やっと帰ってきやがったか」
向こうもまたシンに気付いてしまう。
わざわざ仕事を終えてからこうして待っててくれたのだ。
「こんな時間になってから彷徨くんじゃねーよ馬鹿野郎!
俺はお前1人がどうなろうが知ったことじゃねーけどよ、それでも全くの無関係じゃねーんだよ。
まぁガキに言ったところでわかんねーだろうが……二度と周りに心配かけさせるんじゃねーぞ!」
雨の中、シンはベルグランドに怒られる。
麻袋に入ったわずかな素材程度のために、その何倍もの心配をかけてしまった。
「お前はギルドに顔を出してから宿に帰れ。
まだ下に残ってお前の帰りを待ってんだ」
ベルグランドは再び入り口付近に寄りかかってシンを見送る。
「あ、あの、ベルさんは帰らないんですか?」
「あぁ? ……ったく、もう1人の馬鹿がまだ帰ってねーんだよ。
お前らと分かれてから一体どこで何してんだか」
そう言われ、少し心配になりながらもまずはギルドに急ぐシン。
ずぶ濡れの格好で入り口のドアを軽く叩いて顔を覗かせる。
「あ、あのー……すみま……」
中を覗いた瞬間、目の前は真っ暗に。
厚手のタオルがボスッと顔面に覆い被さってきたのだ。
恐る恐るタオルをどかして顔を出すと、頬杖をついたアビルマがジッと睨んでいる。
「ご、ごめんなさい……」
シンは堪らず謝罪の言葉を口にする。
「何に謝ってるんだい?」
ただ、それではアビルマは許さない。
「え……っと、こんな時間に町の外へ出てしまって、すみませんでした」
「違うね、アンタが謝るのは周り人のことを無視した事だよ。
狩りに行きたきゃ行けばいいさ。
現に、この時間から狩場に向かう奴だっていないわけじゃない」
だが、シンにはまだその実力はなく、パティ達から教わっている最中なのだ。
出て行った状況も非常にまずく、あれでは『僕のことを心配して待っててください』と態度で示しているようなものだと言われてしまう。
そのせいでアビルマ、フェルト、トゥーラ、そしてその場にいなかったベルグランドにまで無駄に心配をかけてしまったわけだ。
中に入って身体を拭くように言われ、シンは入り口付近の壁際に立つ。
正直なところ報告だけ済ませたら早く宿へ行きたいと思うのだが、アビルマはまだまだ言い足りなさそうなのだ。
しばらくは説教を聞き続けるしかないと諦めるシンであった。
雨は一層激しく降り続け、寒さも増してきた頃、再び入り口のドアが開く。
「やっともう1人もお帰りかい……
その様子じゃ随分と大変だったみたいだね」
フードを深く被り、シンからは口元しか見えはしなかった。
服の一部は焼けており、その項垂れたような姿勢からは疲れが感じられる。
林の中で分かれた時とは全く違う、そんなパティの姿にシンはひどく驚いてしまった。
「ど、どうしたんですかっ⁈」
手にしていたタオルをパティの肩に当て、シンは問いかける。
「……っ⁈」
だが、そこにシンがいたことも知らず、咄嗟のことで動揺したパティは、それを勢いよく振り払ってしまった。
指輪を再度着けた後も過敏になったパティのマナは完全には戻っておらず、その鱗の付いた手の甲が露わになる。
少しの間の沈黙と、気付いてすぐに手を隠すパティ。
アビルマはパティに近寄ってタオルを拾う。
そしてパティもまた、アビルマの腕に抱かれるように崩れ落ちてしまった。
「シン……今日はもう帰りな。
引き止めて悪かったよ」
よほど疲弊する何かがあったのだろう。
それが何かはわからずに心配するシンだったが、どうにもすることもできず、1人宿へと帰っていく。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
魅惑の出来ない淫魔令嬢
葛餅もち乃
ファンタジー
――特異体質の淫魔が、頑張ったりラブコメしたりバトったりする魔界学園モノ――
舞台は魔界、淫魔貴族のライラは人間の母をもつ半魔。
淫魔としてのアイデンティティーとも言える「魅惑」ができない出来損ない。けれども、異母兄たちや屋敷の皆に可愛がられぬくぬくと育ってきた。
十七になる今年、自覚ある箱入り娘のライラは入学した《学園》の森で魔獣の狼と出会い、友達になってもらう。不安と緊張を胸に教室へ向かうと、いかにも強者である隣の席の男子生徒から「俺は、お前ら淫魔が嫌いだ」と嫌悪され――
ある秘密を抱えながら前向きに過ごすライラと、どうしても惹かれてしまって後悔していく狼。
ラブコメ×青春×魔界学園!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
イケメン副社長のターゲットは私!?~彼と秘密のルームシェア~
美和優希
恋愛
木下紗和は、務めていた会社を解雇されてから、再就職先が見つからずにいる。
貯蓄も底をつく中、兄の社宅に転がり込んでいたものの、頼りにしていた兄が突然転勤になり住む場所も失ってしまう。
そんな時、大手お菓子メーカーの副社長に救いの手を差しのべられた。
紗和は、副社長の秘書として働けることになったのだ。
そして不安一杯の中、提供された新しい住まいはなんと、副社長の自宅で……!?
突然始まった秘密のルームシェア。
日頃は優しくて紳士的なのに、時々意地悪にからかってくる副社長に気づいたときには惹かれていて──。
初回公開・完結*2017.12.21(他サイト)
アルファポリスでの公開日*2020.02.16
*表紙画像は写真AC(かずなり777様)のフリー素材を使わせていただいてます。
救助隊との色恋はご自由に。
すずなり。
恋愛
22歳のほたるは幼稚園の先生。訳ありな雇用形態で仕事をしている。
ある日、買い物をしていたらエレベーターに閉じ込められてしまった。
助けに来たのはエレベーターの会社の人間ではなく・・・
香川「消防署の香川です!大丈夫ですか!?」
ほたる(消防関係の人だ・・・!)
『消防署員』には苦い思い出がある。
できれば関わりたくなかったのに、どんどん仲良くなっていく私。
しまいには・・・
「ほたるから手を引け・・!」
「あきらめない!」
「俺とヨリを戻してくれ・・!」
「・・・・好きだ。」
「俺のものになれよ。」
みんな私の病気のことを知ったら・・・どうなるんだろう。
『俺がいるから大丈夫』
そう言ってくれるのは誰?
私はもう・・・重荷になりたくない・・・!
※お話に出てくるものは全て、想像の世界です。現実のものとは何ら関係ありません。
※コメントや感想は受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
ただただ暇つぶしにでも読んでいただけたら嬉しく思います。
すずなり。
クラス転移で神様に?
空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。
異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。
そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。
異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。
龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。
現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる