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7章《チートマジシャン》

3話

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 十二階層のボスを倒し、エメル村に戻ってきた僕たち。
 そろそろ日が暮れるのだが、バリエさんはまだ王都から戻ってはいない様子だった。
 転移の指輪は渡しておいたし、戻ってくること自体はとても簡単なはずなのだけど。
「たまには家にも帰りたいだろうし、教会で仲間に出会ったりすれば、話も弾むんじゃないの?」
 防具でも作って渡しておきたいと思っていた僕が、『遅いね』なんて言うと、テセスがそんな風に返してきた。
 ちょっとだけモヤっとしながらも、まぁそんなこともあるよね、と自分に言って聞かせていた。

 翌朝になっても戻らないバリエさんが気になり、みんなで王都にある教会へと赴いたのだが、そこにはバリエさんの姿はない。
 やはり家にいるか、はたまた僕の父のように酒場にでも行って、そのまま潰れているか……
 まぁ後半はただの想像だが、そんなことを考えていると、教会のシスターから声をかけられた。
「もしかしてエメル村の方たちですか?」
 キョトンとしている僕の後ろで、テセスが頭を下げて挨拶をしている。
 聖女として訪れた際に少々世話になったのだと話しており、シスターも思い出したようにテセスに対して頭を下げている。

「実は騎士隊の方から言伝がありまして。
 それらしい雰囲気の皆さんが、早速いらしたので間違いないかと思いまして……」
 シスターが言うには、昨日バリエさんが訪れてお祈りを済ませると、しばらくはボヤッとした表情を見せていたらしい。
 その直後に、別の騎兵隊の者を連れたカンブリス隊長が現れたのだとか。
「それで、何かあったの?」
「なにやら模擬戦の話をしていたのは聞こえてきたのですが、それ以上はと聞かれるとなんとも……」

 結局その様子はイマイチわからなかったのだけど、どうも模擬戦のことを聞いた騎兵隊の者がバリエさんに声をかけて、カンブリス隊長が場を鎮めるような雰囲気だったらしい。
 突然入隊してきたバリエさんに対して、気に入らない者がいたとか、そういったことなのだろうか?
「それで皆さんへ、もしこの教会へ来られたのなら、演習場へ正午前に来てほしいと。
 見せたいものがあるそうですが、なんだか心配ですね……」
 胸に手を当て、どうにも落ち着かない様子のシスター。
 言い争うような場面にいたこともあって、何かあったらと思うと気が気でないのだろう。

「ありがとうシスターさん。
 バリエさんも自信があるみたいだし、きっと大丈夫だよ」
 見せたいものとは何なのだろう?
 リリアは『力をつけて調子に乗ってるんじゃないかしら?』なんて言うけど、普段のバリエさんの様子を見る限り、そんな性格ではないだろう。
 教会を離れ、時間を持て余した僕たちは、街の様子を見て回る。
 特にリリアは雑貨屋が気になったようで、テセスをひっぱって足早に店へと入っていった。

「私も見てみよっと……ギルドで販売する商品の参考にもなるし」
 ツカツカと、僕たちの後ろから出てきたと思ったら、そのまま店の中に消えていくミア。
 急に黒い影が現れたと思って驚いてしまう僕。
 コルンとアステアも同様に驚いているみたいだった。
「ぼ、僕たちも見てくる? 見たことない素材とかが、あるかもしれないし」
「俺はいいやぁ。素材見てたって、それで俺が何か作れるわけじゃねぇしさ」
 そう言いながら、周囲にある食べ物の店へと歩を進めるコルン。

「僕は入ろうかな。最近はエメル村にあるアイテムしか見ていないもので、常識を忘れてしまいそうですし」
 アステアが手に持ったポーションを見ながら、そう言って中に入っていく。
「え⁇」
 まるでエメル村は非常識、みたいな発言にも聞こえたのだけど、まぁあまり気にしないでおこう……

 僕も中に入ると、そこにはエメル村の雑貨屋ではあまり見かけないようなものも並んではいる。
 とは言っても、そこら辺に普通に生えているピリン草や、黄色い上薬草、ウルフやホーンラビットの素材が少々、あとはそれらで作ったと思しきアイテムが数種類。
 ただ、動物の餌や肥料、調理器具や掃除用具がメインなのはどこの街でも同じなのだろう。
 先に入っていった三人も、それほど期待するようなものは見つからなかったようで、店内は静かなものだった。

「すいません、これを下さい」
 さすがにこの人数で入店して、何も買わずに出るのは気がひける。
 僕が掃除なんかにも使えそうな適当な布を数枚購入し、ふと店主の傍に目をやると、見覚えのある赤い葉の束が見える。
「はいよ、全部で小銀貨三枚だ。ありがとさん」
「あの、えっと……月光草でしたっけ? それ、何かに使うんですか?」
「なんだ、欲しけりゃやるぞ。さっき素材を売りにきた奴が置いてったもんだ。
 まったく、こんな見た目じゃなきゃ騙されて商人から買うような奴もいなくなるんだろうがよぉ」

 どうも、この月光草は『珍しい貴重な薬草だ』と言われ、騙されて買った人が持ち込んだものらしい。
 店の裏にも鑑定書付きで少し置いてあって、時々持って来る新米冒険者や、今回のように騙されて入手した者に教えてあげるのだそうだ。
 すると大抵は諦めきれずに他の店に持ち込むか、怒ってそのまま帰ってしまう。
 今回も、ここが二店舗目だったらしく、残念そうに帰っていったそうだ。
「それが今年はやけに多くてなぁ。
 ギルドでも周知させるよう願い出てはいるのだが……」
 店主も少し悩ましそうに、そんな話をしてくれたのだった。

「それ、私が貰う」
 僕と店主で話をしているところに、ミアがやってきて言う。
 その手のひらには銀貨一枚が置いてあり、『お釣りはいらないから』と、ちょっと僕も言ってみたいようなセリフを吐いて、その赤い月光草を受け取っていた。
「な……なんか知らんが、ありがとよ」
 さすがに十歳ほどにしか見えない少女から、そんな大金を受け取るのは躊躇っていた店主だったが、次いでリリアもまた小金貨数枚分の生地や装飾品を購入したことで、銀貨一枚も流れで受け取ってしまっていた。
 心配せずとも、この見た目少女は百歳以上。それに、買うと言うことは、用途を知っているのだろう。

「まぁ、王都ったってこんなものよね。テセスは何も買わなかったみたいだけど良かったの?」
 期待はずれみたいな表情をしながらも、しっかりと買い物をしていたリリアは、手ぶらで店を出てきたテセスと話していた。
「だって、私がこの街に滞在していた時と、何も変わってないんだもの。
 その時は楽しくってあちこち回っちゃったけど、今はねぇ」
 二人でチラッとこちらを見てくる。
 エメル村の方が変なものなら多く並んでいる自信はあるし、僕も村に帰ったら、まだまだ色々なアイテムを作りたいと思ってしまったのだし、つまりはそういうことなのだろう。

 コルンの向かった方へと進みながら、食べ物の店ではテセスが一晩じゃ食べきれないほどの食材を。
 アステアはギルドの前に貼られていた注意書きらしきものを読み、周辺に現れる魔物のことを心配そうに口にしていた。

「コルン、何か面白いものでも見つかった?」
 工房のような建物、そしてその周囲に建ち並ぶ武器防具店、衣料品店の間をウロウロしているコルンを見つけ、声をかけるとコルンは首を横に振って返してきた。
「どれも似たようなもんばかりだぜ。
 クリスタル細工も、あれ、センが作ったやつじゃねぇのか?」
 そう言われて、コルンの指差すお店に並ぶ商品を見てみると、薄い水色のコップが並んでいる。
「僕……のじゃないけど、リリアが作ったの?」
「うん。面白そうだから試しに作ったやつよ。
 ちゃんと姿は変えて売りに行ったからいいでしょ?」
 別に僕ももう隠す気にもなってないから、そこは今更なんだけど、店の中を見回すと他にも色々とあるようで気になってくる。

「ちょっと中を見てきてもいい?」
 僕は、リリアがどんなアイテムを作ったのか気になってしまう。
 価格もただのコップにしては小金貨数枚からと非常に高いし、それぞれの商品が木箱に布が敷かれた上にと、やけに丁重に置かれている。
「まだ全然種類が少ないから、あまり気乗りはしないのだけど、せっかくだから私が説明してあげるわよ」
 リリアがそう言うと、ちょうど奥から様子を見ていた店主らしき女性も、こちらに近付いてきた。

「どうしたの僕たち? ここに並んでいる商品は、とっても貴重だから触っちゃダメよ」
 まだ二十歳そこそこといった感じの女性を、リリアはこの店の店主『リディア』さんだと教えてくれる。
「あら、私のことを知ってるのね」
「叔母のロロニアがいつもお世話になっております。
 少しだけ彼に見せてあげたいので、中も宜しいでしょうか?」
 リリアが物腰柔らかな挨拶を……不思議な気分だ。

「あら、彼女には本当に助けられているのよ。
 それだったらどうぞ、好きなだけゆっくりしていって良いのよ?」
 リディアさんが深々と頭を下げて、リリアに手を振りながら奥へと下がっていく。
「ロロニアって、リリアのこと?」
「そうよ。凄いアイテムを作れるんだから、年齢もそこそこの設定よ」

 水色のコップは、赤い花柄模様が描かれており、水魔法で中を満たすことができる。
 包み込むように花模様に触れながらならば、温水にすることもできるそうだ。
「あれ? でもそれって……」
「そうなんだよねぇ。結局魔力が無いと使えないし、ルースと同じだから火魔法も水魔法も使えちゃうんだよね」
 これは危なっかしくてダメだと思ってしまった。
 本当は安くしたいのだけど、危険だから普通の魔法媒体並みの価格にしかできないのだとも言っている。

「こっちの羽は?」
 薄緑の一本の羽も、同様にクリスタルで作られており、同じくルースを混ぜ込んでいるものと思われる。
「速度変化の魔法が使える羽よ。
 ペンダントにもできるように紐を通す穴も開けておいたの」
 魔物から逃げる時に使うのだろうか?
 素早さ上昇効果のある装備品だったら、インベントリの中に似たような形のものはあるのだけど。
「それだと装備してる人にしか効果がないじゃない。
 これだったら魔文字を組み合わせて離れた物体や味方の素早さも上げられるしさ」
 なるほど、と思いながら値札の所を見てみると、『在庫切れ』とある。
 やはり身を守るようなアイテムは高値でもよく売れるのだろうな。

 他にも、壊れた柵を修復する専用のものや、見た目の容量よりも多く物が入る、まるでインベントリのような麻袋。
 どれもヤマダさんに相談して魔文字の組み合わせを考えてみた品だそうだ。
 通りでバリエさんの特訓を見ている時に『暇だったら探して欲しい』なんて言われて、大量の魔石を渡されたりもしていたわけだ……

「これだけ貴重なアイテムばっかりだと、盗られちゃわないか心配になっちゃうね」
 振り返ってコルンたちのいる外の方を見ると、店頭にもいくつかの商品が並べられており、そんな不安が過ぎってしまう。
「その為にほら、リディアさんには『拘束』と『消滅』のルースを渡しているわ」
 なるほど、あの指輪がそうなのだろう。
 ……消滅?

 まぁ、つまりは普通にどんな風にも使える魔法媒体として売るのではなく、それぞれに合わせたルースの組み合わせにして、オススメの用途で便利に使って貰おうというお店なわけか。
「本当、大変だったわよ。
 元々いた店主のおばあちゃんは、全然話が通じないし、娘のリディアさんは潰れるってわかってるボロボロのお店を継ぎたくはないって言うし……」
 そんなことがありながらも、考えようによっては販路の拡大と、実質自分のお店のようなものが手に入ること。
 それを考えたら、店の修繕を勝手に始めちゃっていたのだとか。
 結果的に売り上げ増加と、店主の代替わり、リリアの作るアイテム専門の店が出来上がった……というのが、つい数日前のこと。

「ちなみに、ルースを厳選できる技は東の大陸にいる地の精霊『ノーム』が教えてくれるらしいって広めておいたわ。
 よくわかんないけど、そこなら誰も住んでいないし、大陸の外に行かなきゃいけないってなったら普通の冒険者は諦めるだろうしって、魔王アイツが言ってたのよ」
 うーん、魔族領以外にもまだ大陸はあるのかぁ。
  今は気にしなくていいんだろうけど、なんだか誰も住んでいないって言われると気になってしまう……

 そんな店が王都にあることも知り、ちょうど良い時間になると僕たちは城の近くにある演習場へと足を運んでいた。
 なぜバリエさんは村に戻らなかったのか?
 何を僕たちに見せたいのか?

 近くに行くと、既に多くの兵や冒険者が集まっていたのだった。
 昨日突然知らされた騎兵隊隊長と自信満々だという新人による模擬戦。
 魔物を倒して日々生活をする者たちにとって、見逃せない娯楽の一つなのだろう。
 となれば、話は一瞬で街中に広まって、ちょっとしたお祭りムードになっていたことは言うまでもなかった……
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