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59話 おかしなヤツら
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翌日、朝。
「うむ、その場でオヌシが迎えに行くなど迂闊な行いがなくてなによりだ。それにコナンにバーン、人選がよいではないか」
スケサンがいうには、客を迎えに行くのは里長の補佐くらいがちょうどいいらしい。
たまたまだが、へりくだらず、尊大でもない『ほどほど』の礼儀にかなっていたようだ。
「せっかく森の外から客が来るのだ。歓迎したい気持ちはあるが、調査とやらが気になるところだ」
「まあ、悪さしようにも人の地と離れてるし大丈夫だとは思うけどな」
スケサンはスケルトンたちを集めて出迎えの支度をさせるようだ。
意外と見えっ張りな骨なのである。
「人間は図々しくて強欲で狡猾だ。隙や弱みを見せぬようにするのだぞ。下手な言質を与えるな」
「わかったよ。俺も着替えるよ」
俺の思考を読んだのか、スケサンが慍色を見せた。
なにやら人間に思うところがあるのだろうか?
「水路の計画は見通しがたったぞ。客が帰ったら現地で説明しよう」
「そりゃ楽しみだな。ウサギ人たちが畑を広げたくてウズウズしてるんだ」
俺はスケサンに「あとでな」と声をかけて家に戻った。
家は瓦葺きになったが、いままで通りの場所にある。
館に俺とアシュリンの家を併設しようって話もあったが、引っ越しも面倒くさいのでやめておいた。
「――と、いうわけでだ。オシャレをしよう」
「わ、わかった。ピカピカの髪飾りがあるんだ」
アシュリンは髪をくしけずり、オリハルコンの髪飾りをつける。
彼女も年相応にオシャレが好きなのだ。
俺も新しめの服を着て、ヤガーの毛皮を羽織る。
さすがにアクセサリーをつけたりはしない。
「あれ? け、剣も持つのか?」
「ああ、人間相手には必要ないとは思うけど念のためかな」
人間は弱くて臆病だ。
念のためというより立派に見せる飾りに近い。
ちなみにアシュリンは人間を見たことないそうだ。
「最近はないけど、昔はたまに来たみたいだぞ」
「ふうん、アイツらどこにでもいるからな。一回招いたらウジャウジャと増えるかもしれないな」
アシュリンが「そ、そんなにいるのか、気持ち悪いぞ」と不安げな顔をした。
人間は繁殖と適応に優れた種族で、1人見たら10人以上いるといわれるほどだ。
スケサンのいうように、図々しく他種の土地に入り込み、好きなように作り替えてしまう狡猾さがある。
種族的な長所なのだろうが、実際の戦争では負け続きなのに勢力を伸ばす人間の国は不気味な存在だった。
「べ、ベルクにも額飾りをつけてやる」
アシュリンが俺の頭にオリハルコンの額飾りを乗せてくれた。
アシュリンが「ぴ、ピカピカしてかっこいいぞ」と褒めてくれる。
妙にくっついてくるが『その気』になってきたのだろうか?
「まだ時間はあるだろうし、ちょっとしとくか」
「こ、こらっ。ちょ、そんなのダメだぞ」
いつも『いやいや、もっと』とせがんでくるのだが、今日のアシュリンは「本当にダメだぞ」と俺の手を払いのける。
ちょっとショックだ。
「……ダメなのか?」
「ち、違うんだ。その、実はな、赤ちゃんができたかもしれないって――」
俺がアシュリンの言葉を理解するのに数秒を必要とした。
それだけ突飛な言葉だったのだ。
「そうか、うん。そうか」
なんというか、言葉がでてこない。
アシュリンが「だから我慢してくれ」とはにかんで握った。
なにを握ったのかはご想像にお任せしたい。
「ナイヨとフローラにな、習ったんだ。妊娠中に、う、浮気されない工夫だぞ」
実にいい工夫だと思う。
なんだかんだでアシュリンの着衣は乱れ、ブツブツ文句をいっていたが……それは仕方ない。
「で、でもな、まだハッキリしないし、ダメなときもあるから皆にはまだナイショだぞ」
「わかったよ。でもな、嬉しいのさ」
その後、しばらくイチャイチャして2度ほど工夫をされた。
最近の彼女が太っていたのは、これが原因だったのだろうか?
☆★☆☆
そして、人間がきた。
思ってたのと違う。
来たのは探検家だという男と従者の集団だそうだ。
従者とはいえ、護衛も兼ねるらしく鉄の武器や盾で武装している。
1人だけ前にでてペラペラとしゃべっているのが探検家コスタスというらしい。
真っ黒な上着を着て、しきりにまばたきをする落ち着かない中年である。
「私たちは東カルキス聖教国より派遣された探索隊です。総主教猊下は数年前の地震を変異の予兆と捉えられ――」
スケサンたちに迎えられて館には入ったのはいいんだが、ずっとこの調子なのだ。
壇上から下りるタイミングを失い、俺とアシュリンは顔を見合わせて困惑顔である。
「そうか、東カルキス……カルキスは鬼人の国から南東だったか?」
「鬼人……かつてのオーガ支配地域でしょうか? かの地には東カルキス含むデロス同盟の尽力により、いまでは聖天の教えを広めるため――」
わからん。
知らない単語ばかりだ。
そして質問に答えない。
「儀礼的な挨拶はこの辺でいいだろう。俺はごちゃ混ぜの里長ベルクだ。こちらは妻のアシュリン」
「や、やはりごちゃ混ぜの!」
なんだかよく分からないが驚いている。
「後ろの者たちも紹介してくれ。この里には身分などないからな」
俺はようやく窮屈な椅子から立ち上がり、コスタスと並ぶ。
身長はエルフより低く、ドワーフより高い。
リザードマンのような固い肌も、ヤギ人のような角もない。
太くも細くもない、典型的な人間だ。
「しかし、この者たちは――」
「かまわないさ。武器を持っているんだ、奴隷ではないだろう?」
俺が重ねて訊ねると少しムッとした表情で5人の従者が立ち上がる。
体格はさほどでもないが、腰に下げた剣や片手斧はよく使い込まれており、荒事になれた雰囲気が見てとれた。
(こいつらは戦士だな。気に入ったぞ)
俺は「歓迎するぞ」と全員に声をかけた。
名乗ってくれて申しわけないとは思うが、5人の名前を1度に覚えるのは難しい。
途中から適当な相づちだけになってしまったが、唯一の女がベレニケってのは聞いてたぞ。
どうでもいいけど、他の男が鎧に近い防具を身につけてるのに、なんでこの女だけ妙に肌の露出が多い格好してるんだ?
虫が多いから心配になるな。
「なんの調査に来たのかは知らんが、まあ飯でも食っていけ。支度が整うまでは里の案内でもさせよう」
「里を見て回ってもよろしいのですか?」
俺が「構わんよ」と伝えると、コスタスは喜色満面といった様子を隠そうともしない。
「案内は誰がいいかな?」
「あ、私がやりましょうか?」
そういって立候補したのはモリーだ。
たしかにコナンとバーンに続けて頼むのは悪いし、モリーなら里のことに詳しい。
「よし、モリーに任せるか。スケサン、何人か護衛をつけてやってくれ」
「うむ、ホネイチらをつけよう。モリー、里の内側ならばいくら見せても構わぬが、外に出ぬようにな」
スケサンは手短にホネイチたちに指示をし、モリーを送り出した。
「はあ、なんだか疲れるやつらだな」
わざわざこんなところまで来るのだから、もっと勇ましいヤツを想像したが……あのコスタスとやらはイマイチよく分からない。
「うむ、ずいぶんと権威主義というか話したがりのようだ。恐らくコスタスとやらは宗教の布教も兼ねているのではないか?」
「なるほどねえ、わざわざここまでくる探検家っていうからもっと荒くれ者かと思ったぞ」
しばらく後に戻ってきたコスタスは興奮した様子でモリーに質問を繰り返していた。
「その様子ならモリーの案内は満足してもらえたようだな。質問もいいが食事にしようじゃないか」
館に備えられた4つのかまどはフル回転し、パンや煮物が続々と器に盛られていく。
その様子を見たコスタスたちは「これは銅、これはオリハルコンだ」と驚いていた。
そして集まった者が気がねなくヒョイヒョイと料理を取っていくことにも驚いている。
忙しいやつらだ。
「このような宴を開催いただき、まことに恐縮です」
「ああ、気にするな。わりと普段から人は集まるし、飲み食いするからな。今日は少し増えただけだ」
魚とアワを魚醤で煮た粥。
肉と骨とイモの煮込み。
潰したイモとアワのパン。
幼虫を焼いたのもある。
ニンジンとキノコとウリを煮込んだウサギ人の料理もあるが、これは俺は苦手だ……肉を食わせて欲しい。
ちょっとばかし見栄を張った部分もあるが、食事はいつも通りの延長だ。
そのかわり酒は色々と並べた。
「このオリハルコンとはどのような鉱石から作られるのですか?」
「俺も詳しくは知らんが、賢者の石があれば作れるらしいぞ。そんなことより酒を飲み比べてみろ。オリハルコン、銅、陶器、木盃、同じ酒でも全て味が違うだろう?」
コスタスは「そんなことが」と疑っていたが、飲ませたら目を白黒させていた。
「ほ、本当に味が違う! いったい……?」
「はは、そんなことは知らんが、さまざまな器が並べてある理由が分かったか? 好きな器で飲み食いすればいい」
コスタスの従者たちも同じように飲み食いさせていたが、酔いが回ったらしくトラ人とケンカをはじめたので放り出した。
表では何人も観戦して盛り上がっているようだ。
「ははは、ケンカをするほど飲んでくれるとは、もてなした甲斐があったな」
「はい、ですがそろそろ止められますよ」
コナンの予言通りにスケサンが割って入り、柔で数人をぶん投げて鎮圧していた。
「スケサンはな、かつてこの地に王国を築いた精霊王に仕えた武人なんだ。その古の技はコナンや俺も習っているぞ」
「いや、まあ、ちょっと比べ物にはなりませんけどね」
俺とコナンの話を聞き、コスタスの従者たちが我も我もとスケサンに挑んでボコボコにされてたのはいい余興になった。
どうでもいいけど、エッチな格好の女戦士が骨に苦しめられてる姿をもっと見たかったぞ。
スケサンはもてなしの心が足りないんじゃないのか。
しかし、コスタスはベレニケのエッチな衣装に無関心の様子だ。
ひょっとして人間の社会では当たり前なのだろうか?
ウチでも流行らせてみたいものだ
「スケサンどのの技は魔術のようです。相手が自分から倒れているようにすら見えます」
「たしかに魔術のようなものかもな。俺も何年も修行したが身につかん」
適当なとこでスケサンも切り上げ「お騒がせした」とコスタスに謝罪したが、これには苦笑してしまう。
スケサンも脅しつける意味で技を振るったのだろう。
見栄も含まれていたはずだ。
宴会はだらだらと続き、コスタス一行がぐでんぐでんに酔っ払った時点でお開きになった。
酔った勢いでコスタスからオリハルコンを分けてくれっていわれたが、それはヘビ人との関係もあるからお断りする他はない。
翌日は二日酔いで探検家一行は青い顔をしていた。
コスタスは調査とやらだろうが、酷い顔色のまま熱心に誰かを捕まえてはなにかを訊ねているようだ。
「里の者は仕事もあるからな。俺が聞いてやるよ」
皆が何日もコイツらにかまけているわけにもいかない。
コスタスは恐縮しつつも遠慮なしに質問を重ねてきた。
「ごちゃ混ぜの里にはどれほどの歴史があるのですか?」
「ん? 歴史なんてないぞ。この規模になったのは地震からだな」
この言葉にコスタスはブツブツと口を動かし、しきりになにかをメモしていた。
時には左右の従者たちになにかを確認しているようだ。
「ここに至るまでにワーウルフの国でガイ首長とお会いしました。あのような国はいくつあるのですか?」
「ワーウルフとはオオカミ人のことか。まあ、いくらかはある。他の里について教えることはできないぞ」
オリハルコンに興味があるのなら、うかつにヘビ人の集落については口にできない。
すこし苦しいがごまかしておく。
他にもいくつか質問があったが、あまり納得のいく回答はできなかったようだ。
俺は里長ではあるが、なにかの専門家ではない。
コスタスはなんだかんだと理由をつけて里から出たがったが、それは許可せずに追い返した。
彼らはその後、オオカミ人の集落から舟で遡上したようだが、これはリザードマンの里から襲撃されて逃げ帰ったらしい。
結局、なにしに来たのか分からないが、彼らなりの成果はあったようだ。
こうして、里と森の外の初めての接触が終わる。
よく分からんが、手土産も持たせたし、こんなものじゃないかねえ?
■■■■
浮気をしないための工夫
森の中は意外と一夫一婦制の獣人が多い。
これは多くの女性に森の限られた生活資源を配るのではなく、特定の女性にリソースを集中することで遺伝子を残そうとする繁殖戦略かもしれない。
ごちゃ混ぜ里では、甲斐性があれば複数の妻を持つことは問題ないが、里長のベルクがアシュリン一筋(に見える)ために堂々と行う者はいないようだ。
「うむ、その場でオヌシが迎えに行くなど迂闊な行いがなくてなによりだ。それにコナンにバーン、人選がよいではないか」
スケサンがいうには、客を迎えに行くのは里長の補佐くらいがちょうどいいらしい。
たまたまだが、へりくだらず、尊大でもない『ほどほど』の礼儀にかなっていたようだ。
「せっかく森の外から客が来るのだ。歓迎したい気持ちはあるが、調査とやらが気になるところだ」
「まあ、悪さしようにも人の地と離れてるし大丈夫だとは思うけどな」
スケサンはスケルトンたちを集めて出迎えの支度をさせるようだ。
意外と見えっ張りな骨なのである。
「人間は図々しくて強欲で狡猾だ。隙や弱みを見せぬようにするのだぞ。下手な言質を与えるな」
「わかったよ。俺も着替えるよ」
俺の思考を読んだのか、スケサンが慍色を見せた。
なにやら人間に思うところがあるのだろうか?
「水路の計画は見通しがたったぞ。客が帰ったら現地で説明しよう」
「そりゃ楽しみだな。ウサギ人たちが畑を広げたくてウズウズしてるんだ」
俺はスケサンに「あとでな」と声をかけて家に戻った。
家は瓦葺きになったが、いままで通りの場所にある。
館に俺とアシュリンの家を併設しようって話もあったが、引っ越しも面倒くさいのでやめておいた。
「――と、いうわけでだ。オシャレをしよう」
「わ、わかった。ピカピカの髪飾りがあるんだ」
アシュリンは髪をくしけずり、オリハルコンの髪飾りをつける。
彼女も年相応にオシャレが好きなのだ。
俺も新しめの服を着て、ヤガーの毛皮を羽織る。
さすがにアクセサリーをつけたりはしない。
「あれ? け、剣も持つのか?」
「ああ、人間相手には必要ないとは思うけど念のためかな」
人間は弱くて臆病だ。
念のためというより立派に見せる飾りに近い。
ちなみにアシュリンは人間を見たことないそうだ。
「最近はないけど、昔はたまに来たみたいだぞ」
「ふうん、アイツらどこにでもいるからな。一回招いたらウジャウジャと増えるかもしれないな」
アシュリンが「そ、そんなにいるのか、気持ち悪いぞ」と不安げな顔をした。
人間は繁殖と適応に優れた種族で、1人見たら10人以上いるといわれるほどだ。
スケサンのいうように、図々しく他種の土地に入り込み、好きなように作り替えてしまう狡猾さがある。
種族的な長所なのだろうが、実際の戦争では負け続きなのに勢力を伸ばす人間の国は不気味な存在だった。
「べ、ベルクにも額飾りをつけてやる」
アシュリンが俺の頭にオリハルコンの額飾りを乗せてくれた。
アシュリンが「ぴ、ピカピカしてかっこいいぞ」と褒めてくれる。
妙にくっついてくるが『その気』になってきたのだろうか?
「まだ時間はあるだろうし、ちょっとしとくか」
「こ、こらっ。ちょ、そんなのダメだぞ」
いつも『いやいや、もっと』とせがんでくるのだが、今日のアシュリンは「本当にダメだぞ」と俺の手を払いのける。
ちょっとショックだ。
「……ダメなのか?」
「ち、違うんだ。その、実はな、赤ちゃんができたかもしれないって――」
俺がアシュリンの言葉を理解するのに数秒を必要とした。
それだけ突飛な言葉だったのだ。
「そうか、うん。そうか」
なんというか、言葉がでてこない。
アシュリンが「だから我慢してくれ」とはにかんで握った。
なにを握ったのかはご想像にお任せしたい。
「ナイヨとフローラにな、習ったんだ。妊娠中に、う、浮気されない工夫だぞ」
実にいい工夫だと思う。
なんだかんだでアシュリンの着衣は乱れ、ブツブツ文句をいっていたが……それは仕方ない。
「で、でもな、まだハッキリしないし、ダメなときもあるから皆にはまだナイショだぞ」
「わかったよ。でもな、嬉しいのさ」
その後、しばらくイチャイチャして2度ほど工夫をされた。
最近の彼女が太っていたのは、これが原因だったのだろうか?
☆★☆☆
そして、人間がきた。
思ってたのと違う。
来たのは探検家だという男と従者の集団だそうだ。
従者とはいえ、護衛も兼ねるらしく鉄の武器や盾で武装している。
1人だけ前にでてペラペラとしゃべっているのが探検家コスタスというらしい。
真っ黒な上着を着て、しきりにまばたきをする落ち着かない中年である。
「私たちは東カルキス聖教国より派遣された探索隊です。総主教猊下は数年前の地震を変異の予兆と捉えられ――」
スケサンたちに迎えられて館には入ったのはいいんだが、ずっとこの調子なのだ。
壇上から下りるタイミングを失い、俺とアシュリンは顔を見合わせて困惑顔である。
「そうか、東カルキス……カルキスは鬼人の国から南東だったか?」
「鬼人……かつてのオーガ支配地域でしょうか? かの地には東カルキス含むデロス同盟の尽力により、いまでは聖天の教えを広めるため――」
わからん。
知らない単語ばかりだ。
そして質問に答えない。
「儀礼的な挨拶はこの辺でいいだろう。俺はごちゃ混ぜの里長ベルクだ。こちらは妻のアシュリン」
「や、やはりごちゃ混ぜの!」
なんだかよく分からないが驚いている。
「後ろの者たちも紹介してくれ。この里には身分などないからな」
俺はようやく窮屈な椅子から立ち上がり、コスタスと並ぶ。
身長はエルフより低く、ドワーフより高い。
リザードマンのような固い肌も、ヤギ人のような角もない。
太くも細くもない、典型的な人間だ。
「しかし、この者たちは――」
「かまわないさ。武器を持っているんだ、奴隷ではないだろう?」
俺が重ねて訊ねると少しムッとした表情で5人の従者が立ち上がる。
体格はさほどでもないが、腰に下げた剣や片手斧はよく使い込まれており、荒事になれた雰囲気が見てとれた。
(こいつらは戦士だな。気に入ったぞ)
俺は「歓迎するぞ」と全員に声をかけた。
名乗ってくれて申しわけないとは思うが、5人の名前を1度に覚えるのは難しい。
途中から適当な相づちだけになってしまったが、唯一の女がベレニケってのは聞いてたぞ。
どうでもいいけど、他の男が鎧に近い防具を身につけてるのに、なんでこの女だけ妙に肌の露出が多い格好してるんだ?
虫が多いから心配になるな。
「なんの調査に来たのかは知らんが、まあ飯でも食っていけ。支度が整うまでは里の案内でもさせよう」
「里を見て回ってもよろしいのですか?」
俺が「構わんよ」と伝えると、コスタスは喜色満面といった様子を隠そうともしない。
「案内は誰がいいかな?」
「あ、私がやりましょうか?」
そういって立候補したのはモリーだ。
たしかにコナンとバーンに続けて頼むのは悪いし、モリーなら里のことに詳しい。
「よし、モリーに任せるか。スケサン、何人か護衛をつけてやってくれ」
「うむ、ホネイチらをつけよう。モリー、里の内側ならばいくら見せても構わぬが、外に出ぬようにな」
スケサンは手短にホネイチたちに指示をし、モリーを送り出した。
「はあ、なんだか疲れるやつらだな」
わざわざこんなところまで来るのだから、もっと勇ましいヤツを想像したが……あのコスタスとやらはイマイチよく分からない。
「うむ、ずいぶんと権威主義というか話したがりのようだ。恐らくコスタスとやらは宗教の布教も兼ねているのではないか?」
「なるほどねえ、わざわざここまでくる探検家っていうからもっと荒くれ者かと思ったぞ」
しばらく後に戻ってきたコスタスは興奮した様子でモリーに質問を繰り返していた。
「その様子ならモリーの案内は満足してもらえたようだな。質問もいいが食事にしようじゃないか」
館に備えられた4つのかまどはフル回転し、パンや煮物が続々と器に盛られていく。
その様子を見たコスタスたちは「これは銅、これはオリハルコンだ」と驚いていた。
そして集まった者が気がねなくヒョイヒョイと料理を取っていくことにも驚いている。
忙しいやつらだ。
「このような宴を開催いただき、まことに恐縮です」
「ああ、気にするな。わりと普段から人は集まるし、飲み食いするからな。今日は少し増えただけだ」
魚とアワを魚醤で煮た粥。
肉と骨とイモの煮込み。
潰したイモとアワのパン。
幼虫を焼いたのもある。
ニンジンとキノコとウリを煮込んだウサギ人の料理もあるが、これは俺は苦手だ……肉を食わせて欲しい。
ちょっとばかし見栄を張った部分もあるが、食事はいつも通りの延長だ。
そのかわり酒は色々と並べた。
「このオリハルコンとはどのような鉱石から作られるのですか?」
「俺も詳しくは知らんが、賢者の石があれば作れるらしいぞ。そんなことより酒を飲み比べてみろ。オリハルコン、銅、陶器、木盃、同じ酒でも全て味が違うだろう?」
コスタスは「そんなことが」と疑っていたが、飲ませたら目を白黒させていた。
「ほ、本当に味が違う! いったい……?」
「はは、そんなことは知らんが、さまざまな器が並べてある理由が分かったか? 好きな器で飲み食いすればいい」
コスタスの従者たちも同じように飲み食いさせていたが、酔いが回ったらしくトラ人とケンカをはじめたので放り出した。
表では何人も観戦して盛り上がっているようだ。
「ははは、ケンカをするほど飲んでくれるとは、もてなした甲斐があったな」
「はい、ですがそろそろ止められますよ」
コナンの予言通りにスケサンが割って入り、柔で数人をぶん投げて鎮圧していた。
「スケサンはな、かつてこの地に王国を築いた精霊王に仕えた武人なんだ。その古の技はコナンや俺も習っているぞ」
「いや、まあ、ちょっと比べ物にはなりませんけどね」
俺とコナンの話を聞き、コスタスの従者たちが我も我もとスケサンに挑んでボコボコにされてたのはいい余興になった。
どうでもいいけど、エッチな格好の女戦士が骨に苦しめられてる姿をもっと見たかったぞ。
スケサンはもてなしの心が足りないんじゃないのか。
しかし、コスタスはベレニケのエッチな衣装に無関心の様子だ。
ひょっとして人間の社会では当たり前なのだろうか?
ウチでも流行らせてみたいものだ
「スケサンどのの技は魔術のようです。相手が自分から倒れているようにすら見えます」
「たしかに魔術のようなものかもな。俺も何年も修行したが身につかん」
適当なとこでスケサンも切り上げ「お騒がせした」とコスタスに謝罪したが、これには苦笑してしまう。
スケサンも脅しつける意味で技を振るったのだろう。
見栄も含まれていたはずだ。
宴会はだらだらと続き、コスタス一行がぐでんぐでんに酔っ払った時点でお開きになった。
酔った勢いでコスタスからオリハルコンを分けてくれっていわれたが、それはヘビ人との関係もあるからお断りする他はない。
翌日は二日酔いで探検家一行は青い顔をしていた。
コスタスは調査とやらだろうが、酷い顔色のまま熱心に誰かを捕まえてはなにかを訊ねているようだ。
「里の者は仕事もあるからな。俺が聞いてやるよ」
皆が何日もコイツらにかまけているわけにもいかない。
コスタスは恐縮しつつも遠慮なしに質問を重ねてきた。
「ごちゃ混ぜの里にはどれほどの歴史があるのですか?」
「ん? 歴史なんてないぞ。この規模になったのは地震からだな」
この言葉にコスタスはブツブツと口を動かし、しきりになにかをメモしていた。
時には左右の従者たちになにかを確認しているようだ。
「ここに至るまでにワーウルフの国でガイ首長とお会いしました。あのような国はいくつあるのですか?」
「ワーウルフとはオオカミ人のことか。まあ、いくらかはある。他の里について教えることはできないぞ」
オリハルコンに興味があるのなら、うかつにヘビ人の集落については口にできない。
すこし苦しいがごまかしておく。
他にもいくつか質問があったが、あまり納得のいく回答はできなかったようだ。
俺は里長ではあるが、なにかの専門家ではない。
コスタスはなんだかんだと理由をつけて里から出たがったが、それは許可せずに追い返した。
彼らはその後、オオカミ人の集落から舟で遡上したようだが、これはリザードマンの里から襲撃されて逃げ帰ったらしい。
結局、なにしに来たのか分からないが、彼らなりの成果はあったようだ。
こうして、里と森の外の初めての接触が終わる。
よく分からんが、手土産も持たせたし、こんなものじゃないかねえ?
■■■■
浮気をしないための工夫
森の中は意外と一夫一婦制の獣人が多い。
これは多くの女性に森の限られた生活資源を配るのではなく、特定の女性にリソースを集中することで遺伝子を残そうとする繁殖戦略かもしれない。
ごちゃ混ぜ里では、甲斐性があれば複数の妻を持つことは問題ないが、里長のベルクがアシュリン一筋(に見える)ために堂々と行う者はいないようだ。
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大魔導士からの手紙を読むと勝手に継承魔法が発動し、多大な苦痛と引き換えに大魔導士の魔法、スキル、レベルを全て継承した。元の世界と異世界を自由に行き来できるようになり、大魔導士の力を継承した正義は異世界と日本をどちらもその圧倒的な力で無双する。
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
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