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48話 ヘビ人がきたぞ

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 里の復旧は徐々に進んだ。
 バーンと妊婦のナイヨの家からはじまり、次々と家を立て直していく。
 火災にあわず、倒壊したのみの家は再利用できる。
 建材を集める手間が少ないだけでも時間の短縮になった。

 復旧作業とはいえ、家を作るのは慣れたものだ。
 ただ、少しだけ作り方を変えた。
 地震を意識して柱を増やし、斜めにも補強の木材を入れる。
 雪対策で入れたような柱も常設にした。
 これにより構造的に大きくなり、家のサイズが大きくなるが、特に問題はない。
 復旧作業のついでに里の立ち木も伐採し、土地を広げたのだ。

 これらの作業を進め、ようやく全員の家ができる頃にはすっかり暖かくなっていた。

 少し遅くなってしまったのは地震のためか、里を襲撃したり泥棒にくるバカがたまに出るようになってしまったためだ。
 このため、バーンやピーターなど、外に出ることが多い者は銅の板を腰から吊し、変事があるとこれを鳴らして皆に知らせる仕組みとした。
 襲撃自体は規模は小さく、数人といったところだ。

 それよりも夜中に盗みを働きにくるやつらには手を焼いている。
 こちらはスケサンとホネイチが見張ってくれているので大きな被害はないものの、イモを盗む運のいいやつもいるので憎たらしい。
 俺たちの恐ろしさを伝えるために、襲撃者も盗人も半殺しにして追放してるが……どこまで効果があるかは難しいところだ。

 春も盛りを過ぎ、しばらくすると返しの雨と呼ばれる大雨が降る。
 少しずつ進んだ復旧も、ついに完成するのだ。

「棚はぐるりと囲むように置こう」
「はい、入り口から入れますので受け取って下さい」

 俺とコナンはナイヨの指導のもとで新しい建物を造っていた。
 今は仕上げに内装を行っている。

「ようやくできたな」
「ええ、コイツは特別ですよ」

 俺は建物の中に、大切に取ってあった母ヤガーの頭骨を据えた。
 この建物は神殿、いままでのごちゃ混ぜ里にはなかった施設――つまりこれは復旧ではなく復のシンボルだ。

 造りもナイヨの指導の元でいままでにない工法となっている。
 地面よりも掘り下げ、ドワーフの技で固く突き固めてある。
 そして入り口は俺が屈んでやっと入れる程度の狭いものだ。
 これは産道である。
 ここで祈り、新たに生まれ変わって外の世界にもどる――地震から再生し、より強く生まれ変わる里をイメージした神殿なのだ。

 完成させて、外に出ると皆が「わっ」と喚声をあげた。
 皆がいまかいまかと外で待ちわびていたのだ。

 今年は復旧のためにバタバタしてできなかった『春を呼ぶ祭り』がやっと開催される。
 これはこの里では大切なことなのだ。

「よくできてるよ。中も見せとくれ」
「あっ、私も見たいです」

 ナイヨとモリーが中に入り、なにやら感心している。

「中にはまだヤガーの頭骨しかないからな。皆が置きたい神体を置いていいんだぞ」
「あはっ、ご、ごちゃ混ぜ神殿だな」

 アシュリンが笑うが、この神殿はなにを置いてもいい『ごちゃ混ぜ』の神殿なのだ。
 ルールは1つ、ここに入ればなんの神様だろうが敬意をはらう。
 それだけだ。

「でも神様同士でケンカしないっすかね?」
「ふむ、この里の様子を見る限りでは大丈夫ではないかね?」

 バーンの心配ももっともだが、スケサンのいう通りだ。
 この里では様々な種族が、それなりに譲り合いながら笑って暮らしている。
 人にできて神様にできない道理はない。

「俺は戦神、エルフは祖霊か?」
「ううん、わ、私たちは祖霊を祀れないから森になると思う」

 俺は「そうか」と頷くだけだ。
 別になにかを強要するわけでもない。

 女ウシカと女ケハヤが料理を運び、宴会となる。
 もちろん酒もだされた。

「リザードマンはなにを信仰してるんだ?」
「我らは大蛇だ。世界のはじまりは大きなヘビが産んだ卵のカラから始まったといわれている」

 初めてリザードマンの創世記を聞いたが、かなり独特だ。
 いわれてみればリザードマンはヘビを食べない。

「か、カラから始まったのか? 中身はどうなったんだ?」
「中からはさまざまな生き物が産まれた。カラは大地となり、そこから全てが産まれたのだ」

 なんとなく、そのままリザードマン創世記を聞く会になり、皆で酒を飲んで騒ぎながら大蛇の置物を作る会になってしまった。

 祭りはなにをすると決まっているわけじゃない。
 こんな日があってもいいじゃないか。

 こうして、神殿には大量の大蛇の置物が安置されることになった。



☆★☆☆



 翌日、不思議な客があった。
 上半身が人、下半身がヘビの姿――ヘビ人だ。
 神殿の大蛇たちの引き合わせだろうか。

 彼らは足がないためか、ドワーフに背負い子しょいご(長方形の枠)で背負われるように運ばれてきた。

「ヘビ人カオ氏の長、カオ・バン・クオンである。これなる供はドワーフのサイモン」
「歓迎するぞ、俺はごちゃ混ぜ里のベルクだ」

 ヘビ人は3人、代表は立派な体格の初老の男だ。
 担いできたドワーフも3人である。
 暖かい季節だというのに彼らは毛皮の服を身につけているが、暑くないのだろうか?

「えーっと、カオ・バン・クオンさんは――」
「長ければカオと呼んでくれ。氏族は誇りだからな」

 ヘビ人の長はなかなか気さくらしい。
 彼は「手土産だ」と銅で作られた鎌のような剣を2ふり差し出した。
 ヘビ人独特の武器らしい。

「銅は貴重だ。これはありがたい、こちらからは――コナン、なにかあるか?」
「はい、かさ張るものは持ち運びが難しそうですし、衣服はどうでしょうか?」

 コナンはエルフの繊維でできた服とパコの毛でできた服を何枚も重ねて持ってきた。
 暖かくなり、パコの冬毛はピーターが刈り取っていた。
 ちなみに毛刈りの道具はナイヨが作った銅のハサミである。

「これは素晴らしい贈り物だ。我らは寒がりでな、衣類はありがたい」

 どうやら喜んでくれたようである。
 そういえばヘビは寒さに弱く冬は見ない。
 似たような姿を持つヘビ人も寒がりらしい。

「それで、なにか用事があるんじゃないのか?」
「うむ、実はな――」

 彼らのヘビ人は洞穴や岩だなを利用し、必要に応じて掘削し、拡げながら生活をする種族らしい。
 カオ氏族の住まいは洞穴の奥に湧水がある理想的な環境であったが、先日の地震で湧水が枯れてしまったそうだ。

 なぜドワーフがいるかというと、洞穴に住むヘビ人と土木工事が得意なドワーフは相性がよく共生関係にあるのだとか。
 ヘビ人はドワーフに洞穴の掘削や整備を依頼し、生活の面倒をみるらしい。

「そこでサイモンらドワーフに頼んで周辺の調査をしたところ、ごちゃ混ぜ里の近くに泉が湧いたと知ったのだ。我らの移住を認めてはもらえまいか」
「なるほどねえ、どう思う?」

 俺が訊ねると、皆がそれぞれの意見を出し合う。
 まず食いついたはバーンとコナンだ。

「あの岩場はウチと近すぎるっす。お互いに面白くないことになるっす」
「そうですね、大規模な移住となると……ちょっと難しいのではないでしょうか」

 どうもワイルドエルフは縄張り意識が強い。
 この2人はあまり移住者を好まない傾向があると思う。

「いや、ヘビ人の狩猟は待ち伏せが主であるし、もし獲物が重なる時があれば退こう」

 この譲歩には少々面食らったが、彼らヘビ人は優秀な狩人らしい。
 なんと体温を感じとることができるらしく、小さな弓で小動物を仕留めるのが得意なんだとか。

「あの洞穴はスケサンが住んでたわけだし、いいのか?」
「うむ、あの岩場には私が行き倒れの骨を集めている場所があるのだ。そこを今後も使わせてもらえるならば問題ない」

 ぜんぜん知らなかったが、スケサンは地震のあとに行き倒れを見つけては遺骨を集めているのだそうだ
 ホネイチが生まれたのもその場所らしい。
 これは特に問題なく了承された。

「なら問題はないな」
「すまぬ、我ら17人のヘビ人と4人のドワーフを代表して感謝を。カオ氏族は絶え果てるまでごちゃ混ぜの里とは決して争わぬ」

 カオが頭を下げたことで話はついた。
 これ以後、ヘビ人とはほどよい距離感を保ちながら友好的な関係を結ぶことになる。

 デメリットは多少狩場が窮屈になっただけだ。

「泥棒が怖いし、近くに仲のいい里がいるのは安心です」
「故郷の里も、物々交換の先が増えれば雨季が楽になる。ありがたいことだ」

 モリーとウシカは喜んでいるようだ。

「そうだ、大きな食堂を造るんだろ? サイモンさんらに協力を頼んでもいいんじゃないかい?」
「そうだな、ヘビ人の住処が一段落したら協力して欲しい。大きな家を造りたいんだよ。もちろん礼はするぞ」

 この申し出にサイモンは二つ返事で引き受けてくれた。
 まだまだ先になるだろうが頼もしいことだ。

 里だけでなく、周囲にも少しずつ人が増えていく。
 人が増えれば自然に行き来し、いろいろなモノが手に入る。
 俺たちの生活もかなり変わってきた。



■■■■


ヘビ人

上半身が人の姿、下半身がヘビの姿をしている。
特殊な器官を持ち、サーモグラフのように温度を感じることができるらしい。
これにより、隠れている小動物を見つけ出し、小さな弓で巧みに仕留めるのが得意。
洞穴などを住処とし、水辺を好む。
体温の変化に弱いのでオッパイ丸出しで生活はしない。
いわゆるラミア。
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