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17話 好色学園エステバン?
2 皇子と王子
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終業のホームルームが終わり、15時45分に下校する。
賑やかだった登校とは違い、下校は一人だ。
歩いて最寄りの駅まで向かい、電車で繁華街に移動する。
うちの学校は原則バイト禁止なのだが、俺は『母子家庭』という事情を説明して許可を得ていた。
まあ、将来やりたいことは特にないし、進学も希望してないから社会に慣れるのは悪くないと思う。
俺のバイト先は繁華街にある回転寿司アトミックボーイだ。
これは有名な回転寿司チェーンのパチモンだが、なかなか繁盛しており、店員やバイトが常に4~5人いる。
俺は裏口から入り「ちゃーっす」と適当な挨拶をしながらタイムカードを押す。
「えっへっへ、エステバンよお、今日はアルとキモンが両方休みなんだあ。ツケ場で巻物と軍艦たのむぜえ」
いきなり筋肉モリモリの巨漢ハゲ店長ロレンツォが声をかけてきた。
基本的に夜はロレンツォと店員のアルとキモンの3人で店をまわすのだが、2人も休みとは珍しい。
「あいよ、木曜日だしツケ場は2人でまわるだろ」
「えっへっへ、お前は器用だからなあ。学校なんてさっさと辞めてウチに入れよお」
このロレンツォ、見た目もヤクザだが、言うことも酷い。
俺は「考えとく」と適当にあしらってツケ場に入った。
……ふん、なにがウチに入れだ。すぐに潰れるの知ってんだぞ。
数年後、 アトミックボーイは有名なネズミのキャラクターを丸パクリして『マイキーマウス』というマスコットを使いはじめる。そしてその後、色々あって廃業した。
世の中、敵にまわしたらアカン企業はあるのだ。
……ん? あれ? なんで俺はこの店が潰れるのを知ってるんだ?
俺は首をかしげるが、よく考えたら未来のことなど知るよしもない。
「気のせいかな?」
よく分からない考えは捨て、仕事に集中することにした。
軍艦はすでに成形してあるシャリに海苔をまくだけだし、巻物もコツを掴めば形は誰でも作れる。あとは適当に威勢のいい声を出せばいい。
その後、客が引き始める8時30分頃まで働き、タイムカードを押して帰宅した。
家に帰ると、見慣れたスクールローファーが並んでいる。俺の部屋でシェイラがゲームをしているようだ。
ストツーをやっているが、これは俺の持っていないソフトだ。
コイツは本体持ってないくせにウチでやるためにソフトを買っているらしい。
「あっ、エステバン聞いてくれよっ! ファビオラさまが酷いんだ!」
俺を確認するや、いきなりシェイラが抱きついてきた。
健全な男子なら「うおっ」となるのかも知れないが、立ち仕事の後なのでやめてほしい。
「あのなー、入学してからすぐテストあるだろ?」
「あー、あるな」
俺は進学の意思がないのでテストはわりとどうでもいいが、バカ高校にもテストはある。
「テストがなっ、悪いからって勉強しろって言うんだっ。入試終わったばっかりなのに酷いだろ?」
「うーん、赤点あったのか?」
シェイラはコクリと頷き「うん、4つ」と答えた。
ちなみに赤点は平均点の半分以下、6科目のはずだからマジのバカだな。
たぶんファビオラはこのままでは卒業できないと思ったんだろう。
「お前バカだな」
「ひ、ひどいぞっ!」
ちなみにシェイラの答案を見たら、ほぼ選択問題しか正解がなかった。
英語の穴埋めは全部『and』って書いてある……酷すぎだろ。
しかも歴史のテストなんか穴埋めで『中大兄皇子』って書かなきゃいけないとこで『ベジータ』って書いてあるぞ。 ベジータなわけねえだろ。
「お前バカだな」
「何べんも言うなよっ!」
シェイラが「エステバンひどいぞ」とべそをかき始めたからいじめるのはやめた。
「悪かったよ。勉強するのか?」
「うん……明日から家庭教師が来るらしいんだ」
シェイラは長い耳をぺたんと倒してしょげている。
感情が耳に出るからわかりやすい。
「ふうん、いいじゃないか。塾とかだと周りのペースもあるけど、家庭教師の方がシェイラには合ってるかもな」
このままではバカすぎて周りのペースには合わせられないだろうとはさすがに言えない。
「どんな人が来るんだろうな? キレイなお姉さんなら俺も一緒に勉強するかな」
「ファビオラさまが呼んでくる家庭教師なんだぞ、ゴルゴみたいに怖いに決まってるだろ!」
良くわからんがシェイラはふがふがと喚き、ファビオラの非道を訴えてくる。
「明日は金曜だし、バイトないんだろ? 勉強が始まるまで一緒にいてくれ」
「うーん、それもどうなんだ?」
なんだかよく分からないが、俺もシェイラの家庭教師と会うらしい……妙な約束をしてしまった。
――――――
そして翌日19時30分ごろ、そいつは来た。
「はじめまして。私が聞いていたのは一人だけだった気がするのだが……ずいぶんと数が多いね」
そいつ――ハルパスと名乗る大学生は皮肉げに笑う。
俺の本能が『こいつ苦手だ』と警告している。
なぜか面白がって同席していたレーレが「ひええ、男前だよお」と喜んでいる。
たしかにこのハルパス、役者のような顔立ちだが……ボサボサの長髪にセクシーな無精ヒゲ、赤いシャツの胸元をやたらはだけていてホストにしか見えない。
頭から生えるヤギのような角が禍々しい。
「くっくっく、仲良し3人組ってわけかい? だが、こちらも仕事だ。90分だけ待ってもらわねばな」
「そうだね、じゃあボクたちはこれで。エステバン行こっ」
俺はレーレに引きずられるようにしてシェイラの家をでて、そのまま帰宅した。
なぜかレーレがついてきている。
「あー、セインツ聖矢あるじゃん。ちょっと読んでいい?」
「いいけど……お茶でも飲むか?」
レーレは「あ、おかまいなくー」と軽いノリで答えてマンガを1巻から読み始めた。
長居する気まんまんじゃねえか。
俺は台所でお茶を入れ、お盆のままレーレに「ほれ」と差し出した。
「ありがと。シェイラの家庭教師だけどさー」
「……ハルパスか、どうも苦手だな」
なぜかわからないが、ハルパスには苦手意識がある。
初対面のはずなのに、全く理解できない感情だ。
「きしし、やきもちやいてるんだ」
「うーん、それとも違う気がするんだけどな」
レーレが俺に向かい合い、顔をのぞきこんでくる……近い。
「なんだ?」
「ね、シェイラが心配?」
レーレの手が、俺の手に重なる。
「まあ、あの成績はなあ……」
「そうじゃなくてさ、エステバンはシェイラの事が好きでしょ? 女の子として」
これには答えに窮した。
シェイラのことは確かに好きだ。
だが、身近すぎて恋愛対象かそうでないかは曖昧だ。
「ね、ボクじゃダメかな……?」
レーレの手が、俺の手を胸元に誘う……意外に硬い感触に驚いたが、ブラジャーの硬さだと気がついた。
彼女が耳元で「好きだよ」と甘くささやく。
そのまま唇が重なった。
「エステバン、私のものになって」
また、違和感を知覚した。
違和感が輪郭をもち、ハッキリとした形となる。
『どうした? 私に従え、エステバン』
その声を聞き、俺はあるはずのない剣を抜き放ち、そのまま声を狙って突き刺した。
骨を断ち、肉を貫く感触が手に伝わる。
「なっ!? が、がはっ……ばかな」
目の前で暗色のローブを着た初老の男が血を吐いた。
この男は魔導師マンハリン。
エスコーダという地方貴族家に伝わる秘宝『イプノティスモの瞳』と呼ばれる宝石を盗み出した。
この宝石は強い魔力を込めて相手の名を呼ぶと意識を奪い、意のままに操ることができると言われる秘宝中の秘宝だ。
今回の依頼はイプノティスモの瞳の奪還だった。
正直、やばかったと思う。
実際にマンハリンの魔力は強く、俺の意識は半ば以上うばわれていた。
抵抗できたのは俺の『田嶋昭広』の部分が残っていたためだろう。
「な、な、なぜ、私の魔力……より、も、強いのか……?」
「あいにくだが、男のものになる趣味はなくてね」
そのまま俺はマンハリンの首に剣を叩き込み、はね飛ばした。
賑やかだった登校とは違い、下校は一人だ。
歩いて最寄りの駅まで向かい、電車で繁華街に移動する。
うちの学校は原則バイト禁止なのだが、俺は『母子家庭』という事情を説明して許可を得ていた。
まあ、将来やりたいことは特にないし、進学も希望してないから社会に慣れるのは悪くないと思う。
俺のバイト先は繁華街にある回転寿司アトミックボーイだ。
これは有名な回転寿司チェーンのパチモンだが、なかなか繁盛しており、店員やバイトが常に4~5人いる。
俺は裏口から入り「ちゃーっす」と適当な挨拶をしながらタイムカードを押す。
「えっへっへ、エステバンよお、今日はアルとキモンが両方休みなんだあ。ツケ場で巻物と軍艦たのむぜえ」
いきなり筋肉モリモリの巨漢ハゲ店長ロレンツォが声をかけてきた。
基本的に夜はロレンツォと店員のアルとキモンの3人で店をまわすのだが、2人も休みとは珍しい。
「あいよ、木曜日だしツケ場は2人でまわるだろ」
「えっへっへ、お前は器用だからなあ。学校なんてさっさと辞めてウチに入れよお」
このロレンツォ、見た目もヤクザだが、言うことも酷い。
俺は「考えとく」と適当にあしらってツケ場に入った。
……ふん、なにがウチに入れだ。すぐに潰れるの知ってんだぞ。
数年後、 アトミックボーイは有名なネズミのキャラクターを丸パクリして『マイキーマウス』というマスコットを使いはじめる。そしてその後、色々あって廃業した。
世の中、敵にまわしたらアカン企業はあるのだ。
……ん? あれ? なんで俺はこの店が潰れるのを知ってるんだ?
俺は首をかしげるが、よく考えたら未来のことなど知るよしもない。
「気のせいかな?」
よく分からない考えは捨て、仕事に集中することにした。
軍艦はすでに成形してあるシャリに海苔をまくだけだし、巻物もコツを掴めば形は誰でも作れる。あとは適当に威勢のいい声を出せばいい。
その後、客が引き始める8時30分頃まで働き、タイムカードを押して帰宅した。
家に帰ると、見慣れたスクールローファーが並んでいる。俺の部屋でシェイラがゲームをしているようだ。
ストツーをやっているが、これは俺の持っていないソフトだ。
コイツは本体持ってないくせにウチでやるためにソフトを買っているらしい。
「あっ、エステバン聞いてくれよっ! ファビオラさまが酷いんだ!」
俺を確認するや、いきなりシェイラが抱きついてきた。
健全な男子なら「うおっ」となるのかも知れないが、立ち仕事の後なのでやめてほしい。
「あのなー、入学してからすぐテストあるだろ?」
「あー、あるな」
俺は進学の意思がないのでテストはわりとどうでもいいが、バカ高校にもテストはある。
「テストがなっ、悪いからって勉強しろって言うんだっ。入試終わったばっかりなのに酷いだろ?」
「うーん、赤点あったのか?」
シェイラはコクリと頷き「うん、4つ」と答えた。
ちなみに赤点は平均点の半分以下、6科目のはずだからマジのバカだな。
たぶんファビオラはこのままでは卒業できないと思ったんだろう。
「お前バカだな」
「ひ、ひどいぞっ!」
ちなみにシェイラの答案を見たら、ほぼ選択問題しか正解がなかった。
英語の穴埋めは全部『and』って書いてある……酷すぎだろ。
しかも歴史のテストなんか穴埋めで『中大兄皇子』って書かなきゃいけないとこで『ベジータ』って書いてあるぞ。 ベジータなわけねえだろ。
「お前バカだな」
「何べんも言うなよっ!」
シェイラが「エステバンひどいぞ」とべそをかき始めたからいじめるのはやめた。
「悪かったよ。勉強するのか?」
「うん……明日から家庭教師が来るらしいんだ」
シェイラは長い耳をぺたんと倒してしょげている。
感情が耳に出るからわかりやすい。
「ふうん、いいじゃないか。塾とかだと周りのペースもあるけど、家庭教師の方がシェイラには合ってるかもな」
このままではバカすぎて周りのペースには合わせられないだろうとはさすがに言えない。
「どんな人が来るんだろうな? キレイなお姉さんなら俺も一緒に勉強するかな」
「ファビオラさまが呼んでくる家庭教師なんだぞ、ゴルゴみたいに怖いに決まってるだろ!」
良くわからんがシェイラはふがふがと喚き、ファビオラの非道を訴えてくる。
「明日は金曜だし、バイトないんだろ? 勉強が始まるまで一緒にいてくれ」
「うーん、それもどうなんだ?」
なんだかよく分からないが、俺もシェイラの家庭教師と会うらしい……妙な約束をしてしまった。
――――――
そして翌日19時30分ごろ、そいつは来た。
「はじめまして。私が聞いていたのは一人だけだった気がするのだが……ずいぶんと数が多いね」
そいつ――ハルパスと名乗る大学生は皮肉げに笑う。
俺の本能が『こいつ苦手だ』と警告している。
なぜか面白がって同席していたレーレが「ひええ、男前だよお」と喜んでいる。
たしかにこのハルパス、役者のような顔立ちだが……ボサボサの長髪にセクシーな無精ヒゲ、赤いシャツの胸元をやたらはだけていてホストにしか見えない。
頭から生えるヤギのような角が禍々しい。
「くっくっく、仲良し3人組ってわけかい? だが、こちらも仕事だ。90分だけ待ってもらわねばな」
「そうだね、じゃあボクたちはこれで。エステバン行こっ」
俺はレーレに引きずられるようにしてシェイラの家をでて、そのまま帰宅した。
なぜかレーレがついてきている。
「あー、セインツ聖矢あるじゃん。ちょっと読んでいい?」
「いいけど……お茶でも飲むか?」
レーレは「あ、おかまいなくー」と軽いノリで答えてマンガを1巻から読み始めた。
長居する気まんまんじゃねえか。
俺は台所でお茶を入れ、お盆のままレーレに「ほれ」と差し出した。
「ありがと。シェイラの家庭教師だけどさー」
「……ハルパスか、どうも苦手だな」
なぜかわからないが、ハルパスには苦手意識がある。
初対面のはずなのに、全く理解できない感情だ。
「きしし、やきもちやいてるんだ」
「うーん、それとも違う気がするんだけどな」
レーレが俺に向かい合い、顔をのぞきこんでくる……近い。
「なんだ?」
「ね、シェイラが心配?」
レーレの手が、俺の手に重なる。
「まあ、あの成績はなあ……」
「そうじゃなくてさ、エステバンはシェイラの事が好きでしょ? 女の子として」
これには答えに窮した。
シェイラのことは確かに好きだ。
だが、身近すぎて恋愛対象かそうでないかは曖昧だ。
「ね、ボクじゃダメかな……?」
レーレの手が、俺の手を胸元に誘う……意外に硬い感触に驚いたが、ブラジャーの硬さだと気がついた。
彼女が耳元で「好きだよ」と甘くささやく。
そのまま唇が重なった。
「エステバン、私のものになって」
また、違和感を知覚した。
違和感が輪郭をもち、ハッキリとした形となる。
『どうした? 私に従え、エステバン』
その声を聞き、俺はあるはずのない剣を抜き放ち、そのまま声を狙って突き刺した。
骨を断ち、肉を貫く感触が手に伝わる。
「なっ!? が、がはっ……ばかな」
目の前で暗色のローブを着た初老の男が血を吐いた。
この男は魔導師マンハリン。
エスコーダという地方貴族家に伝わる秘宝『イプノティスモの瞳』と呼ばれる宝石を盗み出した。
この宝石は強い魔力を込めて相手の名を呼ぶと意識を奪い、意のままに操ることができると言われる秘宝中の秘宝だ。
今回の依頼はイプノティスモの瞳の奪還だった。
正直、やばかったと思う。
実際にマンハリンの魔力は強く、俺の意識は半ば以上うばわれていた。
抵抗できたのは俺の『田嶋昭広』の部分が残っていたためだろう。
「な、な、なぜ、私の魔力……より、も、強いのか……?」
「あいにくだが、男のものになる趣味はなくてね」
そのまま俺はマンハリンの首に剣を叩き込み、はね飛ばした。
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