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16話 ゆれる乙女心
3 靴工房は楽しいぞ
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翌日、早朝
「ねーねー、本当にシェイラだけで大丈夫なのかな?」
「心配は心配だが、一人で依頼をこなしたことはあるし、大丈夫だろ」
身支度を整える俺に、レーレが心配げに話しかけてきた。
なんだかんだでシェイラも7等の冒険者だ。そろそろ一人前と言われるレベルではある。
単独の依頼をうけてもおかしくはない。
「ただ豚人は心配だ。春が終わるまで城壁のあるこの町で滞在するのが安心かもしれないな」
春は豚人の発情期だ。
生殖力の旺盛な豚人は異種族の女とも交配が可能なため、女を狙って人里深くまで現れるときがある。
それゆえに思わぬ場所で結構な被害が出るのだ。
だが、城壁のあるこの町ならばシェイラが一人でも豚人に襲われることはまずない。
「ふうん、心配なんだ?」
レーレが「きしし」と奇妙な笑い声と共につんつんと突ついてくる。
「ああ心配さ。さあ、俺たちはお姫様を守るために豚人退治だぞ」
「ひええー、シェイラって愛されてるんだー」
俺とレーレは軽口を言いながら部屋を出る。
隣の部屋は静まり返っているが、シェイラはまだ夢の中らしい。
「シェイラは寝坊助だねー」
「こんなんで単独の依頼でやっていけるのかね?」
俺とレーレは顔を見合わせて笑う。
ここからは豚人退治の時間だ。
――――――
【シェイラ】
シェイラの朝は遅い。
エステバンらが出掛けてしばらく後に目を覚まし、もそもそと身支度を整える。その後、急ぐでもなく宿屋の食堂でたっぷりと食事をした。
この宿は酒場も兼ねているために食事ができる。
支払いはエステバンに請求されるのだが、そこに全く気がつかないあたり、シェイラはいい性格をしている。
宿を出たあとは表通りで旅芸人の手品に喜んだり、青果売りの露天で夏ミカン(春が旬)を買い食いしたり、たっぷりと道草をくいながら冒険者ギルドにたどり着いた。
「こんな時間に仕事なんざありゃしねえよ」
依頼の帳面をめくるシェイラに支配人のアレシュがぼやくが、さほど大きくもないロカソラーノの町では出遅れた冒険者にロクな仕事はない。
しかし、帳面をめくるシェイラは真剣である。
口をへの字に曲げながらうんうんと唸っている。
「これ、この仕事はどんなのですか?」
シェイラが示す依頼書には『靴職人助手』とある。
それを見たアレシュは難しい顔をした。
アレシュが「そいつはなあ、ちとワケありだぜ」と語るが、内容は特別なものではない。
そもそも、職人の下働きなどは職人ギルドで紹介されるものだ。
だが、この依頼主の靴職人ファンとは若さに見合わず大変な偏屈ものだった。
腕も良いのだがこだわりが強すぎててんで儲けにもならないような仕事ばかりすると評判なのだ。
こだわりの材料と細工にばかり熱を上げて利益にならず、気に入らない仕事には見向きもしない。
当然、金はないし身の回りの世話をするような弟子や女房など寄りつかない。
それでもいっぱしの親方だから工房はある。
工房の掃除など、身の回りの世話をする下働きを職人ギルドに頼んでいるのだが、人を派遣してもファンが「はいている靴が気に入らない」だの「道具の触りかたが気に入らない」だのと文句をつけて追い返してしまうのだ。
下働きは弟子ではない。道具の扱いなどわからないし、ましてこだわりの強いファンが唸るような靴をはいているはずがない。
とうとう職人ギルドは匙を投げ、ファンは仕方なしに冒険者ギルドに依頼を出したのだ。
だが、その結果は推して知るべし。こうして未だに依頼が残っているのである。
「払いも格安だぜ。1日70ダカット」
もともと職人の下働きの口だ。そう考えれば妥当か、やや割高だが……これではシェイラの宿賃にしかならない。
だが、そんな事情はエステバンに生活費を任せている彼女には関係がなかった。
「うーん、これにします」
「ええっ? 7等にはもちっとマシな……仕事もねえな」
そう、他にロクな選択肢が無いのも事実である。
アレシュは「もう少し早く来い」などと、くどくどと小言をいいながら受注の手続きをしてくれた。
怖い顔のわりに面倒見の良い男なのだ。
シェイラが「ありがとう」と笑いかけると大照れし「ささっと片付けてきやがれ」と悪態をついた。
女冒険者などは蓮っ葉ばかり、シェイラのような清らかな美人(見た目は)はまずいないのだ。
初な支配人に見送られて冒険者ギルドを出たシェイラは、ふらふらと道草をくいながら靴屋に向かう。
ただでさえ珍しい森人、その姿は実に目立っていた。
――――――
その工房は、道の舗装もされていない裏路地に、ひっそりと佇んでいた。
思いの外に寂れた地区だが、靴職人は臭いのあるニカワ(接着剤)なども扱うため、こうして裏路地に構えるのだ。
コンコンと小槌の音がリズミカルに響く。
ファンは作業中らしい。
「ごめんください」
シェイラが声をかけるが、作業台で小槌を振るう男は無言だ。
汚れ放題の前掛けをした痩せた若い職人――無精髭にボサボサの髪型だが、真剣そのものの表情は精悍さを感じさせる。
無視をする様子でなし、集中しているのだろう。
邪魔をするのも悪いし、シェイラは黙って工房を観察することにした。
男やもめの工房はひどく散らかっている。
奥は住居になっているようだが、この様子ではひどい有り様だろう。
仕事以外には頓着しないタイプらしい。
しばらくファンを眺めていると、靴を睨みながら右手の道具棚を手探りはじめた。
どうやらヤスリを探しているのだとシェイラは察し、ファンの手にそっと乗せてあげた。
ファンは無言で受け取り、作業を続けるが、ふと何かに気がつき顔を上げた。
「客か? 今は手が離せくてね。悪いが出直してくれ」
ファンは無愛想にそれだけを告げ、靴に向かう。
「あの、冒険者ギルドから手伝いにきました」
改めて声をかけるとファンはジロジロとシェイラを眺め「いい靴だ」と呟いた。
「手入れもできている。工房の掃除をしてくれ」
それだけを告げるとファンは作業に戻った。
あまりと言えばあまりな態度だが、嫌な感じはしない。
この靴はレーレが仕立て、必要に応じて修理してくれているものだが、手入れはシェイラがしている。
なんだか褒められた気分になって嬉しかった。
シェイラは上機嫌で工房を片付け、余った時間で刃物を研いだ。
意外に思われるかもしれないが、彼女は片付けが得意だ。
これは常日頃から冒険者の心得だとエステバンに整理整頓を仕込まれていたからである。
それに刃物の手入れは狩人の頃からの得意だ。
夕方になり、手を休めたファンは疲れきった様子で冒険者ギルドへの依頼完了の書類へサインをした。
そして愛想なく「明日も頼む」と言ったきり、戸締まりもせずに住居へフラフラと消えた。
こうして、シェイラの仕事は決まった。
翌日からシェイラは甲斐甲斐しく働いた。
工房のみならず荒れ放題の住居を片付け、道具を手入れし、汚れきった前掛けを洗濯した。
満足に食事をとっていないファンに食事を作り、髭を剃らせ、髪にも櫛をあてさせた。
時に革や刃物に慣れたシェイラは下職のような真似事もした。
シェイラは楽しかった。
なにしろファンは腕がよいが生活能力がまるでない。
彼女が世話をやかねば食事や着替えもロクにしないのだ。
こうした男性は幼児と同じ、世話焼きの女にとっては酷くかわいいものである。
シェイラは男に尽くす、世話をやく喜びを知ったと言っても良い。
そして身だしなみを整えたファンは思いの外にイケメンだった。
シェイラの食事を喜んで食べるのもポイントが高い。
自分が頼られてると感じてシェイラは楽しかった。
こうして嬉々として通うシェイラが狭い路地裏で噂にならぬはずもなく、偏屈もののファンが森人の美人を捕まえたと評判にならぬわけもない。
刺激に飢えた市民が冷やかし半分で工房に押し寄せた。
もっとも、こだわりの強いファンが野次馬じみた客を追い払ったが、それでも仕事はにわかに忙しくなり、それを助けるシェイラも大いに働いた。
そんなある日のこと、宿で朝食をとるシェイラのテーブルにエステバンとレーレが来た。
なんだか久しぶりだ。
「なかなか頑張ってるみたいだな。靴工房は面白いか?」
エステバンは嫌味なく尋ねてくるが、この余裕がなんとも鼻につく。
あのかわいいファンとは大違いだ。
「ああっ、楽しいぞっ! 昨日なんかな――」
つい、シェイラも靴工房がいかに面白いかを熱っぽく語ってしまう。
レーレは心配そうな顔をしてくれるが、エステバンはそれを見てニヤニヤするばかりだ。
しかも、言うに事欠いて「へえ、その色男に惚れたのか? 」などと言う始末。この言葉には傷ついた。
言った方は何気ない軽口のつもりでも、言われた方はそうでもない場合は往々にしてある――もっとも、普段のシェイラならなんでもない一言だったに違いない。
だが、今の彼女はエステバンの気を引こうとして冷たくしていた(つもり)のだ。
つい、カッとなった。
「そうだよっ! ファンは真面目に毎日働いてるし、他の女とも口きかないし! エステバンとは大違いだっ!」
「あっ、ちょっとちょっと、シェイラまってよ!」
レーレの制止を振り払いシェイラはそのまま席をたった。
……なんか駆け引きって全然楽しくないぞ。
なんだか情けなくなって涙がこぼれた。
「ねーねー、本当にシェイラだけで大丈夫なのかな?」
「心配は心配だが、一人で依頼をこなしたことはあるし、大丈夫だろ」
身支度を整える俺に、レーレが心配げに話しかけてきた。
なんだかんだでシェイラも7等の冒険者だ。そろそろ一人前と言われるレベルではある。
単独の依頼をうけてもおかしくはない。
「ただ豚人は心配だ。春が終わるまで城壁のあるこの町で滞在するのが安心かもしれないな」
春は豚人の発情期だ。
生殖力の旺盛な豚人は異種族の女とも交配が可能なため、女を狙って人里深くまで現れるときがある。
それゆえに思わぬ場所で結構な被害が出るのだ。
だが、城壁のあるこの町ならばシェイラが一人でも豚人に襲われることはまずない。
「ふうん、心配なんだ?」
レーレが「きしし」と奇妙な笑い声と共につんつんと突ついてくる。
「ああ心配さ。さあ、俺たちはお姫様を守るために豚人退治だぞ」
「ひええー、シェイラって愛されてるんだー」
俺とレーレは軽口を言いながら部屋を出る。
隣の部屋は静まり返っているが、シェイラはまだ夢の中らしい。
「シェイラは寝坊助だねー」
「こんなんで単独の依頼でやっていけるのかね?」
俺とレーレは顔を見合わせて笑う。
ここからは豚人退治の時間だ。
――――――
【シェイラ】
シェイラの朝は遅い。
エステバンらが出掛けてしばらく後に目を覚まし、もそもそと身支度を整える。その後、急ぐでもなく宿屋の食堂でたっぷりと食事をした。
この宿は酒場も兼ねているために食事ができる。
支払いはエステバンに請求されるのだが、そこに全く気がつかないあたり、シェイラはいい性格をしている。
宿を出たあとは表通りで旅芸人の手品に喜んだり、青果売りの露天で夏ミカン(春が旬)を買い食いしたり、たっぷりと道草をくいながら冒険者ギルドにたどり着いた。
「こんな時間に仕事なんざありゃしねえよ」
依頼の帳面をめくるシェイラに支配人のアレシュがぼやくが、さほど大きくもないロカソラーノの町では出遅れた冒険者にロクな仕事はない。
しかし、帳面をめくるシェイラは真剣である。
口をへの字に曲げながらうんうんと唸っている。
「これ、この仕事はどんなのですか?」
シェイラが示す依頼書には『靴職人助手』とある。
それを見たアレシュは難しい顔をした。
アレシュが「そいつはなあ、ちとワケありだぜ」と語るが、内容は特別なものではない。
そもそも、職人の下働きなどは職人ギルドで紹介されるものだ。
だが、この依頼主の靴職人ファンとは若さに見合わず大変な偏屈ものだった。
腕も良いのだがこだわりが強すぎててんで儲けにもならないような仕事ばかりすると評判なのだ。
こだわりの材料と細工にばかり熱を上げて利益にならず、気に入らない仕事には見向きもしない。
当然、金はないし身の回りの世話をするような弟子や女房など寄りつかない。
それでもいっぱしの親方だから工房はある。
工房の掃除など、身の回りの世話をする下働きを職人ギルドに頼んでいるのだが、人を派遣してもファンが「はいている靴が気に入らない」だの「道具の触りかたが気に入らない」だのと文句をつけて追い返してしまうのだ。
下働きは弟子ではない。道具の扱いなどわからないし、ましてこだわりの強いファンが唸るような靴をはいているはずがない。
とうとう職人ギルドは匙を投げ、ファンは仕方なしに冒険者ギルドに依頼を出したのだ。
だが、その結果は推して知るべし。こうして未だに依頼が残っているのである。
「払いも格安だぜ。1日70ダカット」
もともと職人の下働きの口だ。そう考えれば妥当か、やや割高だが……これではシェイラの宿賃にしかならない。
だが、そんな事情はエステバンに生活費を任せている彼女には関係がなかった。
「うーん、これにします」
「ええっ? 7等にはもちっとマシな……仕事もねえな」
そう、他にロクな選択肢が無いのも事実である。
アレシュは「もう少し早く来い」などと、くどくどと小言をいいながら受注の手続きをしてくれた。
怖い顔のわりに面倒見の良い男なのだ。
シェイラが「ありがとう」と笑いかけると大照れし「ささっと片付けてきやがれ」と悪態をついた。
女冒険者などは蓮っ葉ばかり、シェイラのような清らかな美人(見た目は)はまずいないのだ。
初な支配人に見送られて冒険者ギルドを出たシェイラは、ふらふらと道草をくいながら靴屋に向かう。
ただでさえ珍しい森人、その姿は実に目立っていた。
――――――
その工房は、道の舗装もされていない裏路地に、ひっそりと佇んでいた。
思いの外に寂れた地区だが、靴職人は臭いのあるニカワ(接着剤)なども扱うため、こうして裏路地に構えるのだ。
コンコンと小槌の音がリズミカルに響く。
ファンは作業中らしい。
「ごめんください」
シェイラが声をかけるが、作業台で小槌を振るう男は無言だ。
汚れ放題の前掛けをした痩せた若い職人――無精髭にボサボサの髪型だが、真剣そのものの表情は精悍さを感じさせる。
無視をする様子でなし、集中しているのだろう。
邪魔をするのも悪いし、シェイラは黙って工房を観察することにした。
男やもめの工房はひどく散らかっている。
奥は住居になっているようだが、この様子ではひどい有り様だろう。
仕事以外には頓着しないタイプらしい。
しばらくファンを眺めていると、靴を睨みながら右手の道具棚を手探りはじめた。
どうやらヤスリを探しているのだとシェイラは察し、ファンの手にそっと乗せてあげた。
ファンは無言で受け取り、作業を続けるが、ふと何かに気がつき顔を上げた。
「客か? 今は手が離せくてね。悪いが出直してくれ」
ファンは無愛想にそれだけを告げ、靴に向かう。
「あの、冒険者ギルドから手伝いにきました」
改めて声をかけるとファンはジロジロとシェイラを眺め「いい靴だ」と呟いた。
「手入れもできている。工房の掃除をしてくれ」
それだけを告げるとファンは作業に戻った。
あまりと言えばあまりな態度だが、嫌な感じはしない。
この靴はレーレが仕立て、必要に応じて修理してくれているものだが、手入れはシェイラがしている。
なんだか褒められた気分になって嬉しかった。
シェイラは上機嫌で工房を片付け、余った時間で刃物を研いだ。
意外に思われるかもしれないが、彼女は片付けが得意だ。
これは常日頃から冒険者の心得だとエステバンに整理整頓を仕込まれていたからである。
それに刃物の手入れは狩人の頃からの得意だ。
夕方になり、手を休めたファンは疲れきった様子で冒険者ギルドへの依頼完了の書類へサインをした。
そして愛想なく「明日も頼む」と言ったきり、戸締まりもせずに住居へフラフラと消えた。
こうして、シェイラの仕事は決まった。
翌日からシェイラは甲斐甲斐しく働いた。
工房のみならず荒れ放題の住居を片付け、道具を手入れし、汚れきった前掛けを洗濯した。
満足に食事をとっていないファンに食事を作り、髭を剃らせ、髪にも櫛をあてさせた。
時に革や刃物に慣れたシェイラは下職のような真似事もした。
シェイラは楽しかった。
なにしろファンは腕がよいが生活能力がまるでない。
彼女が世話をやかねば食事や着替えもロクにしないのだ。
こうした男性は幼児と同じ、世話焼きの女にとっては酷くかわいいものである。
シェイラは男に尽くす、世話をやく喜びを知ったと言っても良い。
そして身だしなみを整えたファンは思いの外にイケメンだった。
シェイラの食事を喜んで食べるのもポイントが高い。
自分が頼られてると感じてシェイラは楽しかった。
こうして嬉々として通うシェイラが狭い路地裏で噂にならぬはずもなく、偏屈もののファンが森人の美人を捕まえたと評判にならぬわけもない。
刺激に飢えた市民が冷やかし半分で工房に押し寄せた。
もっとも、こだわりの強いファンが野次馬じみた客を追い払ったが、それでも仕事はにわかに忙しくなり、それを助けるシェイラも大いに働いた。
そんなある日のこと、宿で朝食をとるシェイラのテーブルにエステバンとレーレが来た。
なんだか久しぶりだ。
「なかなか頑張ってるみたいだな。靴工房は面白いか?」
エステバンは嫌味なく尋ねてくるが、この余裕がなんとも鼻につく。
あのかわいいファンとは大違いだ。
「ああっ、楽しいぞっ! 昨日なんかな――」
つい、シェイラも靴工房がいかに面白いかを熱っぽく語ってしまう。
レーレは心配そうな顔をしてくれるが、エステバンはそれを見てニヤニヤするばかりだ。
しかも、言うに事欠いて「へえ、その色男に惚れたのか? 」などと言う始末。この言葉には傷ついた。
言った方は何気ない軽口のつもりでも、言われた方はそうでもない場合は往々にしてある――もっとも、普段のシェイラならなんでもない一言だったに違いない。
だが、今の彼女はエステバンの気を引こうとして冷たくしていた(つもり)のだ。
つい、カッとなった。
「そうだよっ! ファンは真面目に毎日働いてるし、他の女とも口きかないし! エステバンとは大違いだっ!」
「あっ、ちょっとちょっと、シェイラまってよ!」
レーレの制止を振り払いシェイラはそのまま席をたった。
……なんか駆け引きって全然楽しくないぞ。
なんだか情けなくなって涙がこぼれた。
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