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14話 その名はせいけんエステバン
5 愛の巣
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盗賊のアジトから離れ、アレンタの町へ向かう。
見張り場所を特定しているとはいえ、俺が発見していない場所がないとは限らない。
俺は慎重に移動し、かなりの時間をかけて帰還した。
目的を果たし、油断した冒険者が帰り道でヘマをすることは多い。
この辺もベテランの経験と技術なのだ。
町に戻り、衛兵の詰所に顔を出すと話は通っており、俺は詰所でベテラン衛兵を待った。
「すまんな、巡回の時間でね」
「いえ、さほど待ってませんよ」
現れた衛兵は俺と短く挨拶を交わすと「早速だが聞かせてくれ」と要件を切り出した。
黒いアヌスもおらず、話が早くて助かる。
俺は手書きの地図を広げ、書き込んだ情報を順に説明する。
地形の報告、俺が進入したルート、離脱したルート、確認した見張り場所やアジトの位置、盗賊の人数や装備、常に2人以上で行動をしていること。
「高い訓練を受けた戦士が14人か……ふーむ」
報告を受けた衛兵は難しい顔をし、俺は「最低で14人です」と訂正した。
「他に気づいたことはあるかね? なまりのある言葉とか、共通の服とか」
「わかりません。彼らの警戒は厳しく、私は情報を持ち帰ることを優先したために接近できませんでした」
ベテラン衛兵は「気づかれずに偵察ができたのは大きい」と頷き納得してくれた様子だ。
「報酬とは用意しておく。明日、詰所で受け取ってくれ――それと」
ベテラン衛兵はニヤリと笑い「討伐にも参加してくれないか」と尋ねてきた。
これには苦笑いをし「お断りします」と答えるしかない。
従軍すれば戦士団との戦闘になる可能性が高いのだ。
「私はともかく、連れを巻き込むような仕事ではありませんから」
「それは残念だな。だが、アジトへのルートを2つ教えてくれたのは大手柄だ」
もともと俺が襲撃に加わるとは考えていなかったのだろう。
ベテラン衛兵は地図に書き込まれた俺の進入ルートと離脱ルートを示して満足げな表情をみせた。
「賢者への紹介状も問題なく用意できる。別に訪ねるのは禁じられていないし、この者は怪しくないと書くだけだしな」
「そうですか。全てを知る賢者に色々と聞いてみたかったのです。助かりますよ」
衛兵は「学問か? 変わってるな」と苦笑いしたが無理もない。
識字率がさほど高くない世界の中でも、冒険者は底辺の教育しか受けていない者も多いのだ。
「そう言えば、仕立屋に凄腕の遍歴職人が現れたらしいぞ。若い森人だそうだ」
「ああ、それはうちの家内ですね。仕立てが得意なんですよ」
どうやらシェイラも機嫌を直してレーレと仕立屋に行ったらしい。
レーレの腕なら評判にもなるだろう。
「羨ましい話だな。金を貯めて店を出すのか?」
「まあ、そんなとこですね」
話題は雑談に移り、衛兵は「俺もクロイアヌスと店でも出すかなあ」などとこぼしていた。
衛兵も冒険者と同じく、一生続けられるような仕事ではない。その言葉には切実なものが感じられる。
「そうは言っても、荒事ばかりに慣れた男2人じゃなあ」
「そうですねえ、酒の仕入れさえできるなら飲み屋も悪くないかもしれませんね」
俺はなんとなく、男2人のむさいゲイバーを想像して「はは」と小さく笑う。
「酒場か……考えんでもないが、客が呼べる料理をだすのはな」
「いえいえ、酒さえ何種類かあれば味付けした干し肉や、酒やヨーグルトで戻した乾燥フルーツ程度のものでもいいでしょう。小さなカウンターだけなら2人で切り盛りできますよ」
俺の言葉に衛兵が「ちょっと聞かせてくれ」と身を乗り出してきた。
アイマール王国では酒場といえば宿屋や食堂も兼ねているようなものばかりだ。いわゆるバーは無い。
俺の話を聞いた衛兵は感心した様子でしきりに頷いている。
「酒の種類を集めて飲み比べは面白いな。酔っぱらいが暴れても俺とクロイアヌスなら問題ないか」
「蒸留酒みたいな高価な酒や、オリジナルの果実酒なんか出せれば利益もでるでしょうねえ」
このバーのアイデアは思い付きだが悪くない気がする。
俺には酒を仕入れるコネがないが、長いこと衛兵をしていたこの男なら心当たりもあるだろう。
ベテラン衛兵はすっかりその気になり、俺は色々とアイデアを出すことになったが……開店はまだまだ先だろう。
多少の貯えもあるようだが、酒の仕入れや物件探しなど、開店に必要なことはいくらでもあるのだ。時間もかかる。
「旅を終えた後にはお店に顔を出しますよ」
互いにポンコツ森人を養うことになった親近感みたいなものもあり、なんとなく話し込んでしまった。
本当にバー形式の店ができるなら飲みにいきたいものだ。
――――――
衛兵の詰所を出た俺は宿屋に戻り、井戸で汚れを落とした後に部屋に向かう。
当たり前だが極端に部屋を汚損すれば弁償しなければならない。
4日間も屋外で張り込みした俺は泥まみれ、埃まみれだ。
寒空の下、井戸水で簡単に身を清め、部屋のドアを開ける。
「戻ったぞ、2人ともスゴいじゃないか、仕立屋で――」
そして、ベッドの上で下半身丸出しのシェイラと目があった。
「にゃ、な、え、エステバ」
動揺したシェイラが何かを口ごもり、仕立ての魔法を使っていたレーレに合わせて工具たちが「あちゃー」と体(?)を傾ける。
……あー、シェイラもお年頃だし、1人遊びしてもおかしくないよな。
どうやらお取りこみ中だったらしいが、仕事をしてるレーレの横でやるとは少しアレだな。
森人だし、そのへんの価値観が違うのかもしれない。
「あ、悪いな。荷物置いたら外にいくから続けてくれ」
俺はいそいそと荷物をまとめて部屋から出た。
「くぁwせdrftgyふじこlp!!」
部屋からシェイラの奇声が聞こえるが、まあ、お年頃だし色々あるだろう。
その後、羞恥心からシェイラがダークエルフになったりしたが、まあ、お年頃だし色々あるだろう。
今回は俺はなにも悪くないぞ。知らんがな。
■■■■
バー『愛の巣』
少し後、ベテラン衛兵とクロイアヌスは二人で小さな飲み屋を始めた。
この店はそれなりに人気店となるのだが、それ以上に『男同士の出会いの場』として有名になる。
ベテラン衛兵の死後もクロイアヌスが長く経営し、あまりに有名になったため、これ以後のバースタイルの店は『ハッテン場』として認識されるようになったらしい。
豊富な酒類に美味しいおつまみ、そして美形店員(クロイアヌス)のトークが魅力。
その美味しさと、店内の雰囲気、森人店員との会話を是非味わってみて下さい。
見張り場所を特定しているとはいえ、俺が発見していない場所がないとは限らない。
俺は慎重に移動し、かなりの時間をかけて帰還した。
目的を果たし、油断した冒険者が帰り道でヘマをすることは多い。
この辺もベテランの経験と技術なのだ。
町に戻り、衛兵の詰所に顔を出すと話は通っており、俺は詰所でベテラン衛兵を待った。
「すまんな、巡回の時間でね」
「いえ、さほど待ってませんよ」
現れた衛兵は俺と短く挨拶を交わすと「早速だが聞かせてくれ」と要件を切り出した。
黒いアヌスもおらず、話が早くて助かる。
俺は手書きの地図を広げ、書き込んだ情報を順に説明する。
地形の報告、俺が進入したルート、離脱したルート、確認した見張り場所やアジトの位置、盗賊の人数や装備、常に2人以上で行動をしていること。
「高い訓練を受けた戦士が14人か……ふーむ」
報告を受けた衛兵は難しい顔をし、俺は「最低で14人です」と訂正した。
「他に気づいたことはあるかね? なまりのある言葉とか、共通の服とか」
「わかりません。彼らの警戒は厳しく、私は情報を持ち帰ることを優先したために接近できませんでした」
ベテラン衛兵は「気づかれずに偵察ができたのは大きい」と頷き納得してくれた様子だ。
「報酬とは用意しておく。明日、詰所で受け取ってくれ――それと」
ベテラン衛兵はニヤリと笑い「討伐にも参加してくれないか」と尋ねてきた。
これには苦笑いをし「お断りします」と答えるしかない。
従軍すれば戦士団との戦闘になる可能性が高いのだ。
「私はともかく、連れを巻き込むような仕事ではありませんから」
「それは残念だな。だが、アジトへのルートを2つ教えてくれたのは大手柄だ」
もともと俺が襲撃に加わるとは考えていなかったのだろう。
ベテラン衛兵は地図に書き込まれた俺の進入ルートと離脱ルートを示して満足げな表情をみせた。
「賢者への紹介状も問題なく用意できる。別に訪ねるのは禁じられていないし、この者は怪しくないと書くだけだしな」
「そうですか。全てを知る賢者に色々と聞いてみたかったのです。助かりますよ」
衛兵は「学問か? 変わってるな」と苦笑いしたが無理もない。
識字率がさほど高くない世界の中でも、冒険者は底辺の教育しか受けていない者も多いのだ。
「そう言えば、仕立屋に凄腕の遍歴職人が現れたらしいぞ。若い森人だそうだ」
「ああ、それはうちの家内ですね。仕立てが得意なんですよ」
どうやらシェイラも機嫌を直してレーレと仕立屋に行ったらしい。
レーレの腕なら評判にもなるだろう。
「羨ましい話だな。金を貯めて店を出すのか?」
「まあ、そんなとこですね」
話題は雑談に移り、衛兵は「俺もクロイアヌスと店でも出すかなあ」などとこぼしていた。
衛兵も冒険者と同じく、一生続けられるような仕事ではない。その言葉には切実なものが感じられる。
「そうは言っても、荒事ばかりに慣れた男2人じゃなあ」
「そうですねえ、酒の仕入れさえできるなら飲み屋も悪くないかもしれませんね」
俺はなんとなく、男2人のむさいゲイバーを想像して「はは」と小さく笑う。
「酒場か……考えんでもないが、客が呼べる料理をだすのはな」
「いえいえ、酒さえ何種類かあれば味付けした干し肉や、酒やヨーグルトで戻した乾燥フルーツ程度のものでもいいでしょう。小さなカウンターだけなら2人で切り盛りできますよ」
俺の言葉に衛兵が「ちょっと聞かせてくれ」と身を乗り出してきた。
アイマール王国では酒場といえば宿屋や食堂も兼ねているようなものばかりだ。いわゆるバーは無い。
俺の話を聞いた衛兵は感心した様子でしきりに頷いている。
「酒の種類を集めて飲み比べは面白いな。酔っぱらいが暴れても俺とクロイアヌスなら問題ないか」
「蒸留酒みたいな高価な酒や、オリジナルの果実酒なんか出せれば利益もでるでしょうねえ」
このバーのアイデアは思い付きだが悪くない気がする。
俺には酒を仕入れるコネがないが、長いこと衛兵をしていたこの男なら心当たりもあるだろう。
ベテラン衛兵はすっかりその気になり、俺は色々とアイデアを出すことになったが……開店はまだまだ先だろう。
多少の貯えもあるようだが、酒の仕入れや物件探しなど、開店に必要なことはいくらでもあるのだ。時間もかかる。
「旅を終えた後にはお店に顔を出しますよ」
互いにポンコツ森人を養うことになった親近感みたいなものもあり、なんとなく話し込んでしまった。
本当にバー形式の店ができるなら飲みにいきたいものだ。
――――――
衛兵の詰所を出た俺は宿屋に戻り、井戸で汚れを落とした後に部屋に向かう。
当たり前だが極端に部屋を汚損すれば弁償しなければならない。
4日間も屋外で張り込みした俺は泥まみれ、埃まみれだ。
寒空の下、井戸水で簡単に身を清め、部屋のドアを開ける。
「戻ったぞ、2人ともスゴいじゃないか、仕立屋で――」
そして、ベッドの上で下半身丸出しのシェイラと目があった。
「にゃ、な、え、エステバ」
動揺したシェイラが何かを口ごもり、仕立ての魔法を使っていたレーレに合わせて工具たちが「あちゃー」と体(?)を傾ける。
……あー、シェイラもお年頃だし、1人遊びしてもおかしくないよな。
どうやらお取りこみ中だったらしいが、仕事をしてるレーレの横でやるとは少しアレだな。
森人だし、そのへんの価値観が違うのかもしれない。
「あ、悪いな。荷物置いたら外にいくから続けてくれ」
俺はいそいそと荷物をまとめて部屋から出た。
「くぁwせdrftgyふじこlp!!」
部屋からシェイラの奇声が聞こえるが、まあ、お年頃だし色々あるだろう。
その後、羞恥心からシェイラがダークエルフになったりしたが、まあ、お年頃だし色々あるだろう。
今回は俺はなにも悪くないぞ。知らんがな。
■■■■
バー『愛の巣』
少し後、ベテラン衛兵とクロイアヌスは二人で小さな飲み屋を始めた。
この店はそれなりに人気店となるのだが、それ以上に『男同士の出会いの場』として有名になる。
ベテラン衛兵の死後もクロイアヌスが長く経営し、あまりに有名になったため、これ以後のバースタイルの店は『ハッテン場』として認識されるようになったらしい。
豊富な酒類に美味しいおつまみ、そして美形店員(クロイアヌス)のトークが魅力。
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