好色冒険エステバン

小倉ひろあき

文字の大きさ
上 下
67 / 101
14話 その名はせいけんエステバン

1 久しぶりの単独行

しおりを挟む
 数日後


 俺はアヌスと酒場で会っていた。あずかっていた剣を返すためだ。

 なぜか先日のベテラン衛兵も一緒だが、気にしてはいけない。
 なぜか並んで座るカップル座りで互いにケツを抱き合っているが、気にしてはいけない。
 世の中は『なぜか』であふれてやがるぜ。

 ちなみにこの席にシェイラとレーレはいない。
 シェイラは先日の同衾以来落ち込んで宿に引きこもっており、レーレはそれを心配して付き添っているのだ。
 失敗ったって体のサイズの問題なのだから、徐々に慣らすか、成長を待つしかないのだが――リトライをしないのは俺が萎えたのも理由の1つである。

「ああ、星の剣……やっと返って来た」

 アヌスは頬ずりせんばかりに剣を眺めて喜んでいる。大切な物だったのだろう。

「良かったな。お前が喜ぶ姿が見れてよかったよ」
「……アニキ」

 二人が見つめあっているが気にしてはいけない。
 恐らくは森人と人間、数日間の交流の成果なのだろう。

「それじゃ、俺は帰るよ」

 俺は男どもに声をかけ、席を立とうとするが、ベテラン衛兵から「ちょっと待ってくれ」と声をかけられる。
 何か用があるらしい。

 衛兵が俺の目の前で乳繰りあうためについて来たわけではないと知り、少しホッとした。 

「エステバンさん、すまんが依頼していいだろうか」

 ベテラン衛兵が俺を引き留め真面目な顔をするが……右手をアヌスの胸元に突っ込んでるのは気にしてはいけない。

 色々な種族や宗教が存在し、それなりに共存しているこの世界では同性愛に対しておおむね寛容である。
 だから俺も同性愛については別になんとも思わない。
 そこはいいのだが……公衆の面前でニヤニヤしながら過度なボディタッチを繰り広げる男たちの仲間だと思われるのはちょっと嫌だな。

「……依頼ですか?」 

 仕事は仕事である。俺は色々と我慢することにして席に着いた。

「すまんな、新年早々に」

 俺の気持ちを察したか、ベテラン衛兵が気を使ってくれるが、おしい。そこじゃない。

「実はな、盗賊がでるんだ」
「盗賊退治ですか?」

 少し違和感のある内容に、つい聞き返してしまった。
 治安維持は衛兵の仕事だ。当然だが、盗賊退治もそこに含まれる。
 レーレの件(4話)で盗賊退治したのは仇討ちだ。ちょっと事情が違う。

「いや違うんだ。この町から半日ほど大人の足で間道を進んだ場所に賢者が住んでいるのだが、その間道に盗賊が現れてな」

 ベテラン衛兵の言葉は胡散臭うさんくさい単語だらけだ。つい俺は話の腰を折り「賢者、ですか?」と聞き返してしまう。

「ああ、賢者だ。まあ、それはさておき、当然だが衛兵も出張ったが盗賊は土地勘のあるやつららしくてな、衛兵が行くと巧みに隠れちまうんだ」

 話が見えてきた。囮を兼ねた偵察だろう。
 冒険者を使い捨てにするのはわりとある作戦だ。

「大人数では逃げられる、かといって生半可なのが1人じゃ盗賊の餌食になるのがオチでね、ここは単独行動に長けた者に偵察を頼みたい」

 ベテラン衛兵は微妙な言い回しをした。『単独行動に長けた者』とわざわざ口にするとは俺のことを調べたらしい。
 ちなみに衛兵隊なら冒険者ギルドに情報提示を求めることも『ある程度は』可能だ。これは冒険者が犯罪に関与するパターンも多いので仕方がない部分もある。

 ……ま、シェイラがアレだし、久々の単独ソロも悪くないか。

 俺は頷き「条件を教えて下さい」と尋ねる。
 条件とは報酬や作戦の目標、もろもろの協力なども含まれる。
 ギルドを通さない依頼こそしっかりと話をする必要があるのだ。

「先払いで手付け。あとは成果報酬だ。盗賊団の規模、武装、隠れ家、その他の有力な情報。もちろん退治してくれても構わない」

 ベテラン衛兵の話に特に変なところはない。

「わかりました。周辺の地形、今までに確認できた人数、過去の襲撃ポイントを教えてもらえますか?」

 俺の言葉を聞いた衛兵は待ってましたとばかりに手書きらしき雑な地図を取り出して説明を始める。
 どうやら用意していたらしいが俺が引き受けることは折り込みずみらしい。食えない親父だ。

 説明をする衛兵の股間をアヌスが怪しく揉んでいるが、そこは気にしてはいけない。
 しかし、荒い息づかいが実に耳障りだ。

 その後もアヌスはなるべく視界に入れないようにしつつ何点か意見を交換し、依頼は引き受けることにした。

「それでは報告は4日後までに頼む」
「承知しました――それとあと一点よろしいですか?」

 俺は賢者とやらの情報も尋ねることにした。
 場合によっては盗賊に追われて賢者の家に避難するかもしれないし、最悪の場合盗賊団に関与している可能性もある。
 気になる点は全て確認するのが無難だ。

「賢者はな、良くわからんが先々代の領主に仕えた大学者らしい。全てを知るらしいが、あまり町には来ないから俺にはわからんね」
「全てを知る、ですか……」

 なかなか興味深い話だ。
 俺は成果報酬に「賢者への紹介」も追加で頼むことにした。
 全てを知る賢者ならば質問したいことは山ほどある。

 ベテラン衛兵は少し不思議そうな顔をしたが「ま、大丈夫だろ」と請け負ってくれた。

「それじゃ、よろしく頼むよ」
「ええ、4日後のこの時間までに衛兵隊の兵舎を訪ねますよ」

 俺たちは握手をし、別れることにした。

 ベテラン衛兵とアヌスが「なんで、あの人とばかり」みたいな痴話喧嘩を始めたが気にしてはいけない。

 久しぶりの単独ソロだ。気を引き締めていこう。



■■■■


同性愛

エステバンも言及しているように、さまざまな種族や宗教が共存するアイマール王国では、ごく一部の地域や部族を除き寛容である。
ただ、基本的には子孫を残すことは重視されるために『同性愛オンリー』だと変わり者扱いを受けることも多いようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。

白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?  *6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」 *外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

処理中です...