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11話 ぽんこつ森人だいぼうけん
3 森人の知恵
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【冒険者ウルバノ】
7等審査パーティーの旅路は意外なことに何のトラブルもなく、順調そのものであった。
目的地はサルガドより1日ほど歩いた森である。
今日は森の手前で夜営をし、明るくなってからオッソネグロを探す。
近くには農村もあるが、よそ者が入ろうとすると滞在費をとられることがある。
ウルバノたちのような貧乏冒険者は自然、夜営になるのだ。
「すごいな、マリオ殿は料理ができるのか。見ていてもいいか?」
「はは、シェイラさんが野バトとウズラを仕留めてくれましたからね、嵩も増えるし鍋にしましょう」
女たらしのマリオは料理が上手い。今もシェイラの歓心を引こうとしているのが見え見えだ。
ウルバノは何となく面白くない気がし、見張りのふりをしてソッポを向いていた。
「なになに、シェイラさん食べさせたい人でもいるの?」
「い、いるけどっ! 秘密だっ!」
シェイラとソニアがキャピキャピとした雰囲気で会話をしている。
女は総じて話好きだし、女冒険者は稀だ。彼女らはすぐに打ち解けたらしい。
しかし、その会話の内容はなかなかショッキングだ。
……なんだよ、男がいるのかよ。
ウルバノは知らず知らずに舌打ちして森を眺めた。
低位冒険者の毎日は荒んでいる。
彼とて女を知らぬわけでもない。だが、シェイラが他の男と抱き合う想像をしただけで大声を出したくなるような気持ちになってきた。
「食べさせたい人でも、男とは限らないだろう? お袋さんや兄貴かもしれないぜ?」
「バカだねマリオ、あんたなんかに目はないよ!」
マリオとソニアが馬鹿話で盛り上がっているが、その内容はウルバノには聞き逃すことはできない。
……そうか、なるほど、なるほど、男とは限らないか。
勝手に人の会話を盗み聞きして一喜一憂するウルバノは端から見れば『気持ち悪い人』以外の何者でもないのだが、本人にはわからないのだ。なんとも恋とは滑稽なものなのである。
マリオの作った鍋は悔しいがうまかった。
食事の間もソニアはシェイラを質問攻めにし、色々と聞き出している。
森人は皆が弓の名手であること。
彼女は歴とした女王(※族長)の血をひく貴人(※森人は血が濃く、皆が親戚)であり、兄が王女と結婚すること。
そして凄腕の冒険者と旅をしていること。
彼女が嬉しそうに語る旅の内容は凄まじいものだ。
ゴブリンの氾濫、サキュバス退治、特殊個体アーケロンの討伐、2度に渡る魔貴族との遭遇……聞いているだけで目も眩むような世界である。
……本当にこんな世界があるのか……
シェイラの語り口はあまり上手くない。
しかし、つっかえながら語る内容はそれだけに真実味があるようにウルバノは感じた。
見ればはしゃいでいたソニアも、シェイラに色目を使っていたマリオも黙りこんでいる。
「すまん、つまらない話だ」
皆が静まり返ったためか、シェイラが「もう休もう」と話を打ち切った。
たしかにウルバノからすれば彼女の話はすこし浮き世離れしておりなんともコメントしづらい。
シェイラは気分を害したわけではないようだが、少し気まずげにしている。
その後もマリオとソニアがしきりになにか話しかけていたが盛り上がらず、その日は順に見張りを立てて休むことにした。
森の外とはいえ、人を襲うモンスターはいる。油断は禁物だ。
夜の間は1人ずつ交代で火の番をする。
これは見張りも兼ねているので皆が火の近くに集まり、異変が起きたら知らせるのだ。
ウルバノは火の番をしながらシェイラの寝顔を眺める。
彼女は旅を続けていることは語ったが、旅の目的の話になると言葉を濁し口にすることは無かった(※レーレのことは秘密)。
……なにか、事情があるんだろうな……
ウルバノはじっとシェイラの寝顔を見つめる。
神秘的な森人は寝顔まで美しい。
とても、その寝姿からは荒っぽい冒険者とは信じられない。
彼女のような本物のお姫様が旅をしているのだ……事情がないはずがないではないか。
……ソニアは敵討ちだとか言ってたけど……
その話の真偽はさておき、ウルバノは彼女の力になりたいと考え始めていた。
弓使いと前衛、噛み合わせは悪くないだろう。
……旅の冒険者パーティーなら、どうにか俺も入れないだろうか?
もともと、サルガドの町にはロクな思い出はない。
町から飛び出す機会があるならば出たい――否、シェイラと共に旅をしたいのだ。
……いや、旅なんかしなくてもいいかも……
ウルバノは自分の股間に張りを感じ、用を足すふりをしてそっと火から離れた。
張りをほぐすのに4射必要だったのは彼の若さゆえだろう。
――――――
翌日より、森に入っての捜索が始まった。
ここでもウルバノたちは大きな衝撃を受けた。
深いシェイラの森の知識にである。
「この草を集めて潰すんだ。少し臭いけどトカゲや蜂が寄らなくなるんだぞ」
「その花は猛毒だぞ。それが生えている水場に獣は近づかないんだ」
「これは火の木だな。木の皮は火口になるし、実からは油が出るんだぞ」
ことあるごとにシェイラは森でのサバイバル知識を披露し、ウルバノを驚かせた。
そもそも、森人であるシェイラが森に詳しいのは当たり前である。
彼女は生まれてから森で育ち、50年以上生きてきた。駆け出し冒険者の素人知識とは比べ物にならないのだ。
しかし、自らを恃むところの厚い若者にこの事実は少々こたえる。
今もシェイラは草むらにしか見えない獣道を慎重に確認しながら進んでいく。
「シェイラさん、俺が前にでようか?」
少しでもいいところを見せたいウルバノがしきりにアピールするのだが、シェイラは「今はダメだ」と退けるのみだ。これには少々カチンと来る。
「シェイラさん、ちょっといいか――」
ウルバノが抗議の声を上げようとした瞬間「見つけたぞ」とシェイラの声が重なった。
「これを見てくれ」
シェイラがしゃがんで示すそれは動物の糞だ。
手の平の倍以上はありそうな大きさである。
「見つけたぞ、熊だ。少し古いが足跡もある」
シェイラはオッソネグロの糞を踏み崩し、その状態を確かめている。
「数日前だな、追い付けるぞ」
シェイラは美しくも凄みのある笑みを見せた。
■■■■
シェイラ
人里にいるとポンコツだが、森にいると賢く見えるぞ。
黙っているとつり目がちな美少女だ。
7等審査パーティーの旅路は意外なことに何のトラブルもなく、順調そのものであった。
目的地はサルガドより1日ほど歩いた森である。
今日は森の手前で夜営をし、明るくなってからオッソネグロを探す。
近くには農村もあるが、よそ者が入ろうとすると滞在費をとられることがある。
ウルバノたちのような貧乏冒険者は自然、夜営になるのだ。
「すごいな、マリオ殿は料理ができるのか。見ていてもいいか?」
「はは、シェイラさんが野バトとウズラを仕留めてくれましたからね、嵩も増えるし鍋にしましょう」
女たらしのマリオは料理が上手い。今もシェイラの歓心を引こうとしているのが見え見えだ。
ウルバノは何となく面白くない気がし、見張りのふりをしてソッポを向いていた。
「なになに、シェイラさん食べさせたい人でもいるの?」
「い、いるけどっ! 秘密だっ!」
シェイラとソニアがキャピキャピとした雰囲気で会話をしている。
女は総じて話好きだし、女冒険者は稀だ。彼女らはすぐに打ち解けたらしい。
しかし、その会話の内容はなかなかショッキングだ。
……なんだよ、男がいるのかよ。
ウルバノは知らず知らずに舌打ちして森を眺めた。
低位冒険者の毎日は荒んでいる。
彼とて女を知らぬわけでもない。だが、シェイラが他の男と抱き合う想像をしただけで大声を出したくなるような気持ちになってきた。
「食べさせたい人でも、男とは限らないだろう? お袋さんや兄貴かもしれないぜ?」
「バカだねマリオ、あんたなんかに目はないよ!」
マリオとソニアが馬鹿話で盛り上がっているが、その内容はウルバノには聞き逃すことはできない。
……そうか、なるほど、なるほど、男とは限らないか。
勝手に人の会話を盗み聞きして一喜一憂するウルバノは端から見れば『気持ち悪い人』以外の何者でもないのだが、本人にはわからないのだ。なんとも恋とは滑稽なものなのである。
マリオの作った鍋は悔しいがうまかった。
食事の間もソニアはシェイラを質問攻めにし、色々と聞き出している。
森人は皆が弓の名手であること。
彼女は歴とした女王(※族長)の血をひく貴人(※森人は血が濃く、皆が親戚)であり、兄が王女と結婚すること。
そして凄腕の冒険者と旅をしていること。
彼女が嬉しそうに語る旅の内容は凄まじいものだ。
ゴブリンの氾濫、サキュバス退治、特殊個体アーケロンの討伐、2度に渡る魔貴族との遭遇……聞いているだけで目も眩むような世界である。
……本当にこんな世界があるのか……
シェイラの語り口はあまり上手くない。
しかし、つっかえながら語る内容はそれだけに真実味があるようにウルバノは感じた。
見ればはしゃいでいたソニアも、シェイラに色目を使っていたマリオも黙りこんでいる。
「すまん、つまらない話だ」
皆が静まり返ったためか、シェイラが「もう休もう」と話を打ち切った。
たしかにウルバノからすれば彼女の話はすこし浮き世離れしておりなんともコメントしづらい。
シェイラは気分を害したわけではないようだが、少し気まずげにしている。
その後もマリオとソニアがしきりになにか話しかけていたが盛り上がらず、その日は順に見張りを立てて休むことにした。
森の外とはいえ、人を襲うモンスターはいる。油断は禁物だ。
夜の間は1人ずつ交代で火の番をする。
これは見張りも兼ねているので皆が火の近くに集まり、異変が起きたら知らせるのだ。
ウルバノは火の番をしながらシェイラの寝顔を眺める。
彼女は旅を続けていることは語ったが、旅の目的の話になると言葉を濁し口にすることは無かった(※レーレのことは秘密)。
……なにか、事情があるんだろうな……
ウルバノはじっとシェイラの寝顔を見つめる。
神秘的な森人は寝顔まで美しい。
とても、その寝姿からは荒っぽい冒険者とは信じられない。
彼女のような本物のお姫様が旅をしているのだ……事情がないはずがないではないか。
……ソニアは敵討ちだとか言ってたけど……
その話の真偽はさておき、ウルバノは彼女の力になりたいと考え始めていた。
弓使いと前衛、噛み合わせは悪くないだろう。
……旅の冒険者パーティーなら、どうにか俺も入れないだろうか?
もともと、サルガドの町にはロクな思い出はない。
町から飛び出す機会があるならば出たい――否、シェイラと共に旅をしたいのだ。
……いや、旅なんかしなくてもいいかも……
ウルバノは自分の股間に張りを感じ、用を足すふりをしてそっと火から離れた。
張りをほぐすのに4射必要だったのは彼の若さゆえだろう。
――――――
翌日より、森に入っての捜索が始まった。
ここでもウルバノたちは大きな衝撃を受けた。
深いシェイラの森の知識にである。
「この草を集めて潰すんだ。少し臭いけどトカゲや蜂が寄らなくなるんだぞ」
「その花は猛毒だぞ。それが生えている水場に獣は近づかないんだ」
「これは火の木だな。木の皮は火口になるし、実からは油が出るんだぞ」
ことあるごとにシェイラは森でのサバイバル知識を披露し、ウルバノを驚かせた。
そもそも、森人であるシェイラが森に詳しいのは当たり前である。
彼女は生まれてから森で育ち、50年以上生きてきた。駆け出し冒険者の素人知識とは比べ物にならないのだ。
しかし、自らを恃むところの厚い若者にこの事実は少々こたえる。
今もシェイラは草むらにしか見えない獣道を慎重に確認しながら進んでいく。
「シェイラさん、俺が前にでようか?」
少しでもいいところを見せたいウルバノがしきりにアピールするのだが、シェイラは「今はダメだ」と退けるのみだ。これには少々カチンと来る。
「シェイラさん、ちょっといいか――」
ウルバノが抗議の声を上げようとした瞬間「見つけたぞ」とシェイラの声が重なった。
「これを見てくれ」
シェイラがしゃがんで示すそれは動物の糞だ。
手の平の倍以上はありそうな大きさである。
「見つけたぞ、熊だ。少し古いが足跡もある」
シェイラはオッソネグロの糞を踏み崩し、その状態を確かめている。
「数日前だな、追い付けるぞ」
シェイラは美しくも凄みのある笑みを見せた。
■■■■
シェイラ
人里にいるとポンコツだが、森にいると賢く見えるぞ。
黙っているとつり目がちな美少女だ。
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