好色冒険エステバン

小倉ひろあき

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8話 怒りのダークエルフ

3 パイオツカイデー

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 翌日、早朝

 俺とシェイラは身支度を整え、朝もやの中ギルドへ向かう。
 冒険者は不定期な活動が多く、早朝でも夜中でも行動に問題はないが、レーレはまだシェイラのポケットで眠っているようだ。

「おう、来たな」

 ギルドに入るや野太い声が掛けられた。すでに支配人のロレンツォと四人組の冒険者パーティーが待っていたようだ。

「こいつらが今日一緒に行く若い衆だあ。町付まちつきだが、なかなか見所があるぜえ」

 ロレンツォはいかにも嬉しそうに冒険者たちをズイッと前に押し出した。俺たちを紹介したいのだろう。

 ちなみに『町付』とは拠点のある町から動かずに活動するスタイルの冒険者のことだ。
 多様な実績を重ねることが難しいために等級が上がりづらい面があるが、地域の事情に通じたプロフェッショナルも多く、今回のような依頼では頼れる存在になるだろう。

「遅れましたか? 我々は冒険者チーム松ぼっくりです。今日はご一緒させてください」

 俺が軽く目礼をしながら挨拶をすると、リーダーらしき冒険者が「とんでもない」と顔の前で手を振った。
 少し小柄だが精悍な顔つきの若者だ。

「俺たちは5等冒険者パーティー『水竜の牙』です。俺がリーダーのラモン、あの『狐のエステバン』とご一緒できて光栄です。今日は勉強させてください」

 ラモンと名乗る若者は爽やかで感じがいい。ロレンツォが気に入るはずである。
 若い彼が俺のことを知るはずもないが、事前にロレンツォにでもリサーチしたのだろう。なかなか如才がない。

 この水竜の牙、リーダーのラモンを始め皆が若い。20才前後だろうか。
 よく日焼けした人間の男が4人、全員が手投げのもりのような得物を手にし、コルクのような素材を使った木製の胸当てと兜を着けている――これはライフジャケットのような働きをする軽鎧だ。装備から見るに水棲型のモンスターを得意とする連中だろう。
 なかなか礼儀正しく、俺たちは順に名乗り握手を交わした。

「シェイラさんは森人エルフですか?」
「そうだ。エステバンと冒険してるんだ」

 なんかシェイラが「彼氏いるの?」みたいな感じでちやほやされているが……まあ、水竜の牙の面々からするとシェイラの外見年齢はストライクなのだろう。
 実年齢は56才だけどな。

 俺が「もう揃いか?」とロレンツォに尋ねると、強面の支配人は「いんや」と短く否定した。

「もう1人来るぜえ。6等だが馬力があるのが気に入ってるんだあ」

 俺は「馬力ねえ」と呟いた。何だかロレンツォが増えそうで嫌だ。

 しばらく皆で雑談をしていると「遅れたか、すまないね」とハスキーな女の声と共にギルドの扉が開いた。

 ……む、女だと!?

 素早く振り向き、声の主をチェックすると、そこにいたのは角のある異形の大女だ。恐らくは牛人ミノタウロスの混血――牛人とは人の骨格を持つ牛のような獣人である。

 ……で、デケエ!

 俺は女の胸部の大きさに目を奪われた。
 もはや巨乳ではなく、爆乳とか奇乳みたいな夢のあるスケール感だ。乳しか目に入らない。

 そんな俺の様子が気に入らなかったのか、女性は「ち」と小さく舌打ちをした、

「なんだ色男、醜女が珍しいのかよ」

 女性は「ふん」と鼻を鳴らしてソッポを向いた。

 ……醜女?

 俺は見事な乳しか見ていなかったが、改めて女性を見つめることにした。
 身長は俺よりも高い……優れた体格は牛人の特徴でもある。胸の大きさも同様だ。
 顔の造型は人間に近い。
 角と耳の形が牛人らしさを残しているが、つぶらな黒い瞳がキュートだ。茶色い髪をボブにしている。
 年の頃は俺よりも若そうだ……20代後半ってとこか。

 はっきり言うが、断じて醜女ではない。
 色黒の肌、だんご鼻、逞しい顎のラインは好みが別れるだろうが、気になるほどでもない。
 俺はあの乳に挟まれたい。

「始めまして、我らは冒険者パーティー松ぼっくりです。私は3等冒険者エステバン、こちらは――」
「シェイラ、9等です。今日はよろしくお願いします」

 シェイラが俺の言葉を継いで挨拶をした。
 ちゃんと敬語を使える偉い子だ。

「アタシはマルリス、町付の6等冒険者だよ。言っとくが、報酬を9等と山分けするのはゴメンさ、その辺は考えといてくれ」

 マルリスは「ふん」とソッポを向く。
 頭割りにしないと6等の彼女はかなり損をするのだが、まあ、そこは言わぬが何とやらである。

 彼女は装備を見るに前衛タイプだ。オーソドックスな槍を持ち、腰には大振りなナイフを差してある。頭には何も着けていないが、角が邪魔になるのかもしれない。
 巨大な乳はスポーツブラのような形の胸当てで支えている。それがまた乳を強調しているようでエロい。俺の股間に血が滾る。

「これで全員だあ! 荷物を持てえっ!」

 俺がマルリスを視姦しているとロレンツォが檄を飛ばした。どうやら出発だ。

「アーケロンを呼ぶために撒き餌もたっぷり用意したからなあ、頼むぜえ」

 ロレンツォが示す先には何やら凄い臭いを放つ樽が2つ……これはアーケロンをおびき寄せる撒き餌のようだ。中には腐肉や古くなった生魚などが詰められている。

 こうした「荷物」は等級が低い冒険者が運ぶことになっている。こうした輸送を下の等級の者が担うことにより、力のある者を疲労させないシステムなのだ。
 当然、今回は9等のシェイラと6等のマルリスと言うことになるのだが――

「シェイラさん、俺たちが順番に持ちますよ」
「ああ、女の子にこんなの運ばすなんてできないぜ!」

 水竜の牙は完全にシェイラの取り巻きと化していた。
 全員の目がハートだ。

 ……うーん、ぽんこつ森人(エルフ)がモテてるな。

 本当はシェイラを甘やかすのは良くないとは思う。
 しかし、シェイラは美少女だし神秘的な森人だ。はっきり言って彼らの気持ちは分かる。超分かる。
 なぜなら俺もマルリスの爆乳のせいでビンビンだからだ。こちらもこの機を逃すわけにはいかない。

「マルリスさん、俺が持ちますよ」

 俺が申し出ると、彼女はジロリと俺を睨んだ。

「ふん、アタシは冒険者だ。等級が下なら荷物持ちくらいするさ。バカにするな」

 マルリスはそう言いながらシェイラの方を皮肉げに眺めた。彼女にはシェイラが色仕掛けで楽をしているように思えるのだろう。
 まあ、これはマルリスが正しい。

「そう言わないでやってくれ。誰だって気になる異性にはアプローチしたいもんだろ? もちろん俺もさ」

 ここでエステバンスマイル。シェイラならこれで落ちるはずだ。

「ふんっ! アタシはねえ、アンタみたいな顔の良い男が大っ嫌いだよ! ヘラヘラしてれば女が思い通りになるとでも思ってるのかいっ! 荷はアタシが運ぶっ! 邪魔すんじゃないよっ!」

 マルリスはそれだけまくし立て、酷い臭いの樽を担いだ。見た目通りパワーもあるらしい。

 俺は肩をすくめ「怒った顔もキュートだ」と苦笑いしたが、完全に黙殺された。
 エステバンスマイルはどうもシェイラ以外に効きが悪い。もうやめよう。

「エステバンさん、マルリスはいつもあんな感じですよ。男嫌いなのかも知れませんね」
「まあ、あんな見た目じゃ誰からも相手にされてませんし、ひねくれてるんですよ」

 水竜の牙の連中が俺たちのやり取りを見てマルリスを嘲笑った。
 こいつらの目は節穴なのだろうか? マルリスの魅力が分からぬとは度し難い。

 古来より日本では『巨乳七難隠す』と言う。マルリスの超乳ならば百難はカバーできる。
 それほどの乳なのだ。

「マルリスさんは魅力的な女性さ」

 俺はわざとマルリスに聞こえるように言ったが、彼女は完全に知らん顔をしている。
 代わりにシェイラが「うぬ」と悔しげに呻いたがスルーで。今日はAカップの気分じゃない。


 俺たちはロレンツォがギルドの裏手に用意した2艘の小舟に乗り、湖の小島に向かう。
 アーケロンの棲息域に向かうのだ。




■■■■■■


牛人ミノタウロス

人の骨格を持つ牛の獣人。穏やかな気性と大きな体格を持つ働き者。
元々は南のベントゥラ王国に分布していた種族であったが、角があるために魔族扱いをされた時期があり、討伐対象として大きく数を減らした。
同王国では人権を一切認められず、労働や食肉、搾乳のための『家畜奴隷』だった時期もあるが、今では理解が進み獣人とされている。
しかし、今なお牛人や山羊人カブラ などの角がある種族に差別的な地域もあり、不当な扱いをされることも多い。
牛人の肉は食用に向いているが、今では倫理的な理由で食べることは無い。乳汁は一部地域で流通している。
人間との交配は可能。
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