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1章 青年期
2話 竜巻エゴン
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マンセル侯爵領オードネルの町。
かつてマンセル侯爵と言えば天下の大諸侯であったが、当代マンセル侯爵は戦乱の時代において勢力を削られ続け、既にかつての勢威は無い。
そのためか、オードネルの町もどこか閑散としている様に感じる。活気が無いのだ。
…………
閑散とした町を一人の旅人が訪れた。男の冒険者だ。
男は町の様子を確認するように歩き、酒場へと入っていく。
この男の名はクリフ。猟犬クリフと言えば名の知れた賞金稼ぎだ。
「……酒だ。強いのを頼む。」
クリフはカウンターで店員に酒を注文し、道具袋から紙を取り出した。手配書だ。
『赤目のイントッシュ 22000ダカット 生死問わず』
文言と似顔絵が書かれた内容を見るや店員の顔色がサッと変わった。
「旦那、いけません。そいつをお仕舞いになって下さい。その男は……」
店員が小声でクリフを嗜めた。
……ほう、この町で随分と幅を利かせているらしいな…
クリフは店員の反応からイントッシュが近いことを知り内心でほくそ笑んだ。
「おう、同業者か!!」
カウンターの奥で飲んでいた大男がクリフに声を掛けてきた。
硬革の鎧を見にまとい、バスタードソードを佩いている。なかなか強そうである。
「あんた、1人かい?」
クリフが黙って頷くと、大男は「ほう」と感心したようだ。
「イントッシュを1人で狙うとはな。大したもんだ。どうだい、組むかい? 金は山分けさ。」
大男がクリフを誘いにかける。
「……いえ、止しましょう。お互い名も知らぬ相手と金を分けるほど……お人好しとは思えません。」
クリフがぼそぼそと断ると大男は豪快に笑った。
「がっはっは! 違えねえ! 気に入ったぜ、俺はエゴン。竜巻のエゴンとは俺の事だ。」
……竜巻エゴンか、大物だな。
クリフは相手の名を驚きと共に聞いた。
クリフと同様、1人で依頼をこなすベテラン冒険者だ。竜巻とはバスタードソードを竜巻の様に振るうところから付いた渾名だ。
「……クリフ。」
クリフがぼそりと名乗るとエゴンは「ほう」と感心したように呟いた。
「猟犬クリフか、聞いてるぜ。凄腕だってな。」
「いえ、それほどの者ではございません。」
「しかし、こいつは弱った! 獲物が1匹に猟師が2人だ!!」
鋭い殺気を飛ばしながらエゴンはクリフを睨み付ける。
「難しいことはありません。恨みっこ無しの早い者勝ちで……。」
クリフが実に冒険者らしい解決法を提案した。
…………
どやどやとした喧騒が近づいてきた。
「おいっ! そこは予約席だ! どけっ!!」
彼らは先客を追い散らし、我が物顔で奥のテーブルを陣取る。
……いやがった。イントッシュだ。こんな賞金首のゴロツキを放っておくとは、この町の衛兵はボンクラ揃いらしいな。
「おいっ! 酒だ!」
「食い物も見繕ってこい!!」
イントッシュたちは大声で叫び散らしている……他の客は迷惑そうに店から出ていった。
……5人か。どうしたものか……
クリフが様子を窺っているとエゴンが立ち上がった。
「早い者勝ちだな? 面白れえ。」
言うや否やエゴンはイントッシュに近づいていく。
「なんだテメエは!!」
「竜巻エゴン。」
エゴンが名乗ると「あのエゴンか」とイントッシュの取り巻きどもが驚きの声を上げた。
「うるせえっ! 冒険者ごときにガタつくんじゃねえ! エゴンさんとやら、何の用だ!?」
イントッシュが吠える。
「お前さんの賞金が欲しいのさ。首を寄越しな。」
エゴンが告げると、男たちの表情がサッと変わる。
「何っ!」
「野郎!」
「何だと!?」
取り巻きたちが鼻息も荒く立ち上がった。
「表に出な。まとめて片付けてやるよ。」
エゴンは取り巻きどもを引き連れて酒場を出ていった。
…………
やがて戦いの怒号が表から聞こえてきた。
イントッシュは用心深く入口辺りで外の様子を窺っている。エゴンの腕前を見極める腹積もりなのだろう。
……馬鹿が。
クリフはそっと立ち上がり、イントッシュにナイフを投げつける。
ナイフは狙いをあやまたずイントッシュの膝の裏に突き立った。
膝を着きながらイントッシュは「なにい」と振り向くがもう遅い。
その胸にはクリフのショートソードが突き刺さっていた。
…………
「オイオイ! それは無いんじゃないのか!? 俺に雑魚を片付けさせてオイシイとこ取りかよ!?」
エゴンが息巻きながらクリフに食って掛かる。
早くも取り巻きの4人を片付けたようだ。
「早い者勝ちの約束で。」
しかし、クリフは取り合いもしない。
「ふざけるなっ!? 汚ねえぞ!! 分け前を半分寄越しな!」
「……それは出来ない約束で。」
「知るかっ」とエゴンがクリフに切りかかった。
剣風も凄まじく、クリフは転がりながら危うく剣先を躱わす。
「そちらさんの取り分は、そこの4人では?」
チラリ……とクリフは物言わぬイントッシュの取り巻きに目をやる。
「ふざけるな! コイツらに賞金なんて無え!」
エゴンはバスタードソードを頭上で振り回し、勢いをつける。どうやらやる気だ。
「金を寄越さねえなら腕ずくで行くぞ!」
……チッ、面倒なことだ。
内心で毒づきながらクリフはエゴンの剣を躱わす。
その剣技は凄まじい。右に左にバスタードソードを振り回し、その勢いは弱まることを知らない。
エゴンのバスタードソードの刀身は1メートル以上ある。クリフのショートソードのおよそ倍だ。
そいつを小枝でも振るう様に振り回す…まともにやればクリフに勝ち目は無い。
……まともにやれば、な。
クリフはエゴンの長剣を躱わし、避け、間一髪で持ちこたえる。
ガキィ、と金属音が響き、エゴンの長剣がクリフの剣を弾き飛ばした。
地に落ちるショートソード。
ニヤリ、と笑いながらエゴンの意識が一瞬だけショートソードに向かった……
……今だ!
クリフはバックラーから抜き打ちでナイフを投げつけた。
ナイフは恐るべき精度でエゴンの左目に突き刺さる。
「ぐおっ!?」とよろめくエゴンの体に次々とナイフが突き刺さる。爪先、太股、肩口とナイフが突き立った。
「まいった! 降参だ!! 賞金はいらねえ!」
エゴンが膝を着きながら降参した。
クリフはショートソードを拾いながら呟く。
「面倒事は、御免だ。」
エゴンの首筋にクリフの剣が突き刺さった。
……お前みたいな凄腕に、恨まれるなんて御免だぜ。
エゴンは驚きで右目を見開いたまま絶命した。
…………
「おい」
様子を窺っていた酒場の店員にクリフが声をかける。
ビクリと体を縮める店員にクリフは告げる。
「証言を頼む。」
2、3枚硬貨を手渡すと店員は何度も頷いた。
周囲に人垣が集まり始めた。これだけの騒ぎだ、無理もない。
……こんな騒ぎになっても知らぬ振りか。この町の衛兵はボンクラ揃いだ。
やれやれ面倒だと呟きながら、クリフは衛兵の詰め所に向かった。
かつてマンセル侯爵と言えば天下の大諸侯であったが、当代マンセル侯爵は戦乱の時代において勢力を削られ続け、既にかつての勢威は無い。
そのためか、オードネルの町もどこか閑散としている様に感じる。活気が無いのだ。
…………
閑散とした町を一人の旅人が訪れた。男の冒険者だ。
男は町の様子を確認するように歩き、酒場へと入っていく。
この男の名はクリフ。猟犬クリフと言えば名の知れた賞金稼ぎだ。
「……酒だ。強いのを頼む。」
クリフはカウンターで店員に酒を注文し、道具袋から紙を取り出した。手配書だ。
『赤目のイントッシュ 22000ダカット 生死問わず』
文言と似顔絵が書かれた内容を見るや店員の顔色がサッと変わった。
「旦那、いけません。そいつをお仕舞いになって下さい。その男は……」
店員が小声でクリフを嗜めた。
……ほう、この町で随分と幅を利かせているらしいな…
クリフは店員の反応からイントッシュが近いことを知り内心でほくそ笑んだ。
「おう、同業者か!!」
カウンターの奥で飲んでいた大男がクリフに声を掛けてきた。
硬革の鎧を見にまとい、バスタードソードを佩いている。なかなか強そうである。
「あんた、1人かい?」
クリフが黙って頷くと、大男は「ほう」と感心したようだ。
「イントッシュを1人で狙うとはな。大したもんだ。どうだい、組むかい? 金は山分けさ。」
大男がクリフを誘いにかける。
「……いえ、止しましょう。お互い名も知らぬ相手と金を分けるほど……お人好しとは思えません。」
クリフがぼそぼそと断ると大男は豪快に笑った。
「がっはっは! 違えねえ! 気に入ったぜ、俺はエゴン。竜巻のエゴンとは俺の事だ。」
……竜巻エゴンか、大物だな。
クリフは相手の名を驚きと共に聞いた。
クリフと同様、1人で依頼をこなすベテラン冒険者だ。竜巻とはバスタードソードを竜巻の様に振るうところから付いた渾名だ。
「……クリフ。」
クリフがぼそりと名乗るとエゴンは「ほう」と感心したように呟いた。
「猟犬クリフか、聞いてるぜ。凄腕だってな。」
「いえ、それほどの者ではございません。」
「しかし、こいつは弱った! 獲物が1匹に猟師が2人だ!!」
鋭い殺気を飛ばしながらエゴンはクリフを睨み付ける。
「難しいことはありません。恨みっこ無しの早い者勝ちで……。」
クリフが実に冒険者らしい解決法を提案した。
…………
どやどやとした喧騒が近づいてきた。
「おいっ! そこは予約席だ! どけっ!!」
彼らは先客を追い散らし、我が物顔で奥のテーブルを陣取る。
……いやがった。イントッシュだ。こんな賞金首のゴロツキを放っておくとは、この町の衛兵はボンクラ揃いらしいな。
「おいっ! 酒だ!」
「食い物も見繕ってこい!!」
イントッシュたちは大声で叫び散らしている……他の客は迷惑そうに店から出ていった。
……5人か。どうしたものか……
クリフが様子を窺っているとエゴンが立ち上がった。
「早い者勝ちだな? 面白れえ。」
言うや否やエゴンはイントッシュに近づいていく。
「なんだテメエは!!」
「竜巻エゴン。」
エゴンが名乗ると「あのエゴンか」とイントッシュの取り巻きどもが驚きの声を上げた。
「うるせえっ! 冒険者ごときにガタつくんじゃねえ! エゴンさんとやら、何の用だ!?」
イントッシュが吠える。
「お前さんの賞金が欲しいのさ。首を寄越しな。」
エゴンが告げると、男たちの表情がサッと変わる。
「何っ!」
「野郎!」
「何だと!?」
取り巻きたちが鼻息も荒く立ち上がった。
「表に出な。まとめて片付けてやるよ。」
エゴンは取り巻きどもを引き連れて酒場を出ていった。
…………
やがて戦いの怒号が表から聞こえてきた。
イントッシュは用心深く入口辺りで外の様子を窺っている。エゴンの腕前を見極める腹積もりなのだろう。
……馬鹿が。
クリフはそっと立ち上がり、イントッシュにナイフを投げつける。
ナイフは狙いをあやまたずイントッシュの膝の裏に突き立った。
膝を着きながらイントッシュは「なにい」と振り向くがもう遅い。
その胸にはクリフのショートソードが突き刺さっていた。
…………
「オイオイ! それは無いんじゃないのか!? 俺に雑魚を片付けさせてオイシイとこ取りかよ!?」
エゴンが息巻きながらクリフに食って掛かる。
早くも取り巻きの4人を片付けたようだ。
「早い者勝ちの約束で。」
しかし、クリフは取り合いもしない。
「ふざけるなっ!? 汚ねえぞ!! 分け前を半分寄越しな!」
「……それは出来ない約束で。」
「知るかっ」とエゴンがクリフに切りかかった。
剣風も凄まじく、クリフは転がりながら危うく剣先を躱わす。
「そちらさんの取り分は、そこの4人では?」
チラリ……とクリフは物言わぬイントッシュの取り巻きに目をやる。
「ふざけるな! コイツらに賞金なんて無え!」
エゴンはバスタードソードを頭上で振り回し、勢いをつける。どうやらやる気だ。
「金を寄越さねえなら腕ずくで行くぞ!」
……チッ、面倒なことだ。
内心で毒づきながらクリフはエゴンの剣を躱わす。
その剣技は凄まじい。右に左にバスタードソードを振り回し、その勢いは弱まることを知らない。
エゴンのバスタードソードの刀身は1メートル以上ある。クリフのショートソードのおよそ倍だ。
そいつを小枝でも振るう様に振り回す…まともにやればクリフに勝ち目は無い。
……まともにやれば、な。
クリフはエゴンの長剣を躱わし、避け、間一髪で持ちこたえる。
ガキィ、と金属音が響き、エゴンの長剣がクリフの剣を弾き飛ばした。
地に落ちるショートソード。
ニヤリ、と笑いながらエゴンの意識が一瞬だけショートソードに向かった……
……今だ!
クリフはバックラーから抜き打ちでナイフを投げつけた。
ナイフは恐るべき精度でエゴンの左目に突き刺さる。
「ぐおっ!?」とよろめくエゴンの体に次々とナイフが突き刺さる。爪先、太股、肩口とナイフが突き立った。
「まいった! 降参だ!! 賞金はいらねえ!」
エゴンが膝を着きながら降参した。
クリフはショートソードを拾いながら呟く。
「面倒事は、御免だ。」
エゴンの首筋にクリフの剣が突き刺さった。
……お前みたいな凄腕に、恨まれるなんて御免だぜ。
エゴンは驚きで右目を見開いたまま絶命した。
…………
「おい」
様子を窺っていた酒場の店員にクリフが声をかける。
ビクリと体を縮める店員にクリフは告げる。
「証言を頼む。」
2、3枚硬貨を手渡すと店員は何度も頷いた。
周囲に人垣が集まり始めた。これだけの騒ぎだ、無理もない。
……こんな騒ぎになっても知らぬ振りか。この町の衛兵はボンクラ揃いだ。
やれやれ面倒だと呟きながら、クリフは衛兵の詰め所に向かった。
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