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7 抱擁と口づけ

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何だかまだ身体が重いような気がする。マヒロはぼうっとしている頭で考えていた。瞼が重い。全体的に怠い。昨日よりひどくなったような気がする。‥やはりイケメンにキスしてもらった方がよかったのだろうか。しかし、今さら自分からキスしてくれとはちょっと言える気がしない。我慢するしかないか、と思いながら瞼の上に眩しい光を感じつつ、眠気に逆らうように何とか目をこじ開けた。

目の前の光景に、一気に眠気が吹っ飛んだ。

マヒロのすぐ前で、あの美しい男が寝ている。それはもう近いところで。マヒロの身体にぐるりと腕を回し、抱き込むようにして寝ている。道理で身体が重いはずだ。このイケメンはなかなか筋肉質っぽい体つきに見えた。このたくましい腕が自分に回っているだけで重そう。ていうか重い。そしてぎゅっと抱きしめられているから身体も苦しい。
‥どういうつもりで一緒に寝ているんだろう。
さっぱりわからないマヒロは混乱のあまり、ハルタカの鼻をぎゅむっと摘まんだ。秀麗な眉がきゅっと寄せられる。少し不機嫌そうな声を上げながらハルタカはゆっくりと目を開けた。長い睫毛がばさりと開いて風でも吹きそうだ。
「‥何をする」
「え、私の台詞じゃない?何で、あの、私を‥抱きしめてるんですか?」
こんな質問を人生でする羽目になろうとは思っていなかった、などと頭のどこかで変に冷静になっている自分が思っている。
「‥確かにお前を抱きしめてしまっていたようだな。無意識だ。」

‥‥‥終わり!? 説明それで終わりなの⁉

「えっ、それだけ?」
「‥?それだけとは何だ」
「いや、仮にもさ、女の子を無断で抱きしめといてさ‥」
と言いかけて、あーここ異世界だったわ、と昨日の会話のあれこれを思い出す。そして言葉を変えて言い直してみた。
「えー、この世界では、そんなに親しくない人を抱きしめるっていうのは、普通のこと?」
そう問われたハルタカはマヒロの身体に回した腕を解くこともせず、「ふむ‥」と考え込んだ。おいおいせめて一回離れたらどうだろう?そう思ったがとりあえず黙って返事を待ってみる。
おもむろにハルタカは言った。
「‥普通、ではないかもしれん」
「おい!!」
思わずお笑い芸人ばりに突っ込んでしまう。‥じゃあ何でだよ!?
「え、じゃあなんで?‥ていうかそもそも何で同じベッドにいるの?」
「べっどとはなんだ」
また来たか。‥だがそのうち自分も嫌というほど質問しなくてはならないだろうからここはきちんと答えておかねば。
「この、寝ている台の事です」
「ああ、寝台か。寝台は一つしかないのでな。私はその長椅子で寝ようと思ってここに来たのだが‥」
マジか。人様のベッド占領してたのか私。そいで今偉そうに何でベッドに来てんだよなんて言っちゃったのか。
恥ずかしすぎる‥
だがハルタカはそんなマヒロの羞恥にも気づかずにまだ考え込んでいるようだった。
「なぜだ、昨日は確かに長椅子で横になったはずなのに・・」
「‥あのー、ハルタカさん、もういいですごめんなさい、私がそもそもこのベッ‥寝台を占領しちゃってたのが悪いので」
だからそろそろ腕を離してくれないだろうか。そう思って身体をもぞもぞ動かしながらマヒロは言った。
するとなぜかハルタカはもぞもぞしているマヒロをなだめるかのように、ぎゅっと抱きしめ背中をゆっくりとさすってきた。
‥何で?
「えーと、ハルタカさん、もう一回聞きますけど‥何で今私を抱きしめているんですか?そして、そろそろ離してもらえませんか?」
そう言われて初めて気づいたかのような顔をしたハルタカは、ゆっくりと腕をマヒロの身体から離した。重い腕から身体が解放され、ようやく息を深く吸う。ふう、とひと息ついていると再びハルタカのたくましい腕がマヒロの身体に回された。
「へあ?」
思いがけないことにどこから出たかわからない声が出る。そのままハルタカがぎゅっと抱きしめてきた。
「‥ハルタカさん?」
「‥理由はわからないが、こうしていると心地よくて安心するな。マヒロはそうではないのか?」
‥‥‥‥何て言えばいいんだろうか‥。顔がどんどん熱くなってきた。たった十八年の人生の中でこんな美形に抱きしめられた経験などない。緊張してきて頭がくらくらする。
「えっと、私は、緊張しちゃってどうしていいかわからなく、なるので、離してもらいたいです‥」
そう言いながらそうっと顔を上げてハルタカの顔を見る。
‥やっぱりすっごい美形だ。イケメンとかいう言葉だと足りないと思ったのは間違いじゃなかった。こういう人を美しい、と表現するのだろう。
問題はなぜこの美しい人が自分を抱きしめて離さないかだ。
ハルタカはじっとマヒロの目を見つめ、‥ちゅっと唇に口づけてきた。

は!?
はああ?!
何で?!
「昨日したくもない口づけって言ってましたよね!?」

ハルタカは悪びれた様子もなく、じっとマヒロの顔を見つめながらまた何か考えている。マヒロがぐいぐいとその胸を腕で押して離れようとすると、またぎゅっと抱き込んできた。圧倒的な力に全く抗えない。
「‥今日は、したくなったな」

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