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2章 ビギシティと出会い
悪夢の始まり
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「ぎゃあああっ!」
「っ、なんだ!?」
真夜中に突如人の叫び声が聞こえ、眠りから覚め、毛布を蹴飛ばしながら窓の外を見る。
「どうなってんだこりゃ?」
外では村人達が逃げ回り、辺りには奇妙な人間のような奴がふらふらと村人達を追い回している。
「とりあえずアイナを起こさねぇと」
俺は別室で寝ているアイナ・クレイン、俺の妻を起こしにアイナの部屋に向かった。
「おい、アイナ!外が大変なことになってる、早く起きろ、避難するぞ!」
部屋をノックするも、返事がないことに俺は焦り、扉に体当たりをかまし強引に部屋に入る。
「うーん、リーフ~?お母さんはもうおなかいっぱいよ?」
返事のなかった理由をおなかいっぱいといいながら腹をさすって呑気に寝ている妻を見て呆れながらも察し、なんともないことに安堵するがそれどころでは無いことを思い出し、アイナの肩をゆする。
「アイナっ、リーフの飯はお前の飯よりも美味いことには賛成だが、起きろ、外が大変なことになってる!」
「誰のご飯が酷くて不味いですって!?」
「グホッぉ!?そ、そこまで言ってねぇ……ぞ……」
俺の言葉に盛大な勘違いをしたアイナは、目を覚ますと同時に俺の顔に拳をお見舞いしてきた。
それをモロに食らった俺は吹っ飛び扉に背中を叩きつけられる。
「あら、私は一体何を?なぜカーフさんが吹っ飛んでるのかしら?」
「お、お前が殴ったんだろ……って、そんなことはどうでもいいんだ!アイナ、外が大変なことになってる!」
あらぁ?と首を傾げているアイナに対し、俺は急いで状況を説明しながら壁に立て掛けていた鉄製の棍棒を手に取る。
ミラン村は村人の数が多く、滅多に魔物は村に入ってこない。しかし、念の為に護身用で武器を所持する村人達は多くいる。
俺もその1人で、棍棒を握り、数回振って良しと呟く。
「外で奇妙な人間のような者……?」
俺の説明を聞き、俺が棍棒を手に取るのを見たアイナは、首を傾げながら外を見渡す
――その瞬間――
「ガアァァァァっ!!」
「きゃあああ!?」
「アイナっ!?」
窓からさっき見た奇妙な人間のような者が現れ、アイナを掴もうと、手を伸ばす。
「俺の妻にっ!手を出すなぁ!!」
アイナのもとに駆け寄り、そいつの伸ばした手を棍棒で思いっきり叩きつけ、アイナを俺の後ろに来させる。
「ガァァァ!!」
そいつの片腕がへし折れ、叫び声を上げるが怯むことはなく、窓から部屋の中に入ってきてもう片方の腕を俺に伸ばし、拳を握って殴りかかってくる。
「ぐっ……なんて力だよ」
咄嗟に棍棒を盾にしたことで、ダメージは大したことは無いが、かなりの衝撃が全身を駆け抜け、直接拳を食らっていたらどうなっていたかを想像し、背中に冷たいものが走る。
「ガァァ!」
棍棒を殴った拳から血を流しながら、再び化け物が殴りかかろうとするが、拳が届く前に棍棒を振りかぶって化け物の腹に叩きつける。
化け物の腹からボキッと音がし、数メートル飛んでいって壁に衝突し、動かなくなった。
「はあ……はあ……一体なんなんだよこいつは」
「カーフさん怪我はないですか?」
化け物を見ながら息を切らす俺に、アイナが心配そうな目で見てくる。
「あぁ、なんとか大丈夫だ。でも、こいつの拳を受けた時、棍棒で防いだのにとんでもない衝撃が走った。こいつに攻撃されたらかなりまずいな。」
俺はそう言いながら棍棒を見る。鉄製だというのに、化け物の拳が当たったところは少しへこんでおり、あの化け物の力の強さが伺える。
「外にはこの化け物がまだいるのかしら……。私達はどうすれば……」
「さすがにこのまま家に籠るという選択肢はないだろうな。……村長の家に行こう。村長ならもしかしたら何か知ってるかもしれない。」
村長はミラン村のまわりにいくつかある他の村の村長達と交流がある。なにか村長が情報を持っているかもしれないと思い、アイナに提案してみる。
「確かに……あの村長なら何か知ってもかもしれないですね。」
アイナも納得したようで頷き、俺達は2人で家の外に出た。
ちなみにアイナも護身用で台所にあったフライパンを両手で持っている。クワやスコップなどの武器としても頼もしい農具が家にはあったが、アイナはそこまで力が無いため、持ってるだけで疲れるようなものは却下となり、最終的にフライパンが選ばれた。
「おいおい、さっきよりもすごいことになってんぞ……。」
化け物と家の中で戦闘になってからまだ数分しか経っていないが、村はいつもの光景とは別物になっていた。
化け物が何体もおり、村人達は逃げ回り、そこら中に捕まった村人達の成れの果てが転がっていた。
「本当に……一体何があったんですか……。」
口に手を当てながら、隣にいるアイナが呟く。
「分からんが、ともかく村長の家を目指すぞ。」
俺も内心ではプチパニックに陥っていたが、それを表情に出さないよう顔を顰め、棍棒を力強く握り直しながら、アイナとともに村長宅を目指す。
「はぁ……やっと着いたか。」
目の前の村長宅を見ながら、大量の血にまみれた棍棒を振り、血を払い落とす。
化け物共に見つからないよう建物の陰に隠れながら慎重に移動していたが、途中で見つかったが、奇跡的に相手は一体だったため二人で倒すことが出来た。
戦闘になったのはその一度だけだったが、見つからずに慎重になっていたことと複数体の化け物に一度に襲われたら死ぬという緊張で精神的にキツかったため、隣にいるアイナの顔色は優れない。多分俺もそうだろうが。
「村長はいるのでしょうか?こんな事態だからもしかしたら避難してるんじゃ……。」
扉を叩こうとすると後ろからアイナはポツリと呟いた。
「もしいないってんなら……どうするかな。さすがに化け物蔓延るこの村の中を探したいとは思わねぇな。村長俺だ、クレインだ、いるか?」
コンコンとドアを叩きながら村長が出てくることを願いながら化け物に見つからないように声を抑え目にして呼びかける。
しかし、十秒経とうが、二十秒経とうが中から何も物音は聞こえない。
「本当にいないのか……っ、ドアが開いてる?」
ノブに手をかけると、鍵がかかっていなかったのかすんなりとドアが開かれる。村長の家はドアを開ければすぐ広いリビングのため、村長がいればすぐに分かるはずだが、見える範囲には誰もいない。
しかし、そこら中に物が散らばっており、綺麗好きの村長の性格を知っている俺は何かあったのだとすぐに察することが出来た。
「村長っ、いねぇのか!?」
土足で申し訳ないが、そんなことを気にする暇もなく俺は家に入り、リビング、トイレ、台所と身を隠せそうなところを探す。
「いませんね、でも家の中で血が飛び散ってもいない……ということはちゃんと逃げられた?」
一緒に村長を探していたアイナの言葉にハッとする。
確かに化け物に襲われだとすれば、出血くらいするだろう。でも、家の中で血なんて見ていない。
さらにドアも空いていたことから村長は外に出たのだろう。
「……家の中で村長の死体を見ることにならなくて良かったが、外に出てるとしたらどこに行ったのかわかんねぇな。」
とりあえずタイミングを見て化け物達が離れたら外に行こう、そうアイナに伝えようとすると
――ガチャ――
ドアが開かれる音がし、反射的に棍棒を構えドアの方を警戒する。
「誰だ?」
ドアを開けたのは、赤髪のおそらく30代くらいの男だった。片手に血に濡れた大剣を持ち、全身もかなり血にまみれている。
「ん、もしかしてカーフとアイナか?」
赤髪の男が俺とアイナを見て、驚きながら口を開く。
「なんで俺の名前を……って、お前アインダか?」
「あぁ、そうだよ。良かったお前達は無事だったんだな!」
顔も血まみれで一瞬誰か分からなかったが、相手の声とどこか懐かしい雰囲気を漂わせていたこともあり相手がアインダであることに納得する。
アインダというのは、俺達と同じでこの村で育ち、15年前の魔物達の襲来から生き延びたうちの一人だ。
アインダは魔物達の襲来後、冒険者となり、強くなってまた戻ってくると言い残し、村を出ていき10年間ほとんど連絡をよこさず、死亡したのでは?と村で噂になったが、5年前に村に顔を見せAランクになったと報告しに顔を見せた。
そこでアレンやリーパー達、強くなりたいと願った者達に指導をし、十分に村を守れる力をつけさせると再びまた戻ってくるといい、村を去った。
「アインダ……なんでここに?」
「答えてやりたいとこだが、化け物共がウロウロしてる。
生存者を集会所に集めているからそこを目指すぞ。」
「集会所か、あそこならそこそこの広さはあるが、一箇所に集まったら襲われたら終わりだぞ?」
「大丈夫だ、俺のチームの2人が集会所を抑えてるし、バリケードを作るように村人達に指示してる。チームの奴らはBランク以上あるから化け物達に負けはしないさ。
ほら、行くぞ。」
そう言い、アインダは玄関から外に出ていく。
アイナと顔を見合せ、アイナはコクりと頷く。もう一度危険な外に出なければならないが、アイナも集会所に行くことに賛成らしい。
アインダの後を追うように俺達は村長宅から集会所へと向かうこととなった。
「ガアァッ!」
「『ウェポンズブースト』、『フルスイング』!
どけどけっ、お前らに構ってる暇はないんだよっ!」
集会所に向かう途中、さっきよりも化け物達の数が多くなり、かなり化け物達に発見され襲われる頻度が高くなってきた。
だがアインダのお陰で化け物に見つかってもアインダが大剣を振り、大量の化け物達が上下真っ二つになり消し飛んでいく。
「アインダお前すごいな。」
「これでも一応Aランクだからな。この化け物達は掴まれたり殴られたりされなきゃ、簡単に対応できる。」
「さすがだな……。だが、なんか死体の数が減ってないか?」
俺は辺りを見渡しながら呟く。村長の家に行く際、あちこちに死体があったが、周りには血は大量に地面に飛び散っているが、死体はあまりない。
「あっていて欲しくはないんだが……おそらく起き上がってあの化け物共の仲間になっちまったんだろう。化け物共の数が増えてきているからな。こんな感じに」
アインダが目の前の死体を指差す。
「ぐっうぉ……ヴォォォ」
「すまないな」
起き上がろうとする化け物にアインダは躊躇無く大剣を振るった。振るわれた刃は無防備な化け物の首と胴体を切り離し、化け物は動きを止める。
「マジかよ……てことは死んだミランの奴らも化け物になったってことかよ!」
襲ってくる化け物達は化け物化により顔が傷だらけだったり、血に塗れたりで判別が難しい。しかし、アインダが倒してきた化け物の顔をよく思い出してみると全員ではないが、何人かはミランの村人だったことを思い出す。
「くそ、一体なんでこんなことに」
拳を握りしめ今アインダが倒した化け物の顔を見る。
「この人は……」
アイナと似た顔立ちをしているその化け物を見た瞬間、それが誰か分かってしまった。
「っ……ぅ……」
アイナが隣で俺と同じく化け物の顔を見たのか、手で口を抑え、声を押し殺しながら静かに涙を流している。
「アイナ、大丈夫か?」
アイナを抱きしめ問いかける。アイナはなにも口にはしないが、アイナの腕には力が籠っていてどれだけ悲しんでいるかが手に取るように分かる。
「まさか……ダイン……か?」
「そう……です……」
アイナの弟ダインのことはアインダも面識がある。村が魔物に襲われる前はアインダも村で過ごしていたためだ。
さらにたまに村に帰ってきた時に顔を合わせたこともある。
そのためか、手を僅かに震わせている。
「す、すまない……アイナ……」
「ダインも化け物になって人を襲うくらいなら終わらせて欲しいと思ったはずです。……だから、私からお礼を言わせてください。ありがとうございます。」
俺から離れ、アインダにアイナは礼を言った。アイナから礼を言われたアインダは呆気にとられている。
「どうせ礼を言われるなら人を救った時に言われたかったな。」
力無く笑いながらアインダはそう呟いた。
「どうか安らかに眠ってね。さあ、早く集会所に行きましょう。」
ダインに向かってアイナは小さく呟き、涙を拭って前を向き歩き出した。
「……強い女だな、アイナは。」
「だろ、俺の自慢の嫁だ。」
そっと呟いたアインダの言葉に俺はニヤリと笑う。
「ふっ……さてもうすぐで集会所だ。2人とも気抜くなよ。」
俺の言葉にアインダも笑みを浮かべ、集会所へと再び歩き出した。
――そこで悪夢のような光景を目にするとはその時の俺達は思ってもみなかった――
「っ、なんだ!?」
真夜中に突如人の叫び声が聞こえ、眠りから覚め、毛布を蹴飛ばしながら窓の外を見る。
「どうなってんだこりゃ?」
外では村人達が逃げ回り、辺りには奇妙な人間のような奴がふらふらと村人達を追い回している。
「とりあえずアイナを起こさねぇと」
俺は別室で寝ているアイナ・クレイン、俺の妻を起こしにアイナの部屋に向かった。
「おい、アイナ!外が大変なことになってる、早く起きろ、避難するぞ!」
部屋をノックするも、返事がないことに俺は焦り、扉に体当たりをかまし強引に部屋に入る。
「うーん、リーフ~?お母さんはもうおなかいっぱいよ?」
返事のなかった理由をおなかいっぱいといいながら腹をさすって呑気に寝ている妻を見て呆れながらも察し、なんともないことに安堵するがそれどころでは無いことを思い出し、アイナの肩をゆする。
「アイナっ、リーフの飯はお前の飯よりも美味いことには賛成だが、起きろ、外が大変なことになってる!」
「誰のご飯が酷くて不味いですって!?」
「グホッぉ!?そ、そこまで言ってねぇ……ぞ……」
俺の言葉に盛大な勘違いをしたアイナは、目を覚ますと同時に俺の顔に拳をお見舞いしてきた。
それをモロに食らった俺は吹っ飛び扉に背中を叩きつけられる。
「あら、私は一体何を?なぜカーフさんが吹っ飛んでるのかしら?」
「お、お前が殴ったんだろ……って、そんなことはどうでもいいんだ!アイナ、外が大変なことになってる!」
あらぁ?と首を傾げているアイナに対し、俺は急いで状況を説明しながら壁に立て掛けていた鉄製の棍棒を手に取る。
ミラン村は村人の数が多く、滅多に魔物は村に入ってこない。しかし、念の為に護身用で武器を所持する村人達は多くいる。
俺もその1人で、棍棒を握り、数回振って良しと呟く。
「外で奇妙な人間のような者……?」
俺の説明を聞き、俺が棍棒を手に取るのを見たアイナは、首を傾げながら外を見渡す
――その瞬間――
「ガアァァァァっ!!」
「きゃあああ!?」
「アイナっ!?」
窓からさっき見た奇妙な人間のような者が現れ、アイナを掴もうと、手を伸ばす。
「俺の妻にっ!手を出すなぁ!!」
アイナのもとに駆け寄り、そいつの伸ばした手を棍棒で思いっきり叩きつけ、アイナを俺の後ろに来させる。
「ガァァァ!!」
そいつの片腕がへし折れ、叫び声を上げるが怯むことはなく、窓から部屋の中に入ってきてもう片方の腕を俺に伸ばし、拳を握って殴りかかってくる。
「ぐっ……なんて力だよ」
咄嗟に棍棒を盾にしたことで、ダメージは大したことは無いが、かなりの衝撃が全身を駆け抜け、直接拳を食らっていたらどうなっていたかを想像し、背中に冷たいものが走る。
「ガァァ!」
棍棒を殴った拳から血を流しながら、再び化け物が殴りかかろうとするが、拳が届く前に棍棒を振りかぶって化け物の腹に叩きつける。
化け物の腹からボキッと音がし、数メートル飛んでいって壁に衝突し、動かなくなった。
「はあ……はあ……一体なんなんだよこいつは」
「カーフさん怪我はないですか?」
化け物を見ながら息を切らす俺に、アイナが心配そうな目で見てくる。
「あぁ、なんとか大丈夫だ。でも、こいつの拳を受けた時、棍棒で防いだのにとんでもない衝撃が走った。こいつに攻撃されたらかなりまずいな。」
俺はそう言いながら棍棒を見る。鉄製だというのに、化け物の拳が当たったところは少しへこんでおり、あの化け物の力の強さが伺える。
「外にはこの化け物がまだいるのかしら……。私達はどうすれば……」
「さすがにこのまま家に籠るという選択肢はないだろうな。……村長の家に行こう。村長ならもしかしたら何か知ってるかもしれない。」
村長はミラン村のまわりにいくつかある他の村の村長達と交流がある。なにか村長が情報を持っているかもしれないと思い、アイナに提案してみる。
「確かに……あの村長なら何か知ってもかもしれないですね。」
アイナも納得したようで頷き、俺達は2人で家の外に出た。
ちなみにアイナも護身用で台所にあったフライパンを両手で持っている。クワやスコップなどの武器としても頼もしい農具が家にはあったが、アイナはそこまで力が無いため、持ってるだけで疲れるようなものは却下となり、最終的にフライパンが選ばれた。
「おいおい、さっきよりもすごいことになってんぞ……。」
化け物と家の中で戦闘になってからまだ数分しか経っていないが、村はいつもの光景とは別物になっていた。
化け物が何体もおり、村人達は逃げ回り、そこら中に捕まった村人達の成れの果てが転がっていた。
「本当に……一体何があったんですか……。」
口に手を当てながら、隣にいるアイナが呟く。
「分からんが、ともかく村長の家を目指すぞ。」
俺も内心ではプチパニックに陥っていたが、それを表情に出さないよう顔を顰め、棍棒を力強く握り直しながら、アイナとともに村長宅を目指す。
「はぁ……やっと着いたか。」
目の前の村長宅を見ながら、大量の血にまみれた棍棒を振り、血を払い落とす。
化け物共に見つからないよう建物の陰に隠れながら慎重に移動していたが、途中で見つかったが、奇跡的に相手は一体だったため二人で倒すことが出来た。
戦闘になったのはその一度だけだったが、見つからずに慎重になっていたことと複数体の化け物に一度に襲われたら死ぬという緊張で精神的にキツかったため、隣にいるアイナの顔色は優れない。多分俺もそうだろうが。
「村長はいるのでしょうか?こんな事態だからもしかしたら避難してるんじゃ……。」
扉を叩こうとすると後ろからアイナはポツリと呟いた。
「もしいないってんなら……どうするかな。さすがに化け物蔓延るこの村の中を探したいとは思わねぇな。村長俺だ、クレインだ、いるか?」
コンコンとドアを叩きながら村長が出てくることを願いながら化け物に見つからないように声を抑え目にして呼びかける。
しかし、十秒経とうが、二十秒経とうが中から何も物音は聞こえない。
「本当にいないのか……っ、ドアが開いてる?」
ノブに手をかけると、鍵がかかっていなかったのかすんなりとドアが開かれる。村長の家はドアを開ければすぐ広いリビングのため、村長がいればすぐに分かるはずだが、見える範囲には誰もいない。
しかし、そこら中に物が散らばっており、綺麗好きの村長の性格を知っている俺は何かあったのだとすぐに察することが出来た。
「村長っ、いねぇのか!?」
土足で申し訳ないが、そんなことを気にする暇もなく俺は家に入り、リビング、トイレ、台所と身を隠せそうなところを探す。
「いませんね、でも家の中で血が飛び散ってもいない……ということはちゃんと逃げられた?」
一緒に村長を探していたアイナの言葉にハッとする。
確かに化け物に襲われだとすれば、出血くらいするだろう。でも、家の中で血なんて見ていない。
さらにドアも空いていたことから村長は外に出たのだろう。
「……家の中で村長の死体を見ることにならなくて良かったが、外に出てるとしたらどこに行ったのかわかんねぇな。」
とりあえずタイミングを見て化け物達が離れたら外に行こう、そうアイナに伝えようとすると
――ガチャ――
ドアが開かれる音がし、反射的に棍棒を構えドアの方を警戒する。
「誰だ?」
ドアを開けたのは、赤髪のおそらく30代くらいの男だった。片手に血に濡れた大剣を持ち、全身もかなり血にまみれている。
「ん、もしかしてカーフとアイナか?」
赤髪の男が俺とアイナを見て、驚きながら口を開く。
「なんで俺の名前を……って、お前アインダか?」
「あぁ、そうだよ。良かったお前達は無事だったんだな!」
顔も血まみれで一瞬誰か分からなかったが、相手の声とどこか懐かしい雰囲気を漂わせていたこともあり相手がアインダであることに納得する。
アインダというのは、俺達と同じでこの村で育ち、15年前の魔物達の襲来から生き延びたうちの一人だ。
アインダは魔物達の襲来後、冒険者となり、強くなってまた戻ってくると言い残し、村を出ていき10年間ほとんど連絡をよこさず、死亡したのでは?と村で噂になったが、5年前に村に顔を見せAランクになったと報告しに顔を見せた。
そこでアレンやリーパー達、強くなりたいと願った者達に指導をし、十分に村を守れる力をつけさせると再びまた戻ってくるといい、村を去った。
「アインダ……なんでここに?」
「答えてやりたいとこだが、化け物共がウロウロしてる。
生存者を集会所に集めているからそこを目指すぞ。」
「集会所か、あそこならそこそこの広さはあるが、一箇所に集まったら襲われたら終わりだぞ?」
「大丈夫だ、俺のチームの2人が集会所を抑えてるし、バリケードを作るように村人達に指示してる。チームの奴らはBランク以上あるから化け物達に負けはしないさ。
ほら、行くぞ。」
そう言い、アインダは玄関から外に出ていく。
アイナと顔を見合せ、アイナはコクりと頷く。もう一度危険な外に出なければならないが、アイナも集会所に行くことに賛成らしい。
アインダの後を追うように俺達は村長宅から集会所へと向かうこととなった。
「ガアァッ!」
「『ウェポンズブースト』、『フルスイング』!
どけどけっ、お前らに構ってる暇はないんだよっ!」
集会所に向かう途中、さっきよりも化け物達の数が多くなり、かなり化け物達に発見され襲われる頻度が高くなってきた。
だがアインダのお陰で化け物に見つかってもアインダが大剣を振り、大量の化け物達が上下真っ二つになり消し飛んでいく。
「アインダお前すごいな。」
「これでも一応Aランクだからな。この化け物達は掴まれたり殴られたりされなきゃ、簡単に対応できる。」
「さすがだな……。だが、なんか死体の数が減ってないか?」
俺は辺りを見渡しながら呟く。村長の家に行く際、あちこちに死体があったが、周りには血は大量に地面に飛び散っているが、死体はあまりない。
「あっていて欲しくはないんだが……おそらく起き上がってあの化け物共の仲間になっちまったんだろう。化け物共の数が増えてきているからな。こんな感じに」
アインダが目の前の死体を指差す。
「ぐっうぉ……ヴォォォ」
「すまないな」
起き上がろうとする化け物にアインダは躊躇無く大剣を振るった。振るわれた刃は無防備な化け物の首と胴体を切り離し、化け物は動きを止める。
「マジかよ……てことは死んだミランの奴らも化け物になったってことかよ!」
襲ってくる化け物達は化け物化により顔が傷だらけだったり、血に塗れたりで判別が難しい。しかし、アインダが倒してきた化け物の顔をよく思い出してみると全員ではないが、何人かはミランの村人だったことを思い出す。
「くそ、一体なんでこんなことに」
拳を握りしめ今アインダが倒した化け物の顔を見る。
「この人は……」
アイナと似た顔立ちをしているその化け物を見た瞬間、それが誰か分かってしまった。
「っ……ぅ……」
アイナが隣で俺と同じく化け物の顔を見たのか、手で口を抑え、声を押し殺しながら静かに涙を流している。
「アイナ、大丈夫か?」
アイナを抱きしめ問いかける。アイナはなにも口にはしないが、アイナの腕には力が籠っていてどれだけ悲しんでいるかが手に取るように分かる。
「まさか……ダイン……か?」
「そう……です……」
アイナの弟ダインのことはアインダも面識がある。村が魔物に襲われる前はアインダも村で過ごしていたためだ。
さらにたまに村に帰ってきた時に顔を合わせたこともある。
そのためか、手を僅かに震わせている。
「す、すまない……アイナ……」
「ダインも化け物になって人を襲うくらいなら終わらせて欲しいと思ったはずです。……だから、私からお礼を言わせてください。ありがとうございます。」
俺から離れ、アインダにアイナは礼を言った。アイナから礼を言われたアインダは呆気にとられている。
「どうせ礼を言われるなら人を救った時に言われたかったな。」
力無く笑いながらアインダはそう呟いた。
「どうか安らかに眠ってね。さあ、早く集会所に行きましょう。」
ダインに向かってアイナは小さく呟き、涙を拭って前を向き歩き出した。
「……強い女だな、アイナは。」
「だろ、俺の自慢の嫁だ。」
そっと呟いたアインダの言葉に俺はニヤリと笑う。
「ふっ……さてもうすぐで集会所だ。2人とも気抜くなよ。」
俺の言葉にアインダも笑みを浮かべ、集会所へと再び歩き出した。
――そこで悪夢のような光景を目にするとはその時の俺達は思ってもみなかった――
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彼女の名はサブリーナ。
エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。
そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。
然もである。
公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。
一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。
趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。
そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。
「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。
ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。
拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。
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