憧れの世界は牙を剥く

奈倉ゆう

文字の大きさ
上 下
37 / 63
2章 ビギシティと出会い

指揮官

しおりを挟む
「ここでか……敵を感知した。3体のヒューデットだ。」

『エリアハック』に何度も見た人型の魔物の姿を察知する。
 俺の報告に緩んでいた雰囲気が一瞬で張りつめ、アイオン以外、緊張しているのが手に取るようにわかる。

「ユウキ、ヒューデットは変異種か?距離は?」

「体のでかい筋力特化のやつが1体、あとは通常のヒューデットだ。距離は全員25mほど前方だ。」

 少し目をこらすと、木の影に隠れていたのか、唸り声が聞こえ、その姿を現す。
 明らかにこちらを認識していて、唸り声をあげる。逃げたとしてもこの走りにくい森の中じゃ、追いつかれるだろう。

「逃げられないか……ユウキ、通常種は任せてもいいか?あのデカブツは俺がやる。」

 子供達を守るように、真剣な表情で前に立ち、大剣を構える。

「分かった、俺はあの2体だな。」

 リーエンと子供達に近づかせないように立ち回らないといけないな。

「おいデカブツ!こっちだ!!」

「〈赤き炎を纏いし火矢よ・刺し射抜け〉!」

 アイオンが大声を上げて変異種のヒューデットを引きつける。
 声に反応して通常種のヒューデットもアイオンに向かおうとしたため、俺の方に引きつけるため魔法を放つ。
 せっかく背中を向けてくれているんだ。どうせならと、俺の使える魔法の中では火力がでる『ファイアアロー』を遠慮なく放った。

「「がァァァァッ!!」」

 距離もそこまで離れていなかったため、5本全てが命中し、2体のヒューデットは倒れ込む。そして起き上がると、表情は分からないが、明らかに怒り狂っており、俺の元へ全力で走ってくる。

「よし、引き離すのには成功したな。〈集いし魔力よ〉!」

 一直線に向かってくる2体のヒューデットの顔面に、デュアルアクションで2発の魔弾をそれぞれ1発ずつ『マジックショット』をお見舞する。大した攻撃力ではないが、顔面に直撃させたのと、こっちに全力で走ってきている最中に当てたのもあり、そこそこ効いたようで怯んでいる。

「〈更なる魔力纏いて・爆ぜよ魔弾〉!」

 追撃で放った『マジックボム』が1体に直撃し、倒れる。

「ガァァァァァァ!!」  

 もう1体のヒューデットが怯みから立ち直り、空に向かって顔を上げ、勢いよく咆哮する。

「……?〈風よ阻め〉」

 今までのヒューデットとは異なる行動をとったヒューデットに一瞬疑問が生まれるが、倒した方がいいと判断し、『ウィンドブロウ』が完了し、さらに吹き飛ばされ、同じように『マジックボム』で追撃し、1体目と同じ結末を迎えた。

「流石に通常種の相手は慣れてきたな。」

 倒れたヒューデットを見ながらポツリと呟く。

「ユウキ、構えろ!囲まれたぞ!」

「なっ!?」

 変異種のヒューデットを俺よりも早く倒し終わっていたアイオンが俺に向かって言う。周囲を見渡すと、『エリアハック』の範囲外にいたヒューデットが10体現れ、俺達を包囲する。10体いるヒューデットのうち3体は筋力特化の体のでかいヒューデット、3体は速度特化の小柄なヒューデット、3体は通常種、そしてもう1体は

「まさかさっきの咆哮で仲間を呼んだのか……
 今までのヒューデットはそんなことしなかったのに!」

「あいつを見てみろ。多分知性持ちで指揮官かなんかだ。
 あいつが人間を見つけたら知らせろと伝えたんだろう。」

 他のヒューデットを盾にするようにして、後方で俺達を観察しており、通常種よりは少し体が大きく、服装も他のヒューデットがボロボロの服、または上半身裸なのに対し、質の良いグレー色の服を着ており、杖を持っている。

「ちっ、知性があるのは厄介だな。とりあえずは、皆を守りながら、包囲を突破するぞ!お前たち目を閉じろ!」

 アイオンに従い、目を閉じるとなにかが地面に衝突し、目を閉じてても強力な光が発生しているのが分かる。

 目を開けると、周りのヒューデット達が目を抑えており、まるで視界が潰されているようだ。
 いや、これは……

「閃光石か。こんなに強力とは……。」

 包囲されてはいるが、まだ距離はそこまで詰まっていなかった。しかし、それほど距離はがあるのにも関わらず、ヒューデット達は全員目を抑えている。

「閃光石を3個一気に使ったからな。1個ずつ使った時よりも強力なんだ。
 よし、付いてこい!」

 ヒューデット達の包囲の隙間を通り抜け、走る。アイオンが1番前を、俺が1番後ろを走り、いつヒューデット達が襲ってきても大丈夫なように『マジックボム』の詠唱を完了させ、右手に維持しておく。

「きゃっ!?」

 恐怖でよほど慌てていたのだろうか、子供達の1人、弓使いの女の子、ラウが途中で転倒し、驚きの声をあげる。

「大丈夫ですか!?」

 すぐ後ろを走っていたリーエンが、ラウの手をとって起こす。

「は、はい大丈夫で……」

「「「ガァァァ!!」」」

 ラウが礼を言い終わる前に、俺の後ろの方からヒューデットの声が響き渡った。後ろを確認すると、変異種の小柄で足の早い奴らが追ってきていた。その後ろに他のヒューデットの姿も見える。

「はっ!」

 追いつかれないよう、俺は近くにあった木に向かって『マジックボム』を放つ。
 木はヒューデット達の進路を防ぐように横に倒れる。

「よしこれなら少しは足止めできるだろ。」

 前を再び向いて走りながらそう思ったが――ドガッと大きな音が鳴り響く。

「まさかあの木を蹴り飛ばすなんて……どんだけの脚力だよ。」

 3体の変異種のヒューデットが一緒に木を蹴ったのか、木は宙を舞い、最前列にいるアイオンの目の前に大きな音を立てて降ってきた。

「なにっ?」

 アイオンは足を止め、リーエンや子供達も怯えている。

「もう追いつかれる……戦うしかない!」

 アイオンにそう呼びかけ、ヒューデットが追いついてくるまでの時間で魔法を詠唱し、俺はヒューデット達に向かって『ファイアアロー』を放つ。

 5本中4本が命中し、一瞬だが直撃したヒューデットはふらつくが倒れない。『ファイアアロー』が1本当たっただけだと、大して火力がでないため、当然か。

「はぁぁぁ!『ダッシュストライク』、『フルスイング』!」

 後方からアイオンが『ダッシュストライク』で勢い良く飛び出し、勢いを崩さずに、前方にいた2体の小柄変異種のヒューデットに大剣を思いっきり振りかぶって叩きつける。

「「ガァァ!?」」

 小柄変異種は数十メートル吹っ飛び、木に激突する。かなりダメージが入ったみたいですぐには起き上がらない。

「〈集いし魔力よ〉!」

 攻撃後のアイオンを狙って殴りかかろうとした筋力変異種のヒューデットに向け、デュアルアクションを使用して『マジックショット』を2発腕に当て、それを阻止する。
 そのうちにアイオンはバックステップをしながら後退する。

「助かったぞユウキ。……それにしてもやつら攻撃してこないな。」

 アイオンの言う通り、ヒューデット達はその場から動かなくなり、ヒューデットの指揮官が笑みを浮かべその直後――

「ガァァァッ!!」

 空に向けて大きく咆哮する。さっきのヒューデットと同じだが、今回は仲間を呼ぶためでなく……

「ヒューデット達が赤いオーラに包まれた?」

 後ろから体術師のレンリが口にする。
 確かに、ヒューデットが一瞬、赤いオーラに包まれた。そして――

「「「ガァァァァァァッ!!」」」

 明らかに強化された雰囲気で、咆哮しながら全員が同時に向かってくる。

「アイオンこれはヤバいんじゃ……」

「ヤバいなんてもんじゃないが、逃げても追いつかれる。やるしかない!おおぉぉ!!」

 アイオンは再び突っ込み、手を伸ばしてきた通常種のヒューデットの手を大剣を振って切り落とし、腹に大剣を突き刺し、仕留める。……が、大剣を抜くのにワンテンポ遅れてしまい、他のヒューデットからの攻撃を受けてしまう。

「〈更なる魔力纏いて・爆ぜよ魔弾〉!」

 アイオンに攻撃していたヒューデット目掛けて、『マジックボム』を放ち、爆発させた衝撃でアイオンが攻撃されないよう他のヒューデット達との距離を少し離す。
 アイオンにも少しダメージがいっただろうが、ヒューデット目掛けて放ったため大したダメージにはなっていないはずだ。

「〈不可視の刃よ・鋭く切り刻め〉!〈更なる魔力纏いて・爆ぜよ魔弾〉!」

 手を振って、『エアブレード』を発動させ、ヒューデットの足止めをし、直後に『マジックボム』を今度は直撃させるように狙って、ヒューデットに攻撃する。

「「ガガッ!?」」

 この攻撃で小柄変異種の先ほどアイオンに吹っ飛ばされた2体が地に倒れ、動かなくなる。

 あと6体だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

処理中です...