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2章 ビギシティと出会い
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「おい、ガロー……ギルマスはいるか?」
冒険者ギルドに着いた俺達は、ギルドマスターに会うため、受付に向かい、アイオンが職員に声を掛けた。
「ガローギルドマスターは、いらっしゃいますけど、いかがなされましたか?」
「ギルマスから特別依頼を受けていたアイオン・ラグナとキャサリン・クリッチだ。報告したいことがあるから呼んでくれるか?」
アイオンとキャサリンが、ギルドカードを見せると、職員が目を見開く。
「Bランク……あ、そう言えばガローギルドマスターが、Bランクの冒険者が来たら、報告しろって言われていたんでした。
少々お待ちください。」
職員が奥へと引っ込み、2分ほどすると、180cm越えのムキムキのおっさんを引き連れてきた。
アイオン達の知り合いなだけあって、年齢もアイオン達とそう変わらない。
「よぉ、アイオン、キャサリン。あの件についてだろ?」
「えぇ、そうよ。そして、この子達が遭遇したから、詳しく説明してもらう為に連れてきたの。」
ギルドマスターの視線がこちらへと向く。
「君達は……知らない顔だな。俺はこのビギシティ冒険者ギルドのギルドマスターのガロー・マークだ。
それにしても災難だったな。怪我はないか?」
「Eランク魔法使いのユウキ・ツキモトだ。
無傷って訳じゃないけど、怪我は大丈夫だ。」
「同じくEランク魔法使いのリーフ・クレインです。私も少し噛まれましたが、そこまで深い傷では無いので、大丈夫です。」
簡易的にだが、2人で自己紹介をする。
リーフに治してもらい、怪我はもう完治している。
今は、体を動かしすぎたのと、魔力がまだ完全に回復していないため、少し疲労感があるが、それだけだ。
「ツキモトに、クレインだな。詳しく話を聞かせてもらうぞ。こんな所でもなんだから、俺の部屋に来てくれ。」
ギルドマスターが、手招きし、奥へと進んでいく。
アイオンとキャサリンをちらりと見ると、
「行こうぜ。疲れた体で、こんな所で立ったまま報告するのも嫌だろ?」
アイオンはそう言い、キャサリンと共に、進んで行った。
「私達も行きましょうか?」
「そうだな。疲れた体に立ったままは、キツい。」
俺は苦笑いをしながら、俺もリーフと共に進んでいく。
「ここが俺の部屋だ。そこのソファに座ってくれ。」
長机を挟んだ2、3人座れそうな、2つの黒色のソファを指さし、近くにいた受付にいた職員とは別のギルド職員に指示をして、お茶とお菓子を持ってこさせ、窓側にある少々大きめの大量の資料が乗っかっている机の椅子に座る。
俺達は、アイオンとキャサリンが左側のソファに座り、俺とリーフは右側のソファに座る。
「さて、早速本題に入るが、ツキモトに、クライン。
この2人と共に俺に会いに来たということは、君達は、ヒューデッドに遭遇した……ということでいいんだよな。」
「はい、元々ゴブリン討伐のクエストを受けていたのですが、その途中で酷い怪我をした村人と出会って……。」
「その村人が怪我で、死んで動かなくなったと思ったら、いきなり動き出して襲ってきたんだ。」
リーフの言葉を引き継ぎ、あの時の出来事を思い出しながら、説明する。
「村人が?……つまり、ヒューデッドの正体は魔物だったってことか?」
「おっと、その話は俺達も初耳だな。詳しく聞きたいところだ。」
「とりあえず、その村人はどんな怪我をしていたの?」
俺とリーフ以外の3人が、身を乗り出し俺達の言葉に集中する。
「えっと、怪我の状態は腕には人に噛まれたような無数の噛み傷、顔は人に殴られたようにボロボロ、そして脇腹には4cmほどの穴が空いていて、そこからかなり出血していました。
それに、気になる点がまだあって、魔物がいる村の外に出てきているのに、一切武器を持っていませんでしたね。」
「その脇腹の穴が死因だろうな。人に殴られた後に、噛み付かれた跡。
……それに武器を持っていないか。
普通、村人達が村の外に出る時はなんらかの武器を装備するはずだが……。」
「武器を持っていく隙もなく、逃げ出した……のかもしれないな。」
「一応、実物は俺が『マジックポケット』で持っているけど……見るか?」
「実物あるのか。ちょっと待て。」
俺が提案すると、ギルドマスターは大きめのシートを床に敷いて、ここに出してくれと言う。
俺は『マジックポケット』を使用し、例のヒューデッドの死体をシートの上に置いた。
「これがヒューデッドか。ふむ、報告通り、傷が多いな。……まさか、人間がこんな姿になるとはな。」
長く冒険者をしていただけあって、ヒューデッドの死体を見ても、全くギルドマスターは動じていなかった。
あの時は気づかなかったが、ギルドマスターの視線を辿ってヒューデッドを見ると、腕や足、顎などの筋肉が発達しており、血管が浮きでていた。
「おそらくこの傷は、他のヒューデッドに襲われてできたものでは無いでしょうか?そして、命からがら逃げたが、魔法を受けて、途中で死亡してしまった。」
「……ということは、ヒューデッドはまだまだいるってことになるな。」
「私達、このヒューデッドにあった後、さらに2体のヒューデッドに遭遇しましたね。」
「あぁ、そうだったな。そう言えば、あの時に噛まれた傷、大丈夫か?」
リーフがヒューデッドに噛まれた首元を見てみる。
若干噛み跡があり、少し赤くなっている。
「はい、噛みちぎられる前にあなたに助けてもらったので、なんとか……。」
「噛まれたのか……ヒューデッドは、筋肉が発達しているようだから、首元などを噛まれたらまずいな。」
「なぁ、ガロー。この2人が怪我しちまったんだ。
幸い、2人ともEランクでなんとか、2人がかりで倒せたが、ここの冒険者達はFやGランクが多い。
こんな事態を回避するために、ヒューデッドのことを公表した方がいい。」
「そう……だな。いつ死人が出てもおかしくないから、このことを冒険者達に伝えることにしよう。」
少し悩んでいたギルドマスターだが、流石にまずいと思ったのか、組んでいた腕を解き、公表することを決めたようだ。
「そして、万が一遭遇した時の対処法なども考えないといけませんね。」
「だな。はぁ、やることがたんまりあるな。やはり、ギルドマスターという職業は椅子に座ってやる仕事が多いから体が鈍る。」
大袈裟に肩を振りながら、ギルドマスターはしかめっ面で言う。
そんな、ギルドマスターの様子を、アイオンとキャサリンは生暖かい目で見ていた。
「俺達がパーティー組んで冒険者活動をしていた時から、体を動かすことが好きだったもんな。もし俺が、ギルマスになれなんて言われたら、全力でお断りだな。」
「ったく、なんで俺がギルドマスターにならないといけないんだか。」
「ギルドマスターは、自分から志望したんじゃないんですか?」
疑問に思ったのか、リーフは少し驚いた表情で質問する。
「ガローは、パーティーのリーダーであり、優秀でさらにAランクまでいきましたからね。
それに、ガローの師匠が元ビギシティのギルドマスターで、数年前にガローをギルドマスターに推薦してギルドマスターになったのですよ。」
お茶をすすりながら、キャサリンが説明する。
「はぁー、あのクソ師匠め。俺に面倒事を押し付けて、もう歳なのに勝手にどっか行っちまうからよ。」
面倒くさそうにギルドマスターは言うが、師匠とやらを心配しているのか、少し不安げだ。
「あの人のことだから、どっかで元気に旅をしてるんじゃないか?仕事に支障がでないようにあんまり、気にしすぎないようにしろよ。」
「分かってるさ、さぁて、他のギルド職員達と話し合って、ヒューデッドについて対処しないとな。
お前達は、好きに寛いでくれて構わないぞ。
あと、ツキモトに、クライン、このヒューデッドは、ギルドで預からせてもらう。
その代わりに、特別に報酬を出すから、ここを出る時に受付に顔を出してくれ。
アイオンと、キャサリンもな。」
どうやら、ゴブリン討伐とは、別で報酬を貰えるらしい。
学園に行くためにもお金が必要なため、ありがたい。
「それと、アイオンとキャサリンは明日以降は、ヒューデッドを見かけたら撃破を頼む。
この新人達が多いビギシティの冒険者だと手に余る。」
「分かってるさガロー。幸い、ヒューデッドはDランクくらいの力だから、余裕で倒せる。」
「しかし、アイオンとキャサリンだけじゃ、ヒューデッドがあちこちで湧いたら対処が間に合わないな。」
「他のDランク以上の冒険者にも頼んでみたらどうでしょうか?」
悩むギルドマスターにキャサリンが提案する。
「そうだな、ただでさえEランク以上が少ないこのビギシティの冒険者達が何人受けてくれるかな。」
はは、と笑うギルドマスターを横目にリーフをちらりと見る。
リーフもこっちを向いて、こくりと頷いた。
「ギルドマスター、俺達もヒューデッドの撃破の依頼を受けたい。」
「今日ヒューデッドと戦いましたし、1体相手なら2人がかりで倒せるので、許可をください!」
俺達の言葉にギルドマスターは、僅かに驚き、口を開く。
「ヒューデッドはDランクの魔物だ。そして、君達はEランク。確かに1体であれば、2人がかりで対処出来るかもしれないが、必ずしもヒューデッドが1体である訳でもない。
さらに、周りに魔物がいる場合もあるだろう。
危険すぎる。」
俺達はついさっきの出来事を思い出す。
確かに、複数のヒューデッドと戦うことになる可能性もあるし、魔物にだって要注意だ。
だか、ヒューデッドはステータスをあげるのにもってこいな相手だ。
相手のランクが高いほど、ステータスは上昇しやすくなる。
しかも、俺と1つしかランクが変わらないから、危険度もある程度低く、何度か戦闘して慣れてきたし、リーフもいるため絶対とは言えないが、1、2体相手なら、倒すことが出来るだろう。
「ガロー、ユウキとリーフは強いぞ。2人が戦っている場面を見た俺が言うんだ。
新種の魔物で、誰も戦ったことの無いヒューデッドと戦っているから、他の冒険者より慣れているし、それに、人手は少しでも多い方がいいだろ?」
「若いのだからといって無理をするな、と言っていたアイオンが言うセリフではありませんね。
……でも、私もアイオンに同意です。2人で連携すれば、ヒューデッド2体までなら何とかなるでしょう。」
「……分かった、2人がそう言うのなら、俺は信じよう。ただし条件が2つある。」
ギルドマスターが、指を2つ立てて話を進める。
「条件ですか?」
「あぁ、1つ目はこの後、アイオンとキャサリンから魔物との戦い方を教えてもらえ。少し教わるだけでも、だいぶ変わるだろう。
アイオンとキャサリンもいいな?」
ちらりと、ギルドマスターが2人を見る。
「そうだな、俺達が推薦したんだ。教えられることも結構あると思うし、俺はいいぜ。
といっても、2人とも魔法使いだから、主に教えるのはキャサリンだろうが……。」
「私も大丈夫ですよ。戦いを見ていたところ、中級魔法は覚えていないですよね?
私が知っている中級魔法を教えてあげますよ。
戦略の幅も一気に広がりますしね。」
俺達が使っているのは初級魔法のみ。
初級魔法以上の効果を発揮する中級魔法は、まだ覚えていない。
中級魔法を覚えることが出来れば、より簡単にヒューデッドを倒すことが出来るだろう。
「それと、もう1つの条件だが、ヒューデッドに3体同時に遭遇したらすぐに逃げろ。数も増えているみたいだから、無理して戦おうとするな。」
「確かに3体はきついな。素直に逃げるとするよ。」
「あぁ、そうしてくれ。俺としても、ギルドから犠牲者を出したくないからな。」
「よし、話し合いはここまでだ。
ガロー、訓練所使ってもいいんだろ?」
アイオンが立ち上がり、ギルドマスターに問う。
「もちろんだ。自由に使ってくれ。」
「だそうだ。2人とも今から特訓するぞ!」
そう言って、部屋の外に出るアイオン。
「私達も行きましょうか?たくさん便利な魔法教えてあげますからね。」
微笑みながら、キャサリンも立ち上がり、アイオンについて行く。
「頑張れよお前達。2人は長年冒険者活動をしてきた猛者だ。きっと今日教えてもらうことは役に立つぞ。」
「はい、頑張ります!行きましょう、ユウキさん!」
「あぁ、そうだな。今日中に中級魔法使えるようになれるといいんだが……。」
やる気満々といった感じのリーフの後を、ぽつりと呟きながら、俺もついて行った。
冒険者ギルドに着いた俺達は、ギルドマスターに会うため、受付に向かい、アイオンが職員に声を掛けた。
「ガローギルドマスターは、いらっしゃいますけど、いかがなされましたか?」
「ギルマスから特別依頼を受けていたアイオン・ラグナとキャサリン・クリッチだ。報告したいことがあるから呼んでくれるか?」
アイオンとキャサリンが、ギルドカードを見せると、職員が目を見開く。
「Bランク……あ、そう言えばガローギルドマスターが、Bランクの冒険者が来たら、報告しろって言われていたんでした。
少々お待ちください。」
職員が奥へと引っ込み、2分ほどすると、180cm越えのムキムキのおっさんを引き連れてきた。
アイオン達の知り合いなだけあって、年齢もアイオン達とそう変わらない。
「よぉ、アイオン、キャサリン。あの件についてだろ?」
「えぇ、そうよ。そして、この子達が遭遇したから、詳しく説明してもらう為に連れてきたの。」
ギルドマスターの視線がこちらへと向く。
「君達は……知らない顔だな。俺はこのビギシティ冒険者ギルドのギルドマスターのガロー・マークだ。
それにしても災難だったな。怪我はないか?」
「Eランク魔法使いのユウキ・ツキモトだ。
無傷って訳じゃないけど、怪我は大丈夫だ。」
「同じくEランク魔法使いのリーフ・クレインです。私も少し噛まれましたが、そこまで深い傷では無いので、大丈夫です。」
簡易的にだが、2人で自己紹介をする。
リーフに治してもらい、怪我はもう完治している。
今は、体を動かしすぎたのと、魔力がまだ完全に回復していないため、少し疲労感があるが、それだけだ。
「ツキモトに、クレインだな。詳しく話を聞かせてもらうぞ。こんな所でもなんだから、俺の部屋に来てくれ。」
ギルドマスターが、手招きし、奥へと進んでいく。
アイオンとキャサリンをちらりと見ると、
「行こうぜ。疲れた体で、こんな所で立ったまま報告するのも嫌だろ?」
アイオンはそう言い、キャサリンと共に、進んで行った。
「私達も行きましょうか?」
「そうだな。疲れた体に立ったままは、キツい。」
俺は苦笑いをしながら、俺もリーフと共に進んでいく。
「ここが俺の部屋だ。そこのソファに座ってくれ。」
長机を挟んだ2、3人座れそうな、2つの黒色のソファを指さし、近くにいた受付にいた職員とは別のギルド職員に指示をして、お茶とお菓子を持ってこさせ、窓側にある少々大きめの大量の資料が乗っかっている机の椅子に座る。
俺達は、アイオンとキャサリンが左側のソファに座り、俺とリーフは右側のソファに座る。
「さて、早速本題に入るが、ツキモトに、クライン。
この2人と共に俺に会いに来たということは、君達は、ヒューデッドに遭遇した……ということでいいんだよな。」
「はい、元々ゴブリン討伐のクエストを受けていたのですが、その途中で酷い怪我をした村人と出会って……。」
「その村人が怪我で、死んで動かなくなったと思ったら、いきなり動き出して襲ってきたんだ。」
リーフの言葉を引き継ぎ、あの時の出来事を思い出しながら、説明する。
「村人が?……つまり、ヒューデッドの正体は魔物だったってことか?」
「おっと、その話は俺達も初耳だな。詳しく聞きたいところだ。」
「とりあえず、その村人はどんな怪我をしていたの?」
俺とリーフ以外の3人が、身を乗り出し俺達の言葉に集中する。
「えっと、怪我の状態は腕には人に噛まれたような無数の噛み傷、顔は人に殴られたようにボロボロ、そして脇腹には4cmほどの穴が空いていて、そこからかなり出血していました。
それに、気になる点がまだあって、魔物がいる村の外に出てきているのに、一切武器を持っていませんでしたね。」
「その脇腹の穴が死因だろうな。人に殴られた後に、噛み付かれた跡。
……それに武器を持っていないか。
普通、村人達が村の外に出る時はなんらかの武器を装備するはずだが……。」
「武器を持っていく隙もなく、逃げ出した……のかもしれないな。」
「一応、実物は俺が『マジックポケット』で持っているけど……見るか?」
「実物あるのか。ちょっと待て。」
俺が提案すると、ギルドマスターは大きめのシートを床に敷いて、ここに出してくれと言う。
俺は『マジックポケット』を使用し、例のヒューデッドの死体をシートの上に置いた。
「これがヒューデッドか。ふむ、報告通り、傷が多いな。……まさか、人間がこんな姿になるとはな。」
長く冒険者をしていただけあって、ヒューデッドの死体を見ても、全くギルドマスターは動じていなかった。
あの時は気づかなかったが、ギルドマスターの視線を辿ってヒューデッドを見ると、腕や足、顎などの筋肉が発達しており、血管が浮きでていた。
「おそらくこの傷は、他のヒューデッドに襲われてできたものでは無いでしょうか?そして、命からがら逃げたが、魔法を受けて、途中で死亡してしまった。」
「……ということは、ヒューデッドはまだまだいるってことになるな。」
「私達、このヒューデッドにあった後、さらに2体のヒューデッドに遭遇しましたね。」
「あぁ、そうだったな。そう言えば、あの時に噛まれた傷、大丈夫か?」
リーフがヒューデッドに噛まれた首元を見てみる。
若干噛み跡があり、少し赤くなっている。
「はい、噛みちぎられる前にあなたに助けてもらったので、なんとか……。」
「噛まれたのか……ヒューデッドは、筋肉が発達しているようだから、首元などを噛まれたらまずいな。」
「なぁ、ガロー。この2人が怪我しちまったんだ。
幸い、2人ともEランクでなんとか、2人がかりで倒せたが、ここの冒険者達はFやGランクが多い。
こんな事態を回避するために、ヒューデッドのことを公表した方がいい。」
「そう……だな。いつ死人が出てもおかしくないから、このことを冒険者達に伝えることにしよう。」
少し悩んでいたギルドマスターだが、流石にまずいと思ったのか、組んでいた腕を解き、公表することを決めたようだ。
「そして、万が一遭遇した時の対処法なども考えないといけませんね。」
「だな。はぁ、やることがたんまりあるな。やはり、ギルドマスターという職業は椅子に座ってやる仕事が多いから体が鈍る。」
大袈裟に肩を振りながら、ギルドマスターはしかめっ面で言う。
そんな、ギルドマスターの様子を、アイオンとキャサリンは生暖かい目で見ていた。
「俺達がパーティー組んで冒険者活動をしていた時から、体を動かすことが好きだったもんな。もし俺が、ギルマスになれなんて言われたら、全力でお断りだな。」
「ったく、なんで俺がギルドマスターにならないといけないんだか。」
「ギルドマスターは、自分から志望したんじゃないんですか?」
疑問に思ったのか、リーフは少し驚いた表情で質問する。
「ガローは、パーティーのリーダーであり、優秀でさらにAランクまでいきましたからね。
それに、ガローの師匠が元ビギシティのギルドマスターで、数年前にガローをギルドマスターに推薦してギルドマスターになったのですよ。」
お茶をすすりながら、キャサリンが説明する。
「はぁー、あのクソ師匠め。俺に面倒事を押し付けて、もう歳なのに勝手にどっか行っちまうからよ。」
面倒くさそうにギルドマスターは言うが、師匠とやらを心配しているのか、少し不安げだ。
「あの人のことだから、どっかで元気に旅をしてるんじゃないか?仕事に支障がでないようにあんまり、気にしすぎないようにしろよ。」
「分かってるさ、さぁて、他のギルド職員達と話し合って、ヒューデッドについて対処しないとな。
お前達は、好きに寛いでくれて構わないぞ。
あと、ツキモトに、クライン、このヒューデッドは、ギルドで預からせてもらう。
その代わりに、特別に報酬を出すから、ここを出る時に受付に顔を出してくれ。
アイオンと、キャサリンもな。」
どうやら、ゴブリン討伐とは、別で報酬を貰えるらしい。
学園に行くためにもお金が必要なため、ありがたい。
「それと、アイオンとキャサリンは明日以降は、ヒューデッドを見かけたら撃破を頼む。
この新人達が多いビギシティの冒険者だと手に余る。」
「分かってるさガロー。幸い、ヒューデッドはDランクくらいの力だから、余裕で倒せる。」
「しかし、アイオンとキャサリンだけじゃ、ヒューデッドがあちこちで湧いたら対処が間に合わないな。」
「他のDランク以上の冒険者にも頼んでみたらどうでしょうか?」
悩むギルドマスターにキャサリンが提案する。
「そうだな、ただでさえEランク以上が少ないこのビギシティの冒険者達が何人受けてくれるかな。」
はは、と笑うギルドマスターを横目にリーフをちらりと見る。
リーフもこっちを向いて、こくりと頷いた。
「ギルドマスター、俺達もヒューデッドの撃破の依頼を受けたい。」
「今日ヒューデッドと戦いましたし、1体相手なら2人がかりで倒せるので、許可をください!」
俺達の言葉にギルドマスターは、僅かに驚き、口を開く。
「ヒューデッドはDランクの魔物だ。そして、君達はEランク。確かに1体であれば、2人がかりで対処出来るかもしれないが、必ずしもヒューデッドが1体である訳でもない。
さらに、周りに魔物がいる場合もあるだろう。
危険すぎる。」
俺達はついさっきの出来事を思い出す。
確かに、複数のヒューデッドと戦うことになる可能性もあるし、魔物にだって要注意だ。
だか、ヒューデッドはステータスをあげるのにもってこいな相手だ。
相手のランクが高いほど、ステータスは上昇しやすくなる。
しかも、俺と1つしかランクが変わらないから、危険度もある程度低く、何度か戦闘して慣れてきたし、リーフもいるため絶対とは言えないが、1、2体相手なら、倒すことが出来るだろう。
「ガロー、ユウキとリーフは強いぞ。2人が戦っている場面を見た俺が言うんだ。
新種の魔物で、誰も戦ったことの無いヒューデッドと戦っているから、他の冒険者より慣れているし、それに、人手は少しでも多い方がいいだろ?」
「若いのだからといって無理をするな、と言っていたアイオンが言うセリフではありませんね。
……でも、私もアイオンに同意です。2人で連携すれば、ヒューデッド2体までなら何とかなるでしょう。」
「……分かった、2人がそう言うのなら、俺は信じよう。ただし条件が2つある。」
ギルドマスターが、指を2つ立てて話を進める。
「条件ですか?」
「あぁ、1つ目はこの後、アイオンとキャサリンから魔物との戦い方を教えてもらえ。少し教わるだけでも、だいぶ変わるだろう。
アイオンとキャサリンもいいな?」
ちらりと、ギルドマスターが2人を見る。
「そうだな、俺達が推薦したんだ。教えられることも結構あると思うし、俺はいいぜ。
といっても、2人とも魔法使いだから、主に教えるのはキャサリンだろうが……。」
「私も大丈夫ですよ。戦いを見ていたところ、中級魔法は覚えていないですよね?
私が知っている中級魔法を教えてあげますよ。
戦略の幅も一気に広がりますしね。」
俺達が使っているのは初級魔法のみ。
初級魔法以上の効果を発揮する中級魔法は、まだ覚えていない。
中級魔法を覚えることが出来れば、より簡単にヒューデッドを倒すことが出来るだろう。
「それと、もう1つの条件だが、ヒューデッドに3体同時に遭遇したらすぐに逃げろ。数も増えているみたいだから、無理して戦おうとするな。」
「確かに3体はきついな。素直に逃げるとするよ。」
「あぁ、そうしてくれ。俺としても、ギルドから犠牲者を出したくないからな。」
「よし、話し合いはここまでだ。
ガロー、訓練所使ってもいいんだろ?」
アイオンが立ち上がり、ギルドマスターに問う。
「もちろんだ。自由に使ってくれ。」
「だそうだ。2人とも今から特訓するぞ!」
そう言って、部屋の外に出るアイオン。
「私達も行きましょうか?たくさん便利な魔法教えてあげますからね。」
微笑みながら、キャサリンも立ち上がり、アイオンについて行く。
「頑張れよお前達。2人は長年冒険者活動をしてきた猛者だ。きっと今日教えてもらうことは役に立つぞ。」
「はい、頑張ります!行きましょう、ユウキさん!」
「あぁ、そうだな。今日中に中級魔法使えるようになれるといいんだが……。」
やる気満々といった感じのリーフの後を、ぽつりと呟きながら、俺もついて行った。
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