上 下
67 / 68

番外編Ⅲ ☆結婚するつもりない④

しおりを挟む
「ねえ、死ぬより怖い目ってどんな感じのやつなの?」

 外の方から声がして、店長はビクッと振り返った。

 そこには、口元だけはニコヤカで、目は一切笑っていない弦人が、市原と共に立っていた。

「多重債務で売られてきた子でもないのに、そんな事されるの?怖いねえ。おかしいなぁ。この店はヤクザの店にしては優良店って評判なんだけどなぁ」

「いえ、その、この子は体験入店の子で……」

「違うって言ってんじゃん!!この子はね、社長の恋人だよ!」
「はっ!?社長の!?」
 セイラの挟んできた言葉に、店長はギョッとして真っ青になった。

 弦人は、ニッコリとセイラに微笑みかけて言った。
「セイラちゃん、セイラちゃん目当てで来てたお客様は、俺の方からちゃんと謝って帰ってもらったから、ちょっとだけ瑞希ちゃんと一緒にいてもらえる?」

 セイラはコクコクと頷いた。 

 弦人は店長に笑顔で近寄った。
「ねえ店長、ちょっと話は変わるんだけどねぇ。俺の知り合いで、ちょっと変態趣味がある人が夜遊びの相手を探してるんだ」

「そ、それなら、可愛い子をうちの店から紹介しますので……」

「うーん、その人ねえ、別に男の人でも全然ありなんだってさー」

 そう言って、弦人は、更に店長に近づいて、その顔を両手で優しく挟んだ。

「ねえ店長、よく見たら可愛い顔してるよね?その人の趣味にピッタリだ。
 大丈夫だよ、その人、ちょっとえげつないプレイ好きな人だけど、基本優しくしてくれるよ。今夜ちょっと試してみようか」

「いや、その、さすがに俺は……」
 ブルブル震える店長を逃さないように、市原がすぐ肩をがっしりつかんでいる。

「げ、弦人さん、その、未遂……なので……その、穏便に……」
 瑞希は、かわいそうになって思わず言った。

 市原が、弦人の代わりに言う。
「あのな、コイツは瑞希だけじゃなく、他の女のコも同じように脅してるぞ」

「……そっか、じゃあそのままお続けください」

「お、おい!助け……」

 色々言い訳する店長は、どこからともなく現れた怖いお兄さんたちによってどこかに連れて行かれてしまった。


「社長ぉ、カッコ良かったですぅ!」
 セイラが弦人に抱きつかんばかりにお礼を言った。

「ちょっと最近あの店長、店の女のコ達に手を出したり、勝手に店通さないでお客さんとって売上誤魔化したり酷いって苦情があったんだよね。だから元々問い詰めるつもりだったんだ。別に瑞希ちゃんのためじゃないからね」
 弦人はツンデレみたいな事を言うと、瑞希を少し睨んだ。

「それにしても、瑞希ちゃん、ここで何してるの?まさか本当に体験入店じゃないよね?俺以外に触らせるつもりだったわけじゃないよね?」

 セイラが慌てて間に入る。
「あたしが連れてきちゃったの。その……」

「セイラさんにエッチなテクニックを教えてもらうつもりだったんです」
 瑞希は、弦人を見つめてはっきりと言った。

 弦人は一瞬ポカンとした。

「な、なんのために?」

「だって……少しでも……弦人さんに……」
 瑞希は自分で言って真っ赤になった。

 弦人は慌てた。
「俺は瑞希ちゃんの近くにいるだけでドキドキなんだよ。テクニックなんて必要ないよ」

「じゃあ、えっと、やっぱり姐さんの資質ですか?それが足りないんですか?」

「は?」

「……結婚、するつもりないんですよね?私と」

 つい、瑞希は言ってしまった。

 その言葉を聞き、弦人はギョッとしたような顔になった。
「なんで瑞希ちゃんがそれを!?誰?誰から聞いたの?」

「弦人さんが言ってたんです!」
 瑞希は思わず声を張り上げた。

「別に私だって、結婚とか考えてなかったけど。でもするつもりないっていうのは、その、つまり、別の相手がいるとか、私はいずれ用無しになって捨てられるって事なんじゃないかと思って……もう弦人さんの竿切り落とすしか……」

「ま、待って!」
 弦人は自分の股間を守りながら慌てて言った。

「誤解!誤解だよ!」

 そう言って、弦人は思い詰めた顔の瑞希に近づき、優しく頭を撫でた。

「違うんだ。俺が結婚するつもりはないって言ったのは、『籍を入れるつもりはない』って意味なんだよ」

「同じじゃないですか」

 瑞希が不貞腐れると、弦人は苦笑いした。

「あのね、ヤクザっていうのは、世間に存在してちゃだめな組織なんだよ。悪い人の集まりだからね。だから、ヤクザは勿論、ヤクザと関係を持っている人も、とても生活しづらくなるんだ」

 そう言って、弦人は真面目な顔になった。

「銀行口座は作れないし、保険にも入れない。アパートの契約もできない。まあうちは代々の土地持ちでマンション所有してるから組員にそこに住ませてる状況なんだけどね」

「なんか、そういうの聞いたことあります」
 瑞希は小さく頷いた。

「そう。だからね、瑞希ちゃんが俺と結婚して黒部の籍に入ったら、瑞希ちゃんも不便になっちゃうことが多い。そんな目に合わせるわけにはいかない」

「私は別に大丈夫……」

「俺が大丈夫じゃない。瑞希ちゃんの世界を守りたい。だから、瑞希ちゃんを黒部にするつもりはないんだ。それが、結婚するつもりはないって意味」
 そう言って、再度弦人は瑞希の頭を撫でた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

助けてください!エリート年下上司が、地味な私への溺愛を隠してくれません

和泉杏咲
恋愛
両片思いの2人。「年下上司なんてありえない!」 「できない年上部下なんてまっぴらだ」そんな2人は、どうやって結ばれる? 「年下上司なんてありえない!」 「こっちこそ、できない年上の部下なんてまっぴらだ」 思えば、私とあいつは初対面から相性最悪だった! 人材業界へと転職した高井綾香。 そこで彼女を待ち受けていたのは、エリート街道まっしぐらの上司、加藤涼介からの厳しい言葉の数々。 綾香は年下の涼介に対し、常に反発を繰り返していた。 ところが、ある時自分のミスを助けてくれた涼介が気になるように……? 「あの……私なんで、壁ドンされてるんですか?」 「ほら、やってみなよ、体で俺を誘惑するんだよね?」 「はあ!?誘惑!?」 「取引先を陥落させた技、僕にやってみなよ」

お客様はヤのつくご職業

古亜
恋愛
コンビニ強盗に襲われていたバイト、山野楓を助けたのは、いかにもヤの付く職業の男。 助けられたとはいえ、もう関わることはないと思っていたのになぜか向こうからやって来る。 ……怖いんですけど!? コンビニバイトとヤクザのラブコメ(の予定) 極道とか詳しくないのでゆるっとした世界観になります。生暖かい目で見てやってください。 中盤〜2章終わりまでコメ要素希薄。というかシリアス? 3章も終盤はシリアス R18ありですが、主人公が鈍いので後半です。 その辺りの話は#が付いてます。 4/24 1章完結 6/1 2章完結 9/16 3章完結 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。

最強総長は闇姫の首筋に牙を立てる~紅い月の真実~

星空永遠
恋愛
裏社会で『闇姫』と恐れられている金髪に赤い瞳が特徴的なクール美少女の闇華。そんな闇華は紅い月を摂取した壱流を助けたあと姿を消し闇姫を卒業。 「惚れてる女の前でカッコつけてなにが悪い?」かつての弱々しい面影が消え男らしくなった壱流と高校で再会を果たす闇姫。吸血鬼になった最強総長からの溺愛吸血ラブ! *野いちご、魔法のiらんどにて同作品掲載中(完結済)

[復讐・ざまぁ・ラブコメ短編集]気弱な王妃の逆行転生 ~王に捨てられた王妃は10代の令嬢に戻り運命をやり直す~ 他

小豆このか@大人の女性向け連載
恋愛
女性向けの異世界・現代恋愛等の短編集です。稀に男主人公もありますし、ファンタジー・コメディ作品もあります。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

【完結】騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです

大森 樹
恋愛
貧乏令嬢のヴィヴィアンヌと公爵家の嫡男で騎士団長のランドルフは、お互いの親の思惑によって結婚が決まった。 「俺は子どもみたいな女は好きではない」 ヴィヴィアンヌは十八歳で、ランドルフは三十歳。 ヴィヴィアンヌは背が低く、ランドルフは背が高い。 ヴィヴィアンヌは貧乏で、ランドルフは金持ち。 何もかもが違う二人。彼の好みの女性とは真逆のヴィヴィアンヌだったが、お金の恩があるためなんとか彼の妻になろうと奮闘する。そんな中ランドルフはぶっきらぼうで冷たいが、とろこどころに優しさを見せてきて……!? 貧乏令嬢×不器用な騎士の年の差ラブストーリーです。必ずハッピーエンドにします。

【完結】maybe 恋の予感~イジワル上司の甘いご褒美~

蓮美ちま
恋愛
会社のなんでも屋さん。それが私の仕事。 なのに突然、企画部エースの補佐につくことになって……?! アイドル顔負けのルックス 庶務課 蜂谷あすか(24) × 社内人気NO.1のイケメンエリート 企画部エース 天野翔(31) 「会社のなんでも屋さんから、天野さん専属のなんでも屋さんってこと…?」 女子社員から妬まれるのは面倒。 イケメンには関わりたくないのに。 「お前は俺専属のなんでも屋だろ?」 イジワルで横柄な天野さんだけど、仕事は抜群に出来て人望もあって 人を思いやれる優しい人。 そんな彼に認められたいと思う反面、なかなか素直になれなくて…。 「私、…役に立ちました?」 それなら…もっと……。 「褒めて下さい」 もっともっと、彼に認められたい。 「もっと、褒めて下さ…っん!」 首の後ろを掬いあげられるように掴まれて 重ねた唇は煙草の匂いがした。 「なぁ。褒めて欲しい?」 それは甘いキスの誘惑…。

処理中です...