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雪が溶けて

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「若頭!!」

 突然、和室の扉が勢いよく開けられ、若い衆の一人が飛び込んできた。

 弦人はビクッと飛び上がると、ハナを庇うように抱きしめながら、市原の後ろに隠れた。

「な、何?もしかして他の組の襲撃?」

「いえ、違います」

 弦人はホッとして市原の後ろから出てきた。

「もう、脅かさないでよ」

「今、組長がお帰りになりました」

「はっ!?」

 弦人は顔を顰めた。

「何で!?今日色々忙しくて帰ってこないはずじゃ」

「ハナさんが家に来ていることを知った組長が、面白そうだから帰る、と言って帰ってきたそうです」

「何で知ってるの!?知られると面倒臭そうだから秘密にしてたのに!」

「誰かがポロッとこぼしたんでしょうね」

 市原は他人事のように言った。

「だいたい、組長ちゃんと仕事してきてよ!そのしわ寄せこっちに来るんだからー」

「今日余った仕事は、今から若頭に任せよっかなー、との事です」

「絶対嫌だよ!せっかく今日休みだったのに!組長の仕事って、怖い人と会う仕事ばっかりだし!」

 弦人はそう言って慌ててハナの手を掴んだ。

「よし、逃げるよハナちゃん」

「い、いいんですか!?」

「いいの!市原、なんとか時間稼ぎしておいて!」

 弦人はそう言って、和室を飛び出した。


「ちゃんと組長に紹介するときは紹介するから!!こんな適当に面白そうだからって理由でハナちゃん見世物にするわけにはいかないし。
 何より組長の仕事引き継ぎたくない」

「後半が主な理由ですね」

 ハナは苦笑した。


 二人は大きな家の裏口から外に出て、隠れるように小道に入った。


 ここまで来たら追って来ないね、と笑い合う。


「外、さっきより暖かい気がする」

 ハナは思わず呟いて立ち止まった。

「春が近いからね」

 弦人もハナと一緒に立ち止まって風を感じるように空を見上げた。


「早く雪が解けて、枝垂れ桜見にいけるようになりたいね、  ちゃん」


 弦人に初めて呼ばれた本名に、瑞希は何かがようやくゆっくりと解けていくような気がして微笑んだ。



 ~END~


次回より番外編です
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