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ヤバい事

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 一方弦人は、車の中で顔を覆いながら脱力しながら呟いた。

「どうしよう。俺自分が思ってたより心が狭いのかも。ハナちゃんの事が結構許せない。このままじゃハナちゃん殺されちゃうかもしれないのに、何も動く気にならない。浮気くらい、数日の監禁くらいで許してあげるつもりだったのに」

「普通の事です。社長は悪くありません。あの女は社長を殺そうとしたんです。

 むしろここで命を狙ったモンを許せば、組の威厳に関わります」

 市原はキッパリと言った。


 少しすると、花水木の店長から電話が来て、池田隼確保の顛末の報告を受けた。


「山塚から情報買ったんだね。何で俺に教えてくれなかったの」

「申し訳ありません。社長には捕まえてから報告するつもりでした。何度も確保に失敗してるので」

「そう」

 弦人はボンヤリとした目で空を見ていた。

「池田は、ハナちゃんのマンションにいたんだね?」

「ええ」

「なんか話聞いてたら頭がゴチャゴチャだよ。……ハナちゃんのマンションに寄ってくれる?」

「……かしこまりました」

 市原は道を変え、ハナのマンションへ向った。




 マンションの鍵はかかっていなかった。

 潜んでいる池田を確保する際に、大暴れしたようで、大変に散らかっていた。

「ああ。こんなになっちゃって」

 弦人はしゃがみ込み、昨日あげたリンゴが、踏まれたように潰れているのを拾った。

「アップルパイ作ってくれるって言ってたのに」


 その時、部屋のチャイムが鳴った。

「すみません……あの、さっき大騒ぎがあったみたいなんだけど……何があったんですか?ハナ大丈夫なんですか?」

 訪ねてきたのはカンナだった。

「ああ、社長いらっしゃったんですね」

「ゴメンね、うるさかったでしょ。今日仕事は?」

「今日は私休みなんです」

 そう言って部屋を覗いたカンナは目を丸くした。

「いえ。うわ、どうしたんですかこれ。散らかり放題じゃないですか。ハナは?」

「ハナちゃんは、ちょっと帰ってこないかも」

 弦人は言いづらそうに答えた。

 カンナは首を傾げた。

「帰って来ない?どうしてですか」

「聞かない方がいい」

 そう言った弦人は、いつものナヨナヨした社長ではなく、厳しい顔をした若頭の顔だった。

 カンナは察した。

「ハナ、何したんですか」

「聞くな」

 弦人の声が少し強くなり、仕方なくカンナは黙った。ヤバい事になっていることだけはわかる。そして、ヤクザのヤバい事というのは、命に関わることも知っていた。

 カンナはため息をつくと、勝手に部屋の台所まで入り、冷蔵庫を開けた。

「ハナ、昨日の仕事の時、海鮮パスタのパスタソース多めに作ってあるから私にくれるって言ってたので貰っていきます」

 そう言って、冷蔵庫から大きなボウルを取り出した。

「ハナね、社長にも食べてもらうんだって言ってたんです。だからこんなにいっぱい作ったんだって。社長来るとき市原さんもついてくるから二人分は確保しなきゃって嬉しそうに笑って」

 そう言いながら、カンナはボウルを抱えて玄関に向かった。

「でも、二人共食べませんよねっ。全部私が貰っていっちゃいますからねっ」

 そう言いながらカンナは弦人をじっと見つめた。

「何があったかよくわからないけど、ハナは賢くて真面目だけど不器用な子なんですから。
 社長襲った事を誤解されててもうまく説明できないし、アルハラは全然うまく断れないし、妙に正直者だし。ちゃんと最後まで話を聞いてあげないと」

「それは、うん、そうだね。ああ、そうなんだよね」

 弦人は寂しそうに頷いた。


「わかってるなら、もう帰ってこないなんて、そんな事言わないでほしいです」

 カンナはそう言って、玄関先でボウルを抱えたまま泣き崩れた。

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