上 下
27 / 68

拉致したヤクザがいたれりつくせり

しおりを挟む
 ※※※※

 市原の運転で、黒塗りの高級車は深夜の高速道路を進んでいた。

 ハナはブランケットでぐるぐるにされたまま後部座席で眠っていた。



「可愛い寝顔だな」

 同じく後部座席でハナの隣に座っている弦人が、幸せそうな声を上げた。

「可愛いですか?さっきイビキかいてましたけど?」

「可愛い爆音だったね」

「恋は盲目ですね」

 市原は呆れながら言った。



「あーあ、仕事ドタキャンしちゃった。真面目なのが取り柄なのに」

 弦人はため息をつきながら言った。

「大したことありませんよ。今の組長が若頭の時なんて、ギャンブルがいいところだとか、お気に入りのキャバ嬢が休んでくれとゴネるから、とかサボりまくってたらしいですよ」

「そうかなあ」

「むしろ社長が女の為に仕事サボったなんて聞いたら、皆、赤飯炊きますよ」

「俺、そんなキャラだった?」

 弦人は真面目な顔で言った。



「ウン……」

 ハナが小さく呻いた声がした。目を覚ましたらしい。

「あれ?ここどこ?」

「あ、起きた?もう少し寝てても大丈夫だけど」

「あれ?弦人さん?」

 まだ寝ぼけているハナは、ボンヤリと辺りを見渡した。そして自分の状況をゆっくりと確認して……。

「えっ?ちょっと待って何?」

 ガバッと身体を起こしたハナのブランケットがずり下がった。まさかの裸だった。

「ハナちゃんは今、裸体を毛布で拘束されて、車で拉致され、ヤクザに山奥に連れて行かれようとしています」

 弦人は物騒な説明をした。

「ちょっと待ってください。弦人さんが言うと、冗談なのか本気なのか全然分からない」

 ハナは回っていない頭で懸命に考えた。

「駄目だ。全然何があったか覚えてない……。ナツキさんのおっぱいが柔らかくて気持ちよくて抱きついたとこまでは覚えてる……」

「楽しそうな事してたね」

 弦人は苦笑した。

 ハナはブランケットを巻き直して恐る恐るたずねた。

「状況教えてもらえますか?まず私は何で裸?そして車はどこに向かってるんですか?」

 弦人はハナに向き合って、説明を始めた。

「飲み会中のハナちゃんを連れてきて、そして車に乗せて、今高速道路を走っています」

「全然分からない……」

「あ、ハナちゃんが裸になってるのは完全に予定外です。ハナちゃん車に乗り込むときに酔っ払ってたから転んで雪溜まりに突っ込んじゃったの。それで、風邪引くといけないから脱がせて、でその間にハナちゃん寝ちゃったから面倒になってそのまま簀巻きにして車に乗せました」

「それはご迷惑おかけしました……ってだからって裸で連れてきますか!?」

「ちゃんと着替えも積んであるよー。サービスエリア寄るからその時着て。今走ってる最中は危ないからね」

 弦人が座席の足元を指差した。確かに、見慣れたハナの洋服が紙袋に入って置かれてあった。


「あ、そんなことより、お水飲もうか。酔っ払った後はしっかりと水分取らないとね。あと、しじみエキスとか飲む?これ効くよー」

 弦人はハナに、次々とペットボトルやら謎の粉末やらを渡してくる。

「飲みにくかったらストローもあるよ」

「拉致したヤクザが、いたれりつくせりしてくる……」

 ハナは呟きながらペットボトルの水をチビチビと飲んだ。


「悪酔いしてない?具合悪くなったらすぐに言ってね」

 弦人はそう言って、ハナの顔を優しく覗き込んだ。

「そんなに優しくして、何が目的ですか」

 弦人はいつも優しいが、どうも今日の優しさは妙にわざとらしい気がする。


 違和感を感じたハナがそうたずねると、弦人はニッコリと笑って言う。

「大した目的は無いんだけどなー。あ、ハナちゃん、池田隼はこういう時どうだった?」


 ドキリ、とハナの心臓が跳ね上がった。

「どう、って?」

「こんな風にハナちゃんが酔っ払った時、池田はどんな風に看病してくれた?」

「何でそんな事聞くんですか」

「だって、思い出しちゃうんでしょ?優しくされると、池田隼の事」


 弦人は笑顔だったが、目は笑っていなかった。


「どうして……」

 どうして分かるんだ。ハナは激しく動揺した。

「酔ったハナちゃんが自分で言ったんだよ」

「ああ」

 ハナは頭を抱えた。しかしすぐにハッと気づいた。

「そっか、なるほど。約束を果たしてくれるんですね」

「約束?」

「だから山奥に連れて行くんでしょ?忘れられなかったら殺してくれるって約束」

 ハナがジッと弦人を見つめるので、弦人は慌てた。

「違う違う。気が早いなぁ」

 そう言って、今度はお菓子を出してきた。

「ほらほら、そんな怖い事言わないで。ラムネ食べる?二日酔いに効くんだって」

「いえ、大丈夫です」

「そう?じゃあ教えてよ。池田隼はどうしてた?」

「聞かないで下さい。思い出したくて思い出しちゃうわけじゃないんです」

 ハナは顔をそらした。

「そういうわけにもいかないなー」

 弦人はハナのそらした顔を強引に引き寄せた。

「怪我した時って、膿が出来てたら少し痛くても無理やり膿を出しちゃった方が治りが良くなるときあるでしょ?

 だからね、ハナちゃんには膿を出してもらおうかと思ってさ」

「膿?」

「そう!」

 弦人は楽しそうに頷くと、再度ハナに迫りながら言った。

「ほら、ちゃんと思い出して。ちゃんといっぱい考えてよ。あ、優しくするのが足りないかな?」



 ハナは、弦人の顔を見つめ、そして小さくため息をついた。

「こんな事させてごめんなさい」

 ハナの言葉に、弦人は思わず笑顔を解いた。

 ハナは真面目な顔になった弦人の顔に、思わずそっと触れた。

「本当に聞きますか?私が考えてしまう隼の事を。ならひたすら言いますよ?」

「聞くよ」

 弦人は、顔に触れてくるハナの手に、自分の手を重ねた。

「だから、ハナちゃんが嫌になるくらい思い出して。痛いくらい思い出してよ」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きすぎて、壊れるまで抱きたい。

すずなり。
恋愛
ある日、俺の前に現れた女の子。 「はぁ・・はぁ・・・」 「ちょっと待ってろよ?」 息苦しそうにしてるから診ようと思い、聴診器を取りに行った。戻ってくるとその女の子は姿を消していた。 「どこいった?」 また別の日、その女の子を見かけたのに、声をかける前にその子は姿を消す。 「幽霊だったりして・・・。」 そんな不安が頭をよぎったけど、その女の子は同期の彼女だったことが判明。可愛くて眩しく笑う女の子に惹かれていく自分。無駄なことは諦めて他の女を抱くけれども、イくことができない。 だめだと思っていても・・・想いは加速していく。 俺は彼女を好きになってもいいんだろうか・・・。 ※お話の世界は全て想像の世界です。現実世界とは何の関係もありません。 ※いつもは1日1~3ページ公開なのですが、このお話は週一公開にしようと思います。 ※お気に入りに登録してもらえたら嬉しいです。すずなり。 いつも読んでくださってありがとうございます。体調がすぐれない為、一旦お休みさせていただきます。

【ヤンデレ鬼ごっこ実況中】

階段
恋愛
ヤンデレ彼氏の鬼ごっこしながら、 屋敷(監禁場所)から脱出しようとする話 _________________________________ 【登場人物】 ・アオイ 昨日初彼氏ができた。 初デートの後、そのまま監禁される。 面食い。 ・ヒナタ アオイの彼氏。 お金持ちでイケメン。 アオイを自身の屋敷に監禁する。 ・カイト 泥棒。 ヒナタの屋敷に盗みに入るが脱出できなくなる。 アオイに協力する。 _________________________________ 【あらすじ】 彼氏との初デートを楽しんだアオイ。 彼氏に家まで送ってもらっていると急に眠気に襲われる。 目覚めると知らないベッドに横たわっており、手足を縛られていた。 色々あってヒタナに監禁された事を知り、隙を見て拘束を解いて部屋の外へ出ることに成功する。 だがそこは人里離れた大きな屋敷の最上階だった。 ヒタナから逃げ切るためには、まずこの屋敷から脱出しなければならない。 果たしてアオイはヤンデレから逃げ切ることができるのか!? _________________________________ 7話くらいで終わらせます。 短いです。 途中でR15くらいになるかもしれませんがわからないです。

お見合い相手は極道の天使様!?

愛月花音
恋愛
恋愛小説大賞にエントリー中。  勝ち気で手の早い性格が災いしてなかなか彼氏がいない歴数年。  そんな私にお見合い相手の話がきた。 見た目は、ドストライクな クールビューティーなイケメン。   だが相手は、ヤクザの若頭だった。 騙された……そう思った。  しかし彼は、若頭なのに 極道の天使という異名を持っており……? 彼を知れば知るほど甘く胸キュンなギャップにハマっていく。  勝ち気なお嬢様&英語教師。 椎名上紗(24) 《しいな かずさ》 &  極道の天使&若頭 鬼龍院葵(26歳) 《きりゅういん あおい》  勝ち気女性教師&極道の天使の 甘キュンラブストーリー。 表紙は、素敵な絵師様。 紺野遥様です! 2022年12月18日エタニティ 投稿恋愛小説人気ランキング過去最高3位。 誤字、脱字あったら申し訳ないありません。 見つけ次第、修正します。 公開日・2022年11月29日。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

【完結】その男『D』につき~初恋男は独占欲を拗らせる~

蓮美ちま
恋愛
最低最悪な初対面だった。 職場の同僚だろうと人妻ナースだろうと、誘われればおいしく頂いてきた来る者拒まずでお馴染みのチャラ男。 私はこんな人と絶対に関わりたくない! 独占欲が人一倍強く、それで何度も過去に恋を失ってきた私が今必死に探し求めているもの。 それは……『Dの男』 あの男と真逆の、未経験の人。 少しでも私を好きなら、もう私に構わないで。 私が探しているのはあなたじゃない。 私は誰かの『唯一』になりたいの……。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】

remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。 干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。 と思っていたら、 初めての相手に再会した。 柚木 紘弥。 忘れられない、初めての1度だけの彼。 【完結】ありがとうございました‼

十年越しの溺愛は、指先に甘い星を降らす

和泉杏咲
恋愛
私は、もうすぐ結婚をする。 職場で知り合った上司とのスピード婚。 ワケアリなので結婚式はナシ。 けれど、指輪だけは買おうと2人で決めた。 物が手に入りさえすれば、どこでもよかったのに。 どうして私達は、あの店に入ってしまったのだろう。 その店の名前は「Bella stella(ベラ ステラ)」 春の空色の壁の小さなお店にいたのは、私がずっと忘れられない人だった。 「君が、そんな結婚をするなんて、俺がこのまま許せると思う?」 お願い。 今、そんなことを言わないで。 決心が鈍ってしまうから。 私の人生は、あの人に捧げると決めてしまったのだから。 ⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒* ゚*。*⌒*。*゚ 東雲美空(28) 会社員 × 如月理玖(28) 有名ジュエリー作家 ⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒* ゚*。*⌒*。*゚

処理中です...