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血が飛び出るのとか苦手

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 途中で弦人がトイレに抜けた時、ハナは市原に思い切って切り出した。

「市原さん、私の事気に入らないですよね」

「当たり前だ」

 さっきとはうってかわって、乱暴な口調で即答してきた。

「社長を襲った奴だぞ。気に入らないのは当たり前だ」

「ですよね。市原さんからそう言ってくれたら、弦人さんも聞いてくれるのでは?」

 そうしてくれることを期待してハナは言ってみたが、すぐに市原は一蹴した。

「馬鹿か貴様。社長の言うとこは黒でも白になる世界だぞ。俺のようなもんが意見していいわけねえだろ」

 その割には結構駄目ですとか言ったような。と思ったが、文句を言われそうなのでハナは黙っていた。

 市原は、チッと大きな舌打ちをしながらビールをあおった。

「クソ、俺が女だったら……」

 市原の呟いた言葉に、ハナは恐る恐るたずねた。

「もしかしてその、弦人さんの事を、その、好き、何ですか?その、そういう意味で……」

「本当に馬鹿か貴様は。俺はゴリゴリに女好きだ。ボンキュッボンのグラマラスな女が大好きだ」

 別に知りたくも無い情報を教えられ、ハナはポカンとした。酔っているのだろうか。

「だけどなぁ、社長の女になれりゃあ、どこでも近くで守れんだろう。丸腰になるような風呂場でも、油断する寝室でも一緒にいてやれる。それこそ、怖い映画見たあとに手を握ってやることもできる。

 そのために、社長の女になれりゃあ合理的だと思ってるだけだ」

「ご、合理的……?」

 ハナは随分と重い話に少し混乱した。

「何だ。ドン引きしてんじゃんじゃねえぞ。いいか、社長は貴様を気に入ってるが、社長をまた傷つけようもんなら命はねえからな。事故に見せかけて殺す方法なんぞいくらでもあるからな」



 市原から怖い脅しを受けたちょうどその時、弦人がトイレから帰ってきた。

「何何?二人で仲良く何の話してたの?」

「市原さんは、彼女と一緒にお風呂入る派だってことを教えてもらってました」

 ハナの回答に、市原は目を剥いてハナを睨みつけた。



 結局、弦人と市原は店員が2度見するほどのビールを飲んだ。

「二人とも強いんですね」

 ハナが少し引きながら言うと、弦人は恥ずかしそうに答えた。

「うん、俺も市原もザルなんだよね。もしこの顔と性格でお酒まで弱かったら絶対に舐められてただろうから、この体質には助かってるよ」

「私はすぐに酔っ払うので、信じられないものを見ているようでした」

「あはは。今度は酔っ払うハナちゃんも見てみたいけどねー」

 会計をして迎えにきた黒塗りの車に乗りながら、弦人はニコニコと言った。

「でも今日はまだハナちゃん、警戒してたみたいだから、もう少し警戒しなくなったら酔っ払ってみせてよ」



 そう言って、ハナの財布を取り出した。

「まだ、偽造免許証財布に入れてるくらいだもんね」

「なっ!見たんですか」

 慌ててハナは財布をひったくった。

 弦人の手には、財布に入れてあった、『三上華』と記載されている偽造免許証があった。

「何枚作ったわけ?その技術ほしいくらいだよ」

「ただ、入れておいただけです」

「そう」

 弦人はそう言うと、ハナに体を近づけた。そして胸元に強めに手を押し当てた。

「ちょっと!やめて下さい!」

「大丈夫。そんなエッチな意味じゃないから」

 そう言いながら、弦人はハナのブラジャーのワイヤー部分に手をかけた。

 ハナは弦人の手を掴んで離そうとしたが、案外力が強くて離れなかった。

「やっぱり、ブラジャーのワイヤーが不自然に硬いね。ここに針金入れてるでしょ?こんなのずっとつけてたら痛いだろうに……。そこまで警戒してた?」

 バレていた。ハナはサッと青くなった。



「どうして?ただのデートなのに。どこかに監禁でもされると思ってた?」

 悲しそうな顔で弦人が言うので、ハナは少しだけ心が傷んだ。

「別に監禁、とまではおもわなかったけど。でもデートって何するのかもわからなかったし」

 ハナは言い訳するように言った。

 弦人はジッとハナを見つめ、そして運転手に言った。


「今から帰る予定だったけどやめた。ホテルに行き先変更」

「な、何言ってるの!?」

 ハナは慌てて弦人から身体を離して車から降りようとした。



 その時、カチリ、と音がして、何か固いものがハナの頭に当たった。



「走ってる車から降りたら危ないよ」

 笑顔の弦人が、ハナの頭に拳銃を突きつけてそう注意した。

「大人しくしてようよ。俺、血が飛び出るのとか苦手なんだ」

 まるでホラー映画の感想のようにのんびりと言う弦人を見て、ハナはガクガクと身体を震わせた。


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