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アパートは解約しない
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オーナーは、ハナが早退したい旨を伝えると、怯えた顔で承諾した。
まだ夜も遅くないし、電車でもバスでも逃げれるはずだ。
急いで帰る支度をして店を出たハナの目の前に、黒く光っている車が停まった。
「早いお帰りでした。社長がお待ちでございます」
弦人でも市原でもない、でも確実に堅気ではない人が車から現れて、悲鳴を上げる暇も与えずに、ハナを強引に車に引きずり込んだ。
「ど、どこに連れて行くのよ!」
「え?社長から聞いてませんか?マンションに帰るんですよ」
「帰るって……私のアパートは、こっち方面じゃないんだけど!」
「いや、だから新しいマンションに」
「下ろして!」
「暴れねえで下さい。姐さんに怪我されると、俺がどやされるんで」
車を運転している男は、困ったように言った。
別に運転手に同情した訳では無いが、うまく走っている車から脱出することは難しく、結局ハナを乗せた車は、小さいが小綺麗なマンションの前に到着してしまった。
「早かったねー!バイト早退した?」
弦人がマンションの前で迎えに来ていた。
ハナは車から降りようとはしなかった。
「もとの場所に返して下さい」
「何か忘れ物?なら若い衆に取りに行かせるけど」
「ちがう。私は、私のアパートに帰るんです」
そう言って睨みつけるハナの様子を見て、弦人は自分も車に乗り込んだ。
「ハナちゃんは帰らないよ。俺はね、ハナちゃんを近くに置いておくって決めたんだから」
弦人は真面目な顔で、狭い車内でハナに詰め寄った。
「逃さないよ。今度はね」
ニコニコしているかビクビクしているかしか見たことの無い弦人の真面目な顔に、ハナはビクっとなった。
「ほら、怯えたりしないで。とりあえず中だけでも見てよ。豪華なマンションじゃないけど、キレイにはしてるよ」
パッと今度はにこやかな顔になり、弦人はハナの手を優しく握ってエスコートするように車から連れ出した。
今ごねてもどうしようもないと悟ったハナは、仕方なく弦人に連れられて、マンションに入って行った。
ハナに割り当てられた部屋は、質素だがキレイで、今まで住んでいたボロアパートよりよっぽど広かった。
「一応家具は一式ついてるから。必要なものはあとから教えてね」
「こ、こんな良いところ、私には必要ないので、うちのアパートに帰ろうと思います」
ハナは一応抵抗してみせる。しかし、弦人はポンポンとハナの肩を叩いて「気にしないで」と笑った。
「一応、職場の方は今探してるから。今のバイトもこっちで退職の手続きしておくね」
「いや。そんな勝手に……」
「まあ、勝手に決めちゃったのは悪いから、ここの家賃は俺が出してあげる。でも前のアパートは、解約しないでそのままにしておくから、そこの家賃だけは自分で払ってね」
「あ……」
ハナは少し驚いて弦人をジッと見つめた。てっきりアパートも強制解約されると思っていたが。
ハナの様子に、弦人は首を傾げた。
「えっと、アパートは解約しない方いいよね?」
「う、うん。しない方がいいです。でも何で……」
「残しておきたいんでしょ?池田隼の帰ってくる場所。冷えたビール用意して」
弦人の言葉に、ハナは何度も頷いた。
「うん、そうなんです。そうなんです」
この人は、優しい顔をしながらもどこか思想が身勝手で怖い人。しかし、そういう心遣いはできる人なのだ。
ハナは一瞬心を許しそうになって、慌てて顔をそらした。
まだ夜も遅くないし、電車でもバスでも逃げれるはずだ。
急いで帰る支度をして店を出たハナの目の前に、黒く光っている車が停まった。
「早いお帰りでした。社長がお待ちでございます」
弦人でも市原でもない、でも確実に堅気ではない人が車から現れて、悲鳴を上げる暇も与えずに、ハナを強引に車に引きずり込んだ。
「ど、どこに連れて行くのよ!」
「え?社長から聞いてませんか?マンションに帰るんですよ」
「帰るって……私のアパートは、こっち方面じゃないんだけど!」
「いや、だから新しいマンションに」
「下ろして!」
「暴れねえで下さい。姐さんに怪我されると、俺がどやされるんで」
車を運転している男は、困ったように言った。
別に運転手に同情した訳では無いが、うまく走っている車から脱出することは難しく、結局ハナを乗せた車は、小さいが小綺麗なマンションの前に到着してしまった。
「早かったねー!バイト早退した?」
弦人がマンションの前で迎えに来ていた。
ハナは車から降りようとはしなかった。
「もとの場所に返して下さい」
「何か忘れ物?なら若い衆に取りに行かせるけど」
「ちがう。私は、私のアパートに帰るんです」
そう言って睨みつけるハナの様子を見て、弦人は自分も車に乗り込んだ。
「ハナちゃんは帰らないよ。俺はね、ハナちゃんを近くに置いておくって決めたんだから」
弦人は真面目な顔で、狭い車内でハナに詰め寄った。
「逃さないよ。今度はね」
ニコニコしているかビクビクしているかしか見たことの無い弦人の真面目な顔に、ハナはビクっとなった。
「ほら、怯えたりしないで。とりあえず中だけでも見てよ。豪華なマンションじゃないけど、キレイにはしてるよ」
パッと今度はにこやかな顔になり、弦人はハナの手を優しく握ってエスコートするように車から連れ出した。
今ごねてもどうしようもないと悟ったハナは、仕方なく弦人に連れられて、マンションに入って行った。
ハナに割り当てられた部屋は、質素だがキレイで、今まで住んでいたボロアパートよりよっぽど広かった。
「一応家具は一式ついてるから。必要なものはあとから教えてね」
「こ、こんな良いところ、私には必要ないので、うちのアパートに帰ろうと思います」
ハナは一応抵抗してみせる。しかし、弦人はポンポンとハナの肩を叩いて「気にしないで」と笑った。
「一応、職場の方は今探してるから。今のバイトもこっちで退職の手続きしておくね」
「いや。そんな勝手に……」
「まあ、勝手に決めちゃったのは悪いから、ここの家賃は俺が出してあげる。でも前のアパートは、解約しないでそのままにしておくから、そこの家賃だけは自分で払ってね」
「あ……」
ハナは少し驚いて弦人をジッと見つめた。てっきりアパートも強制解約されると思っていたが。
ハナの様子に、弦人は首を傾げた。
「えっと、アパートは解約しない方いいよね?」
「う、うん。しない方がいいです。でも何で……」
「残しておきたいんでしょ?池田隼の帰ってくる場所。冷えたビール用意して」
弦人の言葉に、ハナは何度も頷いた。
「うん、そうなんです。そうなんです」
この人は、優しい顔をしながらもどこか思想が身勝手で怖い人。しかし、そういう心遣いはできる人なのだ。
ハナは一瞬心を許しそうになって、慌てて顔をそらした。
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