媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

文字の大きさ
上 下
68 / 114

血だらけ

しおりを挟む
 それから2日ほど経った。

 その間、食料店の店主はまたやってきて料理をセットして帰っていった。初め、料理に手をつけないでいたら、少し悲しそうな顔をしたので、二度目からは食べるようにした。


 アウルもクロウも帰っては来なかった。

 クロウの話しぶりからすると、すぐに帰ってくるのだと思っていたが、全く帰ってくる気配がない。

「いつまで閉じ込めておくつもりだよ」

 ジャスは忌々しげに呟く。

 荷物も見つからないし家からも出られない。

 イライラが募って爆発しそうになっていた時だった。


「ちょっと、手伝って!!」

 音も無く玄関にクロウが現れた。

 泥だらけで必死な顔をしており、大きな布を被った何かを抱えていた。


 突然現れたので、ジャスは一瞬動けなかった。

 しかし、すぐに、クロウの抱えている布を被せられているものがアウルだと気がついた。

「な、何?」

「水を、大きい樽に入れて持ってきて。あときれいな布巾も!アウルの部屋に」

 そう指示すると、クロウは布を被せられたままのアウルを、部屋に飛ばした。

 帰ってきたら文句を言ってやろうと思っていたジャスだったが、只ならぬ様子に、思わずクロウの指示に従う。


 大きな樽を用意して水を入れようとしたが、なぜか水の出が悪く、チョロチョロとしか貯まらなかったので、時間がかかった。


 水を持って部屋に行くと、布を被ったままのアウルに向かって、クロウが必死になって魔法をかけていた。

「えっと、水。なんかうまく水が出なくてあんまり沢山持ってこれなかったけど」

 ジャスが恐る恐るクロウに樽を渡す。

「多分、アウルの力が弱くなってるから、家にかかってる水とか電気とかの魔法も弱まっちゃったんだとおもう。

 少しでもいいから、ちょっとそれでもアウルの顔を拭いてもらえる?」

「やめろ!!」

 突然アウルが大きな声を出した。

「ジャス、テメェは見るんじゃねえ」

「は?」

「ちょっと、アウル!そんなこと言ってる状態じゃないでしょ!」

 クロウが必死に言った。

「俺はあんまり魔法が上手くできないんだから、早く処置しなきゃだめなんだからジャスくんにも手伝ってもらわないと」

「問題ねえ。俺も自分で処置する」

 そう言ってちらりと覗いたアウルの顔は、真っ赤に染まっていた。血のようだ。

「とにかく、ジャスは部屋から出ていけ。見るんじゃねえ」

 アウルにそう言われると、ジャスは襟首を魔法で掴まれて部屋の外に追い出された。



「な、何なんだよ……」

 意味がわからなすぎてジャスは混乱した。

 何であんなに血だらけなんだ?誰かにやられてきたのか?

 どうしても気になったジャスはそっと部屋を覗いてみた。

 クロウが必死になって魔法をかけながらアウルに言っている。

「ねえ、痛いでしょ?自分で魔法かけるのにも限界があるって。せめて消毒だけでもジャスくんに手伝って貰って……」

「駄目だ。……またアイツが悪夢を見たらどうする」

「また悪夢取ってあげるよ」

「それでも駄目だ。アイツに怖い思いをさせるわけにはいかねえ」

 アウルの声は震えていた。

 痛いのだろうか。苦しそうだ。


 ジャスはイライラとした気持ちが湧き上がってきた。

 僕を怖がらせない為に?

 パイソンにやられたアウルを見て、僕が眠れなくなったから?

 だから?だから血だらけの姿を見せたくないと?


 ジャスは無意識に部屋に入っていた。


「テメェ、出ていけっつったろうが!」

 ジャスの姿をみてアウルが怒鳴る。

 ジャスは無視して布を被ったアウルに近づいた。そしてそっと布に手をかけた。

 怒鳴ったくせに抵抗しなかったのは、痛みが激しすぎたせいなのか体力が消耗していたからなのか。大人しく布を剥がされたアウルの姿は、悲惨なものだった。

 右頬の半分はえぐれるようになくなっており、左の目は潰れている。

 体のほうも、服のあちこちが破れており、肌の方は酷いことになっているのだろう。

「見るんじゃねえ」

「平気。こんなの、薬屋してたらいつも見てる」

 嘘だった。ここまで酷いものを見たことがない。むしろ、ここまで酷くて生きている人を見たことがない。これが魔法使いという人種なのだろう。

「僕を舐めないでほしいね。あのときは人の殺意に充てられて悪夢を見ちゃったんだ。別に怪我しただけなんて平気だ」

 そう言って、ジャスは水の樽で布巾を濡らしてアウルの血を軽く拭った。

「クロウ、今何をしているの?僕に出来ることは?」

 ジャスは真っ青な顔のクロウにたずねる。

「今俺はアウルの目と肌の修復魔法をかけてる。でもこの魔法は気絶するほど痛いはずなんだ。アウルが自分で感覚を麻痺させる魔法を使っているんだけど……」

「僕の荷物はどこ?それに痛み止めが入っている。魔法には到底及ばないかもしれないけど」

「台所の戸棚、取手を右に3回、左に1.5回回せば開く」

「分かった。消毒出来るものは?」

「魔法薬の棚の中に薄緑色の四角い瓶がある。あと、軟膏も持ってきてもらえる?前にパイソンの時に使ったと思う。鍵はこれ。

 あと、水も大量に欲しい。水が台所でたくさん出せないようなら外で汲んできてほしいんだけど……アウル、家の閉じ込めの結界解ける?」

 アウルは黙って頷いて小さく指を振った。多分今ので結界が解けたのだろう。

 ジャスは鍵を受け取るとすぐに台所に向かった。



 戸棚を言われたとおり開けて自分のの荷物を取り出した。そして薬棚の鍵も空けて言われた通りの薬と軟膏を取り出す。

 ふと、ジャスは思った。

 荷物が、見つかった。

 薬の入っている棚も鍵が開いて取り放題になった。

 今は明るくて森を通り抜けるのに問題の無い時間だ。

 そして、アウルが大怪我をしていてクロウもその看病で忙しい。

 閉じ込めの結界が解けたということは、外にも出られる。

 逃げるチャンスが、今度こそ逃げるチャンスだ。


 ジャスは荷物を握りしめて外にでた。

 逃げるチャンス。逃げる……逃げる…??


「ああー!もう!僕は本当に!!とりあえず今は!」

 ジャスは頭を振って決心する。

 泉の方へ向かい、水を汲んで、またアウルの家に戻ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

愛する者の腕に抱かれ、獣は甘い声を上げる

すいかちゃん
BL
獣の血を受け継ぐ一族。人間のままでいるためには・・・。 第一章 「優しい兄達の腕に抱かれ、弟は初めての発情期を迎える」 一族の中でも獣の血が濃く残ってしまった颯真。一族から疎まれる存在でしかなかった弟を、兄の亜蘭と玖蘭は密かに連れ出し育てる。3人だけで暮らすなか、颯真は初めての発情期を迎える。亜蘭と玖蘭は、颯真が獣にならないようにその身体を抱き締め支配する。 2人のイケメン兄達が、とにかく弟を可愛がるという話です。 第二章「孤独に育った獣は、愛する男の腕に抱かれ甘く啼く」 獣の血が濃い護は、幼い頃から家族から離されて暮らしていた。世話係りをしていた柳沢が引退する事となり、代わりに彼の孫である誠司がやってくる。真面目で優しい誠司に、護は次第に心を開いていく。やがて、2人は恋人同士となったが・・・。 第三章「獣と化した幼馴染みに、青年は変わらぬ愛を注ぎ続ける」 幼馴染み同士の凛と夏陽。成長しても、ずっと一緒だった。凛に片思いしている事に気が付き、夏陽は思い切って告白。凛も同じ気持ちだと言ってくれた。 だが、成人式の数日前。夏陽は、凛から別れを告げられる。そして、凛の兄である靖から彼の中に獣の血が流れている事を知らされる。発情期を迎えた凛の元に向かえば、靖がいきなり夏陽を羽交い締めにする。 獣が攻めとなる話です。また、時代もかなり現代に近くなっています。

処理中です...