媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

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こわい

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 それから数日。アウルの怪我は完全に治った。

 魔法が使えないながらも、ジャスに色々教えてもらいながら何とか生活に慣れていった。

 やはり水道と電気は引いたほうが今後便利だな、とアウルは計画した。


 腕輪の消えたジャスを、アウルは絶対に一人で外には出さなかった。

「水汲みに行くだけだって!」

「駄目だ。絶対に一人になるな。テメェが行くなら俺が行くって言ってんだろ」

「怪我人に重いもの運ばせるわけにはいかないだろ。治ったらこき使ってやるから今は大人しくしてろ」

「おい、この俺をこき使うとは何事だ」

「何だよ、どうしたいんだよ」

 軽く言い争いをし、結局外に行くときは二人で行くことで妥協したのだ。

 面倒くさい。ずっと監視されてるみたいで嫌だとジャスはぶつくさ言っていたが、アウルからすれば、結構怖い目にあったくせによく平然と危機感無く出歩こうと思えるもんだと呆れてしまっていた。意外に図太いのか?


 更に、アウルは心配事があった。

 ジャスの顔色が何となく悪い気がするのだ。小さなミスも多く、明らかに体調が悪そうだ。

 そのことをジャスに指摘すると、「ああ、病気とかじゃないから。原因は自分でわかってるから心配しなくていい」とだけ言うのだ。

 食事は取っている。無理矢理触ったが熱も無さそうだ。

 まさか呪いでも受けているのではないか、と思ったが、解呪する魔法は今使えない。だから機を見て解呪薬を使ってやろうかと思っていた。



 その日の深夜、アウルはふと目を覚ました。

 一度寝てしまうとほぼ起きないアウルだったが、なぜかその日は目が覚めてしまったのだ。

 水を飲もうと部屋を出ると、台所にぼんやりと、電気宝石の光が見えた。

 消し忘れか?それとも誰かいるのか。

 アウルは警戒しながら近づく。

「あれ、アウルどうした?」

 そこには、ぼんやりと光る電気宝石を目の前に座っているジャスがいた。

 アウルは少しホッとして近づく。

「水を飲みに来ただけだ。テメェこそ何してんだ」

「ああ。僕も水を飲みに来たんだ」

 そう言って、ジャスはふっと目をそらす。

 アウルは棚からコップを取り出すと、座ったままボーッとしているジャスにたずねた。

「コップも出さねぇで何ボーッとしてんだ」

「今出すとこだったんだよ」

 ジャスはそう言って立ち上がった。

「嘘だな」

 アウルは思わず言った。ジャスはハッと顔を上げる。

「嘘って……」

「テメェ、ずっとここにいただろう」

 アウルは、座りジワがついてしまっているジャスのズボンを指さして言った。

「寝てねぇのか?」

 アウルが尋ねると、ジャスは気まずそうな顔を浮かべた。肯定しているようなものだった。

「まさか、テメェ、いつから寝てねえんだ」

「寝てないわけじゃないよ」

 ジャスは慌てて言った。

「ただ、ちょっと寝付けない時が多いっていうか。寝てる途中で起きちゃうっていうか」

「ちゃんと寝てねぇんだな」

 アウルはジャスに怖い顔で詰め寄る。

 仕方なくジャスは頷いた。

 アウルは大きくため息をついた。

「何が原因だ。自分でわかってんだろう」

 ジャスは言いづらそうにしていたが、しばらくしてから思い口を開いた。

「部屋にいると、あのときのことを思い出して」

「あのときのこと?」

「あの、パイソンが来たときのこと」

「…………」

 その言葉を聞き、アウルはすぐには何も返事が出来なかった。少し考えてから静かにたずねた。

「怖いのか」

「いや、その」

「ずっと、あの日からずっと怖くて寝てなかったのか」

「そう言われると子供臭くて恥ずかしいんだけど」

 ジャスは文句を言う。


 突然、アウルはジャスの腕を掴んだ。

「何。なんだよ」

 ジャスは驚いて振りほどこうとするが、連日の睡眠不足で思ったように力が入らない。

 アウルはそのまま自分の部屋にジャスを連れて行き、自分のベットに放り投げた。

「急に何すんだよ!」

 突然乱暴に連れてこられたジャスは、怒ってベットから出ようとした。

 しかしすぐにアウルに押さえつけられた。

「何で言わねえんだ!怖いって!寝れねえって!」

「だってどうしようも無いだろ。部屋で寝るのが怖いから台所とか居間で寝ようともしたけど、それでも寝付けなかったし。色々やってはみたんだよ!」

 ジャスは少し泣きそうな顔をしていた。

 アウルは、少しだけジャスを押さえつけるのを緩めた。

 そして、自分もベットに入り込んだ。

「は?何してんの」

 困惑するジャスを無視して、アウルはジャスの隣に身体を並べた。

「狭え」

「だから何してんの。アウルの添い寝するつもりはないよ」

 起き上がろうとするジャスを、また無理矢理アウルは押さえつけてベットから出られないようにして言った。

「ここで寝ろ」

「はあ?」

「怖いんだろ」

「いやいやいやいや」

 ジャスは思わず苦笑してしまう。

「そんな、ほんとにこれじゃ子供じゃないか」

「関係ねぇ」

 アウルは真剣だった。

 思わずジャスは黙ってしまう。

「誰も来ねぇ。来ても俺が守ってやる。だから黙って寝ろ」

 そう言ってアウルはジャスを押さえていた手を離した。そしてくるりと背を向けた。

「寝るまでこの部屋出るんじゃねぇぞ。出たらすぐにその場で無理矢理契を結んでやるからな」

 そう脅すと、アウルはスウスウと寝息を立て始めた。

「そんな、無茶苦茶な……」

 ジャスは小さく呟いた。しかし、アウルの寝息を聞いているうちに、瞼が重くなってきた。

 人が近くにいて触れている。

 それだけで、いつもより怖くなかった。


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