媚薬魔法の優しい使い方

りりぃこ

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ご忠告

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「やあ」

 ニコニコと彼はジャスに話かけた。

「ジャスくん、だね」

「何で名前……?」

 ジャスは突然現れた男にすぐに不信感を抱いた。

「さっきからあの大魔法使いが何度も君の名前を呼んでいましたからね」

 男はそう言ってジャスの隣に座る。

「はじめまして。私はパイソンと申します。急にこんなことを言うのは大変不躾だと思うのですが、少々ご忠告申し上げたくてですね」

「忠告?」

 ジャスは少し身を乗り出した。

「ええ、先程向こうのお店で話をしているのを聞いてしまったのですが、君は大魔法使いの花嫁だとか」

「いや、まだです。まだっていうか、違います」

 すぐに否定する。

「そうなのですか?それならいいのですが……。ご存知でしたか?あの大魔法使いの過去の悪行を」

「悪行?」

「ええ。彼、昔花嫁にしようとした少女を、殺しかけた事があるんですよ」

「は?殺しかけた?」

 ジャスは思わずパイソンの顔をじっと見つめる。

「あのアウルが?」

 そんなことするような人ではない、と言える程ジャスはアウルの事を知らない。そういう事もあってもおかしくないかもしれない。しかし、ジャスに対する態度……、あんなに死んだらだめだと執拗に食事を取らせようとする様子からは、昔花嫁にしようとした子を殺しかけたなんて想像できない。

「だから、君にも気をつけてほしいんですよ。この腕輪も」

 パイソンは、ジャスの腕を優しく掴む。

「外したい、と思ったことはないですか?窮屈ですよね?もし外したいと思ったら、私なら出来ますよ」

 そう言ってジャスに小さな笛を差しだす。

「魔法の呼笛です。この笛を吹いてくれれば、いつでもお伺いしますよ」

「あなたも魔法使いなんですね」

 ジャスは笛を受け取らずにパイソンに尋ねた。パイソンはニッコリと笑った。

「ええ。そうです」

「どうして僕の名前を知ってるんですか」

「だからさっき言ったじゃないですか。大魔法使いが君の名前を何度も……」

「アイツはほとんど僕の名前を呼ばないんです。いつもテメェってよぶんです」

 ジャスの指摘に、パイソンはずっと変わらなかった笑顔を、一瞬崩した。しかしすぐにまた笑みを顔に貼り付けた。

「すみません、驚かせたくなくて少し嘘をつきました。私は魔法使いですからね、名前くらいなら聞かなくてもわかるんですよ」

「そんなもんなんですか」

 魔法の事はあまり良くわからないので、ジャスは首をかしげた。


「何している」

 地の底から聞こえてくるような、低い声が聞こえてきた。

 アウルが、目の前に立っている。

「おや、こんにちは」

 穏やかな表情で話しかけるパイソンを無視して、アウルはジャスの腕を掴み、無理やり立たせる。

「さっき注意したのをもう忘れたか。背の高い派手なやつに近づくなっつったろうが」

「いや、こっちから近づいたわけでは……」

 ジャスの言い訳を聞くこともなく、そのまま引きずるようにその場を立ち去ろうとした。

「アウル、優しくしてあげなければ。彼が自ら逃げ出して、私のところに来てしまうかもしれないよ」

「んなことはさせねぇよ」

 アウルはパイソンと目も合わせずに冷たく言い放ち、その場を立ち去った。



 アウルはジャスの腕を引きずるようにして街を出る。

 人通りの少なくなったあたりで、ジャスの顔を両手で挟み、顔を近づけた。

「何だよっ」

「黙ってろ。大丈夫なはずだが一応催眠なんかの術がかけられていないか確認する。目、ひん剥いて見せろ」

「別に何もされてねぇよ!」

 ジャスはアウルの手を振り払うように頭を強く後ろに引いた。

「なんか、笛みたいなの渡されたけど、受けとって無いし」

「笛?呼笛か。本当に受けとってねぇだろうな」

「触ってもねぇよ」

「一応調べさせろ」

 アウルはジャスのカバンに魔法をかけて中身を確認した。その後、服までもひん剥こうとしたのでジャスは慌てた。

「何すんだよ!変態!」

「調べてるだけだ。周りに人もいねぇだろうが」

「そーゆう問題じゃねぇよ!」

 ジャスは必死で抵抗する。アウルはため息をついて服を脱がせて調べるのまでは諦めた。

「本当に、アイツには近づくんじゃねぇぞ」

「わかったけど……。あの人知り合いなの?」

「知り合いってほどでもねぇ。嫌がらせをしてくるだけだ」

「嫌がらせ、かあ」

 だとしたら、さっきの話、アウルが花嫁にしようとした少女を殺しかけたという話も、嫌がらせの一部なのだろうか。

「なあアウル、さっきあのパイソンって人が言ってたんだけど、昔……」

「アイツの言葉なんか全部忘れろ」

 ジャスは一応真偽を確認したかったのだが、アウルの強い口調にその先は聞けなかった。


「何もされてねぇ。よかった」

 そう小さく呟いたアウルのため息は、ジャスには聞こえなかった。




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