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帰ってろ
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三人でアウルの家についた。
家に着くなり、アウルは自分の部屋に向かい、何やら小瓶を持ってきた。そしてジャスに向かって命令するように言った。
「というわけだ。テメェは三日間実家に帰ってろ」
「?というわけっていうのは?」
ジャスはぽかんとした。そりゃあここから開放されるのは喜ばしいことだが、自分の目的は何も達成していない。
「さっきの汽車での話もう忘れたのかよ」
「いや、覚えてるけど……」
困惑するジャスに向かって、クロウが代わりに説明する。
「あのね、アウルの魔法が使えないってなると、この家にかかってる魔法もなくなるの。水道もガスも通ってないこの家で、魔法使えないってなると結構不便だよ。アウルは仕方ないけど、ジャスくんまで無理にここにいる必要ないよっていう、珍しいアウルの気遣い」
「別に気遣いじゃねぇ。邪魔なだけだ。まぁ、今後ジャスも花嫁になるんだからこんな時のためにガス水道は通しておいた方ながいいな」
「いや、大丈夫」
ジャスは花嫁の件を出されて慌てた。
そして、少し考え込んで恐る恐る言ってみた。
「気遣いありがたいんだけど、僕の方も何も収穫がないんじゃ家に帰り辛いんだよなー」
少しわざとらしいかな、と思いながらも交渉してみる。
しかしアウルは一切動じることなく、さっき持ってきた小瓶を、トンとジャスの目の前に置く。
「俺は今魔法が使えねぇから、何を言われようともマリカの解呪をすることはできねぇ」
「チッ」
「おい、舌打ち聞こえてんぞ。まあ、ただ、俺だって悪魔じゃねぇ。だから、一時的に誘惑魔法の効力を抑える薬をテメェにやるから手土産にしな」
アウルの言葉にジャスは驚いて目の前に置かれた小瓶を見つめた。
「一時的に抑える?」
「誘惑魔法がずっとかかっているのに抑えられてんのはさすがにキツイのはわかるからな。別に俺はマリカをキツイ目に合わせたい訳じゃねぇ」
「そこまで思ってくれてるなら解呪してくれてもいいじゃないか」
思わずジャスは言ってしまう。自分が魔法を使えなくてもクロウに解呪を頼む事だって出来るだろうし、魔法が使えるようになったら解呪すると約束してくれるだけでもいいのに。
「解呪したら、絶対逃げんだろ、テメェは。まだ何の脅しもなしに近くにいる関係でもねぇのは、考え無しの俺でもわかる」
アウルの言葉に、思わずジャスは目をそらす。
「それとも、今契ってくれるのか?そうしたらすぐにでも解呪をクロウに頼んでやる」
「それは……。ていうか、契って魔法使えなくても出来るの?」
「ああ。さっきも言ったが、別に魔力がすっからかんになってるわけじゃねえし、魔法使いじゃなくなってるわけでもねぇしな。で、やるのか?」
「………。いや、出来ない…」
ジャスは完全に下を向いた。アウルは大きくため息をついた。
「まあ、だろうな」
そしてジャスに小瓶を押し付けた。
「ま、そういうわけだ。テメェはそれを持って一旦実家に帰ってろ。3日経ったら戻って来るんだぞ」
ジャスはとりあえずアウルの言葉に従う事にした。確かに、この薬を姉に持っていくだけでも少しは楽になる。三日後の事は後で考えればいいだろう。
「わかった。ありがたくこの薬は貰っていく」
そう言ってジャスは無意識に鼻歌を歌いながら帰るための支度を始めた。
「本当に三日後帰ってくるよな」
帰り支度をしているジャスに、唐突にアウルが尋ねてきた。
「なんだよ、ちゃんと解呪してもらわないと駄目だから帰ってくるよ」
「別な魔法使いに解呪頼んだりしねぇよな」
「魔法使いの知り合いがいたら初めっからここに来ないよ」
「何らかの偶然で、たまたまマリカの誘惑魔法が解けても、ちゃんと帰ってくるよな」
「………」
「おい、何で黙る」
「いや、帰ってくる帰ってくる」
「絶対帰ってこねえ奴の返事じゃねぇか!」
アウルはムッとしてしまった。
別の部屋で何やら作業していたクロウが顔を出してきた。
「どうした?もしかしてアウルイライラしちゃってる?」
クロウはアウルに近づく。
「いつもこうなんだよ。魔法使えない時、ストレス溜まるのかすぐに不安がったり、イライラしちゃったりして…」
アウルの背をポンポンと叩いてあやすようにしながらクロウは言う。
「ほーら、大丈夫だよー」
「赤ん坊扱いすんじゃねぇよ」
アウルのムスッとした顔が悪化してしまった。
そんなアウルを諭すようにクロウは笑いながら言った。
「アウルが、ジャスくんを実家に返すって決めたんでしょ?だったら不安がってないでちゃんとしないと」
「不安がってるわけじゃねえ」
アウルはクロウから目をそらす。そしてそのまま黙ってしまった。
ジャスは、アウルが静かになったのをいいことに、サッサと帰り支度を終わらせた。
家に着くなり、アウルは自分の部屋に向かい、何やら小瓶を持ってきた。そしてジャスに向かって命令するように言った。
「というわけだ。テメェは三日間実家に帰ってろ」
「?というわけっていうのは?」
ジャスはぽかんとした。そりゃあここから開放されるのは喜ばしいことだが、自分の目的は何も達成していない。
「さっきの汽車での話もう忘れたのかよ」
「いや、覚えてるけど……」
困惑するジャスに向かって、クロウが代わりに説明する。
「あのね、アウルの魔法が使えないってなると、この家にかかってる魔法もなくなるの。水道もガスも通ってないこの家で、魔法使えないってなると結構不便だよ。アウルは仕方ないけど、ジャスくんまで無理にここにいる必要ないよっていう、珍しいアウルの気遣い」
「別に気遣いじゃねぇ。邪魔なだけだ。まぁ、今後ジャスも花嫁になるんだからこんな時のためにガス水道は通しておいた方ながいいな」
「いや、大丈夫」
ジャスは花嫁の件を出されて慌てた。
そして、少し考え込んで恐る恐る言ってみた。
「気遣いありがたいんだけど、僕の方も何も収穫がないんじゃ家に帰り辛いんだよなー」
少しわざとらしいかな、と思いながらも交渉してみる。
しかしアウルは一切動じることなく、さっき持ってきた小瓶を、トンとジャスの目の前に置く。
「俺は今魔法が使えねぇから、何を言われようともマリカの解呪をすることはできねぇ」
「チッ」
「おい、舌打ち聞こえてんぞ。まあ、ただ、俺だって悪魔じゃねぇ。だから、一時的に誘惑魔法の効力を抑える薬をテメェにやるから手土産にしな」
アウルの言葉にジャスは驚いて目の前に置かれた小瓶を見つめた。
「一時的に抑える?」
「誘惑魔法がずっとかかっているのに抑えられてんのはさすがにキツイのはわかるからな。別に俺はマリカをキツイ目に合わせたい訳じゃねぇ」
「そこまで思ってくれてるなら解呪してくれてもいいじゃないか」
思わずジャスは言ってしまう。自分が魔法を使えなくてもクロウに解呪を頼む事だって出来るだろうし、魔法が使えるようになったら解呪すると約束してくれるだけでもいいのに。
「解呪したら、絶対逃げんだろ、テメェは。まだ何の脅しもなしに近くにいる関係でもねぇのは、考え無しの俺でもわかる」
アウルの言葉に、思わずジャスは目をそらす。
「それとも、今契ってくれるのか?そうしたらすぐにでも解呪をクロウに頼んでやる」
「それは……。ていうか、契って魔法使えなくても出来るの?」
「ああ。さっきも言ったが、別に魔力がすっからかんになってるわけじゃねえし、魔法使いじゃなくなってるわけでもねぇしな。で、やるのか?」
「………。いや、出来ない…」
ジャスは完全に下を向いた。アウルは大きくため息をついた。
「まあ、だろうな」
そしてジャスに小瓶を押し付けた。
「ま、そういうわけだ。テメェはそれを持って一旦実家に帰ってろ。3日経ったら戻って来るんだぞ」
ジャスはとりあえずアウルの言葉に従う事にした。確かに、この薬を姉に持っていくだけでも少しは楽になる。三日後の事は後で考えればいいだろう。
「わかった。ありがたくこの薬は貰っていく」
そう言ってジャスは無意識に鼻歌を歌いながら帰るための支度を始めた。
「本当に三日後帰ってくるよな」
帰り支度をしているジャスに、唐突にアウルが尋ねてきた。
「なんだよ、ちゃんと解呪してもらわないと駄目だから帰ってくるよ」
「別な魔法使いに解呪頼んだりしねぇよな」
「魔法使いの知り合いがいたら初めっからここに来ないよ」
「何らかの偶然で、たまたまマリカの誘惑魔法が解けても、ちゃんと帰ってくるよな」
「………」
「おい、何で黙る」
「いや、帰ってくる帰ってくる」
「絶対帰ってこねえ奴の返事じゃねぇか!」
アウルはムッとしてしまった。
別の部屋で何やら作業していたクロウが顔を出してきた。
「どうした?もしかしてアウルイライラしちゃってる?」
クロウはアウルに近づく。
「いつもこうなんだよ。魔法使えない時、ストレス溜まるのかすぐに不安がったり、イライラしちゃったりして…」
アウルの背をポンポンと叩いてあやすようにしながらクロウは言う。
「ほーら、大丈夫だよー」
「赤ん坊扱いすんじゃねぇよ」
アウルのムスッとした顔が悪化してしまった。
そんなアウルを諭すようにクロウは笑いながら言った。
「アウルが、ジャスくんを実家に返すって決めたんでしょ?だったら不安がってないでちゃんとしないと」
「不安がってるわけじゃねえ」
アウルはクロウから目をそらす。そしてそのまま黙ってしまった。
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