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背の高い黒い男たち
しおりを挟む旅人が外へ出ると、空はきれいな夜空を描いていた。そんな空の下で、何やらとある建物の前に、女性が倒れていた。町はもう暗くなっていて、人は誰もいない。旅人は思わず正義感にかられて、その女性に声をかける。
「おい!大丈夫か!?」
そう言って、背中をさすっても反応はない。よく見ると、その女性の服は教会で見た修道女の服であった。
それに気づくと、旅人はあたりを見渡した。『あの時』と状況が似ているからだ。すると、遠くのところにあの『背の高い黒い男』たちが、はっきりと見えた。彼らも旅人の視線に気づいたのか、どんどんとこちらに走るようにやってくる。旅人は焦った。このまま起きるまで待ったら自分を含めた二人の命が危うい。しかも、恐らくこの修道女が倒れてる理由は、意識がないだけではない。
旅人はすぐさまその修道女を担いで、あの教会まで走った。しかし、彼らは光のように速い走りでこちらへと近づいてくる。旅人は必至で教会まで向かい、そこに着くと、すぐさま教会の大きな扉を閉めた。そしてその扉を必死に抑えた。しかしながら、その男たちの押す力は強くて、力任せだけではとても太刀打ちできない。
教会の中は誰もいなく、真っ暗闇であり、それがより旅人の恐怖感をあおった。
「剣を出したくはないが、今はもう出すしかない……」
旅人は背負っていた修道女を丁寧に降ろし、ついにその扉を開けた。旅人の予想通り、目の前に広がっていたのはあの背の高い黒い男たちだった。
「あの女性をどうするつもりだ!」
そう旅人が怒鳴るように訊いても、その背の高い黒い男たちはそれに答えることなく、ひもを結ぶような手の動作をした。すると、旅人は突如として頭を引き去られるような凄まじい頭痛に襲われたと同時に首を絞められたかのような苦しさで、その両手両膝を地面につけてしまい、倒れこんでしまう。
それは数日前に経験したあの頭痛と同じであった。旅人はその苦しみに跪き、屈伏してしまう。
そんな時であった。旅人は「何か」を思い出した。それは一つの魔法であった。地面の壮大なる力を借りて、「土の魔人」、所謂ゴーレムを作り上げる禁断の魔法である。常人であればその魔法は絶大な労力と魔力を吸い取り、人を死に至らせてしまう。
だが、旅人は違う。
旅人はすぐさま、地面に手を付けた状態、そして息が苦しい状態でその魔法を詠唱した。
「壮大なる地の守り手よ。偉大なるその守護神よ。生命の息吹はその地から誕生し、その地へ還る。司るは創造と破壊。主よ、今ここに全身の魔怨を。今ここに盛大なる祝福を。」
すると、旅人の手元の地面に円を中心とした幾何学模様の線が浮かび上がり、その線は大きな光を灯した。その光は旅人が目を隠さなければいけないほどに凄まじいものであった。次に目を開いた時には、旅人の目の前には二体のゴーレムがいた。一つは本来の魔法通りの、土の魔人。そして、もう一つは何かの手違いで誕生した、石の魔人であった。
その二つの魔人が誕生するころには、旅人の呪縛は解け、頭痛もなくなり、動ける状態であった。それはさっきひもを結ぶ動作をした背の高い黒い男の一人が、石の魔人によって撲殺されたからであった。
ここまで来ればあとの闘いは旅人のものである。
旅人はようやく剣を出し、魔人と背の高い黒い男たちの残党の闘いに応戦した。しかし、背の高い黒い男たちの残党は瞬発力が高く、旅人の剣術をいとも簡単に回避する。そして、彼らの魔法によって旅人と二つの魔人は教会の壁に投げ飛ばされてしまう。
旅人の体はもうボロボロとなり、背の高い黒い男たちは旅人に迫るように近づいてくる。
すると、旅人は教会の壁を掴んで、こう叫んだ。
「ふざけるなアアアアアアアあぁぁぁぁ!!!!!!!」
その叫びと共に、太い閃光が光った。旅人も思わず目をつぶった。
旅人はその怒りを力に変え、太い閃光を作り出す形で大きな爆発を引き起こしたようだった。
旅人が気付くころには背の高い黒い男たちは倒れ、土の魔人は破壊されていた。ただ残ったのは地面にぽっかりと空いたクレーターのような穴。そして、石の魔人と壁が抉れた教会。
旅人には何が起きたのか一瞬解らなかった。しかし、数秒経つと、旅人は状況を理解し、こう呟いた。
「また、私は破壊してしまったのか……」
旅人の後悔をよそに、倒れた背の高い黒い男たちは立ち上がろうとすると、
「チリーン」
という音がした。旅人はその音を聞いて、ハッとなって背の高い黒い男たちのほうを見るが、彼らの姿はもう無かった。すると、今度は後ろから声が聞こえてくる。
「どうしたんですか。……!?」
その声の主はその教会の別の修道女であった。その修道女は破壊された教会を見て、絶句した。
「何があったんですか!」
その修道女が訊くと、旅人はボロボロの体になった状態で、こう言う。
「少し爆発が起きてしまった……」
「何をしてくれたんですか!どうしてくれるんですか!?こんな状態にして……!」
「少し、待ってください。」
旅人がそう言うと、石の魔人にこう訊いた。
「お前も、手伝ってくれるか?」
石の魔人は顔を前に振って頷いた。すると、旅人と石の魔人は手をその破壊された壁に添えた。
「主よ、主よ。我が身に再興の力を。我が身に治癒の力を。繰り返すは、生と死、誕生と消滅。教会の魔守り人よ、この地に再生を。」
旅人がそう言うと、その壁が光を灯しながら、実体を形成していき、目を開けたころには新築と変わらないような教会の玄関の姿があった。
「……これは!?」
修道女はびっくりした。目の前の超能力的な現象に理解が出来なかった。
「貴方は……一体……?」
修道女は出す言葉を探しながらそう訊いた。すると旅人はこう答える。
「ただの旅人ですよ。」
暗い紺から、赤い光が差し込む空の頃であった。
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