贖イノ旅路

茶呉耶

文字の大きさ
上 下
15 / 15

背の高い黒い男たち

しおりを挟む


旅人が外へ出ると、空はきれいな夜空を描いていた。そんな空の下で、何やらとある建物の前に、女性が倒れていた。町はもう暗くなっていて、人は誰もいない。旅人は思わず正義感にかられて、その女性に声をかける。

「おい!大丈夫か!?」

そう言って、背中をさすっても反応はない。よく見ると、その女性の服は教会で見た修道女の服であった。

それに気づくと、旅人はあたりを見渡した。『あの時』と状況が似ているからだ。すると、遠くのところにあの『背の高い黒い男』たちが、はっきりと見えた。彼らも旅人の視線に気づいたのか、どんどんとこちらに走るようにやってくる。旅人は焦った。このまま起きるまで待ったら自分を含めた二人の命が危うい。しかも、恐らくこの修道女が倒れてる理由は、意識がないだけではない。

旅人はすぐさまその修道女を担いで、あの教会まで走った。しかし、彼らは光のように速い走りでこちらへと近づいてくる。旅人は必至で教会まで向かい、そこに着くと、すぐさま教会の大きな扉を閉めた。そしてその扉を必死に抑えた。しかしながら、その男たちの押す力は強くて、力任せだけではとても太刀打ちできない。

教会の中は誰もいなく、真っ暗闇であり、それがより旅人の恐怖感をあおった。

「剣を出したくはないが、今はもう出すしかない……」

旅人は背負っていた修道女を丁寧に降ろし、ついにその扉を開けた。旅人の予想通り、目の前に広がっていたのはあの背の高い黒い男たちだった。

「あの女性をどうするつもりだ!」

そう旅人が怒鳴るように訊いても、その背の高い黒い男たちはそれに答えることなく、ひもを結ぶような手の動作をした。すると、旅人は突如として頭を引き去られるような凄まじい頭痛に襲われたと同時に首を絞められたかのような苦しさで、その両手両膝を地面につけてしまい、倒れこんでしまう。

それは数日前に経験したあの頭痛と同じであった。旅人はその苦しみに跪き、屈伏してしまう。

そんな時であった。旅人は「何か」を思い出した。それは一つの魔法であった。地面の壮大なる力を借りて、「土の魔人」、所謂ゴーレムを作り上げる禁断の魔法である。常人であればその魔法は絶大な労力と魔力を吸い取り、人を死に至らせてしまう。

だが、旅人は違う。

旅人はすぐさま、地面に手を付けた状態、そして息が苦しい状態でその魔法を詠唱した。

「壮大なる地の守り手よ。偉大なるその守護神よ。生命の息吹はその地から誕生し、その地へ還る。司るは創造と破壊。主よ、今ここに全身の魔怨を。今ここに盛大なる祝福を。」

すると、旅人の手元の地面に円を中心とした幾何学模様の線が浮かび上がり、その線は大きな光を灯した。その光は旅人が目を隠さなければいけないほどに凄まじいものであった。次に目を開いた時には、旅人の目の前には二体のゴーレムがいた。一つは本来の魔法通りの、土の魔人。そして、もう一つは何かの手違いで誕生した、石の魔人であった。

その二つの魔人が誕生するころには、旅人の呪縛は解け、頭痛もなくなり、動ける状態であった。それはさっきひもを結ぶ動作をした背の高い黒い男の一人が、石の魔人によって撲殺されたからであった。

ここまで来ればあとの闘いは旅人のものである。

旅人はようやく剣を出し、魔人と背の高い黒い男たちの残党の闘いに応戦した。しかし、背の高い黒い男たちの残党は瞬発力が高く、旅人の剣術をいとも簡単に回避する。そして、彼らの魔法によって旅人と二つの魔人は教会の壁に投げ飛ばされてしまう。

旅人の体はもうボロボロとなり、背の高い黒い男たちは旅人に迫るように近づいてくる。

すると、旅人は教会の壁を掴んで、こう叫んだ。

「ふざけるなアアアアアアアあぁぁぁぁ!!!!!!!」

その叫びと共に、太い閃光が光った。旅人も思わず目をつぶった。

旅人はその怒りを力に変え、太い閃光を作り出す形で大きな爆発を引き起こしたようだった。

旅人が気付くころには背の高い黒い男たちは倒れ、土の魔人は破壊されていた。ただ残ったのは地面にぽっかりと空いたクレーターのような穴。そして、石の魔人と壁が抉れた教会。

旅人には何が起きたのか一瞬解らなかった。しかし、数秒経つと、旅人は状況を理解し、こう呟いた。

「また、私は破壊してしまったのか……」

旅人の後悔をよそに、倒れた背の高い黒い男たちは立ち上がろうとすると、

「チリーン」

という音がした。旅人はその音を聞いて、ハッとなって背の高い黒い男たちのほうを見るが、彼らの姿はもう無かった。すると、今度は後ろから声が聞こえてくる。

「どうしたんですか。……!?」

その声の主はその教会の別の修道女であった。その修道女は破壊された教会を見て、絶句した。

「何があったんですか!」

その修道女が訊くと、旅人はボロボロの体になった状態で、こう言う。

「少し爆発が起きてしまった……」

「何をしてくれたんですか!どうしてくれるんですか!?こんな状態にして……!」

「少し、待ってください。」

旅人がそう言うと、石の魔人にこう訊いた。

「お前も、手伝ってくれるか?」

石の魔人は顔を前に振って頷いた。すると、旅人と石の魔人は手をその破壊された壁に添えた。

「主よ、主よ。我が身に再興の力を。我が身に治癒の力を。繰り返すは、生と死、誕生と消滅。教会の魔守り人よ、この地に再生を。」

旅人がそう言うと、その壁が光を灯しながら、実体を形成していき、目を開けたころには新築と変わらないような教会の玄関の姿があった。

「……これは!?」

修道女はびっくりした。目の前の超能力的な現象に理解が出来なかった。

「貴方は……一体……?」

修道女は出す言葉を探しながらそう訊いた。すると旅人はこう答える。

「ただの旅人ですよ。」

暗い紺から、赤い光が差し込む空の頃であった。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

(完結)お姉様を選んだことを今更後悔しても遅いです!

青空一夏
恋愛
私はブロッサム・ビアス。ビアス候爵家の次女で、私の婚約者はフロイド・ターナー伯爵令息だった。結婚式を一ヶ月後に控え、私は仕上がってきたドレスをお父様達に見せていた。 すると、お母様達は思いがけない言葉を口にする。 「まぁ、素敵! そのドレスはお腹周りをカバーできて良いわね。コーデリアにぴったりよ」 「まだ、コーデリアのお腹は目立たないが、それなら大丈夫だろう」 なぜ、お姉様の名前がでてくるの? なんと、お姉様は私の婚約者の子供を妊娠していると言い出して、フロイドは私に婚約破棄をつきつけたのだった。 ※タグの追加や変更あるかもしれません。 ※因果応報的ざまぁのはず。 ※作者独自の世界のゆるふわ設定。 ※過去作のリメイク版です。過去作品は非公開にしました。 ※表紙は作者作成AIイラスト。ブロッサムのイメージイラストです。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

処理中です...