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幸いなるデリック

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 雪が降り始めた。デリックは空を見上げて手を擦り合わせる。
 ぁん…♡…ぁ、……ァア……ッ♡♡♡
 すご、ぃい……っ!もっと、もっとゆっくり……ぁ……♡
 小さな小屋から聞こえてくる声は昨日から勢いを増していた。グウェンとアンリの件は自分が焚きつけたとはいえ、交歓の声が派手過ぎて、青年は恐ろしくなり始めていた。特にケイとヒースはセックス漬けになって丸二日経つ。入り口に運んでおいた食料が無くなっているのを見るに、食ってはいるらしいが……。
 絶え間なく聞こえる喘ぎに耐えかねて、デリックは自分の小屋に引っ込んだ。芋を焼いて食べたが、どうしてか味がしない。一個なんとか食べきったところでふらと足が向いた先は、組岩の下に続く地下回廊だった。
温かな地熱と温泉の湿気で外の寒さも感じないが、今のデリックにとっては只ひたすらに恐ろしい空間だ。身体が勝手に手を伸ばして、壁に這う蔦に生った赤い実を口に放り込みかけていた。すんでのところで気づいて青ざめたデリックは、もっていた実を床に放り捨てる。折角の食料だが、溜まらずに踏みにじって叫んだ。
 「な、なんだってんだ……ここに来てからろくなことがない……!」
 「そう言わないでくれ。こちらは愉しいことばかりなんだ」
 男の声だった。薄暗がりの地下回廊で、背後を振り向くことができないままデリックの呼吸が詰まる。全身から冷や汗が噴き出して、声どころか息さえできない。
 「いいこだ、いいこいいこ。ほら、息を吸って、吐いて。君に死んで貰っちゃこまるんだ。まだやることは沢山あるのだからね」
 のんびりとした声だったが、ところどころ女の声か老人の声か、子供の声なのかわからない音程にすげ変わる。
 (ば、化け物……!)
 デリックは呼吸を許された途端に咳き込んで蹲った。地上に逃げたくても、足が床にへばりついて離れない。ずるりと足首に冷たいぬめりが絡みついた。
 「化け物とは酷い子だ。……君は勘が良すぎて困る。」
 「や、やだやだ、やめろ!!ど、どこに連れていく気……っ!!」
 「聖なる実も食べない、泉にも入りにこない、それでは卵を産んでもらえないからなあ」
 「た、…え?たまご……?何言ってんだ、誰、やっやめろ!!」
 足首を恐ろしい力で引っ張られ、その衝撃で転倒してしまう。そのまま爪先が生暖かい温度に触れた。窪地の温泉だ。
 デリックの闇に慣れた目が、泉の水面を這う巨大な触手を捉えた。恐怖のあまり呼吸さえ止まる。どんなに暴れても、既に膝まで水面に引きずり込まれてしまっているのだ。こんなに大きな生き物相手に、逃げられるはずがないじゃないか……。
 硬直してしまった青年に向かって人1人の太さもある触手が伸びていく。1本はデリックの腰を吸盤で絡め取り、もう1本はほろほろ声も無く涙する青年の頬を拭った。
 「……ひぃぃ、……ぃうっ……」
 「ああ、ああ、泉で粗相をして。悪い子だ。そんなに恐ろしかったのかい」
 異形の蛸は深い泉に身を浸したまま、その全容を現してはいなかった。腕数本を地下洞に出し、半分泉に浸かって泣くデリックを慰める。しかしその声はどこか愉快げで、久しぶりの生け贄を苛めて楽しもうという本音が隠せていない。
 「さあどうしてくれようか。君は苗床がいいかい?それとも種牛がいいかい」
 「ひっ?ひえっ…!?」
 「ンン、結構可愛い顔をしているし、身体も健康そのものだ。おや、爪先が……去年は特に寒かったからね。痛かったなあ。よしよし……ほら治った」
 蛸の紫紺がくるりとデリックの爪先を包み、放す。すると去年凍傷で欠けたはずの小指が元通りに戻っていた。デリックはいよいよ怖がって泣き出してしまう。本当にこの化け物は、真実、人智を越えた存在なのだ。
 「どうも怖がられてしまうね……そうだ、脳を啜ってあげよう」
 泉の底から蛸の頭が水飛沫を伴って現れた。薄暗がりではっきりとは見えない。ただデリックは岩盤に押し倒されて、自分に伸びてくる舌のような粘体に悲鳴を上げた。
 蛸が触手を1本ずつ四肢に絡め、絶叫する口さえ塞いで距離を詰める。
 成人した大人の抵抗は完全に封じられ、デリックの耳はくちくちと湿った音しか拾えなくなってしまった。耳に走った鋭い痛みは、やがて鈍く霞んで奇妙な幸福感にすり替えられる。恐怖ばかりはどうしようもならなかった。ばたばたと跳ねる手足は数分もすると疲れてぐったり垂れ下がり、辺りには脳を啜る音とデリックの啜り泣きが響き渡った。地獄の時間が永遠にも感じられた。
 どのくらいそうされていたかわからない。
脱力していた足先が、ふいにぴんと張る。
 「……?…………っ♡、……♡♡♡??」
 じゅる、ちゅう、ちゅるる♡
 膝から下にかけて、がくがくと奇妙な痙攣が起きた。耳から脳の一部を丁寧に壊されながら、青年は幾度も射精を繰り返す。気持ちいい、至上の幸福感がじわじわと全身を包みこんだ。大蛸は仕上げとばかりに最後の一啜りを終えると、かくかく震えて甘イキを繰り返すしかない青年の耳元に囁いた。
 「気分はどうかな」
 「……ァ。……ぁ、♡ぅ……♡」
 「良さそうだ。なかなか手がかかって、愛着が湧いてしまったよ……♡」
 触手に身体を横たえさせ、そのまま水中へと引きずり込まれる。1本の脚は、デリックが溺れ死んでしまわないように腰肩から上を岩盤へと固定していた。
 手足を地に投げ出して悶える青年の尻に、質量を伴ったぬめりが侵入する。デリックに後ろの経験は無かった。狭い直腸を開かせるために、ゆっくりと全身を揉みながら孔の拡張を始める。涙に濡れた青年の表情はぼんやりと曇り、ぬるま湯に浸されながら吸盤が肌に吸い付く感覚を追いかけていた。
1本の脚が、壁からもいできた甘草の実をデリックの口に入れ、触手で咥内を掻き回して嚥下させる。大人しくそれを飲み込むと、皮膚の感覚がびりびりと敏感になったような気がした。吐息は熱く湿り、恐怖に縮み上がった肉体もじわじわ温みを取り戻す。
 にちにち♡ぐちっ♡じゃぶ、じゅるじゅる……♡
 「ンッ……♡ふ♡ぅ、……♡」
 緩くなったアナルに細く絞った脚が押し入っていく。何しろ時間だけはたっぷりとあった。吸盤が腸壁に吸い付いては離れを繰り返し、雄膣へと嬲るように造り替えていく。じっくりと二時間ほどかけ、デリックはじっくりアナルを愛撫される快楽を教え込まれてしまった。
 交接腕が我が物顔で腸壁の行き止まりを舐め、ぷつん、ぷつんと卵を産み付ける。ひとつずつ、肉の壁に種子を杭打たれるごとに、射精するよりも甘く狂おしい快感が広がっていった。
 ぷつん♡ぷち、ぷちっ……♡
 「ぁ、♡ぁ♡ぁうう……っ♡ィイ……っ♡きもち、ぃ…♡」
 「……それは良かった。小さな卵だからね。あと二百ほど植えてあげるよ。……じっくり楽しみたまえ」
 大蛸は異形故に、卵を植え付けることはできても子を成すことはできない。必ず別の種の精を借りなければ繁殖できないのだ。手頃な雌を捉えて卵を植え、番いの雄にしっかりと卵へ精をつけさせる。これが大蛸の繰り返してきた繁殖の術だった。
 「ぁンっ♡ふァあんっ♡♡♡!!きもちいい、きもちぃよぉ♡!!」
 ビクつく青年の身体を潰さぬよう触手で抑え込み、孕み頃の肉に卵を植え込む。これは地底に封じられた異形にとって、何ものにも代えがたい快楽だった。
 明日、定着した卵に精を放つ動物を呼び寄せよう。
 番いは二組いるけれど、荒れた森には鳥も獣も足りない。熊でも呼び寄せれば面白かろう。この子は怯えながら、熊の交尾に喘ぎ悦がるに違いない。

 デリックの薄い腹に、苗床の印である吸盤の鬱血痕が刻まれる。
 淫猥な行為は夜明けまで続き、村に正気の人間は遂に戻らなかった。

(●●発見5日目:デリック)
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