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第五章

売られるリュード2

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「早くしな!」

 誰も出てこないので女はイラついて鉄格子を強く叩きつける。
 目立ちたくないので後ろの方でついて行こうと思っていたリュードだったが、このままでは埒があかないのでため息をついて立ち上がる。

 人攫いをイラつかせてもいいことはない。
 リュードが牢屋を出ても何もないことを見て他の男たちもおずおずと出てくる。

 最後に出てきたやつは遅いと棒で殴りつけられていたので結果的に先に出てよかった。

「ついてこい!」
 
 人攫いの女性の後をついて歩いていく。
 同様に黒い布で顔を隠した女性たちが何人かいて、促されるままで進むとステージの上に出た。

 これまで窓もない薄暗いところにいたので窓があって明るい光差し込んできていて目が軽くくらむ。
 目が慣れてきて周りが見え始めるとリュードたちがいるのは劇場のような場所にあるステージの上であったことが分かった。

 長いこと人が使っていなさそうで古ぼけてガタがきている古い劇場のように見える。
 まだ牢屋の方が新しく見えた。

 牢屋の方が新しく作られたのかもしれないとぼんやりリュードは考えていた。

「並べ!」

 リュードたちはステージの上で横一列に並ばせられる。
 劇場の客席には人が座っている。

 ステージを見下ろす人々は様々な仮面をつけていて顔は分からないがほとんどが女性であった。
 どの人も高そうなドレスに身を包んでいて、高い身分であることを窺わせる。

 リュードはそれを見て顔をしかめる。
 思いの外問題は簡単ではなさそうだと思った。

「これは奴隷の売買……いや競売か?」

 一列に並ばされた男たちを品定めするような視線で観客たちが眺めている。
 自分に多くの視線が止まっていることを感じてリュードは非常に気分がよろしくなかった。

 確かに並んだ男たちを見るとリュードは引き締まった体をしていて顔も良い。
 でもあんな風にものを見るように見られては嬉しくもなかった。

「それでは始めましょう! 一番はこの彼です!」

 リュードとは逆側の端の男性が背中を押されて前に出る。
 見て分かるような簡単な見た目の特徴を説明して何かが始まった。

 それはオークションだった。
 最初に男の最低価格が提示されて客席に座る女性たちが何か札をあげると少しずつ男の値段が上がっていく。
 
 人の値段としては安すぎるぐらいの価格でリュードは顔をしかめた。
 多少値段は上がったものの今だに安い価格でコールは止まって男は落札された。

「なんてことを……」
 
 次々に男たちが商品として売られていく。
 途中トーイも誰かに落札され、リュードは苛立ちに似た感情を覚えていた。

「前に出ろ!」

 別に優しく言えばいいのに棒で小突いてリュードを前に押し出す。
 渋々リュードが前に出て、視線が再びリュードに集中する。

「最後はこちら、獣人族の男性です! えー……何の獣人かは分かりませんが体つきは他の人と比べてもお分かりになりますようにかなりがっしりとしております。
 その上顔も相当良い……うーん多少生意気そうな目をしていますがそれもまた良いのではないでしょうか! それではスタートです!」

 こんなにはっきりと獣人族として扱われるのも商品として扱われるのも初めてだ。
 強い不快感に見舞われながら段々とコールされてリュードの値段が上がっていく。

「白熱していますね!」

 値段をつけられるという行為に複雑な思いを抱える。
 リュードの値段が上がるにつれて一人、また一人と値段競争から脱落していく。

 残ったのは二人。
 一際派手な蝶のような仮面をつけた女性と赤い地味目な仮面をつけた女性の競り合いとなった。

 大きくは上がらないが競り合って少しずつまだ値が上がる。

「もし、そこの蝶の方」

 二人の席は近く、派手な女性は地味な女性の斜め前に座っていた。
 地味な女性が派手な女性に声をかける。

「何ですか、赤い仮面のお方?」

「以前の約束、忘れたわけではありませんよね?」

「う……それは…………」

「どうですか、あの方は私にお譲りいただけませんか?」

「……分かりました」

「十一番の方が下りられましたので七番の方がご落札となります!」

 どうやら地味な女性がリュードの落札者ということになるらしい。
 どちらがいいということはないが見た目が派手な人よりは地味な方がリュード的には性格も穏やかそうでよかったと感じた。

「ふん、買ってくれる人がいてよかったな。こっちに来るんだ!」

 一々扱いが雑だと舌打ちしたくなる。
 抵抗してもいないのに棒で背中を突かれて移動をする。

 劇場の出演者の控え室だった部屋に入るとすでに地味な女性が待っていた。
 部屋には何とトーイもいた。
 
 何の運命なのかトーイも同じ人に落札されたみたいである。
 逃げ出せないかと考えていたのでトーイの落札者まで見ていなかったのだ。

 地味な女性がお金の入った袋を人攫いに渡して、代わりにカギのようなものを受け取った。

「一つ言っておくわ。これはあなたの首についている首輪のカギよ。これがなきゃあなたたちは一生魔法が使えないまま。だから私には逆らわないこと。分かったかしら?」

 あの広いステージ上で聞いていたらよく分からなかったけれどこうして間近で聞いてみると思っていたよりも声が若く感じる。
 リュードは地味な女性の言葉に大人しくうなずいておく。

 まだ行動を起こすには早すぎると思った。
 あのカギがあれば首輪が外せる。
 
 そうすれば魔法も使えるし逃げ出すことができる。

「また会いましたね、リュードさん……」

 売られてしまった。
 その事実にトーイはガックリと肩を落として項垂れていた。

「……久しぶりだな」

 牢屋ぶりだからそんなに久しぶりでもない。
 必要なことはたくさんある。
 
 まずは自分の置かれた状況の把握が必要だ。

「ルフォンたちは無事だろうか……」

 自分の今後も心配だがリュードは残されたルフォンとラストたちのことも心配だった。
 リュードが意識を失う前に二人ももう気を失っていた。

 人攫いがルフォンたちをどうしたのか分からないが、一緒にいないのなら放っておかれているはずだと前向きに考える。
 荷物盗まれたりしたらかなり困ったことになっているだろうし、気を失っている間に魔物などに襲われたらひとたまりもない。

 とりあえず自分の命はある。
 生きている以上は諦めなければどうとでもなる。

 ルフォンとラストが無事であることを願うばかりであった。
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