上 下
304 / 336
第五章

訪れた別れ2

しおりを挟む
 宿でもちょっとだけ問題があった。
 空き部屋の都合から四人部屋を二つで男女に分けるか、四人部屋一つで済ますかの選択があった。

 お金にも余裕があるし四人部屋二つで男女分けて使おうと思ったのだけど宿屋の店主がいい顔をしなかった。
 この店主も当然女性なのだが男性が一人で四人部屋を悠々と使うことに眉をひそめられたのである。

 たった一泊するのにもそんな顔をされて、仕方なく四人部屋を三人で使うことになった。

「別にいいじゃん……」

 二部屋借りてもらった方が宿の利益になるというのにそれを上回って男性が一人で部屋を使うことが嫌だなんていうほどの非常に頑なな女性社会。
 トゥジュームのことはその手前の国の時点で聞いていたが、話に聞いていた以上に徹底している感じがある。

 リュードとしては肩身が狭く感じるのだけどそうしたことに抵抗がないなら住みやすい国だとは言われていた。
 女性が男性を守る国なので魔物が討伐できない非力な男性でも構わず、偉そうな男性に辟易した女性はこの国に移ってきたりもする。

 ここまで徹底しているので治安も良くて、唯一の価値観の元に団結して相互協力も盛んで結びつきも強い。
 ヒモになりたい男性も女性が稼いでくるし周りが助けてくれるので多少顔が良ければ何もせずに暮らせてしまうなんてうそぶくやつもいた。

 だからといって男性の権利が軽んじられていたりするのでもないので価値観に合えば悪くない国である。
 確かに道は綺麗だし荒れて暴れるようなものも見かけはしなかった。

 統制が取られていて安定している国ではある。

「さっさとこの国を抜けて行こう」

 価値観はそれぞれなので否定するつもりはなくてもリュードには合わない。
 女性を下ではなく、対等に扱ったとしても白い目で見られるのでたまったものではない。

 食事や買い物のためにも外に出なきゃいけないと思うと憂鬱な気分になってくる。

「いい男連れてんね?」

 宿の部屋で料理するわけにもいかないので外で食事を取る。
 料理の注文なんかもルフォンとラストに任せてリュードは小さくなって黙っておく。

 適当に選んだお店だったけれどそれなりに繁盛していて席は埋まっている。
 当たり外れの多い外食だけど今回は当たりの雰囲気があるなと少し期待していた。

 料理を待っていると隣のテーブルに座っていた冒険者らしき女性が声をかけてきた。

「ふーん、私の好みの顔してるね。どうだい、そんなひ弱そうな女たちじゃなくて私のところに来ないかい?」

 男性が女性に声をかけるようにトゥジュームでは女性が男性に声をかける。
 特に成功するとも思っていない、要するにナンパみたいなものだ。

「ありがとうございます。でも俺には彼女たちがいますので……」

「そうかい? でも気が変わったら私のところに来な。可愛がってあげるよ」

 角が立たないように丁寧にお断りする。
 基本的に軽いナンパなら無理矢理に続けるようなことはしない。

 トゥジュームにおける男性の良し悪しの基準は顔が大きな割合を占める。
 顔さえ良ければ養ってもいいなんて思う女性も少数派ではないのだ。

 リュードは間違いなく顔がいい。
 その上でトゥジュームに多くいる男性の特徴としてはナヨっとした人が多いのだけど、リュードにはナヨっとした雰囲気はない。

 キリリとした、力強い印象のあるリュードは周りの視線を自然と集めていた。
 何も白い目ばかりが向けられているのではなく、そうではない視線も意外と多かったのである。

「この国だとリュードもモテモテかもねー」

「この国だとってなんだ……ですか」

 自分が上とか相手が上とかじゃなくて互いに尊重できるのがいい。
 例えモテたとしてもこの国だとリュードの価値観とは合わなすぎる。

 料理が来て食べている間も見られているような、なんとなく気まずい感じが常にあった。

「可愛い男の人連れていますね」

 消耗品の補充にお店を回る。
 こういう時に声をかけられて褒められるのは大体ルフォンかラストなのに今日ばかりはリュードへの褒め言葉を二人が聞かされることになる。

 慣れない褒めにリュードも気恥ずかしい気分になり、可愛い子だからちょっとおまけしちゃうなんてしてくれた。
 いいんだか悪いんだか分からなくなってきてしまう。

「ちゃんとしてそうだし、強そうだから心配ないと思うけど気をつけるんだよ。最近ここいらで人を攫ってる奴らがいるって噂だからね」

「人攫いですか?」

「ええ、あくまでも噂だけど顔のいい男を選んで誘拐する話があちこちから聞こえてきてるんだよ。まだここだと大丈夫だと思うけどもっと大きな都市に行くなら気をつけておいた方がいいよ」

 顔の良い男性を狙った人攫いとはまたトゥジュームならではの話だとリュードたちは驚く。

「リュードも攫われちゃうかもね?」

「そうだな、そん時は守ってくれよ?」

「まっかせなさい!」

 まさか攫われることなんてない。
 攫いに来たってリュードたちを倒して攫える程の人が来たら人攫いなんてやらずとも稼げるだろう。

 リュードの軽い冗談にラストが胸を張って答える。

「ありがとうございます」

「……これ、あの子たちには秘密だよ」

 お店のおばちゃんはリュードにこっそりとお菓子を渡してウインクした。
 確かに顔がいいとそれなりにこの国ではチヤホヤされそうな気配はあった。

 ーーーーー
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと
ファンタジー
 歴代最高の墓守のロアが圧倒的な力で無双する物語。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが…… アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。 そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。  実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。  剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。  アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

処理中です...