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第四章

手負いの牛肉1

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「あっ、帰ってきた」

 ルフォンたちがダンジョンの前に帰ってくるとすでにリュードたちはダンジョンの攻略を終えていた。
 ダンジョンは大人の試練としても一般的なレベルだったのでリュードたちにとっては余裕だった。

 トロールのダンジョンよりもレベルが低いのでコルトンも特にラストの実力を疑ったりすることもなかった。
 コルトンはダンジョンから出ると次の大人の試練のことが書かれた紙の入った封筒を渡してさっさと次に行ってしまったので今はいない。

「どうだ、採れたか?」

「うん、いっぱい採れたよ」

 ルフォンはヴィッツの抱えていた袋の口をあえて大きく開けて中身を見せる。
 中からは普通の緑色の葉っぱが見えた。

 一応薬草の部類には入るけれどそこらに生えているものであるし珍しくもなんともない薬草である。
 わざとらしく袋の中からも取り出して、一度わざとらしく頷いて袋の中に戻してみる。

 これ一連の行動は事前に打ち合わせしていた通りの動きである。
 もちろんイェミェンもあるのだけれど袋の底の方に入っている。
 
 わざと袋の中を見せるというちょっと不自然な行動は監視対策のためにやっていることである。
 別行動で山に入った理由を監視している人たちに見せたのだ。
 
 実は毒草取りだけど上から薬草をかぶせて隠し、監視している連中にも暇だから薬草を取ってきたと思わせる作戦だ。
 よくよく見るとリュードも若干演技くさいけれど遠くから監視している連中には分りゃしない。

「採れたか?」
 
「うん!」

 リュードが声を抑えて聞いてみるとルフォンはニコリと笑って答える。
 監視も大人の試練の最中に呑気なものだと呆れ返っているかもしれない。
 
 はたまたルフォンたちにつけた監視が帰ってこない事に焦っているかもしれない。
 けれどのほほんと安い薬草を取って喜んでいるルフォンたちがまず監視を片付けたなんて監視たちは思ってもみない。
 
 魔物にでも見つかってやられたバカを監視に行かせてしまったと監視のリーダーが反省するぐらいのものである。
 袋の底まで確認はしないけれどルフォンの様子を見ればイェミェンを採ってこれたことは分かる。
 
 頭を撫でて褒めてやると嬉しそうに尻尾を振っていた。

「次はバロワ兄さんのところですね」

 封筒の中を確認してラストがため息をつく。
 次の大人の試練もまたさらに別の大領主の領地であった。

 こうなってくると大領地4つと直轄地1つ、全て回らなきゃいけないのではという気がしてきた。
 1つの領地につき、1つの大人の試練。

 数的にも一致するし可能性が高く思える。

「バロワ兄さんのところはそうでもないけど、そうなると次に考えられるところが厄介ね」

 先のことを考えてラストがまたため息をつく。

「とりあえず材料は揃いましたので計画の次も考えましょうか」

 このままダンジョン前にいたってしょうがないので一度町に戻る。
 会話は移動しながら。

「治療薬を作るのは後回しにしまして、サキュロバロワ様の領地に向かいましょう」

「どうして!」

 ようやく治療薬ができると思ったのにヴィッツの言葉を聞いてラストが驚いた表情を浮かべる。
 バロワの領地に優先して行くべき理由が分からなかった。

「治療薬を作るための設備が確保できないのです」

 町で薬草集めをしながらヴィッツは治療薬を作るための設備があるところを探した。
 石化病の治療薬を作るためには高等な設備がいくつか必要であったからである。

 火とガラスの瓶でもあればできるというものではないのであり、そのような設備があるところは相当限られる。
 かつ、知りもしない相手に設備を貸し出してくれるところは多くない。

 プジャンの領地内にはいくつかその候補があった。
 けれどもプジャンはそうした施設を押さえていた。

 実際何かの薬を作っているのかもしれないけれど、設備がある施設にはプジャンの息がかかっていてとてもじゃないが秘密裏には使えなかった。
 設備のグレードを落とせば使えそうなところはあったけれど、絶対に薬作りを成功させたいなら設備のグレードは落とせない。

「結果としてプジャンの領地で治療薬を作ることは難しいという結論にいたりました」

「安いところ使って失敗なんかしてられないし、プシャンの領地内でやってるとバレるかもしれないもんな」
 
 ならば早くプジャンの領地を抜けて隣のバロワの領地に行って改めて探した方がいい。
 このままプジャンの領地にいてもただ怪しまれるだけでもある。

 それにラストの大人の試練だって続けていくにもバロワの領地に行くのが良い。

「うぅ~分かったよぅ……」
 
 ヴィッツの説明にラストは不服そうにうなずいた。
 理由は分かるのだけど治療薬まであと一歩なのにクゼナから離れるのは嫌だった。
 
 だなワガママを言える状態でないことはラストにも分かっている。
 クゼナを助けるためには必要なことだから仕方がない。
 
 それにプジャンに見つかることの方が厄介な事になる。
 ということで町に戻ったリュードたちはすぐに準備を整え集めた薬草を抱えてバロワの領地に向かい始めた。

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