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第三章

アレが来た

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「王様、急ぎ報告があります!」

 宰相であるファランドールが慌ただしく国王であるドランダラスの執務室に入ってくる。
 普段は落ち着き払っていて慌てたりする事の少ないファランドールの異常な様子にドランダラスは仕事の手を止めた。

「どうした、ファランドール。犯罪者の一掃に何か問題でも起きたか?」

 アリアセンから上がってきた報告を受けてドランダラスは驚いた。
 安定していると思っていた自分の治世において村一つが滅ぼされてしまうなんて蛮行が起きてしまうなんて。

 すぐに怒りが湧いてきて細かな調査をすることを命じた。
 兄から託されることになった王位をこのようなことで汚してはならないとドランダラスの行動は早かった。

 アリアセンが単に村の壊滅に立ち会ったのではなくリュードたちと村人の一部を救出したともあった。
 遺品を届けてくれた恩人に対しても国の醜態を晒すことになってしまったので何も知らなかったことを恥じている。

 調査を開始してすぐに見慣れない輩が増えた話や暴力沙汰が多く発生しているなどの報告があった。
 ドランダラスはすぐに決断を下した。

 ちょうど北側に兵力を集めてある。
 そこから南下させてより一層の治安維持に注力しようと。

 そした指示を出してからだいぶ時間も経っている。
 もうすでに北側の騎士団は動き出している。
 
 荒れたものたちの集まりだからもしかしたら手練れがいる可能性はある。
 騎士団に何か損害が生じたのかもしれないとドランダラスは考えた。

「大干潮でございます!」

「なんだと!」

 どんな報告でも冷静に受け止めよう。
 そんなドランダラスの心構えをファランドールの報告は大きな衝撃でもって打ち砕いた。

 予想をはるかに超える衝撃をもった言葉だった。
 大干潮は自然現象の1つ。
 
 しかしヘランド王国にとっては国を脅かす自然災害と言ってもいい。
 潮が大きく引いてしまう現象で短くても数日間は続き、長ければ一年ほどにもなってしまうことも過去にあった。

 大干潮が起こる原因は未だ誰にも分からない。
 さらにリュードの話によると結局のところドランダラスの兄であるゼムトは大干潮のせいで死んだことになる。

 ドランダラスはそのゼムトが死んだ大干潮の他に王位についてからしばらく経ってからもう一度大干潮を経験していた。
 思うところがあるのだ。

 ヘランド王国は海路を使った貿易や海産物が大きな収益を生み出している。
 大干潮になると貿易も難しく海産物を採ることも困難になってしまう。

 国の収益を支える二つがしばらくダメになる大干潮はヘランド王国にとって大問題であった。

「今1度過去の事例を元に対策を検討せねばなるまいな」

「さらに、魔物の異常行動が見られるとの報告もありました。もしかしたらアレが現れるかもしれません」

「なん……だと?」

 ファランドールの更なる報告にドランダラスは持っていたペンを強く握りしめた。
 困惑や恐怖、不安などの暗い感情に混じって一抹の喜びのような感情も感じていた。

「そうか、とうとうアレがきたか。ならば我々も用意していたものを出す時が来たな」

 兄の復讐。
 個体としては別だろうがドランダラスにそんなことは関係なかった。

「それは良いのですがどうないますか?今は第1と第2騎士団が北から治安維持活動をしながらなんかしておりますが中止して南に向かわせますか?」

 タイミングが悪いとファランドールは顔をしかめていた。
 まだ一掃作戦が始まって間も無く、主要な部隊は海から離れた北側にいる。

 今から伝令を飛ばして兵を戻してから再編成して送るにしても時間がかかる。

「いや、そうしてしまうときっと犯罪者どもはその隙をついて逃げ出してしまう。他の国に犯罪者を送り出してしまうことは避けたい。このまま第1、第2騎士団には作戦を続けてもらう。代わりに第3、第4騎士団を投入する。国境の封鎖に必要な人員だけを残して南に向かわせよう」

「しかしそれでは戦力が十分ではないかと……」

「国の一大事だ、使えるものはなんでも使う。冒険者ギルドに連絡を取って冒険者に協力をあおごう。国境の封鎖によって暇している冒険者も多かろう」

「わかりました」

「雷属性を扱える者がいないのは痛手だな……」

 海や川で生活する魔物は雷属性を苦手としていることが多い。
 2人のいう、アレも雷属性が有効であったという過去の記録があったとドランダラスは思い出していた。

「兄の時はまだ使い手もいたのだがな……」

 ゼムトの戦いで雷属性が使えるものは動員され、亡くなってしまった。
 結果として雷属性の魔法を受け継ぐ者がヘランド王国にはいなくなってしまったのだ。

「それにつきましても1つお伝えしたいことがございまして」

「むっ、なんだ?」

「これは唯一の吉報と言えるかもしれません」

 ファランドールの最後の報告。
 ドランダラスは今一度恩人を訪ねなければならないなと思った。
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