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第三章

祖父譲りの正義感4

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「俺が行く。2人は逃げないように回り込んでくれ」

 声を潜めて2人に指示を出す。
 2人が移動を開始したのでリュードも気配を消して男の背後に近づく。

「おい」

「はっ!? な、なんだテメェ!」

「黙れ」

 せっせと穴を掘っている男は全くリュードに気がつくこともない。
 あっさりと男の後ろまでやってきたリュードが声をかけると男が驚いたように振り返った。

 リュードの顔を認識する前にリュードの拳が男の腹に突き刺さる。

「ぐっ、うえええ!」

 男がリュードの強力な一撃に嘔吐する。
 危うくゲロを被りかけたが、素早く腕を引いてなんとかセーフだった。

「ぐ、ぐぞ! お前一体何者なんだよ!」

「うるさい、質問するのは俺だ」

 一通り胃の中のものを吐き出して涙目で顔を上げた男にリュードは剣を突きつける。

「な、何がしたいんだ!」

「村をこんなにふうにしたのはお前か?」

「村? ……ああそうさ、俺と俺の仲間がやったのさ! まだ近くに俺の仲間がわんさかいる。こんなことをしてただで済むと……」

「関係ないことを話すな」

「ぎゃああああ!」

 男の体に電撃が走る。
 リュードが放った魔法である。

 くだらない脅し文句なんて聞いてやる暇はない。
 周りに人の気配はない。

 つまりどこかに男の仲間はいるのかもしれないが、今すぐ来れるような距離にいるわけではないということだ。
 来たところで返り討ちにしてやるけれど浅い脅しなのは見え透いていた。

「お前たちは奴隷商か?」

「誰がそんなことを……そ、そうだ! 俺は奴隷商人に雇われて働いている!」

 リュードが手に電撃を走らせて脅すと男はあっさりと口を割る。

「仲間は本当に近くにいるのか?」

「……いや、もう拠点に帰っているだろうよ」

 やはり仲間は近くにいないようだ。

「お前は何してたんだ?」

「見つけたもん他の奴に取られんのが嫌で隠してたんだ。それを取りに来てた」

「お前たちの拠点はどこにある?」

「そんなもん言うわけ……ぎゃああああ!」

「言え」

 もうわざわざ脅してやることなんてない。
 意地を張るなら容赦なく魔法を叩き込む。

 再び電撃を食らって男はフラフラと膝をついた。

「クソっ……死ねぇ!」

 好き勝手にやられてたまるか。
 そんな思いで男は剣を抜いてリュードに切りかかる。

 だがこんな程度の速度では遅すぎるとリュードは思った。
 奇襲されたとしても対処が出来そうな鈍い攻撃だった。

 それなのにリュードが抜き身の剣を持って目の前にいる状況で男が敵うはずもなかった。
 話を聞き出したいからあえて殴打で対応したり手加減した魔法で攻撃したりしていた。

 なのに仲間がいると脅しかけたり反撃までしてくる。
 もはやリュードの中に男に対する慈悲の心はない。

 男とは比べ物にならない早さで剣を振ったリュード。

「はぁ……腕? 腕がァァァ!」

 剣を持っていた右腕の先が消えた。
 ドサリと腕が地面に落ちる音が聞こえたがそれがなんの音なのか男には分かっていない。

 状況が理解もできないままに男は痛みにのたうち回る。

「これが最後のチャンスだ。拠点はどこにある?」

 あまりの素早さに血すらついていない黒い剣の切っ先を男に突きつける。

「分かった、案内する!  だから命だけは助けてくれ!」

「……いいだろう。2人とも出てくるんだ」

 ルフォンとアリアセンがそれぞれ男の後ろの方から出てくる。
 仮に男が多少の手練でリュードの隙をついて逃げ出せたとしても2人が待機していた。

 どの道捕まっていたことになる。
 むしろリュードより容赦のない2人だから捕まえるのではなくそのまま切り捨てられていたかもしれない。

 リュードの対応はまだ優しい方なのである。
 男は完全に弄ばれていた状況を察してさらに顔を青くした。

 男の腕の止血だけをして敵の拠点に向かう。

「こ、この先にある館を拠点にしています」

「あれか……なんでこんな森の中にあんなデカい洋館が?」

「俺たちが建てたものではなく元々あったものでして、利用させてもらってました」

 男の案内で進んでいくと森の中に大きな洋館があった。

「この国は戦争で急激に大きくなった過去があるから、以前にはここら辺の領主でも住んでいたのかもしれないな」

 アリアセンが軽く説明してくれる。
 それにしても大きく立派な洋館だなとリュードは洋館のことを観察していた。
 
 ただ新しいものではなく古くなっていて廃墟と呼べる雰囲気がある。
 まるでお化け屋敷のような見た目をしている。

「本当にここに入るのか?」

 洋館を見てアリアセンの勢いが減じる。
 あんなに怒りに震えていたのにいきなりどうしたというのだ。

「……怖いのか?」

「怖かなーいやーい……」

 しりすぼみになる言葉尻。
 アンデッド系の魔物、いわゆるお化けを苦手とする人は少なからず存在する。

 実際にスケルトンを見た時リュードもギョッとした。
 ルフォンは全くの平気みたいだけどアリアセンはそうでもないようである。

 確かに洋館はおどろおどろしい雰囲気がある。
 夜はいつの間にか明けてきて朝日が差しているのだがそれでもさわやかに見えない。

 リュードだって用事がなければ避けて通りたいほどの重たい雰囲気が漂っている。
 だからこそ悪人たちに目をつけられて使われているのだろう。

「おい、誘拐した人たちはどこに閉じ込められてるんだ」

 顔色の悪いアリアセン以上に血の気の無くなっている男に剣を突きつける。
 もちろん顔色が悪いのはアリアセンとは異なる理由。

 腕を切られて簡易的な治療しか受けられていない。
 このまま解放したとて、この男生きていられるだろうかというぐらいに出血していた。
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