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第二章
それぞれの結末1
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ステナン村。
名目上はカシタコウになるが、トキュネスの勢力圏との境に位置していて非常に曖昧な立場を強いられている村である。
そんなステナン村のみんなが集まる会館が今回の交渉の場となっていた。
護衛をそれぞれ2人連れたキンミッコとウカチル・ミエバシオが多めのテーブルを挟んで対面して座る。
(若い……これは上手くいけば丸め込めるのではないか……)
口を手で隠してキンミッコがニヤリと笑う。
童顔のウカチルは若く見られがちだがれっきとした成人であり、もう20代の後半である。
確かにキンミッコから見れば若いとは言えるだろうが若造と侮れる年齢ではない。
しかし焦りに焦っていたキンミッコはウカチルの情報など頭から抜け落ちている。
「それでは交渉を始めましょうか」
連れて行かれた花嫁も見つからず、監禁していたウカチルの妹もどこかに行ってしまった。
交渉のカードは結局2枚とも失ってしまったキンミッコは笑顔を浮かべているが内心焦りを感じている。
どうにか相手をうまく乗せて有利な状況を作り出して良い条件を引き出したい。
場の主導権を握ろうとキンミッコが先に口を開く。
「和平がもはや両国の同意事項であることは分かっております。その上で我が国が引き渡すことになるのは今私が治めておりますヒダルダの土地であることも分かっています。ですがヒダルダの土地もトキュネスになってから時間が経ち、また所属する国が変わることになれば領民も混乱することとなるでしょう」
「確かにその可能性はありますね」
「両国の希望は和平を結ぶことです。何も無理矢理領地を返還することもないとは思いませんか? しかし何も引き渡さずにカシタコウだけが我々に支援をして和平を結ぶことは出来ません。
そこでどうでしょうか。今トキュネスとカシタコウの間にあって曖昧になっている領地の線引きを我々が譲歩しましょう。このステナン村のように不安に思っているところも多いでしょうからそこから我々は手を引きます」
まずは領地を持って行かれない事の方が大事。
あたかも領地の一部を明け渡すかのように言っているけれど現在国境線が曖昧になっているところはカシタコウの領地だ。
武力衝突を避けているためにあたかもトキュネス、というかキンミッコが実質的に支配しているような顔をしているだけだ。
要するに土地は一切返還しないで交渉しようとしているのである。
「私の希望はヒダルダ一切の返還です」
すべての領地を取り戻す。
そうした強い意志を持ってこの交渉に臨むウカチルの心をそんな薄っぺらい言葉で動かすことなんて出来ない。
「ヒダルダを返還してくださればトキュネスには十分な支援をしましょう。望むなら領地を失うことになるキンミッコさんにも支援をします」
「……支援はどれくらいをお考えで?」
流石にこれでは納得しないか。
舌打ちしたい気持ちを抑えて笑顔で交渉を続ける。
「こちらをご覧ください」
ウカチルが一枚の紙をテーブルを滑らせてキンミッコに差し出す。
見てみるとそれには補償の金額や支援物資の内容が細かに記入してあった。
何か少しでも変なところがあれば難癖を付けてやろうと読み込むが内容は完璧だった。
トキュネスの欲しいものを残さず網羅し、物量も少なすぎることがない。
補償金として提示されている金額も事前にキンミッコ側で算定していた金額の範囲内でありながらその中でも多めの金額。
突き崩せる穴のない提示にキンミッコは唇をかんだ。
「……仮にこの金額や内容で納得できない場合、ミエバシオ殿には裁量がおありで?」
「もちろんです。過大すぎる要求には答えられませんがある程度の内容の変更は私に一任されています」
「では、この金額では話はお受けできません」
ただしこの条件で承諾してしまえば後々損をするのはキンミッコだけである。
最初から高めの条件を提示してきたのだ、よほど領地を取り戻したいと見える。
キンミッコは納得いっていないような顔をしてため息をつく。
正当な金額なのだが、相手の算定した金額が足りないような態度を装う。
「ならばどれほどをお望みで?」
「……ミエバシオ殿にそこまでの裁量があるかは分かりませんが金額はこの2倍、物資は2割増は欲しいところです」
完全にぼったくりな物言い。
ふっかけにもほどがある。
自分がこんなことを言われた怒り狂って剣を抜くかもしれない。
ウカチルの護衛は顔をしかめている。
しかしここで引くわけにもいかないのだ。
キンミッコはあたかも引き受けるような態度を取りながらもウカチルの方から交渉を決裂してもらいたいと思っていた。
「それは流石に……」
「戦争で荒れた土地を再び平穏に暮らせるまで回復させたのですよ。私は本当はヒダルダを手放したくないんです」
困った顔をするウカチルにキンミッコが畳み掛ける。
「愛着を持ち始めた領民たちと離れることになるのがどれほどお辛いことかお分かりになられないでしょう。3倍の金額を払ってもらっても引き渡したくはないのですが国同士で決まってしまっていることを覆すこともできません。
ですので2倍ほど払ってもらうことでどうにか私の気持ちにも折り合いをつけようと私自身も努力しているのです」
ハンカチを取り出し涙を拭うような仕草を見せるキンミッコ。
白々しいと護衛たちは思っているがこれぐらい平気でやる男がキンミッコである。
「1.5倍。物資は記載の通り。これが最大です」
「それでは……まだ」
簡単に値が吊り上がった。
まだまだ上げられるかもしれないとキンミッコはほくそ笑む。
大きな利益を出せば全て返還してもキンミッコに利益が残る。
早くも頭の中でキンミッコは金勘定を始めていた。
名目上はカシタコウになるが、トキュネスの勢力圏との境に位置していて非常に曖昧な立場を強いられている村である。
そんなステナン村のみんなが集まる会館が今回の交渉の場となっていた。
護衛をそれぞれ2人連れたキンミッコとウカチル・ミエバシオが多めのテーブルを挟んで対面して座る。
(若い……これは上手くいけば丸め込めるのではないか……)
口を手で隠してキンミッコがニヤリと笑う。
童顔のウカチルは若く見られがちだがれっきとした成人であり、もう20代の後半である。
確かにキンミッコから見れば若いとは言えるだろうが若造と侮れる年齢ではない。
しかし焦りに焦っていたキンミッコはウカチルの情報など頭から抜け落ちている。
「それでは交渉を始めましょうか」
連れて行かれた花嫁も見つからず、監禁していたウカチルの妹もどこかに行ってしまった。
交渉のカードは結局2枚とも失ってしまったキンミッコは笑顔を浮かべているが内心焦りを感じている。
どうにか相手をうまく乗せて有利な状況を作り出して良い条件を引き出したい。
場の主導権を握ろうとキンミッコが先に口を開く。
「和平がもはや両国の同意事項であることは分かっております。その上で我が国が引き渡すことになるのは今私が治めておりますヒダルダの土地であることも分かっています。ですがヒダルダの土地もトキュネスになってから時間が経ち、また所属する国が変わることになれば領民も混乱することとなるでしょう」
「確かにその可能性はありますね」
「両国の希望は和平を結ぶことです。何も無理矢理領地を返還することもないとは思いませんか? しかし何も引き渡さずにカシタコウだけが我々に支援をして和平を結ぶことは出来ません。
そこでどうでしょうか。今トキュネスとカシタコウの間にあって曖昧になっている領地の線引きを我々が譲歩しましょう。このステナン村のように不安に思っているところも多いでしょうからそこから我々は手を引きます」
まずは領地を持って行かれない事の方が大事。
あたかも領地の一部を明け渡すかのように言っているけれど現在国境線が曖昧になっているところはカシタコウの領地だ。
武力衝突を避けているためにあたかもトキュネス、というかキンミッコが実質的に支配しているような顔をしているだけだ。
要するに土地は一切返還しないで交渉しようとしているのである。
「私の希望はヒダルダ一切の返還です」
すべての領地を取り戻す。
そうした強い意志を持ってこの交渉に臨むウカチルの心をそんな薄っぺらい言葉で動かすことなんて出来ない。
「ヒダルダを返還してくださればトキュネスには十分な支援をしましょう。望むなら領地を失うことになるキンミッコさんにも支援をします」
「……支援はどれくらいをお考えで?」
流石にこれでは納得しないか。
舌打ちしたい気持ちを抑えて笑顔で交渉を続ける。
「こちらをご覧ください」
ウカチルが一枚の紙をテーブルを滑らせてキンミッコに差し出す。
見てみるとそれには補償の金額や支援物資の内容が細かに記入してあった。
何か少しでも変なところがあれば難癖を付けてやろうと読み込むが内容は完璧だった。
トキュネスの欲しいものを残さず網羅し、物量も少なすぎることがない。
補償金として提示されている金額も事前にキンミッコ側で算定していた金額の範囲内でありながらその中でも多めの金額。
突き崩せる穴のない提示にキンミッコは唇をかんだ。
「……仮にこの金額や内容で納得できない場合、ミエバシオ殿には裁量がおありで?」
「もちろんです。過大すぎる要求には答えられませんがある程度の内容の変更は私に一任されています」
「では、この金額では話はお受けできません」
ただしこの条件で承諾してしまえば後々損をするのはキンミッコだけである。
最初から高めの条件を提示してきたのだ、よほど領地を取り戻したいと見える。
キンミッコは納得いっていないような顔をしてため息をつく。
正当な金額なのだが、相手の算定した金額が足りないような態度を装う。
「ならばどれほどをお望みで?」
「……ミエバシオ殿にそこまでの裁量があるかは分かりませんが金額はこの2倍、物資は2割増は欲しいところです」
完全にぼったくりな物言い。
ふっかけにもほどがある。
自分がこんなことを言われた怒り狂って剣を抜くかもしれない。
ウカチルの護衛は顔をしかめている。
しかしここで引くわけにもいかないのだ。
キンミッコはあたかも引き受けるような態度を取りながらもウカチルの方から交渉を決裂してもらいたいと思っていた。
「それは流石に……」
「戦争で荒れた土地を再び平穏に暮らせるまで回復させたのですよ。私は本当はヒダルダを手放したくないんです」
困った顔をするウカチルにキンミッコが畳み掛ける。
「愛着を持ち始めた領民たちと離れることになるのがどれほどお辛いことかお分かりになられないでしょう。3倍の金額を払ってもらっても引き渡したくはないのですが国同士で決まってしまっていることを覆すこともできません。
ですので2倍ほど払ってもらうことでどうにか私の気持ちにも折り合いをつけようと私自身も努力しているのです」
ハンカチを取り出し涙を拭うような仕草を見せるキンミッコ。
白々しいと護衛たちは思っているがこれぐらい平気でやる男がキンミッコである。
「1.5倍。物資は記載の通り。これが最大です」
「それでは……まだ」
簡単に値が吊り上がった。
まだまだ上げられるかもしれないとキンミッコはほくそ笑む。
大きな利益を出せば全て返還してもキンミッコに利益が残る。
早くも頭の中でキンミッコは金勘定を始めていた。
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